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ADHDと眠気の関係|日中の眠気の原因と効果的な対策法

2025.10.22 精神科訪問看護とは

「会議中に眠くて仕方ない」「十分寝ているはずなのに日中眠い」「ADHDと眠気は関係あるの?」このような悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。

実は、ADHDの人の約70%が何らかの睡眠問題を抱えており、日中の眠気は代表的な困りごとの一つです。これは単なる睡眠不足ではなく、ADHDの脳の特性が深く関わっています。

本記事では、ADHDと眠気の関係について、科学的な原因から実践的な対策まで、包括的に解説します。

ADHDの人が眠気を感じやすい理由

ADHDの人が日中に強い眠気を感じるのには、脳の機能的な特性が大きく関わっています。

脳の覚醒レベル調整の困難

ADHDの人の脳は、覚醒レベルを適切に保つことが苦手です。これは、脳内の神経伝達物質、特にドーパミンとノルアドレナリンの不均衡が原因です。これらの神経伝達物質は、注意力や集中力だけでなく、覚醒状態の維持にも重要な役割を果たしています。健常者では、これらの神経伝達物質が適切に調整され、日中は高い覚醒レベルを保てますが、ADHDの人では、この調整機能がうまく働きません。

特に、前頭前皮質の活動低下が覚醒レベルの問題に直結しています。前頭前皮質は、意識的な注意の維持や覚醒状態のコントロールに関わる脳の司令塔です。ADHDの人では、この領域の活動が低下しているため、単調な作業や興味のない活動では、脳が「省エネモード」に入ってしまい、強い眠気を感じることになります。逆に、興味のあることや刺激的な活動では過覚醒状態になることもあり、覚醒レベルの調整が極端になりやすいのが特徴です。

また、網様体賦活系という覚醒を司る脳幹の構造にも機能的な違いがあることが分かっています。この系は、外部からの刺激を処理し、必要に応じて覚醒レベルを上げる役割を持っていますが、ADHDの人では、この反応が鈍いか、逆に過敏すぎることがあります。そのため、静かな環境では眠気が強くなり、騒がしい環境では過度に覚醒してしまうという、環境への適応が困難な状態が生じます

睡眠リズムの乱れやすさ

ADHDの人は、概日リズム(体内時計)が健常者と比べて約2時間遅れていることが研究で示されています。これにより、夜型の生活パターンになりやすく、夜遅くまで眠れず、朝起きられないという悪循環に陥りやすくなります。メラトニンという睡眠ホルモンの分泌開始時刻も遅れており、通常の就寝時間に眠気を感じにくいのです。その結果、睡眠不足が慢性化し、日中の眠気につながります。

睡眠の質も大きな問題です。ADHDの人は、レム睡眠とノンレム睡眠のバランスが崩れやすく、深い睡眠(徐波睡眠)が少ないことが分かっています。深い睡眠は、脳の疲労回復と記憶の定着に重要ですが、これが不足すると、いくら長時間寝ても疲れが取れず、日中の眠気が残ります。また、睡眠中の体動が多く、頻繁に覚醒することも睡眠の質を低下させる要因です。実際、ADHDの人の約50%が、睡眠中に足をぴくぴく動かす「周期性四肢運動障害」を併発しているという報告もあります。

さらに、ADHDの人は「睡眠慣性」が強い傾向があります。睡眠慣性とは、起床直後のぼんやりした状態のことで、通常は15-30分程度で解消されますが、ADHDの人では2時間以上続くこともあります。この長引く睡眠慣性により、午前中いっぱい頭がすっきりせず、強い眠気を感じ続けることになります。

興味・刺激不足による眠気

ADHDの脳は、適切な刺激レベルを求めて常に「刺激探求」をしています。興味のないことや単調な作業では、脳への刺激が不足し、覚醒レベルが急激に低下して強い眠気を感じます。これは「退屈による眠気」と呼ばれ、ADHDの人に特徴的な現象です。会議や講義など、受動的に情報を聞く場面では、脳が十分な刺激を得られず、数分で眠気に襲われることがあります。

逆説的ですが、ADHDの人は眠気を感じると、無意識に刺激を求める行動を取ることがあります。貧乏ゆすり、ペン回し、落書きなどは、覚醒レベルを保つための自己刺激行動です。しかし、これらの行動が制限される環境(静かな会議室、図書館など)では、刺激を得る手段がなくなり、さらに強い眠気に襲われます。カフェインの過剰摂取も、この刺激探求の一環として理解できます。

