知的障害があると障害年金を受給できるのか、不安に思っている方は多いのではないでしょうか。実は、軽度知的障害でも日常生活に支障があれば障害年金2級に認定される可能性があります。20歳から申請可能で、保険料納付要件も問われません。
本記事では、知的障害の障害年金について、受給要件から申請手続き、診断書作成のポイント、等級判定の基準まで詳しく解説します。療育手帳がB判定でも諦める必要はありません。適切な準備と申請方法を知ることで、月額約6.7万円の障害基礎年金2級の受給も可能です。
知的障害と障害年金の基本|制度の概要と受給の可能性

障害年金は、病気や障害により日常生活や就労に制限がある方に支給される公的年金制度です。知的障害の方も、一定の要件を満たせば障害年金を受給できます。しかし、「軽度の知的障害では受給できないのでは」「療育手帳がB判定だと難しいのでは」といった不安を持つ方が多いのも事実です。実際には、知的障害の程度だけでなく、日常生活能力や就労状況など、総合的な判断により支給決定がなされるため、軽度知的障害でも受給できるケースは少なくありません。
知的障害による障害年金は、20歳前の先天性または発達期の障害として扱われるため、通常の障害年金とは異なる特徴があります。最大の特徴は、保険料納付要件が問われないことです。つまり、年金保険料を納付していなくても、20歳から障害基礎年金を受給できる可能性があります。これは、知的障害が生まれつきまたは幼少期に発症する障害であり、本人に保険料納付の機会がなかったことを考慮した制度設計となっています。
障害年金の種類には、障害基礎年金と障害厚生年金があります。知的障害の場合、多くは障害基礎年金の対象となりますが、就労して厚生年金に加入している期間中に初めて医師の診察を受けた場合は、障害厚生年金の対象となることもあります。障害基礎年金は1級と2級、障害厚生年金は1級から3級まであり、等級により年金額が異なります。2024年度の障害基礎年金額は、1級が年額約102万円、2級が約81万円となっています。
障害年金とは?知的障害者が利用できる年金制度
障害年金は、国民年金法および厚生年金保険法に基づく公的年金制度で、障害により生活や仕事に制限がある方の所得保障を目的としています。知的障害者の場合、障害基礎年金が主な受給対象となります。障害基礎年金は、国民年金に加入している期間中に初診日がある障害、または20歳前に発症した障害により、日常生活に著しい制限を受ける状態にある方に支給されます。知的障害は、ほぼすべてのケースで20歳前障害として扱われるため、20歳到達時点で申請が可能となります。
障害年金の支給要件は、①初診日要件、②保険料納付要件、③障害状態要件の3つですが、知的障害の場合、20歳前障害として扱われるため、保険料納付要件は問われません。これは大きなメリットで、経済的に困窮している家庭でも、要件を満たせば年金を受給できます。ただし、20歳前障害による障害基礎年金には所得制限があり、本人の前年所得が一定額を超えると、年金の半額または全額が支給停止となります。2024年度の所得制限は、全額支給停止が約472万円、半額支給停止が約370万円です。
障害年金は、単に経済的支援だけでなく、社会参加を促進する役割も持っています。就労していても、援助や配慮を受けながら働いている場合は、障害年金を受給できる可能性があります。例えば、障害者雇用枠で働いている、ジョブコーチの支援を受けている、短時間勤務や軽作業に限定されているなどの場合、就労していても2級に該当することがあります。このように、障害年金は、知的障害者が地域で自立した生活を送るための重要な基盤となっています。
軽度知的障害でも障害年金は受給できるのか
「軽度知的障害では障害年金を受給できない」という誤解が広まっていますが、これは正しくありません。確かに、軽度知的障害の方が1級に認定されることは稀ですが、2級に認定されるケースは決して少なくありません。障害年金の審査では、IQや療育手帳の等級だけでなく、日常生活能力、就労状況、社会的な適応状況などを総合的に評価します。そのため、療育手帳がB2(軽度)であっても、日常生活に著しい制限がある場合は、障害年金2級に該当する可能性があります。
軽度知的障害の方が障害年金を受給するためのポイントは、日常生活の困難さを適切に伝えることです。例えば、金銭管理ができない、公共交通機関を一人で利用できない、対人関係でトラブルを起こしやすい、指示理解が困難で仕事でミスが多いなど、具体的な困難を診断書に記載してもらうことが重要です。また、家族の支援なしには生活できない状況、グループホームでの生活、就労移行支援事業所の利用なども、障害の程度を示す重要な要素となります。
