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ADHDで片付けられないあなたへ。原因と今日からできる対策

2025.10.22 精神科訪問看護とは

「片付けたいのに、できない…」部屋が散らかるたびに自己嫌悪に陥っていませんか?

その原因は、あなたの「だらしなさ」ではなく、ADHDの脳の特性にあるのかもしれません。

この記事では、なぜADHDだと片付けが難しいのかを科学的に解明し、今日から試せる具体的な片付け術を徹底解説。

自分を責めるのをやめて、あなたに合った方法で「片付けられない自分」を卒業しましょう。

なぜ?ADHDで「片付けられない」のは、あなたのせいじゃない

「部屋をきれいにしたい」という気持ちはあるのに、なぜか体が動かない。

片付けを始めても、すぐに他のことに気を取られてしまい、気づけば前よりも散らかっている。

そして、そんな自分を責めて自己嫌悪に陥る…

もしあなたがこのような経験に心当たりがあるなら、それは決してあなたの「だらしなさ」や「努力不足」が原因ではないかもしれません。

ADHD(注意欠如・多動症)の特性が、片付けというタスクを極めて困難なものにしている可能性があるのです。

このセクションでは、まず多くの当事者が抱える「頑張っているのにできない」という苦しみに寄り添い、その背景にあるADHDの特性との深い関係性を解き明かしていきます。

自分を責めるのをやめ、自分の特性を正しく理解することが、片付けられない悩みから抜け出すための最初の、そして最も重要な一歩となります。

「頑張っているのにできない」苦しみと自己嫌悪のループ

多くの人が当たり前のようにこなしている「片付け」が、自分にはどうしてもできない。

この事実は、当事者に深い孤独感と自己嫌悪をもたらします。

例えば、「よし、今日こそ部屋を片付けるぞ!」と意気込んでも、いざ散らかった部屋を目の前にすると、どこから手をつけていいのか分からず立ち尽くしてしまう。

ようやく一つの引き出しを開けて整理を始めても、昔の写真や手紙が出てきて思い出に浸ってしまい、気づけば数時間が経過。

あるいは、片付けの途中で「あ、あのメールを返さなきゃ」と思い出しパソコンを開いたら、そのままネットサーフィンに夢中になってしまう。

そして夜になり、結局何も片付いていない部屋を見て、「自分はなんて意志が弱いんだ」「どうしてこんな簡単なこともできないんだ」と自分を責め、無力感に苛まれるのです。

友人や家族から「部屋が汚いよ」と指摘されれば、その通りだと分かっているだけに深く傷つき、人間関係にまで影響が及ぶこともあります。

この「片付けたい気持ち」と「できない現実」とのギャップが生み出す苦しみは、ADHDの特性を知らない人にはなかなか理解されません。

しかし、これはあなたの性格の問題ではなく、脳の特性によるものなのです。

この事実を受け入れることで、長年続いた自己嫌悪のループから抜け出し、具体的な対策へと目を向けることができるようになります

ADHDの3つの特性(不注意・多動性・衝動性)と片付けの深い関係

ADHDの特性は、主に「不注意」「多動性」「衝動性」の3つに分類されます。

これらはそれぞれ独立しているわけではなく、複雑に絡み合いながら「片付けられない」という困難さを生み出しています。

まず「不注意」の特性は、片付けのプロセス全体に影響を及ぼします。

どこに何があるかを把握し続けるのが苦手なため、物をどこに置いたかすぐに忘れてしまい、常に探し物をしている状態になりがちです。

また、一つの作業に集中し続けることが難しく、片付けの最中でも外部の些細な刺激や、頭に浮かんだ別の考えにすぐに注意が逸れてしまいます。

次に「多動性」は、物理的な落ち着きのなさだけでなく、「脳内多動」として現れることもあります。

じっと一つの場所で作業を続けることが苦痛で、部屋の中を意味なく動き回ってしまったり、頭の中で次から次へと考えが駆け巡り、目の前のタスクに集中できなかったりします。

