クルミのアトリエ クルミのアトリエ TOPへもどる
  1. トップページ
  2. コラム
  3. 統合失調症の ...

統合失調症の方を落ち着かせる方法|症状別の対応と接し方

2025.10.27 精神科訪問看護とは

統合失調症の方が興奮したり混乱したりした時、どのように対応すればよいか悩む家族や支援者は多いでしょう。

本記事では、症状が悪化した際の具体的な落ち着かせる方法について詳しく解説します。頓服薬の使用タイミング、効果的な声かけの例、静かな環境の作り方、妄想や幻聴への適切な対応方法まで、実践的な内容を網羅。

また、避けるべきNG行動や、支援者自身のメンタルケアの重要性についてもお伝えします。正しい知識と対応方法を身につけることで、患者さんを効果的にサポートし、症状の安定につなげることができます。

統合失調症とは?症状の理解と精神の状態

統合失調症は、思考、感情、行動の統合が困難になる精神疾患で、日本では約100人に1人が罹患する比較的頻度の高い疾患です。この疾患の特徴は、幻覚や妄想などの陽性症状、感情の平板化や意欲低下などの陰性症状、認知機能障害などが複合的に現れることです。患者さんが興奮したり混乱したりする状況は、主に陽性症状が活発な時期に見られ、適切な対応により症状を落ち着かせることが可能です。家族や支援者がこれらの症状を正しく理解することは、効果的な対応の第一歩となります。

統合失調症の症状は、患者さんにとって極めて現実的な体験として感じられています。幻聴で聞こえる声は実際の声と同じように聞こえ、妄想的な考えは疑いようのない事実として体験されます。そのため、患者さんが興奮したり不安になったりするのは、これらの症状に対する自然な反応であることを理解する必要があります。「演技をしている」「わざとやっている」という誤解は、適切な対応を妨げ、症状を悪化させる可能性があります。

精神状態の変動は、統合失調症の特徴の一つです。調子の良い時と悪い時があり、ストレス、睡眠不足、服薬の中断などにより症状が悪化することがあります。家族や支援者は、これらの変動パターンを理解し、早期の警告サインを見逃さないことが重要です。症状が悪化し始めた初期段階で適切に対応することで、大きな混乱を防ぐことができます。

統合失調症の主な症状とその背景

統合失調症の陽性症状である幻覚と妄想は、患者さんを興奮させる主要な要因です。幻聴は最も一般的な幻覚で、批判的な内容や命令的な内容が多く、「お前は価値がない」「死ね」といった声が聞こえることがあります。これらの声は患者さんにとって極めてリアルで、強い恐怖や不安を引き起こします。妄想では、被害妄想(誰かに狙われている)、関係妄想(周りの出来事が全て自分に関係している)などが見られ、これらも強い情動反応を引き起こします

思考の解体も興奮や混乱の原因となります。論理的な思考の流れが失われ、話がまとまらなくなることで、自分の考えを他人に伝えることができず、フラストレーションが高まります。また、思考伝播(自分の考えが他人に伝わってしまう)や思考吹入(他人の考えが自分の頭に入ってくる)といった体験も、強い不安と混乱を引き起こします。

これらの症状の背景には、脳内の神経伝達物質、特にドーパミンの異常があると考えられています。ストレス、睡眠不足、薬の中断などにより、このバランスがさらに崩れると、症状が悪化します。また、環境的な刺激(騒音、人混み、対人関係のストレス)も症状を悪化させる要因となります。これらの要因を理解することで、予防的な対応が可能となります。

精神的な混乱が起こるタイミングとは

統合失調症の患者さんが精神的に混乱しやすいタイミングには、いくつかのパターンがあります。まず、服薬を中断した後、数日から数週間で症状が再燃することが多く見られます。「調子が良いから薬はもう必要ない」と自己判断で服薬を中止すると、急激に症状が悪化し、興奮状態に陥ることがあります。また、薬の量を自己調整した場合も、症状の不安定化につながります。