実際の認定事例を見ると、IQ60台の軽度知的障害でも、以下のような状況で2級に認定されています。①一般就労しているが、障害者雇用枠で、かつ職場で特別な配慮を受けている、②金銭管理や服薬管理が自力でできず、家族の全面的な支援が必要、③対人関係の困難から職を転々とし、安定した就労が困難、④二次障害として、うつ病や適応障害を併発している。これらの事例からわかるように、軽度知的障害でも、生活上の困難が適切に評価されれば、障害年金の受給は十分可能です。重要なのは、障害の程度を正確に伝える診断書の作成と、日常生活の困難を具体的に記載した病歴・就労状況等申立書の作成です。
障害基礎年金と障害厚生年金の違い
知的障害者が受給できる障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。障害基礎年金は、国民年金加入者または20歳前障害の方が対象で、1級と2級の2段階の等級があります。一方、障害厚生年金は、厚生年金加入中に初診日がある方が対象で、1級から3級までの3段階の等級があり、さらに3級に該当しない程度の障害には障害手当金(一時金)が支給される場合があります。
知的障害の場合、ほとんどが20歳前に発症しているため、障害基礎年金の対象となることが多いです。しかし、軽度知的障害で、成人後に初めて医療機関を受診し、その時点で厚生年金に加入していた場合は、障害厚生年金の対象となる可能性があります。障害厚生年金の大きなメリットは、3級という等級があることです。障害基礎年金では2級に該当しない程度の障害でも、障害厚生年金なら3級として年金を受給できる可能性があります。
年金額にも大きな違いがあります。障害基礎年金は定額で、2024年度は1級が年額約102万円、2級が約81万円です。子がいる場合は子の加算があり、第1子・第2子は各約23万円、第3子以降は各約7.6万円が加算されます。一方、障害厚生年金は、報酬比例の年金額が基本となり、過去の収入や加入期間により金額が異なります。さらに、1級・2級の場合は障害基礎年金も併せて受給でき、配偶者がいる場合は配偶者加給年金(年額約23万円)も加算されます。このため、障害厚生年金の方が受給額が高くなる傾向があります。ただし、知的障害の場合、就労が困難または限定的であることが多く、厚生年金の加入期間が短いため、障害厚生年金の対象となるケースは限られているのが現状です。
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知的障害における障害年金の受給要件

知的障害で障害年金を受給するためには、特定の要件を満たす必要があります。通常の障害年金では、初診日要件、保険料納付要件、障害状態要件の3つが必要ですが、知的障害の場合は20歳前障害として扱われるため、特別な取り扱いがあります。最も重要な要件は、障害の程度が障害等級に該当することです。単にIQが低いだけでなく、日常生活能力の制限が認定基準を満たす必要があります。
年齢要件も重要です。知的障害による障害基礎年金は、20歳に達した時点で請求可能となります。20歳の誕生日の3か月前から手続きを開始でき、20歳の誕生日の翌日から年金が支給されます。ただし、20歳前に厚生年金に加入していた期間がある場合は、その期間中の受診により障害厚生年金の対象となることもあります。この場合、20歳前でも請求可能です。
障害の程度の判定は、「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」と「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」に基づいて行われます。知的障害は精神の障害として扱われ、知能指数だけでなく、日常生活能力、労働能力、社会適応能力などを総合的に評価します。療育手帳の等級と障害年金の等級は必ずしも一致せず、療育手帳がB(軽度・中度)でも障害年金2級に認定されることがあります。
受給要件1:年齢に関する条件と申請時期
知的障害による障害年金の申請は、原則として20歳に達してから可能となります。これは、国民年金の被保険者資格が20歳から始まることに関連しています。ただし、申請準備は20歳の誕生日の3か月前から開始でき、この期間に診断書の取得や申請書類の作成を行うことができます。早めに準備を始めることで、20歳の誕生日後すぐに申請でき、スムーズに年金受給を開始できます。