最後に「衝動性」は、計画性の欠如として片付けに影響します。

後先考えずに物を買ってしまうため、そもそも物の量が多くなりがちです。

また、物を捨てる際にも「いつか使うかも」「高かったから」といった衝動的な感情に左右され、合理的な判断が下せません。

このように、ADHDの3つの特性は、片付けという「計画を立て、手順通りに作業を進め、集中力を維持し、適切な判断を下す」という一連の行動を、あらゆる側面から妨害するのです。

【徹底解剖】ADHDの脳が片付けを苦手とする5つの科学的理由

「ADHDの特性が原因」と言われても、具体的に脳の中で何が起こっているのでしょうか。

ここでは、科学的な視点から、ADHDの脳がなぜ片付けをこれほどまでに苦手とするのか、そのメカニズムを5つの理由に分けて徹底的に解剖します。

これらの理由を知ることで、自分の行動パターンを客観的に理解し、精神論ではない、特性に基づいた具体的な対策を立てるための土台を築くことができます。

理由①:実行機能の弱さ-計画と実行の断絶

片付けが苦手な最大の原因として挙げられるのが、「実行機能」の弱さです。

実行機能とは、脳の前頭前野が担う高度な能力で、目標達成のために行動を計画し、優先順位をつけ、段取りを考え、作業を開始・維持し、適切に完了させるための一連の司令塔のような役割を果たします。

ADHDの人は、この実行機能に生まれつき課題を抱えていることが多いのです。

例えば、散らかった部屋を前にしたとき、多くの人は無意識に「まず床のゴミを拾って、次に服を分類して、最後に掃除機をかける」といった大まかな計画を立てます。

しかし、実行機能に弱さがあると、この「計画を立てる」という最初のステップでつまずきます

情報量が多すぎて脳がフリーズし、「何から手をつければいいのか分からない」パニック状態に陥るのです。

仮に計画を立てられても、それを「実行に移す」ための第一歩が踏み出せなかったり、一度作業を中断すると「再開する」ことが非常に困難だったりします。

片付けとは、まさにこの実行機能のフル活用を求められるタスクの連続です。

だからこそ、実行機能に課題のあるADHDの人にとって、片付けはまるで登頂ルートのわからない険しい山のように感じられてしまうのです。

理由②:報酬系の特性-「すぐにご褒美」がないと動けない

私たちの脳には「報酬系」という回路があり、何かを達成した時などに放出される神経伝達物質「ドーパミン」によって快感ややる気を生み出します。

ADHDの人の脳は、このドーパミンの働きが不安定であると考えられています。

そのため、すぐにご褒美(ドーパミンの放出)が期待できない、地味で退屈な作業に対して、やる気を出すのが非常に難しいのです。

片付けは、多大な労力と時間がかかるにもかかわらず、その成果がすぐには現れにくい作業の代表格です。

一方で、スマートフォンでのSNSチェックやゲーム、ネットサーフィンなどは、指一本で次々と新しい刺激が得られ、脳は即時的な快楽(ドーパミン)を得ることができます。

そのため、ADHDの脳は、面倒な片付けから逃避し、手軽にドーパミンを得られる行動に流れがちになります。これが「先延ばし癖」の正体です。

決してあなたが怠け者なのではなく、脳がより効率的にドーパミンを得ようとする、ある意味で合理的な反応なのです。

この特性を理解し、片付けというタスクの中に、いかにして小さな「ご褒美」を組み込んでいくかが、先延ばしを克服する鍵となります。

理由③:脳内多動-頭の中が常に情報過多

身体的な多動性だけでなく、ADHDの特性を持つ人の多くは「脳内多動」と呼ばれる、頭の中が常に騒がしい状態にあります。

これは、思考があちこちに飛び火し、一つのことに集中し続けるのが難しい状態を指します。

例えば、クローゼットの整理を始めたとします。

すると、「このTシャツ、去年の旅行で着たな。あの旅行、楽しかったな…」「あ、そういえば旅行の写真をまだ整理してなかった」「写真といえば、友達に送る約束をしていたのを思い出した」「LINEで送らなきゃ」…といった具合に、連想ゲームのように思考がどんどん逸れていき、気づけばクローゼットの前でスマートフォンをいじっている、という事態に陥ります。