環境の変化も混乱を引き起こす重要な要因です。引っ越し、転職、家族構成の変化などの大きな変化はもちろん、日常のルーティンの乱れ(睡眠時間の変化、食事時間の不規則化など)も症状を悪化させることがあります。特に、対人関係のストレス(家族との口論、職場でのトラブル)は、即座に症状の悪化につながることが多いため、注意が必要です。

季節の変わり目や気候の変化も影響することがあります。春や秋は症状が不安定になりやすい時期として知られています。また、記念日や特別な日(誕生日、命日など)に関連した感情的な負荷も、症状の悪化につながることがあります。これらのタイミングを把握し、事前に対策を立てることで、混乱を最小限に抑えることができます。

症状が悪化したときの落ち着かせる具体的方法

統合失調症の患者さんが興奮したり混乱したりした時、適切な対応により症状を落ち着かせることができます。最も重要なのは、冷静さを保ち、患者さんの安全を確保することです。興奮状態の患者さんは、自分でも感情をコントロールできずに苦しんでいることを理解し、責めたり叱ったりせず、共感的に対応することが求められます。

まず、頓服薬がある場合は、医師の指示に従って使用を検討します。頓服薬は、急性の興奮や不安に対して即効性があり、多くの場合30分から1時間程度で効果が現れます。ただし、患者さんが拒否する場合は無理強いせず、まずは環境調整や声かけで対応します。薬を飲むことを促す際は、「これを飲むと楽になるよ」といった優しい声かけが効果的です。

環境調整も重要な対応方法です。刺激を最小限にするため、テレビやラジオを消し、照明を落とし、静かな環境を作ります。可能であれば、患者さんを静かな部屋に誘導し、一人または信頼できる人と二人きりになれる空間を提供します。人が多い場所や騒がしい環境は症状を悪化させるため、速やかに環境を変えることが重要です。

興奮や混乱時に使える声かけの例

興奮している患者さんへの声かけは、落ち着いた低い声で、ゆっくりと簡潔に行うことが基本です。「大丈夫だよ」「ここは安全だよ」「私がそばにいるから」といった安心感を与える言葉を繰り返します。長い説明や複雑な指示は理解が困難なため、短い文章で伝えることが重要です。また、患者さんの名前を呼びかけることで、現実感を取り戻す助けになることもあります。

共感的な声かけも効果的です。「怖かったね」「辛いね」「大変だったね」といった、患者さんの感情を認める言葉をかけることで、理解されていると感じ、安心感を得ることができます。ただし、妄想や幻聴の内容を肯定する必要はなく、感情に焦点を当てた対応を心がけます。「声が聞こえて怖いんだね」「不安なんだね」といった形で、体験そのものではなく、それによる感情を受け止めます。

具体的な提案をする際は、選択肢を与えることが有効です。「お水を飲む?それともお茶がいい?」「ここで休む?それとも部屋に行く?」といった形で、患者さんに選択権を与えることで、コントロール感を取り戻すことができます。命令的な口調は避け、提案や誘いの形で伝えることが大切です。また、身体的な距離を適切に保ち、威圧的にならないよう、患者さんと同じ目線の高さで話すことも重要です。

静かな環境を整えるためのポイント

統合失調症の急性症状がある時、環境の刺激を最小限にすることは症状を落ち着かせる上で極めて重要です。まず、音の刺激を減らすため、テレビ、ラジオ、音楽などを消し、必要最小限の会話に留めます。家族が多い場合は、対応する人を1-2名に限定し、他の家族は別の部屋に移動してもらいます。電話の着信音や、ドアの開閉音なども刺激となるため、これらも最小限にします。

視覚的な刺激も調整が必要です。明るすぎる照明は興奮を助長するため、カーテンを閉めたり、間接照明を使用したりして、柔らかい光の環境を作ります。壁に貼られたポスターや、動きのあるもの(時計の秒針、風で揺れるカーテンなど)が妄想の材料になることもあるため、必要に応じて取り除きます。また、鏡は自己像の混乱を引き起こすことがあるため、カバーをかけることも検討します。

