統合失調症で入院が必要になるのはどのようなレベルなのでしょうか。幻覚や妄想で日常生活が困難になったり、自傷他害のリスクがある場合は入院治療が検討されます。しかし「どの程度の症状で入院になるのか」「入院形態にはどんな種類があるのか」など、不安や疑問を持つ方も多いはずです。
本記事では、統合失調症の入院が必要となる具体的な判断基準から、4つの入院形態(任意入院・医療保護入院・措置入院・応急入院)、入院期間と治療内容まで詳しく解説します。適切なタイミングでの入院は、症状の早期改善につながります。
統合失調症における幻聴とは?基本的な理解

統合失調症の幻聴は、実際には存在しない声や音が聞こえる症状で、統合失調症の最も特徴的な症状の一つです。統合失調症患者の約70-80%が幻聴を経験するとされ、多くの場合、人の声として体験されます。幻聴は、本人にとっては確実に聞こえている現実的な体験であり、「気のせい」や「思い込み」ではありません。脳の聴覚野や言語野の異常な活動により生じる症状で、実際の音声を聞いているときと同じ脳領域が活動することが、脳画像研究で明らかになっています。
幻聴の内容は多様で、自分について話す声、命令する声、批判や悪口を言う声、励ます声など様々です。声の数も、一人の声から複数の声まで幅があり、知っている人の声のこともあれば、知らない人の声のこともあります。幻聴は、静かな環境で強くなることが多く、騒音がある環境や何かに集中しているときは軽減することがあります。これは、外部からの刺激が少ないと、脳内の異常な活動がより顕著になるためと考えられています。
統合失調症の幻聴は、単なる症状以上の意味を持ちます。幻聴により、不安、恐怖、混乱が生じ、日常生活に大きな支障をきたします。また、幻聴の内容を真実と信じて行動することで、社会的な問題が生じることもあります。しかし、適切な治療により、多くの場合、幻聴は改善または消失します。薬物療法と心理社会的治療の組み合わせにより、幻聴をコントロールし、充実した生活を送ることが可能です。
幻聴の定義と特徴
幻聴(auditory hallucination)は、外部からの音刺激がないにもかかわらず、音や声が聞こえる知覚体験です。統合失調症の幻聴は、主に言語性幻聴(verbal auditory hallucination)として現れ、意味のある言葉や会話として体験されます。これは、単純な音(ブザー音、機械音など)が聞こえる要素性幻聴とは区別されます。幻聴は、覚醒時に明瞭な意識状態で生じ、夢や半覚醒状態での体験とは異なります。
統合失調症の幻聴の特徴的な点は、その鮮明さと現実感です。患者は、幻聴を実際の声と区別できないことが多く、「確かに聞こえている」と確信します。声の音量、音色、方向性も明確で、右から聞こえる、頭の中から聞こえる、壁の向こうから聞こえるなど、具体的な位置を特定できることもあります。また、幻聴は自分の思考とは独立して生じ、コントロールできないという特徴があります。聞きたくないのに聞こえる、止めようとしても止まらないという体験は、患者に大きな苦痛をもたらします。
幻聴の内容は、患者の文化的背景、個人的経験、現在の状況などに影響されます。日本では、悪口や批判的な内容が多いとされますが、欧米では命令的な内容が多いという報告もあります。また、幻聴は患者の感情状態と連動することがあり、不安が強いときは脅迫的な内容、気分が良いときは肯定的な内容になることもあります。幻聴の頻度も様々で、一日中聞こえる場合から、特定の状況でのみ聞こえる場合まであります。治療により、幻聴の頻度、強度、苦痛度が段階的に改善することが多いです。
統合失調症における幻聴の出現率
統合失調症における幻聴の出現率は非常に高く、生涯有病率は約70-80%と報告されています。初回エピソード時には約60%の患者が幻聴を経験し、慢性期でも約50%の患者に幻聴が持続するとされています。これは、統合失調症の他の症状(妄想約90%、思考障害約50%、陰性症状約60%)と比較しても、高い頻度です。幻聴は、統合失調症の診断基準(DSM-5)において、特徴的症状の一つとして挙げられており、診断的価値が高い症状です。