本人に怠けようという意識は全くなく、むしろ真面目に片付けに取り組もうとしているにもかかわらず、脳が勝手に別の興味へとジャンプしてしまうのです。

この脳内多動は、片付けの効率を著しく低下させるだけでなく、常に頭が疲れている感覚や、物事をやり遂げられないという無力感の原因にもなります。

この「思考の嵐」をいかに鎮め、目の前のタスクに意識を留めるかが、片付けを進める上で重要な課題となります。

理由④:時間感覚の歪み-見積もりの甘さと過集中

ADHDの人は、時間の感覚が一般的な人とは少し異なっていることが多く、これが片付けの計画を大きく狂わせる原因となります。

一つは「時間見積もりの甘さ」です。

「このくらいの量なら15分もあれば終わるだろう」と楽観的に見積もった作業が、実際には1時間以上かかってしまう、ということは日常茶飯事です。

これにより、計画全体が破綻し、「どうせ終わらない」と途中で投げ出してしまうことにつながります。

そして、もう一つの極端な現象が「過集中(ハイパーフォーカス)」です。これは、特定の興味のあることに対して、驚くほどの集中力を発揮し、時間の経過や周りの状況を完全に忘れて没頭してしまう状態です。

片付けにおいても、例えば古いアルバムの整理や、本の並べ替えといった特定の作業に過集中が発動してしまうことがあります。すると、他のやるべきことが一切手につかなくなり、気づけば夜になっている、という事態も起こり得ます

この「集中できない」と「集中しすぎる」という両極端な特性が、バランスの取れた作業進行を困難にし、片付けを途中で挫折させる大きな要因となっているのです。

理由⑤:物への執着と判断疲れ-捨てられない心理

ADHDの衝動性の特性は、計画性のない買い物につながりやすく、結果として物理的に物の量が多くなりがちです。

問題は、増えた物を「捨てる」という行為が非常に難しい点にあります。「いつか使うかもしれない」「これは高かったから、もったいない」「もらったものだから申し訳ない」といった感情が強く働き、物を手放すことに大きな抵抗を感じます。

これは、未来の可能性を過大評価したり、過去の投資に固執したりするADHDの思考パターンと関連しています

さらに、片付けにおける「要る・要らない」の判断は、脳にとって非常にエネルギーを消費する作業です。ADHDの人は、この意思決定のプロセスで脳が疲れやすく、「判断疲れ(ディシジョン・ファティーグ)」を起こしやすいと言われています。

最初は順調に判断できていても、次第に「もうどうでもいいや」「全部とっておこう」と投げやりになってしまうのです。

物の多さと判断疲れの悪循環が、部屋を物で溢れさせ、片付けをさらに困難なものにしているのです。

物を捨てることへの罪悪感を和らげ、判断のエネルギーを節約する工夫が、この問題を解決する鍵となります。

【今日から実践】ADHD特性に特化した「失敗しない」片付け術

ADHDの脳の特性を理解すれば、精神論や根性論では片付けられない理由が明確になったはずです。

ここからは、その特性を逆手に取った、具体的で実践可能な「失敗しない」片付け術を5つのステップで紹介します。

これらの方法は、完璧を目指すのではなく、「自分にもできた」という小さな成功体験を積み重ねることを目的としています。自分に合った方法を取り入れ、ゲームを攻略するような感覚で試してみてください。

ステップ①:環境設定-戦う前に「戦場」を整える

本格的な片付けを始める前に、まずは「片付けを始めるための心理的ハードル」を極限まで下げることが重要です。

ADHDの脳は、退屈な作業を始めることに最もエネルギーを要するため、この初動をいかにスムーズにするかが成功の9割を決めると言っても過言ではありません。

まずは、あなたの気分が上がる環境を作りましょう。アップテンポな好きな音楽をかける、動きやすく汚れてもいいお気に入りの服装に着替える、良い香りのアロマを焚くなど、五感を活用して「やる気スイッチ」を入れます。