物理的な環境の安全性も確保する必要があります。興奮時に危険となる可能性のある物(刃物、ガラス製品、薬品など)は、患者さんの手の届かない場所に移動します。部屋の中を整理整頓し、つまずいたり、ぶつかったりする危険を減らします。また、窓やドアの施錠状態を確認し、衝動的な行動による事故を防ぎます。これらの環境整備は、事前に準備しておくことで、緊急時にスムーズに対応できます。

急性期と慢性期の対応の違い

急性期は、幻覚や妄想などの陽性症状が活発で、興奮や混乱が強い時期です。この時期の対応は、安全確保と症状の鎮静化が最優先となります。医療的介入(薬物療法、必要に応じて入院)が中心となり、家族は医療機関への連絡、搬送の手配などのサポートを行います。急性期には理論的な説得は効果がないため、共感的な対応と環境調整に徹することが重要です。

一方、慢性期は陽性症状が落ち着き、陰性症状(意欲低下、感情鈍麻)が中心となる時期です。この時期の「落ち着かない」状態は、不安や焦燥感として現れることが多く、急性期とは異なる対応が必要です。活動を促したり、社会参加の機会を提供したりすることで、不安を軽減することができます。また、日常生活のリズムを整え、規則正しい生活を支援することも重要です。

両時期に共通して重要なのは、服薬の継続です。急性期は確実な服薬により症状の改善を図り、慢性期は再発予防のために服薬を継続します。しかし、アプローチの仕方は異なり、急性期は必要最小限の介入に留め、慢性期は積極的な関わりと支援を行います。患者さんの状態を適切に評価し、時期に応じた対応を選択することが、効果的な支援につながります。

関連記事:統合失調症の家族向け|接し方と支援方法の完全ガイド

頓服薬と医療的対応の活用方法

統合失調症の急性症状や興奮状態に対して、頓服薬は重要な対処手段の一つです。頓服薬は、定期的に服用する薬とは別に、症状が悪化した時に臨時で使用する薬で、主に抗不安薬や抗精神病薬が処方されます。これらの薬は即効性があり、多くの場合30分から1時間程度で効果が現れるため、興奮や不安が強い時の対処法として有効です。

頓服薬の使用にあたっては、医師の指示を正確に理解し、適切なタイミングで使用することが重要です。「どのような症状の時に使うか」「1日の使用回数の上限」「他の薬との併用について」などを事前に確認しておく必要があります。また、頓服薬の効果と副作用についても理解し、使用後の観察を適切に行うことが求められます。

医療機関との連携も重要な要素です。症状が頓服薬でコントロールできない場合や、頻繁に頓服薬が必要になる場合は、定期薬の調整が必要な可能性があります。主治医に状況を報告し、治療方針の見直しを検討することが大切です。また、緊急時の連絡先(かかりつけ医、精神科救急など)を事前に確認し、必要時にすぐに相談できる体制を整えておくことも重要です。

頓服薬があるなら服用する

頓服薬がある場合、興奮や不安が強い初期段階で使用することで、症状の悪化を防ぐことができます。使用のタイミングとしては、「いつもと違う」「落ち着かない」「イライラする」といった前兆症状が現れた時点が理想的です。症状が完全に悪化してからでは、服薬を拒否されることもあるため、早めの対応が重要です。

頓服薬を勧める際の声かけも工夫が必要です。「医者から処方された薬だから飲んで」という命令的な言い方ではなく、「これを飲むと楽になるよ」「前も飲んで良くなったよね」といった、効果を期待させる優しい声かけが効果的です。また、一緒に水を用意したり、飲みやすい体勢を整えたりといった配慮も大切です。

服薬後は、効果が現れるまで患者さんのそばで見守ることが重要です。薬の効果が現れ始めたら、「少し楽になってきた?」と確認し、改善を一緒に喜びます。また、服薬の記録(日時、量、症状、効果)を残しておくことで、次回の診察時に医師に正確な情報を伝えることができます。頓服薬の使用頻度が増えている場合は、定期薬の見直しが必要なサインかもしれません。

