うつ病の人に「言ってはいけない」NGワード集と、正しい接し方
精神科訪問看護とは「大切な人がうつ病かもしれない…」そう感じたら、あなたはまず何をするでしょうか? 何を話せば良いのか、どう接すれば良いのか、きっと戸惑うことでしょう。
この記事では、うつ病の人との接し方で大切なこと、やってはいけないこと、そして、あなたにできることを分かりやすく解説します。専門家監修のもと、具体的な事例や、すぐに使えるフレーズもご紹介します。
うつ病とは?基本的な知識を理解する

身近な方がうつ病になった、あるいはその兆候が見られる場合、まず病気そのものを正しく理解することが、適切なサポートへの第一歩となります。うつ病は、単なる気分の落ち込みではなく、脳の機能的な不調が原因で起こる病気です。
ここでは、うつ病の基本的な知識として、どのような症状が現れるのか、なぜ発症するのか、そしてどのような治療法があるのかを解説します。これらの知識を深めることは、相手の苦しみをより深く理解し、効果的なサポートを行うための土台となります。
うつ病の症状
うつ病の症状は、身体的、精神的、行動面に幅広く現れます。これらの症状は個人差が大きく、すべての人に当てはまるわけではありませんが、代表的なものを以下に挙げます。
| 精神的な症状 | ・気分の落ち込み、悲しみ、ゆううつ感 ・興味や喜びの喪失(以前は楽しめていたことに興味が持てなくなる) ・集中力や注意力の低下 ・決断力の低下、優柔不断 ・自己否定感、罪悪感、無価値感 ・イライラ感、怒りっぽさ ・不安感、焦燥感 ・希死念慮(死にたいと考えること) |
| 身体的な症状 | ・睡眠障害(不眠、過眠) ・食欲の変化(食欲不振、過食) ・体重の増減 ・疲労感、倦怠感 ・頭痛、腹痛、動悸などの身体症状(検査をしても原因が見つからないことが多い) ・性欲の低下 |
| 行動面の症状 | ・無気力、何もする気が起きない ・活動量の低下、引きこもり ・身だしなみへの関心の低下 ・表情が乏しくなる、声が小さくなる ・涙もろくなる |
これらの症状が、2週間以上ほとんど毎日続き、日常生活に支障をきたしている場合は、うつ病の可能性があります。
関連記事:うつ病の初期症状とは?心と身体のサインに気付いて!早期発見と対処法について解説
うつ病の原因
うつ病の原因は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。主な要因として、以下の3つが挙げられます。
生物学的要因
生物学的な側面では、脳内の神経伝達物質であるセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンといった物質の働きが低下することが、うつ病の発症に関わるとされています。ストレスによってこれらの物質が減少したり、バランスが崩れたりすることが引き金になる場合があります。
また、家族にうつ病の人がいると発症リスクがやや高まることから、遺伝的要因も指摘されています。ただし、遺伝だけで決まるものではなく、環境や心理的要因との相互作用が重要です。さらに、甲状腺機能低下症や脳血管障害などの身体疾患がうつ病を引き起こすケースもあります。
心理的要因
心理的な要因としては、完璧主義や几帳面、心配性、自己肯定感の低さといった性格傾向が、ストレスへの弱さにつながることがあります。人間関係のトラブル、仕事のプレッシャー、失業、死別、病気、経済問題など、大きなストレスや長期間続くストレスは、うつ病の大きな誘因となります。
さらに、幼少期の虐待やネグレクトといった過去のトラウマ体験は、後年のうつ病発症リスクを高める可能性があります。
社会的要因
社会的な側面では、人とのつながりが少なく孤立している状況が、うつ病リスクを高めるといわれています。また、結婚・離婚・転居・退職など、生活環境の大きな変化は心理的負担となり、発症につながることがあります。加えて、失業や経済的な困窮といった生活基盤の不安定さは、精神的ストレスを増大させる大きな要因です。
これらの要因が単独で作用するのではなく、複数組み合わさることで、うつ病が発症すると考えられています。そのため、回復にも、これらの要因に複合的にアプローチすることが重要です。
うつ病の治療法
うつ病の治療は、病気の原因や症状の程度に応じて、いくつかの方法を組み合わせて行われます。早期に適切な治療を開始することが、回復への近道です。
薬物療法
薬物療法は、うつ病治療の中でも最も一般的に行われる方法です。脳内の神経伝達物質のバランスを整える抗うつ薬が処方され、気分の改善を目指します。薬の効果が現れるまでには数週間かかることが多く、医師の指示に従って継続して服用することが大切です。もし副作用があらわれた場合は、自己判断で中止せず、必ず医師に相談するようにしましょう。