幻聴の出現時期は、多くの場合、統合失調症の発症初期です。前駆期には、名前を呼ばれる感じ、誰かが話している感じなど、不明瞭な聴覚体験から始まることがあります。急性期に入ると、明確な言語性幻聴となり、対話性幻聴や注釈幻聴などの特徴的な幻聴が出現します。未治療の場合、幻聴は慢性化し、患者の生活に深刻な影響を与え続けます。しかし、早期治療により、約60-70%の患者で幻聴の改善が見られます。
幻聴の予後は、治療開始時期、治療への反応性、服薬アドヒアランスなどにより異なります。初回エピソードで適切な治療を受けた場合、約70%の患者で幻聴が消失または著明に改善します。しかし、治療抵抗性の幻聴も約20-30%存在し、複数の抗精神病薬を試しても改善しない場合があります。このような場合、クロザピンや認知行動療法などの追加治療が検討されます。長期予後では、継続的な治療により、多くの患者が幻聴と共存しながら、社会生活を送ることができるようになります。
幻聴と幻覚の違い
幻覚は、外部刺激がないにもかかわらず知覚体験が生じる症状の総称で、幻聴はその一種です。幻覚には、幻聴(聴覚)、幻視(視覚)、幻嗅(嗅覚)、幻味(味覚)、幻触(触覚)があり、それぞれ異なる感覚モダリティで生じます。統合失調症では、幻聴が最も多く(70-80%)、次いで幻視(15-20%)、体感幻覚(10-15%)の順で出現します。幻聴が統合失調症に特徴的なのに対し、幻視は器質性精神障害や物質使用障害でより多く見られます。
幻聴と他の幻覚の臨床的意義も異なります。統合失調症の幻聴、特に対話性幻聴や注釈幻聴は、診断的価値が高く、シュナイダーの一級症状に含まれています。一方、幻視は、レビー小体型認知症、せん妄、薬物中毒などを示唆することが多いです。体感幻覚(身体内部の異常な感覚)は、統合失調症でも見られますが、心気症やうつ病でも出現することがあります。複数の幻覚が同時に出現する場合、より重篤な精神病状態を示唆することがあります。
治療反応性も幻覚の種類により異なります。統合失調症の幻聴は、抗精神病薬により比較的良好な反応を示すことが多いです。一方、幻視や体感幻覚は、薬物療法への反応が不良なことがあり、原因疾患の治療が重要となります。また、幻聴は認知行動療法などの心理療法の効果も期待できますが、他の幻覚に対する心理療法の効果は限定的です。このように、幻覚の種類を正確に評価することは、診断と治療方針の決定に重要です。
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統合失調症の幻聴の種類と内容
統合失調症の幻聴は、その形式と内容により、いくつかのタイプに分類されます。最も特徴的なのは、二人以上の声が自分について話し合う「対話性幻聴」と、自分の行動や考えを実況中継する「注釈幻聴」です。これらは、シュナイダーの一級症状として、統合失調症の診断的価値が高いとされています。また、行動を命令する「命令幻聴」は、自傷他害のリスクと関連するため、臨床的に重要です。
幻聴の内容は、患者により大きく異なりますが、批判的、否定的な内容が多いことが特徴です。「お前はダメだ」「価値がない」「死ね」などの罵倒や、「みんながお前を嫌っている」「監視されている」などの被害的な内容が典型的です。しかし、すべての幻聴が否定的なわけではなく、励ます声、褒める声、アドバイスする声なども存在します。一部の患者は、幻聴と良好な関係を築き、孤独感の軽減や支えとして体験することもあります。
幻聴の声の特徴も多様です。性別(男性、女性、両方)、年齢(子ども、大人、老人)、人数(一人、複数)、親密度(知人、他人)などが異なります。声の聞こえ方も、頭の中から聞こえる、外から聞こえる、特定の場所から聞こえるなど様々です。これらの特徴は、患者の体験を理解し、治療計画を立てる上で重要な情報となります。
対話性幻聴(会話する声)
対話性幻聴は、二人以上の声が患者について話し合っている形式の幻聴で、統合失調症の最も特徴的な症状の一つです。例えば、「あいつは今日も何もしていない」「本当にダメな奴だな」「でも少しは頑張っているじゃないか」「いや、全然ダメだ」といった会話が聞こえます。患者は、この会話の傍観者として体験し、会話に参加することはできません。声は、患者を三人称(彼、彼女、あいつなど)で呼ぶことが多く、これが対話性幻聴の特徴です。