落ち着くまで刺激しない

興奮状態の患者さんに対して最も重要なのは、追加の刺激を与えないことです。説得しようとしたり、理論的に話そうとしたりすることは、かえって興奮を助長します。「なぜそんなことを言うの」「それは違う」といった否定的な言葉は避け、静かに見守ることが大切です。必要最小限の関わりに留め、患者さんが自然に落ち着くのを待つことが基本的な対応となります。

身体的な接触も慎重に行う必要があります。興奮している時に急に触れたり、抱きしめたりすることは、驚きや恐怖を与える可能性があります。ただし、患者さんが求めてきた場合や、以前から効果的だと分かっている場合は、優しく手を握る、肩に手を置くといった接触が安心感を与えることもあります。患者さんの反応を見ながら、適切な距離感を保つことが重要です。

時間の経過と共に、多くの場合症状は自然に落ち着いてきます。この間、家族や支援者は忍耐強く待つ必要があります。15分ごとに様子を確認し、水分補給を促したり、楽な姿勢を取れるよう支援したりします。症状が2-3時間以上続く場合や、悪化傾向にある場合は、医療機関への相談を検討する必要があります。

その場から逃げる選択肢

患者さんの興奮が激しく、暴力的な行動の危険がある場合は、一時的にその場から離れることも重要な選択肢です。これは「逃げる」のではなく、お互いの安全を確保するための戦略的な対応です。家族や支援者が傷つけられれば、継続的な支援が困難になり、結果的に患者さんのためにもなりません。

その場を離れる際は、可能であれば「少し離れるけど、すぐ戻ってくるから」と伝え、完全に見捨てられたという感覚を与えないようにします。別の部屋に移動し、ドアを閉めて安全を確保しますが、定期的に様子を確認します。この間に、医療機関や警察への連絡を検討することも必要です。

一人で対応することに限界を感じたら、早めに助けを求めることが大切です。他の家族、親戚、友人、医療機関、地域の支援センターなど、利用できる資源を活用します。緊急時は精神科救急(多くの地域で24時間対応)に連絡し、指示を仰ぐことができます。安全が確保できない状況では、警察(110番)への通報も躊躇すべきではありません。患者さんと家族の安全を最優先に考えることが、長期的な支援継続のために必要です。

家族や支援者が心がけるべき精神的な接し方

統合失調症の患者さんへの接し方は、症状の安定と回復に大きな影響を与えます。家族や支援者の態度や言葉かけ一つで、患者さんの不安が軽減されることもあれば、逆に症状が悪化することもあります。最も重要なのは、患者さんを一人の人として尊重し、病気を持っていても価値ある存在であることを伝え続けることです。

基本的な接し方として、穏やかで一貫性のある態度を保つことが重要です。日によって対応が変わったり、感情的になったりすることは、患者さんの不安を増大させます。たとえ患者さんの言動にイライラしても、深呼吸をして冷静さを取り戻してから対応することが大切です。また、患者さんの良い面や小さな改善に目を向け、それを認めて褒めることで、自尊心と意欲を高めることができます。

コミュニケーションにおいては、非言語的な要素も重要です。優しい表情、落ち着いた声のトーン、適切な距離感などが、言葉以上に安心感を与えることがあります。急な動作や大きな声は避け、ゆっくりとした動作で接することで、患者さんの緊張を和らげることができます。

否定せず受け止める姿勢

統合失調症の患者さんが体験している幻覚や妄想は、本人にとっては疑いようのない現実です。これらを頭ごなしに否定することは、患者さんを深く傷つけ、信頼関係を損なう可能性があります。「そんなことあるわけない」「考えすぎだ」といった否定的な言葉は避け、患者さんの体験を尊重する姿勢を示すことが重要です。

受け止める際のポイントは、体験そのものではなく、それによる感情に焦点を当てることです。例えば、「誰かに監視されている」という妄想に対しては、「監視されていると感じて怖いんだね」「不安なんだね」といった形で、感情を受け止めます。これにより、患者さんは理解されていると感じ、安心感を得ることができます。

