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突然の強い眠気は病気?ナルコレプシーの診断と対処法を解説

2025.10.08 精神科訪問看護とは

日中に突然強い眠気に襲われたり、会話中や授業中に思わず眠ってしまう――そんな症状に悩んでいませんか?それは「ナルコレプシー」という睡眠障害のサインかもしれません。単なる寝不足と見過ごされやすいこの疾患は、早期診断と正しい対処によって生活の質を大きく改善できます。本記事では、症状の特徴や診断方法、治療法、支援制度までを網羅的に解説します。

ナルコレプシーとは何か

ナルコレプシーは、日中に突如として強い眠気に襲われる「睡眠発作」や、感情をきっかけに体の力が抜ける「カタプレキシー」などの症状を引き起こす、慢性的な神経系の睡眠障害です。  

脳内で睡眠と覚醒を調節する神経伝達物質の働きに異常が生じることで、起きているべき時間に眠りに落ちてしまう現象が発生します。  

特に社会活動中に突然眠り込むことで、学校生活や仕事、運転、対人関係に支障をきたすことが少なくありません。世界的には有病率0.02〜0.18%程度とされ、比較的まれな病気ですが、日本国内でも推定患者数は数万人にのぼるといわれています。  

その症状が一般的な疲労や「怠け」などと誤解されやすいため、正しい理解と専門的な診断が非常に重要です。早期の認知と治療介入が、生活の質を大きく左右します。

ナルコレプシーの代表的な症状とは

ナルコレプシーの症状は、単に「眠くなる」だけにとどまりません。以下のように多岐にわたる症状が、日常生活に深刻な影響を与えます。

  •  日中に突然眠ってしまう「睡眠発作」
  •  笑いや怒りなどの感情をきっかけに体の力が抜ける「情動脱力発作(カタプレキシー)」
  •  入眠時の幻覚や金縛り(睡眠麻痺)
  •  夜間の睡眠が浅く頻繁に目が覚める

これらの症状は単独で現れることもありますが、多くの場合は複数が組み合わさって発現します。  

特に「睡眠発作」や「カタプレキシー」は、日常生活での安全性にも関わるため注意が必要です。慢性的な眠気が続く場合は、単なる睡眠不足と考えず、医療機関での診断を検討すべきです。

カタプレキシーや睡眠麻痺の特徴

カタプレキシーとは、感情の高まりをきっかけに筋肉の力が急激に抜け、倒れ込んだり顔の筋肉が垂れ下がったりする症状です。笑い・驚き・怒り・緊張など、ポジティブ・ネガティブ問わず感情の動きが誘因となります。  

発作中も意識ははっきりしているため、周囲の人に理解されないことから精神的な苦痛を伴いやすいのが特徴です。

一方の睡眠麻痺は、いわゆる「金縛り」の状態で、入眠直後や起床時に脳が覚醒しているにもかかわらず、体がまったく動かせない状態を指します。場合によっては幻覚が伴うこともあり、非常に恐怖を感じるケースもあります。  

これらの症状はナルコレプシーの診断上、非常に重要な手がかりとなるため、正確に症状を記録し医師に伝えることが大切です。

他の睡眠障害との違い

ナルコレプシーは「過眠症」の一種ですが、他の睡眠障害とは明確に区別されるべき特徴があります。  

たとえば、睡眠不足症候群やシフトワークによる不規則な生活習慣による眠気とは異なり、十分な睡眠時間を確保しても強い眠気が日中に現れます

また、うつ病など精神疾患に伴う眠気や倦怠感とも症状が似ているため、誤診されやすい傾向がありますが、ナルコレプシーでは「睡眠発作」「カタプレキシー」「入眠時幻覚」などの神経学的な異常が見られるのが大きな違いです。  

さらに、特発性過眠症や睡眠時無呼吸症候群(SAS)との鑑別も必要であり、確定診断には専門的な検査が不可欠です。症状だけでは見分けが難しいため、早期に睡眠専門医への相談を行うことが推奨されます。

