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ADHDとアスペルガーの違いとは?症状・特徴・診断を徹底比較

2025.10.09 精神科訪問看護とは

「うちの子はADHD?それともアスペルガー?」「両方の特徴があるように見えるけど、違いがよくわからない」このような疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。

ADHDとアスペルガー症候群(現在は自閉スペクトラム症/ASDに統合)は、どちらも発達障害ですが、その特徴や症状には明確な違いがあります。一方で、両者が併存することも多く、正確な理解が適切な支援につながります。

本記事では、ADHDとアスペルガーの違いを、症状、特徴、診断基準から詳しく解説し、それぞれに適した支援方法までお伝えします。

ADHDとアスペルガー症候群の基本的な理解

まず、ADHDとアスペルガー症候群それぞれの基本的な特徴を理解することから始めましょう。

ADHDとは何か

ADHD(注意欠如・多動症/注意欠如多動性障害)は、不注意、多動性、衝動性を主な特徴とする神経発達症です。脳の前頭前皮質の機能低下や、ドーパミン・ノルアドレナリンといった神経伝達物質の不均衡が原因とされています。世界的な有病率は子どもで約5-7%、成人で約2.5-4%とされており、男児に多い傾向がありますが、女児では見過ごされやすいという問題もあります

ADHDの特徴的な症状として、注意の持続困難、物忘れの多さ、整理整頓の苦手さ、じっとしていられない、順番を待てない、思いついたらすぐ行動するなどがあります。これらの症状は12歳以前から存在し、学校、家庭、職場など複数の場面で見られます。重要なのは、ADHDは「やる気がない」「しつけの問題」ではなく、脳の機能的な特性であるということです。ADHDには「不注意優勢型」「多動・衝動優勢型」「混合型」の3つのタイプがあり、それぞれ症状の現れ方が異なります。年齢とともに症状は変化し、特に多動性は成人期に向けて減少する傾向があります。

アスペルガー症候群(ASD)とは何か

アスペルガー症候群は、かつて独立した診断名でしたが、2013年のDSM-5以降、自閉スペクトラム症(ASD)に統合されました。現在は「知的障害を伴わないASD」として理解されています。ASDは、社会的コミュニケーションの困難さと、限定的で反復的な行動パターンを主な特徴とする神経発達症です。脳の社会脳ネットワーク(扁桃体、上側頭溝、前頭前皮質など)の機能的結合の違いや、ミラーニューロンシステムの活動低下が関与しているとされています。

アスペルガー症候群の特徴として、視線が合わない、表情や身振りの理解が苦手、相互的な会話が困難、他者の感情や意図の理解が難しい(心の理論の欠如)などがあります。また、特定の興味への強いこだわり、決まったルーティンへの固執、感覚過敏または鈍感さなども見られます。知的能力は正常またはそれ以上であることが多く、特定分野では優れた能力を示すこともあります。言語発達の遅れはないものの、言葉の裏の意味や皮肉、冗談を理解することが困難で、文字通りに受け取る傾向があります。有病率は約1-2%とされ、男性が女性の4倍程度多いとされていますが、女性では診断が遅れる傾向があります。

発達障害としての共通点

ADHDとアスペルガー症候群は、どちらも神経発達症(発達障害)に分類される点で共通しています。両者とも生まれつきの脳の機能的な違いによるもので、親の育て方や本人の努力不足が原因ではありません。遺伝的要因が強く関与しており、家族内で複数の人が診断を受けることも珍しくありません。症状は幼少期から存在しますが、環境や要求水準によって顕在化の時期が異なることがあります。

両者に共通する困難として、学校や職場での適応の問題、対人関係の困難、自己肯定感の低下などがあります。また、二次障害として、うつ病、不安障害、睡眠障害などを併発しやすいという共通点もあります。早期発見・早期支援の重要性も共通しており、適切な介入により予後が大きく改善します。診断には、詳細な問診、発達歴の聴取、心理検査などの包括的な評価が必要です。治療・支援においても、薬物療法、心理療法、環境調整、ソーシャルスキルトレーニングなど、多面的なアプローチが有効である点も共通しています。社会の理解と受容が進むことで、両者とも診断数が増加傾向にあることも共通の現象です。