ただし、受け止めることと肯定することは異なります。妄想的な内容を積極的に肯定したり、一緒に犯人探しをしたりすることは、妄想を強化する可能性があります。中立的な立場を保ちながら、「あなたにはそう感じられるのですね」「それは辛いですね」といった共感的な対応を心がけることが大切です。

距離感の取り方と安心感の与え方

適切な距離感は、患者さんに安心感を与える重要な要素です。物理的な距離としては、近すぎず遠すぎず、患者さんが圧迫感を感じない距離を保ちます。一般的には1-1.5メートル程度が適切とされていますが、患者さんの状態や関係性により調整が必要です。興奮時は少し距離を取り、落ち着いている時は近づくといった柔軟な対応が求められます。

心理的な距離感も重要です。過度に心配したり、監視したりすることは、患者さんにプレッシャーを与えます。一方で、無関心な態度は見捨てられ感を与えます。「見守っているけど、干渉しすぎない」というバランスが大切です。患者さんのプライバシーを尊重し、一人の時間も必要であることを理解することが重要です。

安心感を与えるためには、予測可能な環境を提供することが効果的です。日課を一定にし、突然の変更を避け、事前に予定を伝えることで、患者さんは安心して生活できます。また、「何があってもあなたの味方だよ」「一緒に乗り越えていこう」といったメッセージを繰り返し伝えることで、支えられているという実感を持ってもらうことができます。

支援者自身のメンタルケアも大切

統合失調症の患者さんを支援することは、精神的にも身体的にも大きな負担となります。24時間気が抜けない状況、先の見えない不安、社会的な孤立感などにより、支援者自身がうつ状態や燃え尽き症候群に陥ることも少なくありません。支援者が倒れてしまっては、患者さんへの支援も継続できなくなるため、自己ケアは極めて重要です。

支援者のセルフケアとして、まず休息時間の確保が必要です。レスパイトケア(一時的な休息)サービスを利用したり、他の家族と交代で対応したりすることで、定期的な休息を取ることができます。趣味や運動、友人との交流など、ストレス発散の機会を意識的に作ることも大切です。「患者さんを置いて出かけるのは申し訳ない」という罪悪感を持つ必要はありません。

専門的なサポートを受けることも重要です。家族会への参加により、同じような経験を持つ人々と交流し、情報交換や感情の共有ができます。また、カウンセリングを受けることで、自分の感情を整理し、対処法を学ぶことができます。支援者自身が健康で前向きでいることが、結果的に患者さんへの良い支援につながることを忘れないでください。

落ち着かせる際に避けるべきNG行動

統合失調症の患者さんを落ち着かせようとする際、善意からの行動であっても、かえって症状を悪化させてしまうことがあります。これらのNG行動を理解し、避けることで、より効果的な支援が可能となります。特に、興奮状態の患者さんに対しては、些細な対応の違いが大きな結果の違いを生むことがあるため、注意が必要です。

最も避けるべきは、力による制圧や威圧的な態度です。物理的な拘束は最終手段であり、医療機関でも厳格な基準の下でのみ実施されます。家庭での無理な押さえつけは、患者さんの恐怖と混乱を増大させ、信頼関係を完全に破壊する可能性があります。また、大声で怒鳴る、脅すといった行為も、症状を悪化させるだけでなく、トラウマとなって長期的な悪影響を与えることがあります。

言葉による否定や批判も大きな問題となります。「気のせいだ」「しっかりしろ」「甘えるな」といった言葉は、患者さんを深く傷つけ、孤立感を深めます。これらの言葉は、支援者の焦りや疲労から出ることが多いですが、一度発した言葉は取り消すことができず、関係修復に長い時間がかかることもあります。

脅す・無理に押さえるなどの対応の危険性

物理的な力で患者さんを制圧しようとすることは、極めて危険な対応です。興奮状態の患者さんは、通常よりも力が強くなることがあり、もみ合いになれば双方が怪我をする可能性があります。また、押さえつけられることで、患者さんは「襲われている」と感じ、さらにパニック状態に陥ることがあります。これは症状を悪化させるだけでなく、その後の治療関係にも深刻な影響を与えます。