精神療法(心理療法)
精神療法は、カウンセリングや対話を通じて、うつ病につながる考え方や行動パターンを見直し、より健康的な思考と行動へ導いていく治療法です。代表的な療法として、まず「認知行動療法(CBT)」があります。これは否定的な思考や行動を修正することで気分の改善を促すものです。
また、「対人関係療法(IPT)」は対人関係の問題に焦点を当て、関係性の改善を図ることでうつ症状を軽減していきます。さらに、「精神分析的心理療法」では、深層心理に働きかけ、過去の経験や未解決の葛藤と向き合いながら問題の根本的な解消を目指します。
生活習慣の改善
生活習慣の見直しも、うつ病の回復に大きな効果を持つ重要な治療要素です。規則正しい睡眠を心がけ、毎日の寝起きのリズムを整えることは気分の安定につながります。また、栄養バランスの取れた食事を続けることで身体の状態が整い、心の健康にも良い影響を与えます。
散歩や軽いジョギングなど、無理のない範囲での運動は気分転換に役立ち、脳の活性化にもつながります。加えて、適度に日光を浴びることで体内時計が整い、気持ちの安定が促されます。何よりも大切なのは、無理をせず十分な休息を取ることです。
その他の治療法
そのほかの治療法として、「電気けいれん療法(ECT)」が挙げられます。これは重症のうつ病で、ほかの治療法ではなかなか効果が得られない場合に検討される方法で、安全性が高く有効性も認められています。また、「光療法」は季節性うつ病などに用いられ、強い光を浴びることで症状の改善が期待されます。
関連記事:うつ病の治し方|医師が教える回復への具体的な方法と注意点
うつ病の人との接し方で「やってはいけないこと」

うつ病の人は、些細な言葉や行動でも深く傷ついたり、症状が悪化したりすることがあります。このセクションでは、うつ病の人とのコミュニケーションにおいて、絶対に避けるべき「NGワード」と「NG行動」を具体的に解説します。相手を傷つけず、安心感を与えるための配慮を学び、不用意な言動で関係を悪化させないための知識を提供します。
してはいけない言葉(NGワード)
うつ病の人は、脳の機能が低下しているため、意欲や気力の低下、集中力の低下などを感じています。そのため、「頑張れ」といったポジティブな言葉であっても、プレッシャーに感じたり、自分を責める原因になったりすることがあります。具体的には、以下のような言葉は避けるようにしましょう。
- 「頑張れ」「もっと頑張って」: 本人がすでに精一杯努力している場合、この言葉は追い詰めることになります。
- 「気のせいだよ」「考えすぎだよ」: 症状を否定されたと感じ、孤独感を深める可能性があります。
- 「いつまで休むの?」「早く元気になって」: 回復に時間がかかることを理解せず、プレッシャーを与えてしまいます。
- 「あなただけじゃない」「みんな大変なんだ」: 他者と比較することで、相手の苦しみを軽視していると受け取られかねません。
- 「元気出して」「楽しんで」: 感情のコントロールが難しい状態にあるため、無理強いされているように感じてしまいます。
- 「私がどれだけ心配しているか分かってる?」: 相手への配慮よりも、自分の感情を優先しているように聞こえることがあります。
これらの言葉を避ける代わりに、相手の気持ちに寄り添う言葉を選ぶことが大切です。
してはいけない行動
言葉だけでなく、行動においても配慮が必要です。うつ病の人は、些細なことで疲弊したり、不安を感じたりすることがあります。以下のような行動は避けましょう。
- 無理に外出を誘う、または無理強いする: 体力や気力が低下しているため、外出が大きな負担になることがあります。相手のペースに合わせ、本人の意思を尊重しましょう。
- 本人のいないところで、うつ病について噂話をする: プライバシーへの配慮を欠き、不信感を与えます。本人の許可なく、第三者に病状を話すのは控えましょう。
- 過度な期待をかけたり、プレッシャーを与えたりする: 仕事や家事など、本人ができないことに対して「できるはずだ」と期待しすぎると、自己肯定感をさらに低下させてしまいます。
- 相手のペースを無視して、一方的に話を進める: 集中力が低下しているため、長話や早口での説明は疲労を招きます。ゆっくりと、相手の反応を見ながら話しましょう。
- 相手の回復を急かすような態度をとる: 回復には波があり、時間がかかることを理解し、焦らせないことが重要です。見守る姿勢が大切です。
- 安易にアドバイスをする、または説教をする: 本人が求めていないアドバイスや、一方的な意見は、相手を追い詰める可能性があります。まずは話を聞くことに徹しましょう。
これらの行動を避けることで、相手に安心感と信頼感を与えることができます。
うつ病の人に「してあげられること」