症状と行動特性の違い

ADHDとアスペルガー症候群の最も顕著な違いは、その症状と行動特性に現れます。

注意・集中に関する違い

ADHDとアスペルガー症候群では、注意や集中の問題の質が大きく異なります。ADHDの場合、注意が散漫で、外部の刺激に容易に反応してしまいます。授業中に窓の外を飛ぶ鳥に気を取られたり、少しの物音で集中が途切れたりします。複数のタスクを同時に抱えると、どれも中途半端になりがちで、優先順位をつけることが苦手です。ただし、興味のあることには過集中(ハイパーフォーカス)することもあり、時間を忘れて没頭することがあります。この過集中は短期的で、興味が移ると急速に冷めることが特徴的です。

一方、アスペルガー症候群の場合、特定の興味や活動に過度に集中し、それ以外のことに注意を向けることが困難です。例えば、電車の時刻表や恐竜の名前など、特定のテーマに異常なほど詳しくなり、何時間でも同じことを調べ続けることができます。この集中は選択的で持続的であり、興味のない活動には全く注意を向けられないこともあります。また、複数の情報を同時に処理することが苦手で、一度に一つのことしかできない傾向があります。細部にこだわりすぎて全体像を見失うこともアスペルガー症候群の特徴で、「木を見て森を見ず」という状態になりやすいです。

社会的コミュニケーションの違い

社会的コミュニケーションにおける違いは、両者を区別する最も重要なポイントの一つです。ADHDの人は、社会的なルールは理解しているものの、衝動性のために不適切な行動を取ってしまうことがあります。相手の話を最後まで聞かずに割り込む、思ったことをそのまま口にして相手を傷つける、順番を待てずに割り込むなどの行動が見られます。しかし、これらの行動の後で、自分の行動が不適切だったことに気づき、後悔することが多いです。基本的に他者への興味はあり、友人関係を築くことはできますが、衝動的な言動で関係を損なうことがあります。

アスペルガー症候群の人は、そもそも社会的なルールや暗黙の了解を理解することが困難です。相手の表情から感情を読み取れない、皮肉や冗談を文字通りに受け取る、適切な距離感がわからず近づきすぎるまたは離れすぎる、会話のキャッチボールができず一方的に話すなどの特徴があります。アイコンタクトが苦手で、視線を合わせることに強い不快感を感じることもあります。他者の心の状態を推測することが困難で、「なぜ相手が怒っているのか」「なぜ悲しんでいるのか」が理解できないことがあります。友人関係を築くこと自体に困難を感じ、一人でいることを好む傾向がありますが、これは社交不安とは異なり、そもそも他者との交流に興味が薄いことが多いです。

行動パターンとこだわりの違い

行動パターンとこだわりの面でも、ADHDとアスペルガー症候群には明確な違いがあります。ADHDの人は、新しいことへの興味が強く、次々と異なる活動に移っていく傾向があります。趣味も頻繁に変わり、一つのことを長期間続けることが困難です。衝動買いをしたり、突発的に計画を変更したりするなど、刺激を求める行動が見られます。ルーティンを守ることが苦手で、毎日同じことの繰り返しに飽きてしまいます。整理整頓が苦手で、物の定位置を決めても守れないことが多く、部屋が散らかりやすい傾向があります。

アスペルガー症候群の人は、特定の興味に深く没頭し、その分野について膨大な知識を蓄積する傾向があります。この興味は長期間持続し、時には生涯にわたって同じテーマを追求し続けることもあります。日常生活では、決まったルーティンを好み、予定の変更に強い不安やストレスを感じます。物の配置にこだわり、少しでも位置が変わると気になって直さずにいられないこともあります。同じ服を着る、同じ道順で通勤する、同じメニューを注文するなど、予測可能性を重視します。変化への適応が困難で、新しい環境や状況に慣れるまでに時間がかかります。これらのこだわりは、不安を軽減し、世界を理解可能なものにするための対処メカニズムとして機能しています。

原因と脳機能の違い

ADHDとアスペルガー症候群の違いは、脳の機能と構造の違いにも現れています。

脳の機能的な違い

ADHDとアスペルガー症候群では、影響を受ける脳の領域と機能が異なります。ADHDでは、主に前頭前皮質、特に背外側前頭前皮質と前帯状皮質の活動低下が見られます。これらの領域は実行機能(計画立案、意思決定、行動抑制、ワーキングメモリーなど)を司っており、その機能低下が注意の維持困難や衝動性につながっています。また、報酬系(腹側被蓋野-側坐核-前頭前皮質)の機能も異なっており、即座の報酬を過度に求める傾向があります。大脳基底核の機能異常も報告されており、運動制御や習慣形成に影響を与えています。