ナルコレプシーの診断を考えるべきサイン

ナルコレプシーは初期の段階で見逃されやすく、診断が遅れることがあります。特に日常生活で強い眠気や奇妙な症状が続く場合は注意が必要です。

どんなときに病院を受診すべきか

以下のような状況が続く場合、早めに医療機関を受診しましょう。

  • 通勤・通学中に居眠りしてしまう
  •  授業中や会議中に突然眠ってしまう
  •  感情の起伏で体が動かなくなる
  •  睡眠時間を確保しても常に眠い

これらはナルコレプシーの典型的な兆候です。

セルフチェックに使えるスクリーニング法

エップワース眠気尺度(ESS)というチェックリストがあります。

「座って読書中」や「公共交通機関で移動中」など、8つの状況下でどれだけ眠くなるかを数値化し、点数が高いと過眠傾向があるとされます。簡易的な指標として有効です。

子どもや若年層に見られるサイン

子どもの場合、単なる怠けや夜更かしと誤解されがちです。学業不振や不登校、人前での居眠りが増えるなどの変化があれば、睡眠障害の可能性を考えるべきです。思春期の診断が難しいからこそ、周囲の観察が大切です。

診断の流れと必要な検査

ナルコレプシーの診断は、単なる問診だけで確定できるものではありません。症状の主観性が高いため、客観的な検査による裏付けが必要です。診断には通常、複数の段階を踏んだ精密なプロセスが必要とされます。

まずは、医師による詳細な問診と、生活習慣・睡眠パターン・発症時期などの生活歴の聴取から始まります。その上で、下記のような睡眠専門検査を組み合わせ、他の睡眠障害や精神疾患との鑑別を行います。

睡眠ポリグラフ検査(PSG)とは

PSG(Polysomnography)は、ナルコレプシーだけでなく睡眠時無呼吸症候群(SAS)やレストレスレッグス症候群など他の睡眠障害との区別を目的とした基本的な検査です。脳波・眼球運動・筋電図・呼吸・心拍・酸素飽和度などを一晩かけて詳細にモニタリングすることで、睡眠の質やレム睡眠の出現パターンを分析できます。

検査は医療機関の睡眠検査室で実施され、入院もしくは一泊の検査入院が必要です。PSGはその後に行うMSLT(反復睡眠潜時検査)の前提条件となっているため、ナルコレプシーの可能性がある場合は、まずこの検査を受けることが推奨されます。

反復睡眠潜時検査(MSLT)の目的と方法

MSLT(Multiple Sleep Latency Test)は、ナルコレプシーの確定診断に不可欠な検査で、日中に5回程度の昼寝の機会を設け、各セッションでどれだけ早く眠りに入るか、またその際にレム睡眠が現れるかを測定します

具体的には、朝にPSGを終えた後、2時間おきに20分間の昼寝を行い、平均入眠時間(潜時)が8分以下で、2回以上のSOREMP(Sleep Onset REM Period)が確認されると、ナルコレプシーの診断基準を満たすとされます。

この検査は身体への負担が少ないものの、事前の生活リズム管理や服薬制限などの準備が必要であり、医師の指導のもとで実施されます。

オレキシン測定とHLA遺伝子検査

ナルコレプシー1型の多くは、脳脊髄液中の神経ペプチド「オレキシンA(ヒポクレチン)」の濃度が著しく低下していることが知られています。オレキシンは覚醒を維持する重要な物質であり、その欠乏は睡眠と覚醒の制御異常を直接的に裏付ける生物学的指標とされています。

このため、腰椎穿刺(ルンバール)によって脳脊髄液を採取し、オレキシンAの濃度を測定する検査が有効です。また、HLA-DQB106:02という特定の遺伝子型を持つ人に発症リスクが高いことが報告されており、補助的な参考情報として遺伝子検査も行われることがあります。

問診・生活歴の重要性

すべての検査のベースとなるのが、医師による詳細な問診と生活歴の聴取です。睡眠時間の長さや就寝・起床時間、日中の活動状況、症状の頻度、初めての発症時期など、本人の主観的な情報が診断には不可欠です。

加えて、過去の病歴や服薬歴、家族に睡眠障害を持つ人がいるかどうか、うつ病や双極性障害など他の精神疾患との関連性なども考慮されます。スマートフォンアプリや紙の日誌で睡眠記録を残しておくと、診察時に非常に役立ちます。問診で得られる情報は、検査結果とあわせて総合的に判断され、ナルコレプシーの確定診断につながっていきます。

ナルコレプシーの診断基準と分類

ナルコレプシーは、睡眠障害のなかでも比較的まれでありながら、日常生活に大きな支障をきたす疾患です。正確な診断と適切な分類は、治療や生活支援の方針を決める上で非常に重要な要素となります。現在、国際的には「国際睡眠障害分類(ICSD-3)」に基づいた診断基準が広く用いられており、それによりナルコレプシーは「1型」と「2型」に分類されます。この分類により、症状の違いや治療アプローチがより明確になります。