脅迫的な言動も避けるべきです。「言うことを聞かないと病院に入れるぞ」「薬を飲まないと縛るぞ」といった脅しは、一時的に従わせることができたとしても、長期的には逆効果です。患者さんは支援者を「敵」と認識し、以後の協力を得ることが困難になります。また、脅迫は患者さんの被害妄想を強化し、「やはり自分は狙われている」という確信を深める可能性があります。

緊急時であっても、可能な限り患者さんの尊厳を守る対応を心がけるべきです。どうしても身体的な介入が必要な場合は、複数人で声をかけながら、最小限の力で安全を確保します。そして、できるだけ早く医療機関につなげ、専門的な対応を受けることが重要です。家庭での無理な対応は、患者さんと家族の両方を傷つける結果となることを理解する必要があります。

「気のせいだよ」「考えすぎ」といった否定語

「気のせい」「考えすぎ」「そんなことあるわけない」といった否定的な言葉は、患者さんにとって最も辛い対応の一つです。統合失調症の症状は、患者さんにとって極めて現実的な体験であり、それを「気のせい」と片付けられることは、自分の体験全体を否定されることと同じです。これにより、患者さんは「誰も自分を理解してくれない」と感じ、孤立感を深めます。

また、このような否定は、患者さんとのコミュニケーションを遮断してしまいます。自分の体験を話しても否定されるとわかれば、患者さんは本音を話さなくなり、症状を隠すようになります。これは、症状の早期発見や適切な治療を妨げる要因となります。信頼関係が損なわれれば、服薬指導や生活指導も受け入れられなくなる可能性があります。

代わりに使うべき言葉は、「それは辛いね」「大変だったね」といった共感的な表現です。患者さんの体験を否定せず、感情を受け止めることで、理解されているという安心感を与えることができます。「私には分からないけど、あなたが苦しんでいることは分かる」という姿勢を示すことで、支援的な関係を維持することができます。

無視や突き放しが与える精神的ダメージ

患者さんの症状や訴えを無視したり、「勝手にしなさい」と突き放したりすることは、深刻な精神的ダメージを与えます。統合失調症の患者さんは、症状により現実検討能力が低下しており、周囲のサポートなしには適切な判断ができないことがあります。そのような状態で突き放されることは、見捨てられたという強い絶望感を生みます。

無視や突き放しは、多くの場合、支援者の疲労や無力感から生じます。「何を言っても聞いてくれない」「同じことの繰り返しで疲れた」という気持ちは理解できますが、患者さんにとっては、唯一の支えを失うことを意味します。これにより、症状が悪化したり、自傷行為のリスクが高まったりする可能性があります。

患者さんとの関わりに疲れを感じた時は、一時的に距離を置くことは必要ですが、完全に突き放すのではなく、「今は疲れているから、少し休んでからまた話そう」といった形で、関係の継続を示すことが大切です。また、他の家族や専門機関と役割分担をすることで、一人で抱え込まないようにすることも重要です。継続的な関わりが、患者さんの回復への希望となることを忘れないでください。

統合失調症の妄想や幻聴への対応の仕方

妄想や幻聴は統合失調症の代表的な症状であり、患者さんに強い苦痛を与えます。これらの症状への適切な対応は、患者さんを落ち着かせ、信頼関係を維持する上で極めて重要です。基本的な原則は、否定も肯定もせず、中立的な立場を保ちながら、患者さんの感情に共感することです。妄想や幻聴の内容に巻き込まれることなく、冷静に対応することが求められます。

妄想や幻聴への対応で重要なのは、これらが患者さんにとって現実であることを理解することです。「声が聞こえる」「誰かに狙われている」という体験は、患者さんにとって疑いようのない事実として感じられています。この理解なしに適切な対応はできません。同時に、家族や支援者がこれらの症状に巻き込まれないよう、境界線を明確にすることも必要です。