興味深いことに、ADHDの人は「パラドキシカル覚醒」という現象を示すことがあります。これは、リラックスすべき状況で逆に覚醒してしまい、刺激的な状況で眠くなるという逆転現象です。例えば、締め切り直前の緊張状態では集中できるのに、余裕のある通常業務では眠くなってしまうといった具合です。これは、脳が適切な覚醒レベルを維持するために、外部からの圧力や緊張を必要としているためと考えられています。

ADHDに多い睡眠障害

ADHDの人は、様々な睡眠障害を併発しやすく、これが日中の眠気を悪化させています。

不眠症と入眠困難

ADHDの人の約70-80%が入眠困難を経験しています。ベッドに入っても、頭の中で考えが次々と浮かび、「思考の暴走」状態になってなかなか眠れません。今日あったこと、明日の予定、過去の失敗、将来の不安などが頭の中をぐるぐる回り、脳が休息モードに入れないのです。この現象は「レーシングマインド」と呼ばれ、ADHDの特徴的な症状の一つです。

また、「リベンジ夜更かし症候群」もADHDの人に多く見られます。日中、仕事や勉強で自由な時間がなかったため、夜になってから「自分の時間」を取り戻そうとして、スマートフォンやゲーム、動画視聴などに没頭してしまうのです。ADHDの衝動性により、「もう少しだけ」という気持ちを抑えられず、気づけば深夜3時、4時になっていることも珍しくありません。

不眠症の悪化要因として、ADHDの人は「睡眠への不安」を抱えやすいことも挙げられます。「今日も眠れないかもしれない」「明日起きられなかったらどうしよう」という不安が、交感神経を刺激し、さらに眠れなくなるという悪循環に陥ります。この不安は、過去の失敗経験(寝坊による遅刻など)から生じることが多く、認知行動療法的なアプローチが必要になることもあります

過眠症と日中の過度な眠気

ADHDの人の約30%が過眠症を併発しているという報告があります。過眠症とは、夜間に十分な睡眠を取っているにも関わらず、日中に過度の眠気を感じる状態です。ADHDと過眠症の併発は、共通の遺伝的要因や神経伝達物質の異常が関与していると考えられています。特に、オレキシン(覚醒を促進する神経ペプチド)の機能異常が、両者に共通して見られることが分かっています。

特発性過眠症やナルコレプシーとADHDの併発も報告されています。これらの疾患では、日中に突然強い眠気に襲われ、場所や状況を問わず眠り込んでしまうことがあります。ADHDの不注意症状と過眠症の症状が重なると、仕事や学業に深刻な影響を与えます。例えば、会議中に眠ってしまう、運転中に眠気で危険な思いをする、試験中に寝てしまうなどの問題が生じます。

「睡眠酩酊」もADHDの人に多い現象です。これは、起床後も強い眠気と混乱状態が続き、正常な覚醒状態に移行できない状態を指します。朝起きても頭がぼーっとして、何度もスヌーズボタンを押し、結局起きられずに遅刻してしまうというパターンを繰り返します。この状態では、朝の準備や判断力を要する作業が困難になり、ミスや事故のリスクも高まります。

睡眠時無呼吸症候群との関係

ADHDの人は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)のリスクが一般人口の約2倍高いことが研究で示されています。睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりすることで、睡眠の質が著しく低下する疾患です。この疾患により、深い睡眠が得られず、日中の強い眠気、集中力低下、イライラなどの症状が現れます。これらの症状はADHDの症状と重なるため、診断が遅れることもあります。

ADHDと睡眠時無呼吸症候群の関連には、いくつかの要因が考えられています。まず、ADHDの人は肥満になりやすい傾向があり、これが睡眠時無呼吸のリスクを高めます。衝動的な食行動、ドーパミン不足を補うための過食、運動不足などが肥満につながります。また、ADHDの薬物治療による食欲低下の反動で、夜間に過食することもあります。

さらに、ADHDの人は上気道の筋緊張が低下しやすいという報告もあります。これは、筋肉の緊張を調節する神経系の機能異常が関与している可能性があります。小児では、アデノイドや扁桃肥大がADHDと睡眠時無呼吸症候群の両方のリスク要因となることも知られています。睡眠時無呼吸症候群の治療により、ADHDの症状が改善することもあるため、いびきや睡眠中の呼吸停止が疑われる場合は、睡眠検査を受けることが推奨されます