そして、片付けが終わった後の「ご褒美」を具体的に設定し、目に見える場所に置いておくのも効果的です。例えば、「この引き出しを片付けたら、好きなアイスを食べる」「15分頑張ったら、YouTubeを1本見る」など、すぐ手が届く小さなご褒美を用意します。

さらに、「週末片付け祭り開催!」「汚部屋脱出プロジェクト始動!」のように、自分の中で片付けを一大イベントとして位置づけるのも良いでしょう。

家族や友人に「今から片付けチャレンジします!」と宣言するのも、後に引けない状況を作り出し、初めの一歩を後押ししてくれます

戦う相手(散らかった部屋)に挑む前に、まずは自分の装備と気分を万全に整える。この準備段階こそが、最大の戦略なのです。

ステップ②:超スモールステップ化-「15分だけ」「引き出し1つだけ」

ADHDの脳は、大きすぎる目標を前にするとフリーズしてしまいます。「部屋全体をきれいにする」という漠然とした目標は、ゴールの見えないマラソンのようなもので、走り出すことすらできません。

そこで重要になるのが、目標を極限まで小さく分解する「超スモールステップ化」です。

例えば、「机の上を片付ける」ではなく、「机の上のペンを3本だけペン立てに戻す」。「クローゼットを整理する」ではなく、「ハンガーにかかっている服を1枚だけ畳む」。

このレベルまで目標を具体化・細分化することで、「これならできそう」と脳が感じ、行動への抵抗が劇的に少なくなります

そして、時間で区切ることも極めて有効です。ここで活躍するのが「ポモドーロ・テクニック」の応用です。スマートフォンのタイマーを「15分」にセットし、その時間だけは他のことは一切考えず、決めた一つのタスクに集中します。

アラームが鳴ったら、途中でも強制的に作業を終了し、5分から15分程度の休憩を取ります。この休憩時間には、片付けた場所を眺めて達成感を味わったり、用意しておいたご褒美を楽しんだりします。

この「短い集中+確実な休憩(ご褒美)」のサイクルを繰り返すことで、脳の疲れを防ぎ、集中力を維持しながら着実に作業を進めることができるのです。

ステップ③:物を減らす技術-「捨てる」ではなく「選ぶ」

物が多いと、管理に必要なエネルギーも増大します。片付けやすい部屋の基本は、絶対的な物の量を減らすことです。

しかし、ADHDの特性を持つ人にとって「捨てる」という行為は、罪悪感や不安感を伴う苦痛な作業になりがちです。

そこで、発想を転換し、「何を捨てるか」ではなく、「何を残すか」を考える「選択式」のアプローチをお勧めします。これは、自分の生活にとって本当に必要な「一軍」の選手だけを選び抜く作業です。

例えば、服であれば「今シーズンのスタメンだけを残す」、食器であれば「毎日使いたいお気に入りだけを残す」といった基準で選んでいきます。

このとき、「要る・要らない」の二択で判断するのではなく、「大好き」「まあまあ好き」「好きではない」の三段階で分類すると、判断がしやすくなります。

そして、どうしても判断に迷う物は、「保留ボックス」という名前の箱を用意し、一時的にそこに入れておきます。その箱に「〇月〇日(例:3ヶ月後)までに見返さなかったら、中身を見ずに処分する」というルールを書いた紙を貼っておきましょう。

これにより、判断を先送りにでき、脳のエネルギーを節約できます。物を「捨てる」というネガティブな行為から、「選ぶ」というポジティブな行為へと意識を変えることが、物を減らすための大きな一歩となります。

ステップ④:収納の最適化-「見せる」「分ける」「戻しやすくする」

物の住所、つまり定位置を決めることはリバウンドを防ぐために不可欠です。しかし、ADHDの特性を考慮しない収納は、かえって片付けを困難にします。

ポイントは「いかに脳に負担をかけずに、物を元に戻せるか」です。

第一の原則は「見える化」です。

不透明な箱や引き出しの奥深くは、ADHDの人にとってはブラックホールと同じで、一度入れた物は二度と存在を思い出せません。中身が見える透明なプラスチックケースを使ったり、箱の外側に写真やイラスト付きのラベルを貼ったりして、何がどこにあるか一目でわかるようにしましょう。

