気分が高揚して眠らなくても活動的な時期があったり、突然気分が落ち込んで何もやる気が出ない状態が続いたりすることはありませんか。これらの症状は、双極性障害(躁うつ病)に見られる代表的な特徴です。
自分でも気づかないうちに生活や人間関係に影響を及ぼす可能性があり、早期の理解と対処が大切です。本記事では、セルフチェックを通じて双極性障害の特徴を知り、受診の判断や今後の対策を考えるためのポイントを詳しく解説します。
双極性障害とは

双極性障害とは、気分が高揚する「躁状態」と、気分が沈む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。かつては「躁うつ病」と呼ばれており、気分の変動が極端な点が特徴です。周囲からは「性格の問題」「気分屋」と誤解されやすいですが、実際は脳の働きに関係する生物学的な病気です。症状の波は個人差があり、周期的に現れる人もいれば、年に1度だけ起こる人もいます。多くの人が日常生活に支障をきたすため、早期の理解とサポートが重要です。
躁状態と抑うつ状態を繰り返す病気
躁状態では、睡眠時間が短くても元気が続き、アイデアが次々に浮かび、何事にも挑戦したくなる気分になります。会話量が増え、普段よりも声が大きく、話すスピードが早くなります。自信に満ちているように見える反面、周囲とのトラブルを起こすこともあります。
うつ状態では、一転して気分が沈み込み、何をしても楽しめなくなり、集中力が低下します。このように両極端な状態を行き来するため、「双極性」と呼ばれます。気分の波が激しいため、仕事や人間関係に影響が及ぶことも珍しくありません。
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うつ病との違いと誤診されやすい理由
双極性障害はうつ病と症状が重なる部分が多いため、初診時に「うつ病」と誤診されやすい病気です。特に、軽躁状態が短期間で終わるタイプ(双極Ⅱ型)では、本人も躁状態に気づかず、医師にも報告しないケースがあります。
そのため、うつ状態だけを見て診断されることが多いのです。うつ病は気分が落ち込む状態が続くだけですが、双極性障害は一時的に「異常なほど元気」になる期間を伴います。診断を誤ると治療方針も異なり、回復が遅れるため、過去の気分の変化を丁寧に振り返ることが大切です。
発症の年齢層と影響の大きさ
双極性障害は10代後半から30代前半にかけて発症することが多く、人生の転機と重なる時期に影響を及ぼします。進学、就職、結婚などのタイミングで発症すると、本人も家族も大きな不安を抱えます。
長期的なキャリアや人間関係にも影響が出ることがあるため、早めに気づくことが何より重要です。また、発症しても適切な治療を受ければ、社会生活を維持することは十分に可能です。
双極性障害の主な原因
双極性障害の原因はひとつではなく、遺伝的要因、環境的ストレス、脳内物質のバランスなどが複合的に影響しています。どれか一つが原因というよりも、複数の要因が重なり合って発症するケースが多いのが特徴です。
遺伝的要因と家族歴
研究によると、家族に双極性障害やうつ病を持つ人がいる場合、発症リスクが一般よりも高くなることがわかっています。ただし、遺伝子そのものが病気を「決定」するわけではありません。
脳の神経伝達の仕組みやストレス反応に影響を与える体質が遺伝しやすいという傾向があるのです。つまり、「なりやすい体質」はあっても、環境次第で発症を防ぐことも可能です。遺伝的背景を持つ人は、生活リズムを整え、ストレスを適切にコントロールすることが大切です。
ストレスや環境要因の影響
強いストレスは双極性障害の発症や悪化の引き金になるといわれています。職場の人間関係、家庭内のトラブル、生活の変化などが心理的負担となり、気分の波を助長します。特に真面目で責任感の強い人ほど、ストレスを内にため込みやすく、発症リスクが高まります。
過去のトラウマ体験や睡眠不足も発症要因となることがあります。環境の変化や強いストレスを感じたときは、心のサインを見逃さず、早めの対処が必要です。
神経伝達物質とホルモンの関係
脳内では、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が感情や意欲をコントロールしています。双極性障害では、これらの物質のバランスが乱れることで気分が極端に変動します。