ADHD治療薬と眠気の関係

ADHD治療薬は症状を改善する一方で、眠気に関連する副作用を引き起こすこともあります。

中枢刺激薬による睡眠への影響

メチルフェニデート(コンサータ)などの中枢刺激薬は、ADHDの主要な治療薬ですが、睡眠に複雑な影響を与えます。これらの薬は、日中の覚醒レベルを上げ、集中力を改善しますが、同時に夜間の入眠を妨げる可能性があります。特に、薬の効果が夕方まで持続する徐放製剤では、就寝時間になっても覚醒状態が続き、入眠困難を引き起こすことがあります。その結果、睡眠不足となり、翌日の眠気が強くなるという悪循環に陥ることがあります。

興味深いことに、一部の患者では、中枢刺激薬により睡眠の質が改善することもあります。これは「パラドキシカル効果」と呼ばれ、ADHDの症状が改善することで、日中の活動と夜間の休息のメリハリがつき、結果的に睡眠リズムが整うためです。また、薬により日中の不安や焦燥感が軽減され、夜間のレーシングマインドが改善することで、入眠しやすくなるケースもあります。

服薬のタイミングと量の調整が重要です。一般的に、午後遅くの服薬は避け、朝の服薬を基本とします。しかし、個人差が大きく、午後の服薬でも睡眠に影響しない人もいれば、朝の服薬でも夜まで影響が続く人もいます。医師と相談しながら、自分に合った服薬スケジュールを見つけることが大切です。睡眠日記をつけて、薬の影響を客観的に評価することも推奨されます。

非刺激薬の眠気への作用

アトモキセチン(ストラテラ)やグアンファシン(インチュニブ)などの非刺激薬は、中枢刺激薬とは異なる作用機序を持ち、眠気への影響も異なります。アトモキセチンは、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害することでADHD症状を改善しますが、服薬初期には眠気や倦怠感を引き起こすことがあります。この眠気は通常、2-4週間で軽減しますが、一部の患者では持続することもあります。

グアンファシンは、α2Aアドレナリン受容体作動薬で、鎮静作用があるため、眠気を引き起こしやすい薬剤です。特に服薬開始時や増量時に強い眠気を感じることがあります。しかし、この鎮静作用を利用して、夜間の服薬により睡眠を改善させる使い方もあります。多動性や衝動性が強く、夜間の興奮で眠れない患者には、グアンファシンの鎮静作用が有益な場合があります。

これらの非刺激薬は、中枢刺激薬で睡眠障害が悪化する患者の代替薬として使用されることもあります。また、日中は中枢刺激薬、夜間は非刺激薬という併用療法も行われることがあります。薬剤選択は、個々の症状パターン、睡眠の問題の程度、生活スタイルなどを考慮して決定されます。定期的な診察で、薬の効果と副作用のバランスを評価し、必要に応じて調整することが重要です。

睡眠薬との併用について

ADHDの治療において、睡眠障害が深刻な場合は、睡眠薬の併用が検討されることがあります。メラトニン製剤は、ADHDの人に多い睡眠相後退症候群の治療に有効です。メラトニンは自然な睡眠ホルモンであり、依存性がなく、長期使用も比較的安全とされています。就寝の1-2時間前に服用することで、自然な眠気を誘発し、睡眠リズムを前進させることができます。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、即効性がありますが、ADHDの人には注意が必要です。依存性のリスクが高く、ADHDの衝動性により過剰摂取の危険性があります。また、翌日の持ち越し効果により、日中の眠気や認知機能の低下を引き起こすことがあります。非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(ゾルピデムなど)は、依存性が比較的低く、作用時間も短いため、ADHDの人にも使用されることがあります。

新しい睡眠薬として、オレキシン受容体拮抗薬(スボレキサントなど)も注目されています。これらの薬は、覚醒を促進するオレキシンの作用をブロックすることで、自然な眠気を誘発します。依存性が低く、翌日への持ち越し効果も少ないため、ADHDの人にも適している可能性があります。ただし、すべての睡眠薬は、ADHD治療薬との相互作用を考慮し、医師の指導のもとで使用する必要があります

日中の眠気への即効性のある対処法

ADHDの人が日中の眠気に襲われた時、すぐに実践できる対処法を紹介します。

身体的刺激による覚醒法

冷水で顔や手を洗うことは、最も簡単で効果的な眠気覚ましの方法です。冷たい刺激により交感神経が活性化し、一時的に覚醒レベルが上がります。特に、首筋や手首など、血管が皮膚に近い部分を冷やすと効果的です。可能であれば、冷たいシャワーを浴びることも有効ですが、職場では難しいため、保冷剤や冷却シートを常備しておくと便利です。