特に1型ナルコレプシーは神経生物学的な変化、つまりオレキシン(ヒポクレチン)の欠乏が明確に確認されることが多く、診断が比較的つきやすい傾向があります。一方で、2型はオレキシンが正常であることが多く、症状の曖昧さから誤診されやすい点も特徴です。どちらのタイプであっても、共通して「日中の過度な眠気」が主症状として現れるため、診断の際には複数の検査と慎重な評価が必要とされます。

ナルコレプシーの国際的な診断基準(ICSD)

現在、世界的に最も信頼されている診断基準は「国際睡眠障害分類 第3版(ICSD-3)」です。この分類は、睡眠障害を科学的かつ統一的に評価するために作られたもので、ナルコレプシーの診断においても基準が明確に定められています。ICSD-3によるナルコレプシーの診断条件は以下の通りです。

  • 少なくとも3か月以上にわたり、日中の過度な眠気が持続していること
  • MSLT(反復睡眠潜時検査)において、2回以上のSOREMP(入眠直後15分以内のレム睡眠出現)が確認されること
  • オレキシンA(ヒポクレチン1)の脳脊髄液中濃度の著しい低下、あるいはカタプレキシー(情動脱力発作)の存在

これらの条件をすべて、あるいは一部満たす場合に、ナルコレプシーと診断されます。なお、SOREMPはナルコレプシーの特異的な指標であり、他の過眠症では見られにくいため、重要な診断材料となります。また、ICSDの分類により他の睡眠障害(特発性過眠症など)との明確な区別が可能になり、誤診のリスクを減らすことができます。

1型と2型の違いと特徴

ナルコレプシーは、症状や検査結果によって「1型」と「2型」に分類されます。それぞれのタイプには明確な違いがあり、症状の強さや治療方針にも影響を及ぼします。

1型ナルコレプシーは、カタプレキシー(情動脱力発作)を伴うタイプで、脳内のオレキシン濃度が著しく低下していることが特徴です。笑ったり驚いたりといった感情の変化によって突然身体の力が抜けてしまう症状が確認できる場合、1型と診断される可能性が高まります。オレキシン欠乏は、腰椎穿刺による脳脊髄液検査で測定されます。

一方で、2型ナルコレプシーはカタプレキシーを伴わず、オレキシン濃度も正常なことが多いタイプです。1型ほどの明確な生物学的マーカーがなく、症状もやや軽度であることが多いため、誤診されやすく、特発性過眠症との鑑別が困難になる場合もあります。また、2型は1型に移行するケースもあると報告されており、経過観察が重要です。

治療に関しては、1型ではカタプレキシーのコントロールも含めた対応が必要となり、2型では主に過度の眠気への対処が中心となります。いずれにせよ、タイプに応じたアプローチをとることが効果的な管理・治療につながります。

自己免疫仮説とオレキシン欠乏の関係

1型ナルコレプシーでは、オレキシンを産生する脳内の神経細胞が何らかの原因で破壊され、結果的にオレキシン濃度が低下することが確認されています。これについては現在、「自己免疫仮説」が有力視されており、体内の免疫系が誤って自分のオレキシン産生細胞を攻撃してしまうことで症状が引き起こされると考えられています

この仮説を支持する研究として、ナルコレプシー患者の多くが特定のHLA遺伝子型(HLA-DQB106:02)を有していることが挙げられます。HLAは免疫系の働きに関与する遺伝子であり、この型を持つ人は自己免疫疾患にかかりやすい傾向があるとされています。さらに、インフルエンザ感染後や特定のワクチン接種後に発症例が増加したことも、自己免疫の関与を示唆する要素です。

ただし、自己免疫仮説はまだ完全に証明されたわけではなく、遺伝要因と環境要因が複雑に絡み合って発症するという多因子説も併存しています。いずれにしても、1型ナルコレプシーにおいてオレキシンの欠乏が中核であることは間違いなく、その機序の解明が今後の予防法・治療法開発に直結すると期待されています。

誤診を避けるために知っておきたい類似疾患

ナルコレプシーは、強い日中の眠気や突然の睡眠発作など特徴的な症状を持ちますが、これと非常に似た症状を呈する他の疾患も少なくありません。そのため、誤診を防ぐには「似て非なる疾患」との明確な鑑別が重要です。実際、ナルコレプシー患者の多くが診断確定までに数年を要しているケースもあり、誤診されたまま適切な治療を受けられないというリスクも存在します。