20歳到達時の申請では、「20歳に達した日」の前後3か月以内の診断書が必要となります。「20歳に達した日」とは、20歳の誕生日の前日を指します。例えば、4月1日生まれの場合、3月31日が「20歳に達した日」となり、12月31日から6月30日までの診断書が有効となります。この期間外の診断書では申請できないため、注意が必要です。医療機関によっては診断書作成に時間がかかることもあるため、19歳9か月頃から準備を始めることをお勧めします。
20歳を過ぎてから知的障害に気づいた場合や、20歳時点で申請しなかった場合でも、後から申請することは可能です。この場合、「事後重症請求」として、請求時点の診断書で審査されます。ただし、年金は請求した月の翌月分からの支給となり、20歳に遡っての支給はありません。例えば、25歳で申請した場合、認定されても20歳から25歳までの5年分は受給できません。このため、可能な限り20歳時点での申請が推奨されます。特別な事情により20歳時点で申請できなかった場合は、気づいた時点で速やかに申請することが重要です。時効は5年ですが、知的障害の場合、症状が固定していることが多いため、いつ申請しても認定の可能性はあります。
受給要件2:障害の程度と認定基準
知的障害の障害年金における障害の程度は、「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」により定められています。1級は「知的障害があり、食事や身の回りのことを行うのに全面的な援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が不可能か著しく困難であるため、日常生活が困難で常時援助を必要とするもの」とされています。具体的には、重度・最重度知的障害(IQ35未満程度)で、身辺自立が困難、言語によるコミュニケーションが著しく困難、常時介護が必要な状態が該当します。
2級は「知的障害があり、食事や身の回りのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため、日常生活にあたって援助が必要なもの」と定められています。中度知的障害(IQ35-49程度)の多くが該当しますが、軽度知的障害(IQ50-69程度)でも、適応行動の障害が顕著な場合は2級に認定される可能性があります。金銭管理ができない、公共交通機関を単独で利用できない、対人関係でトラブルを繰り返す、就労が著しく制限されるなどの状態が該当します。
3級は障害厚生年金のみに存在し、「知的障害があり、労働が著しい制限を受けるもの」とされています。一般就労は困難だが、援助があれば単純作業は可能、日常生活は概ね自立しているが、複雑な判断や計画的な行動は困難などの状態が該当します。軽度知的障害の多くはこのレベルに相当しますが、障害基礎年金には3級がないため、2級に該当しない場合は不支給となります。
重要なのは、IQの数値だけで判定されるのではなく、日常生活能力の制限の程度が重視されることです。診断書の「日常生活能力の判定」7項目(適切な食事、身辺の清潔保持、金銭管理と買い物、通院と服薬、他人との意思伝達及び対人関係、身辺の安全保持及び危機対応、社会性)と、「日常生活能力の程度」5段階評価が、等級判定の重要な指標となります。
保険料納付要件が免除される理由
知的障害による障害年金申請において、保険料納付要件が免除される理由は、知的障害が先天性または発達早期に発症する障害であり、本人に保険料納付の機会がなかったためです。通常、障害年金を受給するには、初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間と免除期間を合わせた期間が3分の2以上必要です。しかし、20歳前に初診日がある障害については、この要件が免除されます。
この特例は、国民年金法第30条の4に規定されており、「20歳前傷病による障害基礎年金」と呼ばれます。知的障害のほか、先天性の身体障害、小児期発症の精神障害なども対象となります。この制度により、経済的に困窮している家庭の障害者も、平等に所得保障を受けることができます。ただし、20歳前障害による障害基礎年金には、通常の障害年金にはない所得制限があります。
所得制限は、本人の前年所得が対象となり、2024年度は、年間所得370万円を超えると年金の半額が支給停止、472万円を超えると全額が支給停止となります。この所得には、給与所得、事業所得、不動産所得などが含まれますが、障害年金自体は非課税所得のため含まれません。また、家族の所得は影響しません。所得制限は毎年見直され、前年の所得により当年10月から翌年9月までの支給額が決定されます。