対話性幻聴の内容は、批判的、評価的なことが多いですが、時に患者を擁護する声も含まれます。善玉と悪玉のような対立する意見が交わされることもあり、患者は混乱し、どちらを信じればよいか分からなくなります。この体験は、患者に強い不安と苦痛をもたらし、「常に評価されている」「プライバシーがない」という感覚を生じさせます。社会的引きこもりの一因となることもあります。
対話性幻聴は、統合失調症の診断において重要な意味を持ちます。DSM-5では、対話性幻聴があれば、他の精神病症状がなくても統合失調症の診断基準を満たすとされています。これは、対話性幻聴が統合失調症に特異的で、他の精神疾患ではまれであるためです。治療により、対話性幻聴は改善することが多いですが、完全に消失しない場合もあります。その場合、幻聴の内容を無視する、受け流すなどの対処法を学ぶことが重要となります。認知行動療法では、幻聴の内容を検証し、その影響を減らす技法が用いられます。
命令幻聴(指示や命令をする声)
命令幻聴は、患者に特定の行動を命令する形式の幻聴で、臨床的に最も注意を要する幻聴です。命令の内容は、「窓から飛び降りろ」「リストカットしろ」などの自傷行為、「あいつを殺せ」「火をつけろ」などの他害行為、「薬を飲むな」「病院に行くな」などの治療妨害など、危険な内容が含まれることがあります。患者は、これらの命令に抵抗することが困難で、命令に従わないと悪いことが起こると感じることもあります。
命令幻聴への反応は、患者により異なります。一部の患者は、命令に完全に従い、危険な行動をとることがあります。他の患者は、命令に抵抗しようとしますが、強い葛藤と苦痛を経験します。命令の声が執拗で、大音量で、威圧的な場合、抵抗することはより困難になります。また、命令の内容が患者の価値観や欲求と一致する場合、従いやすくなります。例えば、希死念慮がある患者が自殺を命じられた場合、リスクは特に高くなります。
命令幻聴がある場合、緊急の評価と介入が必要です。命令の内容、頻度、患者の反応、過去の行動化の有無などを詳細に評価します。自傷他害のリスクが高い場合は、入院治療を検討します。薬物療法により、命令幻聴の強度と頻度を減らすことができます。また、認知行動療法では、命令に従わない練習、命令の声に対する別の解釈、対処スキルの開発などを行います。家族や支援者への教育も重要で、危険なサインを認識し、適切に対応する方法を学んでもらいます。
注釈幻聴・思考化声(実況中継する声)
注釈幻聴は、患者の行動や思考を実況中継する形式の幻聴です。「今、椅子に座った」「コーヒーを飲もうとしている」「テレビを見ている」など、患者の一挙一動が声により説明されます。思考化声は、患者の考えが声として聞こえる現象で、「明日は病院に行こうと考えている」「あの人は嫌いだと思っている」など、内的な思考が外部の声として体験されます。これらは、自我障害の一種で、思考と外界の境界が曖昧になっている状態を示します。
注釈幻聴と思考化声は、患者に強い違和感と苦痛をもたらします。プライバシーが完全に失われ、「心が読まれている」「透視されている」という感覚が生じます。これにより、被害妄想が強化されることもあります。また、自分の思考がコントロールできないという体験は、自我の統合性を脅かし、深刻な不安を引き起こします。社会的な場面では、自分の考えが他人に聞こえているのではないかと心配し、対人恐怖が生じることもあります。
治療において、注釈幻聴と思考化声は、比較的良好な反応を示すことが多いです。抗精神病薬により、これらの症状は軽減または消失します。心理教育では、これらの症状が脳の機能異常により生じること、他人には聞こえていないことを説明します。認知行動療法では、症状への注意を他に向ける技法(注意転換法)、症状を観察し距離を置く技法(マインドフルネス)などが用いられます。回復過程では、これらの症状は断片的になり、最終的には消失することが多いです。
幻聴の原因とメカニズム

統合失調症の幻聴の原因は、完全には解明されていませんが、脳の構造的・機能的異常が関与していることが明らかになっています。神経画像研究により、幻聴を体験している時、言語に関連する脳領域(ブローカ野、ウェルニッケ野)や聴覚野が活動することが示されています。これは、脳が内的な活動を外部からの刺激と誤って認識していることを示唆しています。また、脳内の神経伝達物質、特にドーパミンの過剰活動が、幻聴の発生に関与していると考えられています。