似ているからといって自己判断で済ませてしまうと、根本的な治療が遅れるだけでなく、症状が悪化する可能性もあります。本項では、特に混同されやすい「特発性過眠症」「睡眠不足症候群」「精神疾患による過眠」「薬物や物質による眠気」について、それぞれの違いを詳しく解説します。

特発性過眠症との違い

特発性過眠症は、ナルコレプシーと同様に日中の過度な眠気が主症状ですが、その原因や診断基準は異なります。特発性過眠症では「カタプレキシー(情動脱力発作)」が見られることはなく、またMSLTにおいてもSOREMP(入眠時レム睡眠)は出現しないか、出ても1回以下であるのが一般的です。この点が、SOREMPが2回以上観測されることが診断基準に含まれるナルコレプシーとの大きな違いです。

また、特発性過眠症では夜間の睡眠時間が非常に長くなる傾向があります。中には1日に10時間以上眠ってもなお眠気が取れないと訴える人もいます。さらに、朝の目覚めが極端に悪く、目覚ましでは起きられない、起床後も数時間にわたり意識がぼんやりする「睡眠慣性」が強いことも特徴です。こうした違いを把握することで、より正確な診断に近づけます

睡眠不足症候群との違い

睡眠不足症候群は、生活習慣による慢性的な睡眠不足が原因で、日中に強い眠気が現れる状態です。これはいわば「ライフスタイル由来の過眠症状」であり、睡眠時間の確保や生活リズムの改善によって、比較的容易に症状を解消することが可能です。一方、ナルコレプシーは十分な睡眠を取っていても眠気が消えない点が決定的に異なります。

MSLT(反復睡眠潜時検査)でも、睡眠不足症候群ではSOREMPが出現しないことがほとんどです。この違いが、診断の大きな判断材料となります。また、睡眠不足症候群では週末に長時間の睡眠をとることで眠気が軽減される傾向がありますが、ナルコレプシーではそのような補填的な睡眠では根本的な改善は見込めません。日々の生活状況を正確に医師へ伝えることで、両者の違いが明確になります。

精神疾患由来の過眠との判別

うつ病や双極性障害などの精神疾患においても、日中の過眠や倦怠感が見られることがあります。そのため、ナルコレプシーとの鑑別が非常に難しい場合があります。しかし、精神疾患に伴う過眠では、「気分の落ち込み」「興味・関心の喪失」「自責感」などの情緒的な症状が中心であることが多く、眠気はあくまで二次的な症状です。

対して、ナルコレプシーでは、眠気そのものが主症状であり、気分変化や心理的ストレスとの明確な関連性が見られないことが一般的です。また、ナルコレプシー特有のカタプレキシーやSOREMPの出現は、精神疾患による過眠では観察されません。問診や心理検査、睡眠検査を組み合わせて慎重に診断を行うことで、両者を正確に見極めることが可能です。

薬物・物質による眠気との区別

眠気を引き起こす原因は、薬剤や摂取物質による副作用であることも少なくありません。特に、抗ヒスタミン薬(花粉症やアレルギーの治療薬)、抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬などの中枢神経抑制作用をもつ薬剤は、服用中に強い眠気を引き起こすことがあります。これらによる眠気は一時的で、薬剤の中止や変更によって改善することが多いため、ナルコレプシーとは異なります。

また、アルコールの過剰摂取やカフェインの過剰摂取後のリバウンドによる眠気、あるいは違法薬物の影響なども眠気の原因となります。そのため、診断時には現在および過去の服薬歴、サプリメントや嗜好品の使用状況、生活環境などを正確に申告することが求められます。睡眠障害と誤認しないためには、まず薬剤性の眠気を除外するステップが重要です。

ナルコレプシーの治療と日常生活での工夫

ナルコレプシーは現時点で「完全に治す」治療は確立していませんが、薬物療法と生活習慣の最適化、環境調整(学校・職場の配慮)を組み合わせることで、症状コントロールと安全性の確保、生活の質(QOL)の改善が十分に期待できます。治療の基本は「日中の過度な眠気(EDS)の軽減」「カタプレキシーなど随伴症状の抑制」「夜間睡眠の質の改善」の三本柱。これに、安全運転・転倒予防・勤務や学業のスケジューリングといった実務的対策を加えることで、継続可能なセルフマネジメント体制を作ります。症状や併存症(不眠、睡眠時無呼吸、気分症状など)は個人差が大きいため、定期的なフォローアップで処方と生活介入を微調整することが重要です。