保険料納付要件の免除は大きなメリットですが、一方で、20歳前障害による障害基礎年金は、老齢年金との併給調整があります。65歳以降、老齢年金の受給権が発生した場合、障害基礎年金と老齢年金のいずれか一方を選択する必要があります。多くの場合、障害基礎年金の方が高額なため、障害基礎年金を選択することになりますが、個別の状況により異なるため、専門家への相談が推奨されます。
障害等級判定の流れと判定基準
障害年金の等級判定は、提出された診断書と病歴・就労状況等申立書を基に、日本年金機構の障害認定医が行います。知的障害は「精神の障害」として扱われ、2016年から導入された「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」に基づいて判定されます。このガイドラインにより、判定の透明性と公平性が向上し、地域差や認定医による判定のばらつきが減少しました。
判定プロセスは、まず診断書の「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」から等級の目安を導き出します。次に、その他の要素(就労状況、療育手帳の等級、IQ、生活環境など)を総合的に考慮して最終的な等級を決定します。機械的な判定ではなく、個々の状況を丁寧に評価する仕組みとなっています。
重要なのは、診断書の記載内容と申立書の内容に整合性があることです。診断書では日常生活能力が高く評価されているのに、申立書では困難を強調すると、信憑性が疑われる可能性があります。逆に、診断書で困難が記載されているのに、申立書で詳細な説明がないと、十分な評価を受けられない可能性があります。両者が一致し、具体的なエピソードで裏付けられていることが、適正な等級認定につながります。
精神の障害に係る等級判定ガイドラインとは
「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」は、2016年9月から実施されている、精神障害・知的障害の障害年金等級判定の指針です。このガイドライン導入前は、認定医の裁量による部分が大きく、地域や認定医により判定結果にばらつきがありました。ガイドラインにより、客観的な基準が示され、より公平な判定が可能となりました。知的障害もこのガイドラインの対象となり、統一的な基準で評価されます。
ガイドラインの中核は、「障害等級の目安」という表です。縦軸に「日常生活能力の程度」(5段階)、横軸に「日常生活能力の判定」の平均値を配置し、その交点から等級の目安を導き出します。例えば、日常生活能力の程度が「(3)」で、判定の平均が「2.5以上3.0未満」の場合、等級の目安は「2級」となります。この目安を基に、その他の要素を加味して最終的な等級が決定されます。
ガイドラインでは、「総合評価の際に考慮すべき要素」も詳細に示されています。知的障害の場合、①療育手帳の有無と等級、②IQの数値、③発育・養育歴、④教育歴(特別支援学校の卒業など)、⑤就労状況、⑥日常生活状況、⑦福祉サービスの利用状況などが考慮されます。これらの要素により、目安となる等級から上位または下位の等級に認定されることもあります。
ガイドラインの導入により、申請者側も認定の見通しを立てやすくなりました。診断書作成前に、日常生活能力の評価を医師と共有し、実態に即した記載を依頼することができます。また、不支給や等級が低いと判断された場合も、ガイドラインを参照して審査請求の根拠を明確にできます。ただし、ガイドラインはあくまで目安であり、個別の事情を総合的に判断することに変わりはありません。
日常生活能力の判定と程度の評価方法
「日常生活能力の判定」は、日常生活の7つの場面における能力を4段階で評価するものです。7項目は、①適切な食事、②身辺の清潔保持、③金銭管理と買い物、④通院と服薬、⑤他人との意思伝達及び対人関係、⑥身辺の安全保持及び危機対応、⑦社会性です。各項目を「できる」「自発的にできるが時には助言や指導を必要とする」「自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできる」「助言や指導をしてもできない若しくは行わない」の4段階で評価し、その平均値を算出します。