アスペルガー症候群では、社会脳ネットワークの機能的結合の違いが特徴的です。扁桃体(感情処理)、上側頭溝(社会的知覚)、前頭前皮質内側部(心の理論)などの領域間の連携が異なっており、社会的情報の処理に困難が生じます。ミラーニューロンシステムの活動低下も報告されており、他者の行動を理解し模倣することの困難さにつながっています。また、局所的な情報処理は優れているものの、全体的な統合が苦手という「弱い中枢性統合」の理論も提唱されています。感覚処理に関わる領域の機能も異なっており、感覚過敏や鈍感さの原因となっています。小脳の機能異常も報告されており、運動協調や認知的柔軟性に影響を与えている可能性があります。

神経伝達物質の違い

神経伝達物質のレベルでも、ADHDとアスペルガー症候群には違いがあります。ADHDでは、ドーパミンとノルアドレナリンのシステムに主な異常が見られます。ドーパミン受容体の密度低下、ドーパミントランスポーターの過活動により、シナプス間隙のドーパミン濃度が低下しています。これが報酬処理、動機づけ、注意の問題につながっています。ノルアドレナリンの不足は、覚醒レベルの調節や持続的注意の困難に関与しています。これらの神経伝達物質の異常は、メチルフェニデートやアトモキセチンなどの薬物療法のターゲットとなっています。

アスペルガー症候群では、セロトニン、GABA、グルタミン酸などの神経伝達物質システムに異常が報告されています。血中セロトニン濃度の上昇が約30%の人で見られ、これが反復行動やこだわりと関連している可能性があります。GABA(主要な抑制性神経伝達物質)とグルタミン酸(主要な興奮性神経伝達物質)のバランス異常は、感覚処理の問題や社会的認知の困難に関与している可能性があります。オキシトシンやバソプレシンといった社会的行動に関わるホルモンの異常も報告されています。これらの神経伝達物質の異常に対する薬物療法は限定的で、主に併存症状の治療に用いられています。

遺伝的要因の違い

ADHDとアスペルガー症候群の両方に遺伝的要因が強く関与していますが、その遺伝パターンには違いがあります。ADHDの遺伝率は約76%と推定されており、多数の遺伝子が小さな効果を持つ多因子遺伝のパターンを示します。DRD4、DAT1、COMT、SNAP25などの遺伝子が関与していますが、単一の遺伝子で説明できるケースは稀です。家族研究では、親がADHDの場合、子どもがADHDになる確率は40-50%程度です。

アスペルガー症候群を含むASDの遺伝率は約80-90%とADHDより高く、遺伝的要因の影響がより強いことが示されています。数百の遺伝子が関与しており、シナプス形成、神経発達、神経伝達に関わる遺伝子の変異が報告されています。一部のケースでは、単一遺伝子変異や染色体異常(脆弱X症候群、15q11-13重複など)が原因となることもあります。家族研究では、兄弟再発リスクが約20%と高く、より広い自閉症形質(BAP)を示す家族メンバーも多いことが分かっています。興味深いことに、ADHDとASDには共通の遺伝的リスク要因も存在し、これが両者の併存率の高さを説明する一因となっています。

診断基準と評価方法の違い

正確な診断は適切な支援の第一歩です。ADHDとアスペルガー症候群の診断基準と評価方法の違いを理解しましょう。

DSM-5における診断基準

DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では、ADHDとASD(アスペルガー症候群を含む)の診断基準が明確に定められています。ADHDの診断には、不注意症状9項目、多動性・衝動性症状9項目のうち、子どもでは各6項目以上、17歳以上では各5項目以上が6ヶ月以上持続していることが必要です。さらに、12歳以前から症状が存在し、2つ以上の状況で症状が確認され、社会的・学業的・職業的機能に臨床的に意味のある障害を引き起こしていることが要件となります。