薬物療法の選択肢と注意点

日中の眠気に対しては中枢神経刺激薬(例:モダフィニル、メチルフェニデート)が用いられ、覚醒度の改善・居眠り頻度の減少が期待されます。カタプレキシーや入眠時幻覚、睡眠麻痺には抗うつ薬(SNRI/SSRI、三環系など)がレム関連症状の抑制目的で処方されることがあります。

夜間睡眠の断片化が強い場合は、医師の判断で睡眠構築を整える薬剤を検討することもあります。薬剤は効果と副作用のバランスが重要で、頭痛・悪心・食欲低下・不安感・動悸、抗うつ薬では口渇・便秘・眠気などのリスクがあります

生活リズムの整え方

規則的な就寝・起床は最優先。平日と週末の起床時刻差は±1時間以内を目標にし、体内時計のぶれを最小化します。計画的な短時間昼寝(10〜20分)は眠気の“先回り”に有効で、昼食後や眠気が強まる時間帯に固定スロットを設けると再現性が高まります。就寝前2〜3時間のカフェイン・アルコール・ニコチンは避け、夜間のブルーライト暴露を減らす(端末のナイトモード、就寝1時間前のデジタル断食)。

寝室は18〜22℃程度の涼しめ、遮光・遮音・適切な寝具で環境を最適化し、起床直後は強い光(朝日や高照度照明)を浴びて覚醒を促進。日中は適度な有酸素運動(合計150分/週を目安)を取り入れ、夕方以降の激しい運動は避けます。就床時に思考が止まらない人は、就寝儀式(ルーティン)やボディスキャン呼吸法を試すのも一案。睡眠日誌やアプリで睡眠・昼寝・服薬・眠気の波を記録し、診察では具体的なデータに基づき介入を調整しましょう。

職場・学校での配慮や相談窓口

就労・就学を継続するには、「合理的配慮」を早期に検討します。安全配慮義務の観点から、眠気が強い日は運転業務・高所作業・機械操作を避ける判断も重要です。人事・産業医・学校の学生相談室や障害学生支援窓口に診断書・意見書を提示すると、制度利用がスムーズです。

開示の範囲は本人の選択ですが、直属上司・担任・必要最小限の関係者に「症状の特性」「配慮内容」「緊急時の対応」を共有しておくと誤解や評価低下を防げます。ハローワーク、就業・生活支援センター、大学の障害学生支援室などの公的窓口も活用し、制度と実務の両面で後押しを得ましょう。

家族や周囲の理解を得る方法

ナルコレプシーは外見から伝わりにくく、「怠け」「やる気の問題」と誤解されやすい疾患です。カタプレキシー時は意識は保たれることが多いので、無理に起こそうとせず安全確保を優先する対応を共有しておくと安心です。

家庭内ではタスク分担の見直し、外出時の同伴、緊急連絡先の共有などを事前に決め、発作リスクが高い場面のチェックリストを作ると実践しやすくなります。患者会やオンラインコミュニティで体験談・工夫を学び、家族も一緒に参加することで孤立感の軽減と継続的学習が進みます。定期受診に家族が同席し、日常の観察メモを医師へ共有すると、治療微調整の質も高まります。

診断後に利用できる支援制度や相談先

ナルコレプシーは、単なる眠気の問題ではなく、生活・学業・仕事に多大な影響を及ぼす疾患です。診断後には、医療機関での治療だけでなく、継続的な生活支援や社会的サポートを受けることが非常に重要です。近年は、睡眠障害に対する公的制度や支援サービスも徐々に整備されつつあり、必要な手続きや制度をうまく活用することで、生活の安定や社会参加を支えることが可能となります。

ここでは、診断後に活用できる支援制度や相談窓口を4つの観点から詳しく解説します。特に「睡眠障害専門外来」「障害者手帳・医療費助成」「就労・学生支援制度」「患者会・オンラインコミュニティ」は、生活をサポートする上で非常に有効なリソースとなります。

睡眠障害専門外来の探し方

ナルコレプシーのような中枢性過眠症は、一般の内科や精神科では正しく診断・治療されにくいことがあります。そのため、できる限り「睡眠障害専門外来」や「睡眠センター」といった専門施設を受診することが推奨されます。これらの施設では、ポリソムノグラフィ(PSG)や反復睡眠潜時検査(MSLT)などの専門的検査が可能で、正確な診断と適切な治療方針の提案が受けられます。