知的障害の場合、特に③金銭管理と買い物、⑤対人関係、⑦社会性で困難を示すことが多いです。例えば、金銭管理では、お金の価値が理解できない、計算ができない、計画的な買い物ができない、おつりの確認ができないなどの困難があります。これらを「できる」と評価されると、実際の困難が反映されません。医師に対して、具体的なエピソード(買い物で騙された、給料をすぐ使い果たしたなど)を伝えることが重要です。
「日常生活能力の程度」は、全般的な日常生活能力を5段階で評価するものです。知的障害の場合、「(1)知的障害を認めるが、社会生活は普通にできる」から「(5)知的障害を認め、身の回りのこともほとんどできないため、常時の援助が必要である」まで評価されます。(3)は「知的障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である」で、これが2級の目安となることが多いです。
評価の際の注意点として、「単身で生活するとしたら」という仮定で評価することが重要です。実際に家族と同居していても、もし一人暮らしをしたらどの程度の援助が必要かを想定して評価します。これにより、家族の支援でカバーされている困難も適切に評価されます。また、「できる」ことと「している」ことを区別し、能力があっても実行できない場合は、その理由(判断力の欠如、意欲の低下など)も含めて評価することが大切です。
総合評価で考慮される要素(就労状況・IQ・療育手帳等)
障害等級の最終決定では、日常生活能力の評価に加えて、様々な要素が総合的に考慮されます。就労状況は重要な判断要素の一つです。一般就労していても、障害者雇用枠、ジョブコーチの支援、短時間勤務、単純作業に限定、頻繁な休職などの状況があれば、2級に認定される可能性があります。逆に、福祉的就労(就労継続支援A型・B型)の場合でも、作業能力が高く、日常生活が自立していれば、2級に該当しないこともあります。
IQの数値も参考にされますが、絶対的な基準ではありません。一般的に、IQ35未満は1級、IQ35-49は2級、IQ50-69は2級または3級の可能性がありますが、適応行動の評価により変動します。例えば、IQ60でも、社会適応が著しく困難な場合は2級に認定されることがあります。また、成人後のIQ検査では、教育や訓練の効果で数値が上昇することがあるため、発達期の記録も参考にされます。
療育手帳の等級は、都道府県により基準が異なるため、参考程度の扱いです。A(重度)は概ね1級または2級、B(中軽度)は2級または3級の可能性がありますが、必ずしも一致しません。療育手帳を持っていない場合でも、医学的に知的障害と診断されれば障害年金の対象となります。
その他の考慮要素として、生活環境(独居、家族同居、グループホーム、入所施設)、福祉サービスの利用状況(居宅介護、移動支援、日中活動系サービス)、教育歴(特別支援学校、通級指導、普通学級)、発達歴(言語発達、運動発達の遅れ)、合併症(てんかん、精神疾患、身体障害)なども評価されます。これらの情報は、病歴・就労状況等申立書に詳細に記載することで、総合評価に反映されます。特に、二次障害として精神疾患を併発している場合は、それによる日常生活の制限も加味されるため、丁寧な記載が求められます。
障害年金の申請手続きと必要書類

障害年金の申請手続きは複雑で、多くの書類が必要となります。知的障害の場合、20歳前障害として扱われることが多いため、通常の障害年金とは異なる手続きがあります。申請窓口は、障害基礎年金の場合は市区町村の年金課、障害厚生年金の場合は年金事務所となります。初回相談から支給決定まで、通常3-4か月程度かかるため、計画的に進めることが重要です。
必要書類は大きく分けて、①医師が作成する書類(診断書)、②本人または家族が作成する書類(病歴・就労状況等申立書)、③公的機関が発行する書類(戸籍謄本、住民票など)があります。知的障害の特徴として、受診状況等証明書(初診日証明)は不要で、出生から現在までの病歴・就労状況等申立書が重要な役割を果たします。
申請手続きの流れは、①年金事務所または市区町村での相談、②必要書類の収集・作成、③申請書の提出、④審査(3か月程度)、⑤決定通知、⑥年金の支給開始となります。不支給や等級に不満がある場合は、審査請求(3か月以内)、再審査請求(6か月以内)が可能です。手続きは本人だけでなく、家族や社会保険労務士などの代理人も行うことができます。
申請に必要な書類と準備するもの