ASDの診断基準では、社会的コミュニケーションおよび対人相互反応における持続的な欠陥(3項目すべて)と、行動、興味、または活動の限定された反復的な様式(4項目中2項目以上)が必要です。これらの症状は発達早期から存在し、社会的、職業的、または他の重要な領域における現在の機能に臨床的に意味のある障害を引き起こしている必要があります。重要な変更点として、DSM-5では言語発達の遅れの有無に関わらずASDとして統合され、アスペルガー症候群という独立した診断名は廃止されました。また、2013年以降、ADHDとASDの併存診断が可能になり、より実態に即した診断ができるようになりました。

評価ツールと検査方法

ADHDとアスペルガー症候群の評価には、それぞれ特化した評価ツールが使用されます。ADHDの評価では、ADHD-RS(ADHD評価スケール)、Conners評価スケール、CAARS(成人ADHD評価スケール)などが用いられます。これらは症状の頻度と重症度を定量的に評価します。持続的注意力を評価するCPT(連続遂行課題)、実行機能を評価する各種神経心理学的検査も補助的に使用されます。行動観察も重要で、診察室での多動性、衝動性、注意散漫などが直接観察されます。

ASDの評価では、ADOS-2(自閉症診断観察検査)が金標準とされています。これは構造化された遊びや課題を通じて、社会的相互作用やコミュニケーションを直接観察する検査です。ADI-R(自閉症診断面接改訂版)は、養育者への詳細な面接により、発達歴と現在の行動を評価します。スクリーニングツールとしては、AQ(自閉症スペクトラム指数)、ASSQ(高機能自閉症スペクトラムスクリーニング質問紙)などがあります。知能検査(WISC、WAIS)も実施され、認知プロファイルの特徴(言語性IQと動作性IQの乖離など)を評価します。感覚プロファイル検査により、感覚処理の特性も評価されます。両者の鑑別には、包括的な評価と長期的な観察が必要です。

鑑別診断のポイント

ADHDとアスペルガー症候群の鑑別診断には、いくつかの重要なポイントがあります。まず、社会的動機の違いに注目します。ADHDの人は基本的に他者との交流を求めますが、衝動性のために適切に行動できないことがあります。一方、アスペルガー症候群の人は、そもそも社会的交流への興味が薄いか、交流の仕方が分からないことが多いです。注意の問題の質も異なり、ADHDは全般的な注意散漫、アスペルガー症候群は選択的な注意集中という違いがあります。

行動の柔軟性も鑑別のポイントです。ADHDの人は変化を求め、新しいことに飛びつきやすいのに対し、アスペルガー症候群の人は変化を嫌い、ルーティンに固執します。言語使用の特徴も異なり、ADHDでは話が脱線しやすく要点がまとまらないのに対し、アスペルガー症候群では形式的で独特な話し方(学者言葉、一方的な講義調など)が見られます。感覚の問題では、アスペルガー症候群の方が顕著な感覚過敏・鈍感を示すことが多いです。発達歴の聴取も重要で、ADHDは幼児期から多動が目立つことが多いのに対し、アスペルガー症候群では言語発達は正常でも、社会的な遊びの欠如が見られることが多いです。ただし、両者が併存することも多いため、どちらか一方だけでなく、両方の可能性を検討することが重要です。

治療法と支援アプローチの違い

ADHDとアスペルガー症候群では、効果的な治療法と支援アプローチが異なります。

薬物療法の違い

薬物療法の位置づけと効果は、ADHDとアスペルガー症候群で大きく異なります。ADHDに対しては、確立された薬物療法があり、第一選択として推奨されています。メチルフェニデート(コンサータ)、アトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン(インチュニブ)などが使用され、約70-80%の患者で症状の顕著な改善が見られます。これらの薬剤は、脳内のドーパミンやノルアドレナリンの機能を改善し、注意力の向上、多動性・衝動性の減少をもたらします。効果は比較的速やかに現れ、学業成績の向上、対人関係の改善などが期待できます。

一方、アスペルガー症候群を含むASDに対しては、中核症状を改善する薬物は現在のところ存在しません。薬物療法は主に併存症状や二次的な問題に対して使用されます。易刺激性や攻撃性に対してリスペリドンやアリピプラゾール、不安症状に対してSSRI、睡眠障害に対してメラトニン受容体作動薬などが使用されることがあります。反復行動やこだわりに対する薬物療法の効果は限定的です。また、ASDの人は薬物への感受性が高い場合があり、副作用が出やすいため、より慎重な投与が必要です。両者が併存する場合は、まずADHD症状に対する薬物療法を行い、その後必要に応じてASD関連症状への対応を検討することが一般的です。