また、ホルモン分泌の異常も関係しており、睡眠の質や生体リズムに影響を与えます。近年では、ストレスホルモン「コルチゾール」の変動が躁うつのサイクルに関与している可能性も指摘されています。規則正しい生活と十分な睡眠は、こうした脳内バランスを整えるためにも重要です。
双極性障害の種類
双極性障害には主に「双極Ⅰ型」と「双極Ⅱ型」があり、それぞれに特徴と治療の方向性が異なります。どちらも「気分の波」を特徴としますが、症状の強さや持続期間によって分類されます。
双極Ⅰ型障害の特徴
双極Ⅰ型は、躁状態が非常に強く現れるタイプです。周囲から見ると、過剰に活動的で落ち着きがなく、話し続けたり、衝動的な行動を取るようになります。自信過剰になり、根拠のない成功を信じ込んだり、浪費や突発的な投資をすることもあります。
家族や職場でトラブルが増え、社会的信用を失う危険もあります。躁の後に強いうつ状態が訪れることが多く、感情の落差が非常に激しいのが特徴です。症状が強い場合は入院治療が必要になることもあります。
双極Ⅱ型障害の特徴
双極Ⅱ型は、躁状態が比較的軽く、軽躁状態と長いうつ状態を繰り返すタイプです。軽躁の時期は一見「調子が良い」「仕事ができる」と思われがちですが、実際には集中力の欠如や判断力の低下を伴い、無理なスケジュールや言動を重ねてしまうことがあります。
うつ期には深い無力感に襲われ、動けなくなるほどの倦怠感を感じます。本人が「躁の時期」を病気と自覚しづらいことから、治療の開始が遅れやすい傾向があります。軽い躁であっても、長期的には生活に支障をきたす重大な疾患です。
軽躁状態(ハイテンション)の落とし穴
軽躁状態は快調で活発なため、本人も周囲も異常と感じにくいのが厄介です。しかし、睡眠不足、浪費、対人トラブルなど、徐々に行動の逸脱が見られます。その後、強い疲労感や抑うつ状態が反動として訪れることが多く、結果的に心身のバランスを崩します。
「最近元気すぎるかも」と感じたときこそ注意が必要であり、気分の変化を記録しておくことが再発防止に役立ちます。
双極性障害のセルフチェックリスト

セルフチェックは、気分や行動の変化に早めに気づくための有効な手段です。以下の項目に複数該当する場合は、双極性障害の可能性があるため、専門医への相談を検討しましょう。
躁状態に見られるサイン
- 睡眠時間が少なくても疲れを感じない
- 自分の能力を過信し、何でもできると感じる
- 話すスピードが速く、止まらなくなる
- 計画を立てずに衝動的に行動する
- 普段よりも浪費や飲酒が増える
躁状態では、本人は「好調」と感じており、危険に気づきません。しかし、周囲から見ると無理をしているように見えたり、会話が極端に多くなったりするため、客観的な観察が重要です。行動が普段より活発になりすぎていると感じたら、一度立ち止まる意識を持ちましょう。
うつ状態に見られるサイン
- 何事にも興味が持てず、楽しく感じない
- 集中力が低下し、仕事や勉強が手につかない
- 強い疲労感や倦怠感が続く
- 自己否定や罪悪感に支配される
- 食欲・体重・睡眠のリズムが乱れる
うつ状態では、心身のエネルギーが極端に低下し、日常生活に支障をきたします。特に「何もする気が起きない」「自分が無価値だと感じる」などの症状が続く場合は、早めの医療介入が必要です。気分の落ち込みが2週間以上続くときは、うつ病だけでなく双極性障害の可能性も考えましょう。
混合状態に気づくポイント
躁と抑うつが同時に現れる「混合状態」では、気分は落ち込んでいるのに焦燥感が強く、衝動的な行動を取ることがあります。たとえば「泣きながら仕事に没頭する」「不安で動き回る」といった状態です。
この状態は自殺リスクが高まるため、早期の専門的治療が必要です。セルフチェックはあくまで気づきの手段であり、最終的な診断は医師に委ねることが大切です。
双極性障害の診断基準(DSM-5準拠)
双極性障害を診断する際には、国際的な診断基準であるDSM-5が用いられます。これはアメリカ精神医学会が定めたもので、症状の種類や持続期間、社会生活への影響などを明確に判断するための指標です。正確な診断は、治療方針を決定する上で極めて重要なステップとなります。
躁病エピソードの基準
DSM-5では、少なくとも1週間以上続く異常な高揚感、または易怒性の持続が必要です。さらに以下のうち3項目以上が該当すれば躁病エピソードとされます。
・睡眠欲求の減少
・話が止まらない
・注意散漫