軽い運動も即効性があります。その場で軽くジャンプする、階段を上り下りする、腕を大きく回すなど、1-2分の運動で血流が改善し、脳への酸素供給が増えます。デスクワーク中なら、足首の曲げ伸ばし、肩甲骨を寄せる運動、首のストレッチなど、座ったままできる運動も効果的です。可能であれば、5分程度の散歩が理想的で、日光を浴びることでさらに覚醒効果が高まります。

深呼吸も簡単にできる覚醒法です。4秒かけて鼻から吸い、4秒止めて、4秒かけて口から吐く「4-4-4呼吸法」を5-10回繰り返すことで、脳への酸素供給が増え、覚醒レベルが上がります。また、あくびを意識的に大きくすることも、脳の温度を下げ、覚醒を促す効果があります。これらの方法は、会議中でも目立たずに実践できる利点があります。

感覚刺激を活用した方法

ガムを噛むことは、ADHDの人にとって特に効果的な眠気対策です。咀嚼運動により脳の血流が増加し、覚醒レベルが上がります。ミント系のガムなら、メントールの刺激も加わり、さらに効果的です。研究によると、ガムを噛むことで認知機能も一時的に向上することが示されています。ただし、音が気になる環境では配慮が必要です。

香りの刺激も有効です。ペパーミント、レモン、ローズマリーなどの精油は、覚醒効果があることが知られています。アロマオイルを染み込ませたハンカチを持ち歩いたり、ロールオンタイプのアロマを使用したりすることで、いつでも香りの刺激を得られます。コーヒーの香りも覚醒効果がありますが、カフェインの過剰摂取には注意が必要です。

音楽や環境音も眠気対策になります。アップテンポの音楽、ホワイトノイズ、自然音などは、脳に適度な刺激を与え、覚醒レベルを維持します。ただし、ADHDの人は音に敏感なことも多いため、自分に合った音量と種類を見つけることが重要です。骨伝導イヤホンなら、周囲の音も聞こえるため、安全に使用できます。

戦略的な仮眠(パワーナップ)

ADHDの人にとって、戦略的な仮眠は非常に効果的な眠気対策です。理想的な仮眠時間は15-20分で、これ以上長くなると深い睡眠に入ってしまい、起きた後の眠気(睡眠慣性)が強くなります。タイマーを必ずセットし、明るい場所で、椅子に座ったまま仮眠を取ることで、深い睡眠を防げます。

「コーヒーナップ」という方法も効果的です。仮眠の直前にコーヒーを飲み、20分後に起きると、ちょうどカフェインの効果が現れ始め、すっきりと目覚めることができます。ただし、午後3時以降の仮眠は夜の睡眠に影響する可能性があるため、避けた方が良いでしょう。

仮眠ができない環境では、「マイクロナップ」という1-2分の超短時間の休息も有効です。目を閉じて、意識的に体の力を抜くだけでも、脳の疲労が軽減されます。トイレの個室など、短時間でも一人になれる場所を活用することも一つの方法です。重要なのは、罪悪感を持たずに、仮眠を「生産性を上げるための投資」として捉えることです。

根本的な睡眠改善のアプローチ

日中の眠気を根本的に改善するには、睡眠の質と量を向上させることが不可欠です。

睡眠衛生の確立

ADHDの人にとって、睡眠衛生(スリープハイジーン)の確立は特に重要です。まず、就寝・起床時間を一定にすることから始めます。週末の寝だめは避け、平日と休日の起床時間の差を1時間以内に抑えます。これにより、体内時計が安定し、自然な眠気と覚醒のリズムが形成されます。最初は辛いかもしれませんが、2-3週間続けることで、体が新しいリズムに適応します。

寝室環境の整備も重要です。室温は18-22度、湿度は40-60%が理想的です。遮光カーテンで光を遮断し、耳栓やホワイトノイズマシンで音環境を整えます。寝具は体に合ったものを選び、特に枕の高さは首や肩の負担を軽減するよう調整します。ADHDの人は感覚過敏があることも多いため、肌触りの良いシーツや、重めの掛け布団(ウェイトブランケット)が安心感をもたらすこともあります。

就寝前のルーティンを確立することで、脳に「そろそろ寝る時間」というシグナルを送ります。入浴、読書、軽いストレッチ、瞑想など、リラックスできる活動を30分-1時間行います。スマートフォンやパソコンは就寝2時間前には使用を控え、ブルーライトの影響を避けます。どうしても使用する場合は、ブルーライトカットメガネや、画面の色温度を調整するアプリを活用します。