心理社会的支援の違い

心理社会的支援においても、ADHDとアスペルガー症候群ではアプローチが異なります。ADHDに対しては、認知行動療法(CBT)が効果的で、時間管理、整理整頓、計画立案などの実行機能スキルの向上を目指します。行動療法では、望ましい行動を強化し、問題行動を減少させます。ペアレントトレーニングでは、褒め方、指示の出し方、行動管理などを保護者が学びます。学校では、座席の配置、課題の分割、頻繁な休憩などの環境調整が有効です。ADHDの支援では、構造化は必要ですが、ある程度の柔軟性も保ち、変化や刺激を適度に取り入れることが重要です。

アスペルガー症候群に対しては、ソーシャルスキルトレーニング(SST)が中心となります。表情の読み取り、会話のルール、状況に応じた行動などを体系的に学習します。視覚的支援が特に有効で、スケジュールの視覚化、ソーシャルストーリー、視覚的な手がかりなどを活用します。TEACCH(構造化された指導法)では、物理的構造化、スケジュールの構造化、ワークシステムなどにより、予測可能な環境を提供します。感覚統合療法では、感覚過敏や感覚探求への対応を行います。変化を最小限にし、ルーティンを確立することで不安を軽減します。興味のある分野を活用した学習や、強みを活かした支援も重要です。

教育的配慮の違い

教育現場での配慮も、ADHDとアスペルガー症候群では異なるアプローチが必要です。ADHDの子どもには、刺激を減らしつつ適度な変化を提供する環境が適しています。教師の近くの席、窓から離れた場所への配置により、注意散漫を防ぎます。授業中に体を動かす機会(プリント配布の手伝いなど)を設けることで、多動性を適切に発散させます。課題は小分けにして提示し、達成感を頻繁に味わえるようにします。視覚的・聴覚的・体感的な多様な学習方法を取り入れ、飽きさせない工夫が必要です。タイマーを使った時間管理、チェックリストの活用なども有効です。

アスペルガー症候群の子どもには、予測可能で一貫性のある環境が重要です。日課や活動の変更は事前に予告し、視覚的なスケジュールで示します。曖昧な指示を避け、具体的で明確な指示を出します。グループ活動では役割を明確にし、社会的な場面での振る舞い方を事前に教えます。感覚的な配慮として、蛍光灯のちらつきを避ける、騒音を軽減する、休憩スペースを設けるなどが必要です。特定の興味を学習に活用し、モチベーションを高めます。変化やイレギュラーな活動(遠足、運動会など)には特別な準備と支援が必要です。両者が併存する場合は、それぞれのニーズのバランスを取りながら、個別の教育計画を立てることが重要です。

併存と誤診の問題

ADHDとアスペルガー症候群は併存することが多く、また誤診されることもあります。

併存率と診断の複雑さ

研究によると、ASDと診断された人の30-50%がADHDの診断基準も満たし、ADHDと診断された人の20-30%がASDの特徴も持っているとされています。この高い併存率は、両者が共通の遺伝的・神経生物学的基盤を持つ可能性を示唆しています。併存する場合、それぞれの症状が相互に影響し合い、より複雑な臨床像を呈します。例えば、ASDの固執性とADHDの衝動性が組み合わさると、特定の活動への過度の没頭と、それを中断された時の激しい感情的反応が見られることがあります。

診断の複雑さは、症状の重なりと相互作用によるものです。両者とも実行機能の問題を示しますが、その原因と現れ方が異なります。社会的困難も両者に見られますが、ADHDは衝動性による不適切な行動、ASDは社会的理解の欠如によるものという違いがあります。年齢による症状の変化も診断を複雑にします。幼少期にはADHDの多動性が目立ち、成長とともにASDの社会的困難さが顕在化することもあります。また、一方の症状が他方をマスクすることもあり、例えばASDの構造化された環境への適応がADHDの症状を軽減させたり、ADHDの社交性がASDの社会的困難を見えにくくしたりすることがあります