幻聴の発生メカニズムとして、いくつかの仮説が提唱されています。「内言の誤帰属説」では、自分の内的な思考(内言)を外部の声として誤って認識することで幻聴が生じるとされます。「聴覚イメージの異常活性化説」では、聴覚的な記憶やイメージが自発的に活性化し、実際の知覚として体験されるとされます。「トップダウン処理の優位説」では、期待や予測が知覚を過度に影響し、存在しない声を聞くとされます。これらのメカニズムは相互に関連し、複合的に幻聴を生じさせていると考えられています。
環境要因も幻聴の発生と維持に重要な役割を果たします。ストレス、社会的孤立、睡眠不足、薬物使用などは、幻聴を悪化させる要因となります。また、幼少期のトラウマ体験(虐待、いじめなど)と幻聴の関連も指摘されており、トラウマが脳の発達に影響し、後の幻聴の脆弱性を高める可能性があります。文化的要因も重要で、幻聴の内容や解釈は、患者の文化的背景に影響されます。
脳内メカニズムと神経伝達物質
統合失調症の幻聴に関わる脳内メカニズムは複雑で、複数の脳領域と神経回路が関与しています。機能的MRI研究により、幻聴体験中に左側の上側頭回(聴覚野)、下前頭回(ブローカ野)、帯状回、海馬傍回などが活性化することが示されています。特に、言語産出に関わるブローカ野の活動は、幻聴の「声」としての性質と関連していると考えられています。また、聴覚野の自発的な活動が、外部刺激なしに「聞こえる」体験を生じさせていると推測されています。
神経伝達物質では、ドーパミンの過剰活動が幻聴の発生に中心的な役割を果たしています。中脳辺縁系のドーパミン経路の過活動により、顕著性の異常な付与が生じ、内的な思考や記憶が外部の声として体験されると考えられています。抗精神病薬がドーパミン受容体を遮断することで幻聴が改善することは、この仮説を支持しています。また、グルタミン酸系の機能低下も関与しており、NMDA受容体の機能不全が、感覚情報の処理異常を引き起こすとされています。
脳の構造的異常も幻聴と関連しています。統合失調症患者では、上側頭回の灰白質容積減少、脳梁の異常、前頭葉-側頭葉の結合性低下などが報告されています。これらの構造的変化は、脳領域間の情報伝達を障害し、内的表象と外的知覚の区別を困難にすると考えられています。また、左右半球の非対称性の減少も見られ、言語優位半球の特殊化の障害が幻聴と関連している可能性があります。これらの脳内メカニズムの理解は、新たな治療法の開発につながることが期待されています。
ストレスと環境要因の影響
ストレスは、統合失調症の幻聴を悪化させる最も重要な環境要因の一つです。急性ストレス(対人関係のトラブル、経済的問題、喪失体験など)は、幻聴の頻度と強度を増加させます。慢性ストレス(家族の高expressed emotion、社会的差別、貧困など)も、幻聴の持続と関連しています。ストレスは、視床下部-下垂体-副腎系(HPA軸)を活性化し、コルチゾールの分泌を増加させます。これが、ドーパミン系の感受性を高め、幻聴を誘発すると考えられています。
社会的孤立も幻聴と強く関連しています。孤独な環境では、外部からの感覚刺激が減少し、脳の内的活動が相対的に優位になります。これにより、内的な思考や記憶が幻聴として体験されやすくなります。また、社会的相互作用の欠如は、現実検討能力を低下させ、幻聴と現実の区別を困難にします。実際、独居の統合失調症患者は、家族と同居している患者より幻聴が重篤であることが報告されています。
睡眠障害も幻聴の重要な誘発・増悪因子です。睡眠不足は、脳の情報処理能力を低下させ、知覚の誤りを生じやすくします。また、レム睡眠の異常は、夢様体験と覚醒時体験の境界を曖昧にし、幻聴を生じやすくします。物質使用(アルコール、大麻、覚せい剤など)も、幻聴を悪化させます。これらの物質は、ドーパミン系に直接作用し、精神病症状を誘発します。環境要因への介入(ストレス管理、社会的支援、睡眠衛生、物質使用の中止)は、薬物療法と並んで重要な治療戦略となります。
統合失調症以外で幻聴が現れる疾患
