流産を経験した方は、その経験を周囲の人に話しにくかったり、自責の念に駆られやすかったりするといわれています。そのため感情の表出を促すのが難しく、子供の死を受け入れるのに苦しむ方も多くいます。
実際にこれまで流産を経験した方への関わりにおいて、悩んだことがある看護師の方もいるでしょう。
そこで今回は、流産を経験した方への関わり方や継続的な看護の重要性について詳しく解説します。
参照:反復流産患者における精神的苦痛とその精神的支援の試み ─情緒的支援から高強度認知行動療法まで─|中野有美
流産を経験した方の気持ちの変化と看護の役割
大切な人を失った方は、その悲しみによりショックや否認、後悔などのさまざまな反応が表れます。
この反応が表れるのは流産を経験した方でも同じですが、流産は他の死別とは異なり誕生と死の両方を同時に体験します。
そのため、親としての自責の念や怒りなど、自分を責める反応が強く出ることが多いと言われています。
このような悲しみに対する反応は、辛い経験を乗り越えるためにたどる正常な過程です。ただ流産は周りに話しにくい体験のため、その後の不安障害や抑うつ状態につながりやすいと考えられています。
そのため、一人でも多くの方が時間をかけて流産の体験と向き合い、受け入れられるように支援するのが、流産を経験した方に対する看護だといえるでしょう。
参照:流産・死産を経験した家族への グリーフケア|令和5年度こども家庭庁委託事業 「母子保健指導者養成に関する広報啓発」
参照:流産・死産・人工妊娠中絶を経験した女性等への支援の手引き|厚生労働省
流産を経験した方が体験を乗り越える過程を考える
流産で子供を失った悲しみに対する反応には、以下の3つの局面があると言われています。
回避の局面:子供の死を受け入れられず否定する、ショックが大きく涙が出ない
同化の局面:現実を否定できなくなり、悲しみや怒り、罪悪感が芽生える
適応の局面:子供の死を受け入れはじめ、日常生活の立て直しに目を向けられる
流産を経験した方は、この3つの局面を行き来しながら徐々に子供の死へ適応していきます。
参照:最期の看取りを支えるグリーフ・ケア|日本創傷・オストミー・失禁ケア研究会誌J.Jpn.WOCN.,Vol,11,No.2,pp11~20,2007
訪問看護を通して提供する流産を経験した方への看護とは
流産の体験を乗り越える過程において、前述の3つの局面は影響し合い、時間をかけて適応していきます。
ただ、順調に適応過程が進まず、気分障害などの精神疾患につながるケースもあります。
そのような場合に、在宅の環境で継続的に看護が提供できる方法の一つが訪問看護です。
ここでは、具体的に看護提供の内容を紹介します。
参照:訪問看護について|厚生労働省
参照:令和5年度 集団指導|厚生労働省
気持ちの変化に寄り添う
まずは、患者さまの気持ちに寄り添うことが看護として重要です。
患者さまが気持ちを表出するのは、悲しい体験を受け入れるために大切な過程です。
多くの場合、訪問看護を提供する居宅は患者さまにとって慣れ親しんだ場所のため、安心して気持ちを表出できる環境といえます。
患者さまが安心できる状況で気持ちを吐き出してもらうことで、患者さまと信頼関係を構築しやすく、気持ちに寄り添った看護が提供できるでしょう。
亡くなった子供との思い出の共有を支援する
流産は、他の死別と異なり生きているうちに思い出を作ることができません。
ただ、亡くなった子供を沐浴したり、折り紙を折ってあげたりと、思い出作りをする方は多いです。
亡くなった子供との思い出を共有することは、患者さま自身が子供を思って行った行動を振り返る機会ともいえます。
そして、このような思い出の振り返りは罪悪感や自責の念の軽減の支援となります。
参照:流産を体験した母親の思い-フォーカスグループインタビューを通してー生命倫理VOL.25NO.1 2015.9
健康を維持する
気持ちへ寄り添うことに加え、患者さまの健康支援も訪問看護の重要な役割の一つです。悲しみに対する反応は精神面に留まらず、身体的な反応として表れる場合もあります。
例えば、睡眠障害、食欲障害、頭痛、倦怠感等です。
訪問看護では患者さまの精神面を支援しながら、生活状況や身体的な観察も行うことで、患者さまの健康維持を担う必要があります。
参照:グリーフケアとは|一般社団法人日本グリーフケア協会
参照:訪問看護(改定の方向性)|厚生労働省
仕事などの社会活動を再開するためにサポートする
流産をきっかけに引きこもっていた際、社会とつながりを持とうと思っても「最初の一歩を踏み出せない」「やりたい事が見つかったけどどうしたらいいのかわからない」という葛藤が生まれることがあります。
そのため、患者さまが「できそう」と感じた時にすぐに手を差し伸べられる支援者の存在が必要です。
もし仕事などの社会活動を再開したいという要望が患者さまからあった時は、必要な支援を提供するのも大切な役割です。
参照:地域における支援ニーズの高い者に対する 精神科訪問看護の実態調査 報告書|厚生労働省
支援団体を紹介する
ピアサポートという言葉もあるように、経験者同士で気持ちの表出をする場は、より共感が得られやすかったり、孤独感が軽くなりやすかったりします。
専門家の支援だけでなく、当事者同士だからこそ得られる心の支えは大きいでしょう。そのため、患者さまを当事者同士で成り立っている支援団体へとつなげるのも訪問看護の重要な役目でもあります。
参照:ピアサポートの活用を促進するための 事業者向けガイドライン|社会福祉法人豊芯会
流産を経験した方には寄り添いながら継続的に看護をするのが大切
流産を経験した方には、気持ちの変化に寄り添った看護の提供が求められます。
中でも、訪問看護師には患者さまとの継続的な関わりを通して、信頼関係を築きながら一人一人の状態に合った看護を提供することが求められます。
当ステーションでは訪問看護師として頼れる先輩と働きながら、患者さまの満足度や個別性の高い看護を追求することもできます。
周産期の方への看護や、在宅医療、精神科看護に興味のある方は、ぜひ『訪問看護ステーションくるみ』にお問い合わせください。