長期的な視点も重要です。妄想や幻聴は、薬物療法により改善することが多いですが、完全に消失しない場合もあります。その場合は、症状と共存しながら生活する方法を患者さんと一緒に考えることが必要です。対処法を身につけることで、症状があっても日常生活への影響を最小限にすることができます。

自分から妄想や幻聴の話を聞かない

妄想や幻聴について、支援者側から積極的に聞き出すことは避けるべきです。「今日も声は聞こえる?」「まだ誰かに狙われていると思う?」といった質問は、症状を意識させ、強化する可能性があります。患者さんが自発的に話し始めた場合は聞く姿勢を示しますが、こちらから話題にすることは控えます。

詳細を根掘り葉掘り聞くことも適切ではありません。妄想の内容を詳しく聞けば聞くほど、患者さんはその世界に深く入り込み、現実との境界が曖昧になる可能性があります。必要最小限の情報を把握し、それ以上は深追いしないことが大切です。医療的に必要な情報は、医師が診察の中で確認します。

代わりに、現実的な話題や日常的な会話を心がけることが重要です。天気の話、食事の話、趣味の話など、症状と関係のない話題で会話することで、患者さんの注意を現実世界に向けることができます。また、一緒に活動すること(散歩、料理、ゲームなど)で、妄想や幻聴から注意をそらすことも効果的です。

妄想や幻聴の話が始まったら話を逸らす

患者さんが妄想や幻聴について話し始めた時、適切に話題を変えることは重要な対応技術です。ただし、急激に話を遮ったり、「その話はやめて」と拒否したりすることは避けます。まず、短く共感を示してから、自然に別の話題に移行することがポイントです。

話題転換の技術として、「そうなんだね。ところで…」という接続詞を使う方法があります。例えば、「声が聞こえて辛いんだね。ところで、今日の夕食は何がいい?」といった形で、共感を示しつつ話題を変えます。また、具体的な行動を提案することも効果的です。「それは大変だね。少し散歩でもしようか」といった形で、活動に誘うことで自然に話題が変わります。

話題転換がうまくいかない場合は、無理に続けず、一旦その場を離れることも選択肢です。「ちょっとお茶を入れてくるね」「トイレに行ってくる」といった形で、物理的に距離を取ることで、話の流れを断ち切ることができます。戻ってきた時には、別の話題で話しかけることで、妄想や幻聴の話題から離れることができます。

関連記事:統合失調症の方への接し方|家族・友人・職場での対応法

妄想や幻聴の話がはじまったときの返答例

妄想や幻聴の内容に対して、どのように返答するかは多くの家族が悩むポイントです。否定すれば関係が悪化し、肯定すれば妄想を強化してしまう可能性があります。ここでは、具体的な場面を想定して、適切な返答例を示します。これらの例を参考に、状況に応じて柔軟に対応することが重要です。

返答の基本原則は、「感情に共感し、事実には中立的に対応する」ことです。患者さんが感じている不安、恐怖、怒りなどの感情は現実のものであり、それに対して共感を示すことは重要です。一方で、妄想的な内容については、否定も肯定もせず、「あなたにはそう感じられるのですね」という中立的な立場を保ちます。

また、返答は短く簡潔にすることも大切です。長い説明や複雑な論理は、混乱を招く可能性があります。シンプルで分かりやすい言葉を使い、必要以上に話を広げないことが、患者さんを落ち着かせる上で効果的です。

例1「外からスパイが狙ってくる」

「外からスパイが狙ってくる」という被害妄想に対する返答例:

まず避けるべき返答は、「スパイなんていないよ」という完全否定や、「本当だ、危ない!」という完全肯定です。代わりに、「スパイに狙われていると感じて、怖いんだね」と感情に共感します。その後、「この家は安全だから大丈夫だよ」「私がそばにいるから心配しないで」といった安心感を与える言葉をかけます。