幻聴は統合失調症に特徴的ですが、他の精神疾患や身体疾患でも出現することがあります。双極性障害の躁状態やうつ状態では、気分に一致した幻聴(躁状態では誇大的な内容、うつ状態では否定的な内容)が出現することがあります。重症うつ病では、罪業妄想に伴う非難の声が聞こえることがあります。これらの気分障害による幻聴は、気分症状の改善とともに消失することが多く、統合失調症の幻聴とは予後が異なります。
解離性障害でも幻聴が出現することがあります。解離性同一性障害では、別人格の声として幻聴を体験することがあります。心的外傷後ストレス障害(PTSD)では、トラウマに関連した幻聴(加害者の声、助けを求める声など)が出現することがあります。これらの解離性幻聴は、トラウマ体験と密接に関連し、統合失調症の幻聴とは異なる特徴を持ちます。
器質性精神障害でも幻聴が見られます。側頭葉てんかんでは、発作時または発作間欠期に幻聴が出現することがあります。脳腫瘍、脳血管障害、神経変性疾患(レビー小体型認知症など)でも幻聴が生じることがあります。薬物誘発性精神障害では、覚せい剤、大麻、アルコール離脱時などに幻聴が出現します。高齢者では、難聴に伴う音楽性幻聴(シャルル・ボネ症候群の聴覚版)も見られます。これらの鑑別診断は、適切な治療選択のために重要です。
幻聴への対処法と治療
統合失調症の幻聴に対する治療は、薬物療法を基本とし、心理社会的治療を組み合わせた包括的アプローチが推奨されています。治療の目標は、幻聴の完全な消失だけでなく、幻聴による苦痛の軽減、機能の改善、生活の質の向上です。多くの患者で、適切な治療により幻聴は改善しますが、一部の患者では幻聴が残存することもあります。その場合でも、幻聴と共存しながら充実した生活を送ることは可能です。
薬物療法では、抗精神病薬が第一選択となります。第二世代抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾールなど)は、幻聴に対して60-70%の有効率を示します。効果発現には数週間かかることが多く、継続的な服薬が重要です。薬物の選択は、効果と副作用のバランス、患者の希望などを考慮して決定されます。治療抵抗性の幻聴に対しては、クロザピンが有効なことがあります。
心理社会的治療も重要な役割を果たします。認知行動療法(CBT)は、幻聴に対する認知の修正、対処スキルの開発、苦痛の軽減に有効です。家族心理教育は、家族の疾患理解を深め、適切なサポートを提供できるようにします。リハビリテーションプログラムは、社会機能の回復を促進します。これらの治療を組み合わせることで、より良い治療成果が期待できます。
薬物療法による幻聴の改善
抗精神病薬は、統合失調症の幻聴に対する最も効果的な治療法です。ドーパミンD2受容体を遮断することで、幻聴を含む陽性症状を改善します。第二世代抗精神病薬は、第一世代と比較して、錐体外路系副作用が少なく、陰性症状や認知機能にも効果があるとされ、現在の第一選択薬となっています。薬物の開始は低用量から始め、効果と副作用を見ながら徐々に増量します。効果判定には4-6週間必要で、この期間は忍耐強く治療を続けることが重要です。
個々の薬物の特徴を理解することも重要です。リスペリドンは、幻聴への効果が高く、比較的速やかに効果が現れます。オランザピンは、鎮静作用があり、興奮や不眠を伴う場合に有用です。アリピプラゾールは、ドーパミン部分作動薬で、副作用が少ないという利点があります。クエチアピンは、気分症状を伴う場合に選択されることがあります。パリペリドンは、リスペリドンの活性代謝物で、1日1回投与が可能です。
治療抵抗性の幻聴(2種類以上の抗精神病薬を十分量、十分期間使用しても改善しない)に対しては、クロザピンが唯一のエビデンスのある治療薬です。クロザピンは、約30-60%の治療抵抗性患者で効果を示しますが、無顆粒球症のリスクがあるため、定期的な血液検査が必要です。また、増強療法として、抗精神病薬の併用、気分安定薬の追加、抗うつ薬の追加などが試みられることもあります。長時間作用型注射剤(LAI)は、服薬アドヒアランスが不良な患者に有用で、安定した血中濃度により、幻聴の再発を予防します。
認知行動療法による対処スキル