生活リズムの調整方法

朝の光療法は、ADHDの人の睡眠リズム改善に特に効果的です。起床後30分以内に、15-30分間、明るい光(2,500ルクス以上)を浴びることで、メラトニンの分泌リズムがリセットされます。天気の良い日は屋外で朝食を取る、曇りの日は光療法器を使用するなど、毎日継続することが重要です。光療法により、睡眠相が前進し、夜の入眠が改善されることが研究で示されています。

運動のタイミングも睡眠に大きく影響します。午前中から午後早い時間の有酸素運動は、夜の睡眠の質を向上させます。ただし、就寝3時間前以降の激しい運動は、体温上昇と交感神経の活性化により入眠を妨げるため避けます。ADHDの人は、運動により余分なエネルギーを発散できるため、定期的な運動習慣は特に重要です。週3-4回、30分程度の中強度の運動(早歩き、サイクリング、水泳など)が理想的です。

食事のタイミングと内容も重要です。夕食は就寝3時間前までに済ませ、消化の負担を減らします。カフェインは午後2時以降は控え、アルコールも睡眠の質を低下させるため避けます。トリプトファンを含む食品(牛乳、バナナ、ナッツ類)は、セロトニンとメラトニンの原料となるため、夕食に取り入れると良いでしょう。血糖値の急激な変動を避けるため、就寝前の糖分摂取も控えます。

認知行動療法的アプローチ

ADHDの人の睡眠問題には、認知行動療法(CBT-I:不眠症に対する認知行動療法)が効果的です。まず、睡眠に関する誤った認識を修正します。「8時間寝なければならない」「一度起きたら二度と眠れない」などの完璧主義的な思考が、かえって不安を高め、入眠を妨げることがあります。睡眠は個人差があり、6-7時間でも十分な人もいることを理解し、柔軟な考え方を身につけます

刺激統制法も重要な技法です。ベッドは睡眠とセックス以外には使用せず、眠れない時は一度ベッドから出て、別の部屋で静かな活動をし、眠気を感じたら再度ベッドに戻ります。これにより、「ベッド=睡眠」という条件付けを強化します。ADHDの人は、ベッドでスマートフォンを使う習慣がつきやすいため、充電器を寝室の外に置くなどの工夫が必要です。

睡眠制限法は、睡眠効率を高める技法です。実際に眠っている時間だけベッドにいるようにし、徐々に睡眠時間を延長していきます。例えば、8時間ベッドにいても5時間しか眠れない場合、最初はベッドにいる時間を5時間に制限し、睡眠効率が85%以上になったら15分ずつ延長します。この方法は最初は辛いですが、睡眠の質が大幅に改善することが多いです。専門家の指導のもとで行うことが推奨されます。

専門的な治療と相談先

セルフケアで改善しない場合は、専門的な治療を受けることが重要です。

受診すべき診療科と検査

ADHDに関連する眠気の問題は、複数の要因が絡み合っているため、適切な診療科の選択が重要です。まず、ADHDの治療を受けている場合は、主治医(精神科医、心療内科医)に相談することから始めます。薬の調整や、睡眠に関する追加の治療が必要かどうかを評価してもらえます。ADHDの診断を受けていない場合は、成人ADHD外来や発達障害専門外来のある医療機関を受診することをお勧めします。

睡眠障害が主な問題の場合は、睡眠専門外来や睡眠センターでの評価が有用です。終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)により、睡眠時無呼吸症候群、周期性四肢運動障害、レム睡眠行動障害などの睡眠障害を診断できます。また、反復睡眠潜時検査(MSLT)により、ナルコレプシーや特発性過眠症の診断も可能です。これらの検査により、ADHDの症状と思われていたものが、実は睡眠障害によるものだったということが判明することもあります。

アクチグラフィー検査も有用です。腕時計型の活動量計を1-2週間装着することで、睡眠覚醒リズムを客観的に評価できます。ADHDの人は、主観的な睡眠時間と実際の睡眠時間に大きな乖離があることが多いため、この検査により正確な睡眠パターンを把握できます。血液検査では、甲状腺機能、鉄欠乏、ビタミンD不足など、眠気に関連する身体的要因をチェックします。