大切な人がうつ病と診断された、あるいはその兆候が見られるとき、どのように接したら良いか戸惑うのは当然のことです。しかし、あなたの温かいサポートは、その人の回復への大きな力となります。このセクションでは、うつ病の人に対して具体的にどのようなサポートができるのか、そして、どのように接すれば相手の心に寄り添えるのかを、具体的な事例や例文を交えながら解説していきます。
話の聞き方
うつ病の人は気持ちをうまく言葉にできないことが多いため、まずは相手のペースを尊重しながら話を聞く姿勢が大切です。スマートフォンを触らずしっかり向き合い、うなずきや相槌で「聞いているよ」という安心感を伝えます。否定や励ましすぎは避け、「つらかったね」などの共感を示すことで、相手が安心して気持ちを話せるようになります。言葉が出てこない沈黙も無理に埋めず、そっと一緒にいることが支えになります。
サポートの具体的な方法
うつ病のときは、家事や買い物など日常のことでも負担が大きくなります。「手伝わせてほしい」と優しく声をかけ、できる範囲で家事をサポートするだけでも相手の負担が軽くなります。通院の付き添いや送迎も大きな助けになります。また、散歩や好きな音楽など軽い気分転換を提案したり、一緒に食事をするなど生活リズムの維持をサポートすることも効果的です。ただし、どのサポートも無理強いはせず、相手の状態を尊重することが重要です。
困ったときの対応
ときには相手がサポートを拒んだり、症状が悪化する場面に出会うことがあります。拒否的な態度のときは無理に関わろうとせず、「いつでも話せるからね」と伝えて見守ることで安心感を与えられます。もし「死にたい」といった言葉が出るなど深刻な兆候がある場合は、一人で抱え込まず主治医や相談窓口、精神科救急など専門家につなげることが必要です。
また、支える側も心身の負担が大きくなりやすいため、家族や友人に相談したり、自身も専門家のサポートを受けるなど、抱え込みすぎないことが長く寄り添うための大切なポイントです。
立場別の接し方のポイント
前のセクションでは、うつ病の人との接し方で「やってはいけないこと」と「してあげられること」について解説しました。しかし、相手との関係性によって、適切な接し方やサポートの方法は異なります。ここでは、家族、友人、職場の同僚という、それぞれの立場からできる具体的な関わり方について解説します。
家族の場合
家族は、うつ病の人にとって最も身近で、安心できる存在であると同時に、最も気遣いが必要な関係でもあります。病状の波を理解し、焦らず、根気強く寄り添う姿勢が大切です。具体的には、本人のペースを尊重し、無理強いをしないことが重要です。食事や身の回りの世話など、日常生活のサポートが必要な場合は、本人の意思を確認しながら、できる範囲で行いましょう。
また、通院への付き添いや、医師・カウンセラーからの指示を共有する際も、本人の気持ちを最優先に考えてください。家族だからといって、感情的になったり、過干渉になったりしないよう、冷静な対応を心がけることが、回復への大きな力となります。
友人の場合
友人としては、相手との適切な距離感を保ちながら、温かく見守ることが大切です。無理に励ましたり、「元気を出して」といった言葉をかけたりすることは避けましょう。代わりに、相手の話をじっくりと聞き、共感する姿勢を示すことが重要です。「いつでも話を聞くよ」「何かできることがあったら言ってね」といった、相手が安心できるような言葉を伝え、プレッシャーを与えずに、そっと寄り添うことが求められます。
一緒に過ごす際は、相手の体調に合わせて、無理のない範囲で、散歩や軽い運動、趣味などを楽しむことも、気分転換につながることがあります。ただし、本人が望まない場合は、誘いを断っても問題ないことを伝え、相手の意思を尊重しましょう。
同僚の場合
職場の同僚として接する場合、業務への配慮と、プライベートとの線引きを意識することが重要です。うつ病の症状によっては、集中力や意欲の低下が見られることがあります。業務の分担を見直したり、締切に余裕を持たせたりするなど、周囲でサポートできることを検討しましょう。
ただし、過度な配慮は、かえって相手に負担をかける可能性もあります。本人の意思を確認しながら、できる範囲でのサポートに留めることが大切です。また、職場でうつ病についてオープンにするかどうかは、本人の意向を尊重しましょう。プライベートなことなので、むやみに詮索したり、周囲に言いふらしたりすることは避けるべきです。必要であれば、上司や人事部に相談し、適切な対応を検討することも重要です。
うつ病の人を支えるために大切なこと

うつ病の回復には長い時間がかかることが多く、焦りやプレッシャーはかえって状態を悪化させてしまう可能性があります。あなた自身も、相手を支えるという責任感から、つい焦ってしまいそうになるかもしれません。しかし、うつ病の人を支える上で最も大切なのは、長期的な視点を持ち、相手のペースを尊重しながら、根気強く寄り添うことです。ここでは、そのための具体的な心構えを3つのポイントに分けて解説します。