専門外来は、大学病院の「睡眠医療センター」や大規模病院の「神経内科・精神科」などに設置されていることが多く、日本睡眠学会の公式サイトなどから地域ごとの施設を検索することが可能です。また、紹介状が必要なケースもあるため、かかりつけ医や保健師と連携して進めるのがスムーズです。初診予約には時間がかかることも多いため、早めの行動が重要です。

障害者手帳や医療費助成制度

ナルコレプシーは重度になると、就労や通学が困難になることがあり、障害者手帳(身体障害者手帳または精神障害者保健福祉手帳)の対象となる場合があります。特に「1型ナルコレプシー」で症状が顕著なケースでは、障害等級の認定を受けることで、医療費助成や税制優遇、公共交通機関の割引など、さまざまな支援を受けることができます

手帳の交付申請は、医師の診断書や検査結果を基に、自治体の福祉窓口で行います。障害等級の認定は、睡眠障害が日常生活や就労にどの程度支障を与えているかが判断基準になります。また、自治体によっては「難病医療費助成制度」や「特定疾患認定」の対象となる可能性もあるため、該当するかどうかを窓口で確認しましょう。申請には一定の時間と書類作成が必要になるため、早めに準備を進めることをおすすめします。

就労支援・学生支援制度の活用

ナルコレプシーによって日中の業務や学業に支障が出る場合、就労環境や学習環境を整えることも重要です。働く人であれば、「障害者雇用枠」や「合理的配慮」を提供する企業への就職が現実的な選択肢となります。ハローワークや障害者就業・生活支援センター(ナビゲーター事業)では、就職支援の相談や職場適応のための助成制度についての情報提供が受けられます。

一方、学生であれば「特別支援教育制度」や「個別の教育支援計画(IEP)」を活用することで、試験時間の延長や休憩時間の確保、出席扱いの柔軟な判断などの配慮を得ることが可能です。学校の保健室や学生相談室に相談することで、支援の具体的な流れや制度の詳細を知ることができます。進学や就職の際にも、障害者手帳を保有していれば、進路指導や求人選定において優遇されるケースもあります

患者会・オンラインコミュニティ

ナルコレプシーは、見た目では症状が分かりにくく、周囲の理解を得づらいことが多いため、患者本人が孤立しやすい疾患でもあります。そこで大きな力になるのが、同じ病気を持つ人とのつながりです。患者会やオンラインコミュニティに参加することで、自分の症状に対する情報収集ができるだけでなく、「自分だけではない」という安心感が得られることも大きなメリットです。

日本国内には、ナルコレプシーを含む睡眠障害患者を対象とした患者団体が複数存在しており、講演会や勉強会、SNS上での情報交換など、さまざまな活動を行っています。また、SNSやオンラインフォーラムでは匿名で交流できるため、家族や職場に打ち明けられない場合でも悩みを共有しやすい環境が整っています。厚生労働省や睡眠学会のWebサイトにも、関連する団体の情報が掲載されています。

まとめ|早期診断が社会生活を支える第一歩

ナルコレプシーは外見からは判断しにくく、長年見過ごされてしまうこともある睡眠障害です。しかし、適切な診断と治療を早期に受けることで、日常生活や仕事、学業における支障を大きく軽減することが可能です。

特に、日中の異常な眠気や感情の変化に伴う脱力、入眠時の幻覚や金縛りといったサインが見られる場合は注意が必要です。

こうした症状を自覚したときは、まずは睡眠障害の専門医に相談し、自身の状態を正しく把握することが重要です。適切なサポートや制度を活用することで、安心して社会生活を送るための第一歩を踏み出せます。

この記事を監修した人

石森寛隆

株式会社 Make Care 代表取締役 CEO

石森 寛隆

Web プロデューサー / Web ディレクター / 起業家

ソフト・オン・デマンドでWeb事業責任者を務めた後、Web制作・アプリ開発会社を起業し10年経営。廃業・自己破産・生活保護を経験し、ザッパラス社長室で事業推進に携わる。その後、中野・濱𦚰とともに精神科訪問看護の事業に参画。2025年7月より株式会社Make CareのCEOとして訪問看護×テクノロジー×マーケティングの挑戦を続けている。

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