双極性障害は「一生治らない」と感じてしまう方も多い精神疾患の一つです。躁状態とうつ状態を繰り返すため、安定した生活を送ることが難しく、不安を抱く人が少なくありません。
しかし、近年では医療や心理的支援の進歩により、症状をコントロールしながら社会生活を送ることが十分に可能となっています。本記事では、双極性障害の特徴や原因、治療法、再発予防の方法などを詳しく解説し、安定した生活を取り戻すための具体的なヒントをお伝えします。
双極性障害は一生治らないのか?

「双極性障害は治らない」と耳にすることがありますが、実際には「寛解」を目指すことができます。寛解とは、症状がほとんど現れず、日常生活を安定して送れる状態を指します。つまり、完治ではないものの、治療によって再発を防ぎながら穏やかに暮らせるのです。
双極性障害の治療では、症状を抑えるだけでなく、長期的な安定を目標にします。薬物療法や心理療法、生活習慣の改善などを継続することで、多くの方が社会復帰を果たしています。
双極性障害の特徴と種類
双極性障害を理解するには、その特徴とタイプを知ることが重要です。正しい理解が治療やセルフケアの第一歩となります。
躁状態とうつ状態を繰り返す
双極性障害は、気分が高揚する「躁状態」と、気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す病気です。躁状態では活動的になり、睡眠が少なくても元気で、計画的でない行動をとることがあります。
一方、うつ状態ではエネルギーが枯渇し、何もできないほどの無気力に陥ることもあります。このような波が周期的に訪れるため、本人も周囲も戸惑いやすいのが特徴です。重要なのは、この変化を病気として認識し、早期に治療へつなげることです。
双極Ⅰ型と双極Ⅱ型の違い
双極性障害には「Ⅰ型」と「Ⅱ型」があります。Ⅰ型は激しい躁状態とうつ状態を繰り返し、日常生活や社会生活に大きな支障をきたすことが多いです。一方、Ⅱ型は躁状態が軽い「軽躁状態」とうつ状態を繰り返すタイプです。
Ⅱ型はうつ状態が中心となるため、うつ病と誤診されやすい点に注意が必要です。どちらのタイプも早期発見と治療が重要で、適切なサポートがあれば社会生活を維持できます。
双極性障害とうつ病の違い
うつ病は基本的に「気分の落ち込み」が続く状態で、躁状態は見られません。対して、双極性障害は気分の波がある点で異なります。この違いを見極めることで、正しい治療が選択されます。誤診によって抗うつ薬のみを服用すると、躁転(躁状態に切り替わる現象)を起こすリスクもあるため、専門医の診断を受けることが不可欠です。
双極性障害の原因
双極性障害の原因は一つではなく、遺伝・環境・脳の働きなど複数の要素が重なって発症すると考えられています。どれか一つが原因というよりも、もともと持っている「脳の特性」にストレスなどの外的要因が加わることで症状が表れます。ここでは、主な三つの原因を具体的に見ていきましょう。
遺伝的要因
双極性障害は、家族内での発症率が高いことから、遺伝的な影響が一定あるとされています。例えば、親や兄弟に双極性障害の人がいる場合、発症する可能性は一般の人よりもやや高くなります。
ただし、「遺伝する=必ず発症する」というわけではありません。遺伝子はあくまで発症しやすい体質をつくる要素の一つであり、実際に発症するかどうかは環境やストレスの影響も大きく関係します。
また、研究によると、感情を司る脳の部位である前頭葉や扁桃体の働き方に家族間で似通った特徴が見られることもわかっています。こうした脳の反応パターンが、感情の波を大きくしやすい傾向に繋がっていると考えられています。つまり、遺伝は発症リスクを高める一因であっても、生活環境や支援体制によって十分にコントロールできる要素でもあるのです。
環境的ストレス
環境的ストレスは、双極性障害の発症や再発を促す最も身近な要因です。特に、仕事や人間関係のストレス、過労、生活リズムの乱れなどは大きく影響します。過度なプレッシャーを受ける状況が続くと、脳内の神経伝達が不安定になり、感情のコントロールが難しくなります。