焦らない
うつ病の回復プロセスは、一人ひとり異なります。数週間で回復する人もいれば、数ヶ月、あるいはそれ以上の時間がかかる人もいます。病状の波を乗り越えながら、少しずつ回復していくのが一般的です。
そのため、「早く元気になってほしい」「以前のように戻ってほしい」と焦る気持ちは、ご本人にとって大きな負担となります。良かれと思ってかけた言葉が、かえってプレッシャーになってしまうことも少なくありません。まずは、「回復には時間がかかるものだ」ということを、ご自身がしっかりと理解しておくことが大切です。そして、相手の小さな変化に一喜一憂せず、長い目で温かく見守る姿勢を持ちましょう。
見守る
うつ病の人は、気力が低下し、何をするのも億劫に感じている状態です。そんな時、あれこれと指示をしたり、無理やり何かをさせようとしたりすることは避けましょう。本人の意思を尊重し、本人が「やりたい」と思ったことや、「手伝ってほしい」と言われたことに、できる範囲で応えることが大切です。
また、本人が話したい時には耳を傾け、話したくない時には無理に聞き出そうとしないなど、本人のペースに合わせた関わり方を心がけましょう。安心できる環境で、本人が自分でペースを掴めるように、そっと見守ってあげてください。もちろん、生活のサポートが必要な場合には、具体的に何を手伝えば良いかを確認し、できる範囲で協力することも大切です。
専門家への相談を勧める
うつ病の回復には、専門的な治療やサポートが不可欠です。しかし、ご本人が「病院に行くのは怖い」「カウンセリングなんて必要ない」と、受診や相談をためらうケースも少なくありません。そのような場合、無理強いするのではなく、まずはあなたが専門家や相談窓口について調べ、その情報を穏やかに伝えてみましょう。
「こういう相談窓口があるみたいだよ」「お医者さんに相談してみるのも一つの方法かもしれないね」といった形で、選択肢の一つとして提示するのが効果的です。もしご本人が少しでも前向きな姿勢を見せたなら、一緒に病院を探したり、予約を取る手伝いをしたりすることも、大きな支えになります。一人で抱え込まず、専門家の力を借りることは、ご本人にとっても、そしてあなた自身にとっても、とても大切なことです。
相談できる窓口・支援サービス
うつ病という病気は、本人だけでなく、そのご家族や周囲の人々にとっても、大きな負担となることがあります。一人で抱え込まず、専門機関や支援サービスに相談することは、問題解決への非常に有効な一歩となります。
ここでは、あなたが利用できる公的な相談窓口、支援団体、そしてオンラインカウンセリングサービスなど、具体的な相談先とその内容についてご紹介します。これらの情報が、あなたやあなたの身近な方の回復への道のりを少しでもサポートできれば幸いです。
公的な相談窓口
公的な相談窓口は、無料で専門的なアドバイスを受けられる貴重な場所です。まずは、お住まいの地域の精神保健福祉センターや保健所などに相談してみましょう。専門の相談員が、あなたの状況に合わせて、適切な情報提供や、必要であれば医療機関の紹介なども行ってくれます。
- 精神保健福祉センター: 各都道府県・政令指定都市に設置されており、精神保健に関する相談や支援を行っています。電話相談や面談が可能です。
- 保健所: 地域住民の健康に関する相談窓口であり、精神保健に関する相談も受け付けています。
支援団体・NPO法人
うつ病の当事者や家族を支援する民間の団体も多く活動しています。同じような経験を持つ人々と繋がれたり、具体的な体験に基づいたアドバイスを得られたりすることが、大きな支えとなることがあります。
- 患者会: 同じ病気を抱える人々が集まり、情報交換や交流を行う場です。オンラインで活動している団体も増えています。
- 支援NPO: うつ病に関する啓発活動や、当事者・家族への相談支援、就労支援など、多岐にわたる活動を行っている団体があります。
まとめ
うつ病は、気持ちの問題ではなく脳の働きに関わる治療が必要な病気です。症状や原因、治療法を正しく理解することは、本人を支えるうえで欠かせません。また、励ましすぎる言葉や無理な行動の強要は逆効果となるため、相手の気持ちに寄り添いながら、無理のないサポートを続けることが大切です。
家族・友人・職場という立場ごとの関わり方を意識しつつ、焦らず見守り、必要に応じて専門家や相談窓口に頼ることで、本人も支える側も安心して回復を目指せます。一人で抱え込まず、周囲のサポートや支援機関を積極的に活用しましょう。
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