・過剰な目標志向行動
・衝動的な行動
軽躁病エピソードの基準
4日以上続く軽い高揚感や活動性の増加が特徴で、周囲が「普段と違う」と感じるレベルです。ただし社会生活を完全に破壊するほどではなく、軽度の段階です。本人は「好調」と感じることが多いため、病気の自覚が乏しい傾向にあります。
うつ病エピソードの基準
2週間以上、気分の落ち込みや興味の喪失が続く場合にうつ病エピソードとされます。睡眠や食欲の変化、倦怠感、自殺念慮なども含まれます。双極性障害では、これらのエピソードが周期的に繰り返される点が特徴です。
双極性障害の症状詳細
双極性障害の症状は、躁状態・うつ状態のそれぞれで大きく異なります。日常生活の中では気づきにくいサインも多く、行動や思考、睡眠、集中力など多方面に影響を及ぼします。ここでは状態ごとの特徴をより具体的に見ていきましょう。
躁状態で見られる行動
エネルギーにあふれ、常に動き続けているように見えます。多弁になり、話題が次々に変わり、周囲がついていけなくなることもあります。金銭感覚が緩くなり、衝動的な買い物をしたり、無謀な挑戦をしたりすることもあります。一見ポジティブに見えるため、病気と気づきにくい点が危険です。
うつ状態で見られる行動
無気力、疲労感、集中力の低下、興味喪失などが主な特徴です。社会的なつながりを避け、引きこもる傾向も強まります。思考力が低下し、将来への希望を持てなくなることも多いです。自分を責める気持ちが強く、自殺念慮につながるケースもあるため、早期の介入が重要です。
思考・判断・睡眠・集中力への影響
躁期には思考が加速し、複数のことを同時に考えるようになります。一方、うつ期には考えがまとまらず、思考停止のような状態になります。睡眠リズムも乱れ、夜眠れない日が続くこともあります。これらが積み重なると、仕事や学業のパフォーマンスに大きな影響を与えます。症状を日々記録することで、自分のリズムを理解することが回復への近道になります。
双極性障害になりやすい人の特徴
誰にでも発症の可能性がある一方で、特定の性格傾向や生活習慣がリスクを高めることが知られています。自分自身や家族の傾向を知ることで、早期発見や再発予防に役立てることができます。
完璧主義・責任感が強い人
「常に結果を出さなければならない」「人に迷惑をかけてはいけない」と考える完璧主義の人は、ストレスをためやすく、気分の波が激しくなりやすい傾向があります。特に職場や家庭での期待に応えようと無理を重ねる人は要注意です。
感情表現が苦手な人
感情を内に秘めるタイプの人は、ストレスを発散できず、心の負担を溜め込みます。ネガティブな気分が長引きやすく、うつ状態に移行しやすい傾向があります。
ストレス耐性が低い人
ちょっとしたトラブルでも強い不安を感じる人は、気分の波に影響を受けやすくなります。自分のストレス反応を理解し、早めに休むことが予防につながります。
セルフチェックの限界と受診の目安

セルフチェックは便利なツールですが、あくまで自己観察の補助にすぎません。正確な診断には医師の評価が不可欠です。特に気分の波が生活や人間関係に影響している場合は、早めの受診を検討することが大切です。
セルフチェックでは判断できない要素
双極性障害は、気分の波の経過を長期的に見て初めて診断できます。セルフチェックではその「経時的な変化」を正確に判断できません。また、本人が躁状態を「快調」と誤解して報告しないことも多く、自己判断だけでは誤診につながる危険があります。
医師による診断プロセス
診察では、問診、心理検査、家族からの情報提供などを総合的に行います。特に、過去数年にわたる気分変化の履歴は重要です。診断までに数か月かかる場合もありますが、正確な治療方針を立てるためには不可欠なプロセスです。
受診を検討すべき症状のサイン
気分の変化が生活や人間関係に影響している場合は、受診を検討するべきです。また、「最近の自分がいつもと違う」と感じたときも、専門医に相談することが望ましいです。早期に専門家へ相談することで、回復の可能性が大きく広がります。
まとめ
双極性障害は、適切な理解と治療によって安定した生活を取り戻すことができます。セルフチェックを通じて早期に気づくことが、回復への第一歩です。気分の波や疲れを感じたら、専門家への相談をためらわずに行いましょう。
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