睡眠専門医との連携

ADHDと睡眠障害の両方を理解している医師を見つけることが理想的です。日本睡眠学会認定医や、精神科医で睡眠障害に詳しい医師を探すことをお勧めします。初診時には、睡眠日記(2週間分)、ADHDの診断書や治療歴、現在服用している薬のリスト、日中の眠気の具体的な状況をメモしたものを持参すると、診察がスムーズに進みます。

治療は、ADHDと睡眠障害の両方を考慮した包括的なアプローチが必要です。例えば、ADHD薬の種類や服薬時間の調整、睡眠薬の追加、認知行動療法の導入などを組み合わせます。定期的なフォローアップにより、治療効果を評価し、必要に応じて治療計画を修正します。睡眠の改善には時間がかかることも多いため、3-6ヶ月は継続的に治療を受けることが重要です。

医師との連携では、正直なコミュニケーションが大切です。カフェインやアルコールの使用、実際の就寝時間、薬の飲み忘れなど、恥ずかしいと思うことも正直に伝えることで、適切な治療を受けることができます。また、治療の目標を明確にすることも重要です。「日中の眠気をなくしたい」「仕事のパフォーマンスを上げたい」など、具体的な目標を共有することで、治療の方向性が定まります。

サポートグループと情報源

ADHDと睡眠の問題を抱える人にとって、同じ悩みを持つ人との交流は大きな支えになります。全国各地にADHDの自助グループがあり、睡眠の問題についても情報交換ができます。オンラインコミュニティも活発で、24時間いつでも相談や情報共有が可能です。実際に効果があった対処法、失敗談、医療機関の情報などを共有することで、新しい解決策が見つかることもあります。

睡眠改善のためのアプリも有用です。Sleep Cycle、Sleep Meister、Somnusなどのアプリは、睡眠の質を記録し、最適な起床時間を提案してくれます。ADHDの人向けのアプリ(Routinery、Due、Forest など)と組み合わせることで、睡眠と日常生活の両方を管理できます。ただし、就寝前のスマートフォン使用は睡眠を妨げるため、使い方には注意が必要です。

信頼できる情報源を活用することも重要です。日本睡眠学会、日本ADHD学会、発達障害情報・支援センターなどの公式サイトには、最新の研究成果や治療ガイドラインが掲載されています。書籍では、ADHDと睡眠の関係について書かれた専門書も増えており、より深い理解を得ることができます。ただし、インターネット上の情報は玉石混交のため、信頼できる情報源を選ぶことが大切です。

まとめ:ADHDの眠気と上手に付き合うために

ADHDと眠気の関係について、原因から対策まで包括的に解説してきました。

ADHDの人が日中に強い眠気を感じるのは、脳の覚醒調整機能の問題、睡眠リズムの乱れ、興味・刺激不足など、複数の要因が関与しています。また、約70%のADHDの人が何らかの睡眠障害を併発しており、これが日中の眠気をさらに悪化させています。

ADHD治療薬も睡眠に複雑な影響を与えます。中枢刺激薬は覚醒レベルを上げる一方で夜間の入眠を妨げることがあり、非刺激薬は眠気を引き起こすことがあります。個々の状況に応じた薬剤選択と調整が重要です。

日中の眠気への対処法として、身体的刺激、感覚刺激、戦略的な仮眠などの即効性のある方法があります。しかし、根本的な改善には、睡眠衛生の確立、生活リズムの調整、認知行動療法的アプローチなどが必要です。

セルフケアで改善しない場合は、専門医の診察を受けることが重要です。ADHDと睡眠障害の両方を考慮した包括的な治療により、多くの場合改善が期待できます。

ADHDの眠気は、適切な理解と対策により管理可能です。完璧を求めず、自分に合った方法を少しずつ取り入れていくことが大切です。睡眠の改善には時間がかかることもありますが、諦めずに継続することで、必ず改善の道は開けます。一人で悩まず、専門家やサポートグループの助けを借りながら、より良い睡眠と覚醒のバランスを見つけていきましょう。

この記事を監修した人

石森寛隆

株式会社 Make Care 代表取締役 CEO

石森 寛隆

Web プロデューサー / Web ディレクター / 起業家

ソフト・オン・デマンドでWeb事業責任者を務めた後、Web制作・アプリ開発会社を起業し10年経営。廃業・自己破産・生活保護を経験し、ザッパラス社長室で事業推進に携わる。その後、中野・濱𦚰とともに精神科訪問看護の事業に参画。2025年7月より株式会社Make CareのCEOとして訪問看護×テクノロジー×マーケティングの挑戦を続けている。

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