認知行動療法(CBT)は、幻聴に対する有効な心理療法として、多くのエビデンスがあります。CBTの目標は、幻聴を完全に消失させることではなく、幻聴に対する認知を修正し、苦痛を軽減し、機能を改善することです。治療は通常、週1回、16-20セッションで行われ、個人療法またはグループ療法として実施されます。薬物療法と併用することで、より良い効果が期待できます。
CBTでは、まず幻聴の詳細なアセスメントを行います。幻聴の内容、頻度、トリガー、患者の反応、信念などを評価します。次に、幻聴に対する認知の検証を行います。例えば、「声は全能で、必ず従わなければならない」という信念に対して、証拠の検討、代替的な説明の検討などを行います。行動実験により、信念の妥当性を実際に確かめることもあります。例えば、「声の命令に従わなくても悪いことは起こらない」ことを体験的に学習します。
対処スキルの開発も重要な要素です。注意転換法(音楽を聴く、運動する、会話するなど)により、幻聴から注意をそらします。マインドフルネス技法により、幻聴を判断せずに観察し、距離を置くことを学びます。自己教示法により、幻聴に対する適応的な自己対話を開発します。社会的スキル訓練により、対人関係を改善し、社会的支援を増やします。これらのスキルは、日常生活で練習し、般化させることが重要です。CBTにより、約50%の患者で幻聴の改善が見られ、特に苦痛度の軽減効果が高いとされています。
日常生活での対処法と工夫
日常生活での対処法は、幻聴と共存しながら生活の質を維持するために重要です。環境調整により、幻聴を軽減することができます。静かすぎる環境は幻聴を強めるため、適度な背景音(音楽、ラジオ、テレビなど)を利用します。イヤホンやヘッドホンで音楽を聴くことも有効です。規則正しい生活リズムを保ち、十分な睡眠を確保することで、幻聴の悪化を防ぎます。ストレス管理も重要で、リラクセーション法、運動、趣味活動などによりストレスを軽減します。
社会的活動への参加も幻聴の対処に有効です。他者との交流は、幻聴から注意をそらし、現実検討能力を高めます。デイケア、作業所、自助グループなどへの参加により、孤立を防ぎ、社会的支援を得ることができます。ピアサポート(同じ経験を持つ仲間との支援)は、特に有効で、幻聴への対処法を共有し、励まし合うことができます。
幻聴日記をつけることも推奨されます。幻聴の内容、状況、感情、対処法とその効果を記録することで、パターンを発見し、効果的な対処法を見つけることができます。また、治療者と情報を共有し、治療に活かすこともできます。家族や支援者の理解と協力も不可欠です。幻聴について開かれた対話を持ち、必要な支援を求めることが大切です。幻聴があっても、仕事、趣味、人間関係など、意味のある活動に取り組むことで、充実した生活を送ることが可能です。
関連記事:統合失調症の入院レベルとは?判断基準と入院形態を詳しく解説
まとめ

統合失調症の幻聴は、実際には存在しない声が聞こえる症状で、患者の約70-80%が経験します。対話性幻聴、命令幻聴、注釈幻聴などの種類があり、特に対話性幻聴は統合失調症の診断的価値が高い症状です。幻聴は本人にとって確実に聞こえる現実的な体験であり、日常生活に大きな影響を与えます。
幻聴の原因は、脳の言語野や聴覚野の異常な活動、ドーパミン系の過活動などが関与しています。ストレス、社会的孤立、睡眠不足などの環境要因も幻聴を悪化させます。統合失調症以外にも、気分障害、解離性障害、器質性疾患などで幻聴が出現することがあり、鑑別診断が重要です。
治療は薬物療法が基本で、抗精神病薬により60-70%の患者で幻聴が改善します。第二世代抗精神病薬が第一選択で、治療抵抗性の場合はクロザピンが有効です。認知行動療法も有効で、幻聴への認知を修正し、対処スキルを開発します。
日常生活では、環境調整、ストレス管理、社会的活動への参加などが幻聴の対処に有効です。適度な背景音の利用、規則正しい生活、幻聴日記の記録なども推奨されます。家族の理解と支援も重要です。
適切な治療と対処法により、多くの患者が幻聴をコントロールし、充実した生活を送ることが可能です。幻聴が完全に消失しなくても、苦痛を軽減し、機能を改善することで、社会参加と自己実現が可能となります。
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