誤診のリスクと注意点

ADHDとアスペルガー症候群の誤診は、適切な支援を受ける機会を逃すことにつながります。ADHDがアスペルガー症候群と誤診される場合、社会的スキルの問題が見過ごされ、薬物療法だけでは改善しない社会的困難が残存します。逆に、アスペルガー症候群がADHDと誤診される場合、効果の期待できない薬物療法が行われ、感覚の問題やこだわりへの対応が不十分になります。

誤診を防ぐためには、包括的な評価が不可欠です。発達歴の詳細な聴取により、症状の発現時期と経過を把握します。複数の情報源(本人、家族、学校など)からの情報収集により、異なる場面での行動を評価します。標準化された評価ツールを複数使用し、多角的な評価を行います。長期的な観察により、症状の変化と環境による影響を評価します。また、併存の可能性を常に念頭に置き、一方の診断で満足せず、継続的な評価を行うことが重要です。文化的要因も考慮し、例えば日本では集団への適応が重視されるため、ASDの特性が問題視されやすい一方、ADHDの多動性は「元気な子」として見過ごされやすいという傾向があります

適切な診断のための工夫

適切な診断のためには、専門的な知識と経験を持つ医師による評価が重要です。児童精神科医、発達障害専門医など、両方の障害に精通した専門家を受診することが推奨されます。初診時には十分な時間(1-2時間)を確保し、詳細な問診を行います。可能な限り、幼少期を知る家族からの情報も収集します。学校の通知表、成績表、作品なども参考資料となります。

診断プロセスでは、まず主訴と現在の困難を明確にします。次に、それがADHD、ASD、あるいは両方の特性によるものかを慎重に評価します。心理検査の結果も参考にしますが、それだけで診断せず、臨床像全体を総合的に判断します。試験的治療という方法もあり、例えばADHD薬物療法への反応を見て、診断を確定または修正することもあります。診断後も定期的に評価を見直し、成長や環境の変化に応じて診断や支援方法を調整します。家族への心理教育も重要で、それぞれの特性の違いと共通点、併存の可能性などを丁寧に説明し、適切な理解と対応を促します。最終的には、診断名にこだわりすぎず、個々の特性とニーズに応じた支援を提供することが最も重要です。

まとめ:違いを理解し適切な支援へ

ADHDとアスペルガー症候群の違いと共通点について、様々な角度から解説してきました。

ADHDは不注意、多動性、衝動性を特徴とし、アスペルガー症候群(現在のASD)は社会的コミュニケーションの困難と限定的な興味・反復行動を特徴とします。注意の問題では、ADHDは全般的な注意散漫、アスペルガーは選択的な過集中という違いがあります。社会性では、ADHDは衝動性による不適切な行動、アスペルガーは社会的理解の困難という違いがあります。

脳機能では、ADHDは前頭前皮質とドーパミン系、アスペルガーは社会脳ネットワークとセロトニン系に主な違いがあります。治療では、ADHDには効果的な薬物療法があるのに対し、アスペルガーの中核症状に対する薬物療法は限定的です。支援アプローチも、ADHDには柔軟性のある構造化、アスペルガーには予測可能な環境という違いがあります。

両者は30-50%という高い確率で併存し、診断と支援を複雑にしています。適切な診断には包括的な評価が必要で、誤診を防ぐためにも専門家による慎重な評価が重要です。

最も大切なのは、診断名にとらわれすぎず、個々の特性とニーズに応じた支援を提供することです。ADHDもアスペルガー症候群も、適切な理解と支援により、その人らしい充実した生活を送ることができます。違いを理解することで、より効果的な支援が可能になり、当事者と家族の生活の質が向上します。一人ひとりの特性を大切にし、強みを活かしながら、困難に対処していくことが重要です。

この記事を監修した人

石森寛隆

株式会社 Make Care 代表取締役 CEO

石森 寛隆

Web プロデューサー / Web ディレクター / 起業家

ソフト・オン・デマンドでWeb事業責任者を務めた後、Web制作・アプリ開発会社を起業し10年経営。廃業・自己破産・生活保護を経験し、ザッパラス社長室で事業推進に携わる。その後、中野・濱𦚰とともに精神科訪問看護の事業に参画。2025年7月より株式会社Make CareのCEOとして訪問看護×テクノロジー×マーケティングの挑戦を続けている。

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