第二の原則は「ゾーニング」です。

文房具、充電ケーブル、薬など、同じカテゴリーの物は一つの場所にまとめ、定位置を明確にします。このとき、使用頻度の高い物は、最も取り出しやすい「ゴールデンゾーン(目線から腰の高さ)」に配置するのが鉄則です。

第三の原則は「ワンアクション収納」です。

蓋を開けて、箱を取り出して、中の物を出して…といった手間が多いほど、元に戻すのが面倒になります。蓋のないカゴやバスケットを用意し、そこに「投げ込むだけ」で片付く仕組みを作りましょう。

例えば、玄関に鍵や財布を投げ込むトレイを置く、リビングにリモコン類を投げ込むカゴを置く、といった具合です。脳のワーキングメモリを節約し、直感的に使える収納システムを構築することが、きれいな部屋を維持する最大の秘訣です。

ステップ⑤:習慣化のコツ-汚部屋にリバウンドさせない仕組み

一度部屋が片付いても、それを維持できなければ意味がありません。きれいな状態をキープするためには、片付けを「特別なイベント」から「無意識の習慣」へと昇華させる必要があります。

そのためのコツは、既存の生活習慣に片付けを「セット」にすることです。例えば、「歯を磨いたら、洗面台をさっと拭く」「家を出る前に、クッションを元の位置に戻す」「寝る前に、机の上の物を5つだけ片付ける」といったように、「AをしたらBをする」というルールを自分で作ります。

最初は面倒に感じても、毎日繰り返すことで、やがて歯磨きと同じように無意識でこなせるようになります。

また、一日の終わりに「5分間リセットタイム」を設けるのも非常に効果的です。タイマーを5分にセットし、その時間だけ部屋の中を歩き回り、元の場所からずれている物を戻していきます。

たった5分でも、毎日続ければ物が散らかるのを劇的に防げます。

そして最も重要なのが、できた自分を褒めることです。カレンダーにシールを貼る、アプリで記録をつけるなど、自分の頑張りを可視化し、「今日もできた!」と小さな成功体験を積み重ねていきましょう。

このポジティブなフィードバックが、脳の報酬系を刺激し、片付けを継続するための強力なモチベーションとなるのです。

一人じゃない!周りのサポートと使えるサービス

ADHDの片付け問題は、時に自分一人の力だけでは解決が難しいこともあります。

しかし、あなたは決して一人で戦っているわけではありません。

家族やパートナーといった身近な人の理解と協力、そして専門家の力を借りることで、その負担は大幅に軽減されます。

このセクションでは、周囲に上手に助けを求める方法や、利用できる便利なサービスについて具体的に紹介します。

家族・パートナーができること、言ってはいけないこと

身近な家族やパートナーにとって、当事者の「片付けられない」という状況は、ストレスの原因になりがちです。

しかし、ここで最も避けるべきなのは、「なんでこんな簡単なこともできないの?」「だらしない!」といった、相手を責める言葉です。これらの言葉は、当事者を深く傷つけ、自己肯定感を奪い、問題をさらに悪化させるだけです。

サポートする側がまず理解すべきは、これは本人の怠慢ではなく、脳の特性による「できない」だという事実です。

その上で、具体的なサポートとしてできることはたくさんあります。まずは、一方的に片付けるのではなく、「一緒にやろうか?」「どこから始めたら気持ちが楽になりそう?」と、当事者の意志を尊重しながら共同作業を提案することです。

ADHDの人は計画を立てるのが苦手なので、一緒に「今日はこの引き出しだけやろう」とスモールステップを設定してあげるのも有効です。また、物理的に重い物を運んだり、ゴミをまとめたりといった作業を手伝うのも大きな助けになります

そして何より大切なのは、小さな進歩を一緒に喜ぶことです。「ここまでできたね、すごい!」「きれいになって気持ちいいね」とポジティブな言葉をかけることで、当事者のモチベーションは大きく向上します。