さらに、家庭内の不和や孤立感、過去のトラウマなど心理的な負担も症状を悪化させる要素となります。一方で、環境的な要因は調整が可能なものでもあります。仕事量を見直したり、休息を十分に取ったり、サポートしてくれる人との関係を築くことで、ストレスの影響を減らせます。
特に、睡眠不足は躁状態の引き金になりやすいため、睡眠習慣の改善は最も効果的な再発予防策です。自分のストレス要因を理解し、少しずつ減らす努力が長期的な安定に繋がります。
脳内の神経伝達物質の異常
脳の中では、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が感情や思考をコントロールしています。これらのバランスが崩れると、感情の波が大きくなり、躁状態とうつ状態を繰り返す傾向が強まります。特に、セロトニンは「安定した気分を保つ」働きを担っており、その分泌が低下すると気分の落ち込みや不安が強くなります。
逆に、ドーパミンが過剰に分泌されると興奮や衝動性が高まり、躁状態を引き起こすことがあります。こうした神経の働きは、生活習慣やストレス、睡眠不足によっても大きく影響を受けます。
そのため、薬物療法で神経伝達のバランスを整えることが治療の中心となるのです。また、薬だけでなく、規則正しい生活や心理的支援によっても脳内環境を安定させることができます。脳の化学反応は目に見えませんが、治療を続けることで確実に改善していく要素です。
双極性障害の治療法

双極性障害の治療は、症状の改善と再発防止を目的とした長期的な取り組みです。短期間での完治を目指すものではなく、安定した状態を保つ「寛解」をゴールとします。ここでは主な治療法を3つの視点から解説します。
薬物療法
薬物療法は双極性障害の中心的な治療です。主に「気分安定薬」「抗精神病薬」「抗うつ薬」が使用されます。気分安定薬は躁状態やうつ状態を防ぎ、感情の波を穏やかに保つ役割を果たします。
リチウムは代表的な薬で、長期的な再発防止にも有効です。抗精神病薬は、躁状態が強い場合に用いられ、興奮や焦燥感を抑える効果があります。抗うつ薬はうつ状態のときに処方されますが、躁転(うつから躁への切り替わり)を防ぐため、気分安定薬と併用されます。
薬は個々の症状に合わせて調整されるため、医師との継続的な相談が欠かせません。副作用が出る場合もあるため、自己判断で中止することは避け、定期的に診察を受けながら最適なバランスを探すことが重要です。
心理療法
心理療法は、薬物療法と並行して行われる重要な治療です。特に効果が高いとされるのが「認知行動療法(CBT)」と「対人関係療法(IPT)」です。認知行動療法では、自分の思考のクセや感情のパターンを見直し、ストレスへの対処力を高めます。双極性障害では気分の変化に伴って思考が極端になりやすいため、この療法が有効です。
対人関係療法は、家族や職場などの人間関係のストレスを整理し、トラブルを減らすことを目的とします。また、心理教育(患者と家族が病気の仕組みを学ぶ支援)も再発防止に役立ちます。家族が正しく理解することで、再発の兆候に早く気づけるからです。心理療法は即効性はないものの、治療への意識を高め、自己管理能力を育てる長期的な支援です。
電気けいれん療法(ECT)
電気けいれん療法(ECT)は、薬が効かない重度のうつ状態や躁状態に対して行われる治療法です。脳に短時間の電気刺激を与えることで、神経の働きを整え、症状を緩和します。かつては恐いイメージを持たれていましたが、現在は全身麻酔下で安全に行われ、苦痛はほとんどありません。
効果は高く、薬では改善しなかったうつ状態が軽減するケースも多いです。また、再発率を下げる維持療法としても利用されます。
ただし、治療を継続するには医師の判断と十分な説明が必要です。ECTは決して最後の手段ではなく、「必要に応じて選択できる有効な方法」として、専門医が推奨しています。身体への負担が少ない方法も開発が進んでおり、安心して受けられる医療が整っています。
寛解を目指すために大切なこと