具体的な対処法を提案することも有効です。「カーテンを閉めようか」「別の部屋に移ろうか」といった提案により、患者さんに安心感を与えることができます。ただし、過度な対応(家中に監視カメラを設置する、警察に通報するなど)は避け、現実的な範囲での対応に留めます。

時には、「私には見えないけど、あなたが不安なのは分かる」という正直な返答も効果的です。これにより、支援者の立場を明確にしつつ、患者さんの体験を否定しない姿勢を示すことができます。重要なのは、患者さんが一人ではないこと、守られていることを感じてもらうことです。

例2「女の子がバーカって言ってくる」

「女の子の声でバーカと言われる」という幻聴に対する返答例:

この場合も、「そんな声は聞こえない」という否定は避けます。代わりに、「そんな声が聞こえて、嫌な気持ちになるんだね」「悪口を言われるのは辛いよね」と、患者さんの感情に共感します。声の存在を否定するのではなく、それによる苦痛を理解する姿勢を示すことが重要です。

対処法として、「音楽を聴いてみようか」「テレビをつけようか」といった、他の音で幻聴をマスキングする方法を提案できます。また、「その声は無視していいよ」「気にしなくていいよ」といった形で、幻聴との付き合い方をアドバイスすることも有効です。ただし、押し付けがましくならないよう注意が必要です。

幻聴が続く場合は、「お薬を飲んだら楽になるかもしれない」と服薬を促したり、「先生に相談してみよう」と医療機関への相談を提案したりすることも重要です。幻聴は薬物療法により改善することが多いため、適切な治療につなげることが長期的な解決につながります。

まとめ|統合失調症の方を落ち着かせるための総合的アプローチ

統合失調症の方を落ち着かせるためには、症状の理解、適切な対応技術、環境調整、医療との連携など、総合的なアプローチが必要です。最も重要なのは、患者さんを一人の人として尊重し、症状による苦痛に共感しながら、冷静に対応することです。興奮や混乱は症状の一部であり、適切な対応により必ず落ち着くことを信じて、忍耐強く関わることが求められます。

具体的な対応方法として、頓服薬の適切な使用、刺激の少ない環境の提供、共感的な声かけ、適切な距離感の維持などがあります。これらの方法を状況に応じて組み合わせることで、効果的に患者さんを落ち着かせることができます。また、避けるべきNG行動(威圧、否定、無視など)を理解し、これらを避けることも同様に重要です。

家族や支援者自身のケアも忘れてはいけません。長期にわたる支援は大きな負担となるため、適切な休息、専門機関との連携、家族会への参加などを通じて、支援者自身の健康を維持することが必要です。一人で抱え込まず、利用できる資源を活用しながら、チームで患者さんを支えることが、長期的な支援の継続につながります。

統合失調症は適切な治療により、多くの患者さんが症状をコントロールし、充実した生活を送ることができる疾患です。急性期の対応は確かに困難ですが、適切な知識と技術を身につけることで、患者さんを効果的に支援することができます。この記事で紹介した方法を参考に、患者さんと共に回復への道を歩んでいただければ幸いです。

精神科特化!「訪問看護ステーションくるみ」のお問い合わせはこちら

大阪市、寝屋川市、守口市、
門真市、大東市、枚方市全域対象

“精神科に特化”した
訪問看護ステーション
「くるみ」

06-6105-1756 06-6105-1756

平日・土曜・祝日 9:00〜18:00 
【日曜・お盆・年末年始休み】

※訪問は20時まで
対応させていただいております。

この記事を監修した人

石森寛隆

株式会社 Make Care 代表取締役 CEO

石森 寛隆

Web プロデューサー / Web ディレクター / 起業家

ソフト・オン・デマンドでWeb事業責任者を務めた後、Web制作・アプリ開発会社を起業し10年経営。廃業・自己破産・生活保護を経験し、ザッパラス社長室で事業推進に携わる。その後、中野・濱𦚰とともに精神科訪問看護の事業に参画。2025年7月より株式会社Make CareのCEOとして訪問看護×テクノロジー×マーケティングの挑戦を続けている。

訪問看護師募集中