知的障害の障害年金申請に必要な主な書類は以下の通りです。まず、最も重要な「診断書(精神の障害用)」は、指定様式があり、精神科医または小児科医が作成します。診断書は、障害認定日(20歳の誕生日の前日)の前後3か月以内のものが必要です。事後重症請求の場合は、請求日前3か月以内の診断書を提出します。診断書の作成費用は医療機関により異なりますが、5,000円から15,000円程度が一般的です。
「病歴・就労状況等申立書」は、本人または家族が作成する書類で、出生から現在までの病歴、日常生活状況、就労状況などを詳細に記載します。知的障害の場合、0歳から現在まで、3-5年ごとに区切って記載します。各期間について、日常生活の様子、通院状況、就学・就労状況、福祉サービスの利用状況などを具体的に記述します。この申立書は、診断書を補完する重要な役割を持ち、丁寧な作成が求められます。
その他の必要書類として、年金請求書(国民年金・厚生年金保険障害給付)、戸籍謄本または戸籍抄本、住民票(世帯全員のもの)、所得証明書(20歳前障害の場合)、年金手帳または基礎年金番号通知書、本人名義の預金通帳のコピー、印鑑などがあります。18歳未満の子がいる場合は、子の戸籍謄本と住民票も必要です。療育手帳を持っている場合は、コピーを添付することで、知的障害の証明を補強できます。
特別支援学校の卒業証明書や成績証明書、心理検査の結果、過去の診断書なども、参考資料として提出できます。これらは必須書類ではありませんが、発達期からの障害を証明する資料として有効です。書類の準備には時間がかかるため、申請を決めたら早めに収集を始めることが大切です。特に、古い医療記録は廃棄されている可能性があるため、早期の確認が必要です。
診断書作成時の注意点とポイント
診断書は障害年金の審査において最も重要な書類であり、その記載内容が等級判定を大きく左右します。知的障害の診断書作成では、まず適切な医療機関を選ぶことが重要です。理想的には、長期間通院している精神科または小児科で、本人の状態をよく把握している医師に依頼します。初診の医師では、日常生活の困難を十分に評価できない可能性があるため、少なくとも数回の診察を経てから作成を依頼することが望ましいです。
診断書作成を依頼する際は、日常生活の困難を具体的に伝えることが重要です。「できないこと」「助けが必要なこと」を箇条書きにしてまとめ、医師に提出すると効果的です。例えば、「お金の計算ができず、買い物で正しいおつりをもらえない」「一人で電車に乗れず、必ず付き添いが必要」「指示を理解できず、仕事で同じミスを繰り返す」など、具体的なエピソードを伝えます。抽象的な表現ではなく、実際の生活場面での困難を伝えることで、医師も適切な評価ができます。
診断書を受け取ったら、必ず内容を確認します。特に、「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」が、実態と合っているか確認が必要です。明らかに実態と異なる場合は、医師に相談して修正を依頼することも可能です。ただし、医師の医学的判断に基づく記載であるため、すべての要望が通るわけではありません。また、IQの記載、発病年月日(出生時または幼少期)、予後(「不変」または「不詳」が一般的)なども確認します。
診断書の「現在の病状又は状態像」欄では、知的障害の程度だけでなく、行動面の問題、社会性の欠如、判断力の不足なども記載してもらうことが重要です。「日常生活状況」欄では、家族の支援状況、福祉サービスの利用状況なども記載されているか確認します。「就労状況」欄では、障害者雇用、ジョブコーチ支援、職場での配慮などが適切に記載されているか確認します。これらの情報が総合的に評価され、等級判定につながるため、漏れのない記載が求められます。
病歴・就労状況等申立書の書き方
病歴・就労状況等申立書は、本人または家族が作成する重要な書類で、診断書では表現しきれない日常生活の実態を伝える役割があります。知的障害の場合、出生時から現在まで、3-5年ごとに区切って記載します。各期間について、①その期間の状況、②通院していた場合はその状況、③日常生活の状況、④就学・就労状況を詳細に記述します。
乳幼児期(0-6歳)では、発達の遅れ(首すわり、歩行、言語)、乳幼児健診での指摘、療育の開始時期などを記載します。「1歳6か月健診で言語の遅れを指摘され、2歳から療育センターに通い始めた」「3歳になっても単語しか話せず、意思疎通が困難だった」など、具体的に記述します。保育園や幼稚園での様子、加配の有無、他児との関わりの困難なども重要な情報です。