寛解とは、症状が落ち着いて日常生活を支障なく送れる状態を指します。ここからは、安定を維持するために必要な考え方を紹介します。
病気を受け入れる
「なぜ自分が」と苦しむ方は多いですが、病気を受け入れることが回復への第一歩です。双極性障害は長期的な付き合いが必要な病気ですが、正しい理解と対応で安定を維持できます。完璧を求めず、できる範囲で生活を整えることが大切です。
治療を続けることで、感情の波が穏やかになり、再発のリスクも減少します。焦らず一歩ずつ前進する気持ちを持ちましょう。「病気と共に生きる覚悟」が、長期的な安定の鍵となります。
家族との協力体制を築く
家族の理解と支援は、治療を継続するうえで大きな助けになります。症状の変化を早期に察知できるのは、身近な家族だからです。日常生活の中で、気分の変動や行動の変化を共有し、異変を感じたら早めに医師へ相談できる環境を整えましょう。
家族が過度に心配しすぎないよう、医療機関のカウンセリングを利用して一緒に学ぶことも効果的です。家族と患者が協力して病気に立ち向かう姿勢は、再発防止だけでなく、安心して暮らすための土台にもなります。
再発サインを知る
再発には必ず「前兆」があります。たとえば、睡眠時間が短くなった、気分が高揚して多弁になる、または疲れやすく集中力が低下するといった変化です。これらのサインを放置すると、躁やうつの状態に進行する恐れがあります。
日記やアプリで気分を記録することで、早期に気づけるようになります。また、医師に共有することで、薬の調整や予防的対応が可能になります。自分自身の変化に敏感になることが、最も効果的な再発予防策です。
再発を防ぐための生活習慣

治療の効果を持続させるには、生活リズムの安定が欠かせません。ここでは日常でできる工夫を紹介します。
規則正しい生活
双極性障害では、睡眠の乱れが再発を招くことが多いです。毎日同じ時間に寝起きし、夜更かしを避けることが基本です。食事の時間や仕事・休憩のリズムを一定にすることも有効です。
体内時計が整うと、脳の神経伝達物質のバランスも安定しやすくなります。また、昼夜逆転や不規則な生活を避け、週末もできるだけ平日と同じリズムを保つよう心がけましょう。小さな積み重ねが、症状の波を穏やかにする力となります。
ストレス管理
ストレスは再発の最大の要因です。まず、自分にとってのストレス源を明確にし、回避や軽減の方法を探しましょう。たとえば、過剰な仕事量を抱えないようスケジュールを調整したり、対人関係で無理をしすぎないようにすることです。
また、趣味や運動などで心をリセットする時間を設けることも有効です。呼吸法や瞑想も、気分を落ち着かせるのに役立ちます。自分に合ったストレスケアを習慣にすることが、長期的な安定につながります。
服薬の継続
症状が落ち着いたからといって、薬を自己判断でやめるのは危険です。双極性障害は再発率が高く、服薬を中断すると急激に症状が悪化することがあります。医師の指示を守り、定期的に血中濃度を確認しながら薬を調整することが重要です。
服薬の目的は「症状を抑える」だけでなく、「再発を防ぐ」ことでもあります。副作用がつらい場合は我慢せず、医師に相談してください。安全で続けやすい治療法を見つけることが、安定した生活への近道です。
関連記事:双極性障害の末路とは?リスクと回避する具体策を詳しく解説
双極性障害と向き合うための心構え
双極性障害は長い時間をかけて付き合っていく病気です。しかし、決して「一生苦しむ病気」ではありません。正しい治療を継続し、周囲の支援を受けながら、自分のペースで社会生活を送ることは十分に可能です。
焦らず、自分を責めず、「できること」を一歩ずつ積み重ねていきましょう。再発を恐れるよりも、「安定を維持する方法を知る」ことが何より大切です。
まとめ
双極性障害は「一生治らない病気」ではなく、適切な治療と生活の工夫で安定を保つことができます。再発を防ぐには、医師との連携と日常のセルフケアが鍵です。
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