責めるのではなく、チームのコーチやサポーターになるという意識を持つことが、良好な関係を保ちながら問題を解決していく鍵となります。

専門家の力を借りる選択肢-整理収納アドバイザー・家事代行

どうしても自力や家族のサポートだけでは限界を感じる場合、外部の専門家の力を借りることは非常に有効な選択肢です。

恥ずかしいことでも、負けを認めることでもありません。むしろ、問題を効率的に解決するための賢明な判断です。

一つの選択肢として、「整理収納アドバイザー」がいます。彼らは片付けのプロフェッショナルであり、単に部屋をきれいにするだけでなく、その人の生活スタイルや動線、そして特性に合わせた収納システムを一緒に考えてくれます。

近年では、発達障害の特性に理解のあるアドバイザーも増えています。依頼する際は、ウェブサイトや事前の問い合わせで、ADHDのクライアントへの対応経験があるかを確認すると良いでしょう。

もう一つの強力な選択肢が「家事代行サービス」です。定期的に来てもらい、部屋をリセットしてもらうことで、きれいな状態を維持しやすくなります。

「散らかっても、〇日にリセットされる」という安心感は、日々の精神的な負担を大きく軽減してくれます。

最初は抵抗があるかもしれませんが、「時間を買う」「心の平穏を買う」という投資だと考えてみてください。これらのサービスを利用することで、片付けに費やしていた膨大なエネルギーを、仕事や趣味、家族との時間など、あなたが本当に大切にしたいことに使えるようになるのです。

医療機関や公的支援センターへの相談

片付けられない問題が、日常生活や社会生活に深刻な支障をきたしている場合、例えば、物が多すぎて安全に生活できない、探し物で頻繁に遅刻する、家族関係が悪化しているといった状況であれば、専門の医療機関や公的な支援機関に相談することを強くお勧めします。

相談先としては、まず「精神科」や「心療内科」が挙げられます。特に「大人の発達障害」を専門としているクリニックであれば、より深い理解と適切なアドバイスが期待できます。

医師による診断を受けることで、自分の特性を客観的に理解できるだけでなく、必要に応じてコンサータやストラテラといった治療薬の処方や、カウンセリング(認知行動療法など)を受けることも可能になります。

また、どこに相談して良いかわからない場合は、各都道府県や指定都市に設置されている「発達障害者支援センター」が最初の窓口として最適です。ここでは、無料で相談に乗ってくれるだけでなく、地域の医療機関や福祉サービス、就労支援機関など、必要なサポートに繋いでくれます

一人で抱え込まず、専門家の知見を借りることは、問題解決への最も確実な近道です。

【子供のADHD】片付け嫌いにさせない親の関わり方

お子さんがADHDの特性を持ち、片付けが苦手な場合、親としてどう関われば良いのか悩むことも多いでしょう。

大人の場合と同様、子供の「片付けられない」も、しつけや性格の問題ではありません。

ここでは、子供を片付け嫌いにさせず、むしろ自己肯定感を育みながら整理整頓のスキルを身につけていくための、親の関わり方のポイントを解説します。

「片付けなさい!」が逆効果になる理由

子供が散らかしたおもちゃを見て、親が感情的に「早く片付けなさい!」と叱ってしまうのは、よくある光景です。しかし、ADHDの特性を持つ子供にとって、この言葉は逆効果になることがほとんどです

なぜなら、彼らにとっては「片付ける」という指示が漠然としすぎていて、何をどうすれば良いのか理解できないからです。

さらに、親の怒った表情や大きな声は、子供に強い不安や恐怖を与えます。脳は、不安や恐怖を感じると、思考や計画を司る前頭前野の働きが低下してしまいます。

つまり、叱れば叱るほど、子供はパニックになり、実行機能が働かなくなり、さらに片付けができなくなるという悪循環に陥るのです。

また、片付けに対して常にネガティブな感情(怒られる、面倒くさい)が結びついてしまうため、将来的にも片付けへの強い嫌悪感を抱くようになってしまいます。

親がまず持つべき視点は、「どうすればこの子ができるようになるか」という、コーチとしての視点です。叱責ではなく、具体的なサポートとポジティブな関わりが、子供の成長を促します。