学齢期(7-18歳)では、特別支援学級や特別支援学校への在籍、通級指導の利用、学習面での困難、友人関係の問題などを記載します。「小学校は普通学級だったが、授業についていけず、3年生から特別支援学級に移った」「中学校では、いじめを受けて不登校になった」など、学校生活での困難を具体的に記述します。高等部での進路指導、職業訓練の様子も記載します。
成人期(19歳以降)では、就労の状況(一般就労、福祉的就労、就労経験なし)、職場での困難、転職の頻度、日常生活での支援の必要性などを詳細に記載します。「就労移行支援事業所で2年間訓練を受けたが、一般就労は困難と判断された」「障害者雇用で清掃の仕事をしているが、指示を忘れてしまい、常に声かけが必要」など、現在の生活状況を具体的に記述します。金銭管理、家事、対人関係など、日常生活のあらゆる場面での困難を記載し、家族や支援者のサポートなしには生活が成り立たないことを明確にします。申立書は、事実を正確に記載することが重要で、誇張や虚偽の記載は避けるべきです。
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知的障害の障害年金申請における注意点
知的障害の障害年金申請には、他の障害とは異なる特有の注意点があります。最も重要なのは、20歳前後の適切な時期に申請することです。20歳を大幅に過ぎてからの申請では、遡及請求ができないため、受給できたはずの年金を失うことになります。また、診断書を作成してもらう医療機関の選択も重要で、知的障害に理解のある医師を見つける必要があります。
書類作成においては、知的障害特有の配慮が必要です。受診状況等証明書が不要な代わりに、病歴・就労状況等申立書で出生からの経過を詳細に記載する必要があります。また、本人が書類作成できない場合が多いため、家族や支援者の協力が不可欠です。成年後見人が選任されている場合は、後見人が手続きを行うこともあります。
審査においても、知的障害特有の視点があります。IQだけでなく適応行動が重視されること、療育手帳の等級と障害年金の等級が必ずしも一致しないこと、就労していても障害年金を受給できる可能性があることなど、正しい理解が必要です。これらの点を踏まえて適切に申請することで、本来受給できる年金を確実に受け取ることができます。
20歳前後の診断書取得タイミング
知的障害の障害年金申請で最も重要なのは、診断書の取得時期です。20歳到達時の申請では、「20歳に達した日」の前後3か月以内の診断書が必要です。「20歳に達した日」は誕生日の前日なので、例えば2024年4月1日生まれの場合、2024年3月31日が基準日となり、2023年12月31日から2024年6月30日までの診断書が有効となります。この期間を逃すと、事後重症請求となり、遡及して年金を受給することができません。
理想的なスケジュールは、19歳9か月頃から準備を開始することです。まず、診断書を作成してもらう医療機関を決定し、必要に応じて受診を開始します。19歳10か月頃に診断書作成の予約を入れ、20歳の誕生日の1-2か月前に診断書を作成してもらいます。これにより、20歳の誕生日直後に申請でき、最短で年金受給を開始できます。診断書作成には2-4週間かかることもあるため、余裕を持ったスケジュールが重要です。
診断書の有効期限内であれば、複数回作成し直すことも可能です。最初の診断書で日常生活能力が実態より高く評価された場合、医師と相談して再作成を依頼できます。ただし、作成費用は都度発生するため、最初から適切な評価を得られるよう、事前の準備と医師への情報提供が重要です。日常生活の困難を記録した日記やメモ、支援者からの情報提供書なども活用できます。
20歳を過ぎてしまった場合でも、諦める必要はありません。事後重症請求として、現在の診断書で申請できます。ただし、年金は請求した月の翌月分からの支給となるため、早めの申請が重要です。また、知的障害は症状が固定していることが多いため、何歳で申請しても認定の可能性はあります。30代、40代で初めて申請して認定された事例も多くあります。
適切な医療機関の選び方と受診のコツ
知的障害の診断書作成には、適切な医療機関選びが重要です。理想的なのは、小児期から継続的に診察を受けている医療機関ですが、成人後は小児科から精神科への移行が必要な場合もあります。精神科を選ぶ際は、知的障害の診療経験が豊富な医師がいる病院を選ぶことが大切です。地域の基幹病院、大学病院、療育センターの成人部門などが候補となります。
医療機関を探す際は、市区町村の障害福祉課、相談支援事業所、親の会などに相談すると、地域の情報を得られます。「障害年金の診断書を書いてもらえる病院」と直接聞くよりも、「知的障害の診療をしている精神科」を探す方が適切です。初診時に障害年金の話をすると、医師によっては警戒される場合があるため、まずは治療関係を構築することが重要です。
受診の際は、本人だけでなく家族や支援者が同行することが望ましいです。知的障害の方は、自身の困難を適切に表現できないことが多いため、日常生活をよく知る人からの情報提供が不可欠です。事前に、日常生活での困難、支援の必要性、就労状況などをメモにまとめ、医師に提出すると効果的です。写真や動画で日常の様子を示すことも有効です。
診断書作成を依頼する際は、単に「診断書を書いてください」ではなく、障害年金申請の目的を明確に伝えます。「20歳になったので障害基礎年金を申請したい」「就労しているが、支援なしには生活できない状況を評価してほしい」など、具体的に伝えます。また、診断書の下書きやメモを渡すことは避け、医師の医学的判断を尊重することが大切です。信頼関係を築いた上で、実態に即した評価を依頼することが、適切な診断書作成につながります。
療育手帳と障害年金の関係性
療育手帳と障害年金は、どちらも知的障害者への支援制度ですが、別々の制度であり、判定基準も異なります。療育手帳は都道府県・政令指定都市が独自に運営する制度で、判定基準や等級区分も自治体により異なります。一方、障害年金は国の制度で、全国統一の基準で判定されます。そのため、療育手帳の等級と障害年金の等級は必ずしも一致しません。
療育手帳B(中軽度)でも障害年金2級に認定されることは珍しくありません。療育手帳の判定は主にIQを基準としますが、障害年金は日常生活能力を重視します。例えば、IQ60で療育手帳B2の方でも、金銭管理ができない、対人関係でトラブルを繰り返す、就労が困難などの状況があれば、障害年金2級に該当する可能性があります。逆に、療育手帳A(重度)でも、日常生活能力が比較的保たれていれば、1級ではなく2級と判定されることもあります。
療育手帳を持っていなくても、障害年金の申請は可能です。医学的に知的障害と診断されれば、療育手帳の有無に関わらず障害年金の対象となります。ただし、療育手帳があることで、知的障害の証明が容易になり、審査がスムーズに進む利点があります。申請時に療育手帳のコピーを添付することで、発達期からの障害であることを証明できます。
療育手帳の取得時期と障害年金の申請時期も異なります。療育手帳は幼少期から取得可能で、早期の療育や支援につながります。一方、障害年金は20歳からの申請となります。療育手帳を持っていても自動的に障害年金が支給されるわけではなく、別途申請が必要です。両制度を適切に活用することで、ライフステージに応じた支援を受けることができます。療育手帳による福祉サービスの利用と、障害年金による経済的支援を組み合わせることで、地域での自立した生活が可能となります。
まとめ

知的障害の障害年金は、20歳から受給可能で、適切な要件を満たせば軽度知的障害でも受給できます。障害基礎年金の2024年度支給額は、1級が年額約102万円、2級が約81万円で、子の加算もあります。20歳前障害として扱われるため保険料納付要件は問われませんが、所得制限があることに注意が必要です。
受給要件は、20歳以上であることと、障害の程度が認定基準を満たすことです。判定は「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」に基づき、IQだけでなく日常生活能力を総合的に評価します。療育手帳B(中軽度)でも、日常生活に著しい制限があれば2級認定の可能性があります。
申請には、診断書(20歳前後3か月以内)と病歴・就労状況等申立書が重要です。診断書作成では、日常生活の困難を具体的に医師に伝え、実態に即した評価を得ることが大切です。申立書では、出生から現在までの経過を詳細に記載します。
注意点として、20歳の適切な時期に申請すること、知的障害に理解のある医療機関を選ぶこと、受診状況等証明書は不要であることなどがあります。療育手帳と障害年金は別制度で、手帳の等級と年金の等級は必ずしも一致しません。
知的障害の障害年金は、適切な準備と申請により、多くの方が受給可能です。不明な点は、市区町村の年金窓口や相談支援事業所に相談し、必要に応じて社会保険労務士などの専門家の支援を受けることをお勧めします。障害年金は、知的障害者の地域生活を支える重要な制度であり、権利として適切に活用することが大切です。
 
                
             
         
         
        