ゲーム感覚で楽しく!親子でできる片付けトレーニング

子供のADHDの特性を逆手に取り、片付けを「退屈な義務」から「楽しいゲーム」に変えてしまいましょう。子供の脳は、楽しさや競争、ご褒美によってドーパミンが放出され、やる気スイッチが入りやすくなります。

例えば、「よーいドン!で、どっちが早く赤いおもちゃを箱に入れられるか競争しよう!」「おもちゃの宝探しゲーム!今からママが言うものを探して、おうちに帰してあげてね」「この曲が終わるまでにお片付けチャレンジ!」といったように、ゲーム性や競争の要素を取り入れると、子供は喜んで参加します。

タイマーを使い、「この砂時計が落ちるまで頑張ろう!」と時間の終わりを視覚的に示すのも非常に効果的です。

また、片付けのプロセス自体を細かく分解し、「まず、ぬいぐるみさんをベッドに寝かせてあげようね」「次に、ミニカーを駐車場に並べようね」と、一つずつ具体的な指示を出すことも重要です。

親が一緒に楽しみながら参加することで、子供は片付けが親との楽しいコミュニケーションの時間だと認識するようになります

褒めて伸ばす!「できた」を可視化する工夫

ADHDの子供にとって、「できた!」という達成感と、親からのポジティブなフィードバックは、自己肯定感を育む上で何よりも重要です。

片付けが少しでもできたら、その結果だけでなく、努力したプロセスを具体的に褒めてあげましょう。

「最後まで頑張れたね!」「自分で考えて箱に戻せたの、すごいね!」といった言葉は、子供の自信に繋がります。

さらに、その頑張りを「可視化」する工夫も有効です。例えば、片付けができたらカレンダーに好きなシールを貼るルールを作り、シールが5個たまったら特別なご褒美(好きなおやつ、公園で長く遊ぶなど)がもらえる、という「ポイント制度」を導入します。これにより、子供は目標を持って片付けに取り組むようになります。

また、片付けた後のきれいな部屋の写真を撮り、「〇〇ちゃんが頑張ったから、こんなにきれいになったね!」と一緒に眺めるのも、達成感を共有する良い方法です。

完璧にできることよりも、昨日より少しでもできたこと、やろうと努力したことを認め、褒める

この積み重ねが、子供の「やればできる」という感覚を育て、片付けへの苦手意識を克服していく力になるのです。

まとめ:片付けられない自分を卒業し、快適な生活を手に入れよう

この記事では、ADHDの特性によって「片付けられない」と悩む方々のために、その科学的な原因から、今日から実践できる具体的な対策、そして周囲のサポートを得る方法まで、網羅的に解説してきました。

重要なのは、「片付けられない」のはあなたの意志の弱さやだらしなさが原因ではない、ということです。

それは、実行機能や報酬系、時間感覚といった、あなたの脳が持つユニークな特性によるものです。

この事実を理解し、自分を責めるのをやめることが、すべての始まりです。

そして、その特性に合った「超スモールステップ」「時間管理」「見える化収納」といった具体的なテクニックを、ゲーム感覚で試してみてください。

完璧を目指す必要はありません。昨日より一つでも多く物を元の場所に戻せたら、それは大きな進歩です。

一人で抱え込まず、家族やパートナー、そして時には専門家の力も借りながら、あなたに合ったペースで、あなたにとって快適な空間を創り上げていきましょう。

この記事が、あなたが長年の悩みから解放され、自分らしい快適な生活を手に入れるための一助となれば、これ以上の喜びはありません。

この記事を監修した人

石森寛隆

株式会社 Make Care 代表取締役 CEO

石森 寛隆

Web プロデューサー / Web ディレクター / 起業家

ソフト・オン・デマンドでWeb事業責任者を務めた後、Web制作・アプリ開発会社を起業し10年経営。廃業・自己破産・生活保護を経験し、ザッパラス社長室で事業推進に携わる。その後、中野・濱𦚰とともに精神科訪問看護の事業に参画。2025年7月より株式会社Make CareのCEOとして訪問看護×テクノロジー×マーケティングの挑戦を続けている。

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