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ADHDとASD併発の実態|症状の特徴と対処法を徹底解説

2025.10.22 精神科訪問看護とは

「ADHDと診断されたけれど、ASDの特徴もあるような気がする」「両方の診断を受けたが、どう対処すればいいか分からない」このような悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。

実は、ADHDとASD(自閉スペクトラム症)は高い確率で併発することが分かっており、適切な理解と対処が必要です。併発により症状が複雑になり、診断や支援も困難になることがあります。

本記事では、ADHDとASDの併発について、その実態から具体的な症状、診断の難しさ、そして効果的な対処法まで包括的に解説します。

ADHDとASDの併発の実態

ADHDとASDの併発は、かつて診断基準上認められていませんでしたが、現在では一般的に認識されています。

併発率と最新の研究データ

ADHDとASDの併発率は、研究により異なりますが、非常に高い確率であることが明らかになっています。ASDと診断された人の30-50%がADHDの診断基準も満たし、ADHDと診断された人の20-30%がASDの特徴も持っているという報告があります。特に子どもでは、ASDの診断を受けた児童の約40-70%にADHDの症状が見られるという研究結果もあります。この高い併発率は、両者が共通の遺伝的・神経生物学的基盤を持つ可能性を示唆しています。

2013年のDSM-5改訂以前は、ADHDとASD(当時は広汎性発達障害)の併存診断は認められていませんでした。しかし、臨床現場での実態と研究の蓄積により、両者の併発を認めることがより実態に即していることが明らかになり、診断基準が変更されました。この変更により、より適切な診断と支援が可能になりましたが、同時に診断の複雑さも増しています。

最新の遺伝学的研究では、ADHDとASDには共通の遺伝的リスク要因が存在することが分かっています。ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、両者に関連する遺伝子変異の一部が重複していることが示されています。また、脳画像研究では、前頭前皮質、小脳、基底核などの領域で、両者に共通する構造的・機能的異常が報告されています。これらの知見は、ADHDとASDが完全に独立した障害ではなく、部分的に重なり合うスペクトラムである可能性を示唆しています。

なぜ併発が起こるのか

ADHDとASDの併発には、複数の要因が関与していると考えられています。まず、神経発達の観点から、両者は胎児期から乳幼児期にかけての脳発達の異常という共通の基盤を持っています。特に、シナプス形成、神経回路の構築、髄鞘化などの過程で共通の異常が生じることで、両方の特性が現れる可能性があります。前頭前皮質の機能異常は両者に共通しており、実行機能の問題として現れます。

神経伝達物質の観点では、ドーパミン、セロトニン、GABA、グルタミン酸などの複数のシステムが両者に関与しています。これらの神経伝達物質のバランス異常が、ADHDとASDの両方の症状を引き起こす可能性があります。例えば、ドーパミンシステムの異常は、ADHDの注意・多動性の問題とASDの反復行動の両方に関与している可能性があります。

環境要因も併発に影響を与える可能性があります。胎児期の母体のストレス、感染症、栄養不良などは、両者のリスクを高めることが知られています。また、早産、低出生体重、周産期の合併症なども、脳発達に広範な影響を与え、複数の神経発達症のリスクを高める可能性があります。エピジェネティクスの観点からも、環境要因が遺伝子発現を調節し、両方の特性の発現に影響を与える可能性が指摘されています。

併発による影響の複雑さ

ADHDとASDが併発すると、それぞれ単独の場合よりも症状が複雑になり、日常生活への影響も大きくなります。例えば、ASDの社会的コミュニケーションの困難さに、ADHDの衝動性が加わると、不適切な発言や行動が増え、対人関係がより困難になります。ASDのこだわりとADHDの注意散漫が組み合わさると、特定のことには過度に集中するが、それ以外のことは全く手につかないという極端な状態になります。

機能障害のレベルも、併発により重症化する傾向があります。学業成績の低下、就労の困難、自立生活の困難などがより顕著になります。また、二次障害のリスクも高まり、うつ病、不安障害、行為障害、物質使用障害などを併発する確率が、単独の場合よりも高くなることが報告されています。特に、診断が遅れたり、適切な支援を受けられなかったりした場合、自尊心の低下、社会的孤立、不適応行動などの問題が深刻化する可能性があります。

一方で、併発により両方の特性を持つことで、独特の強みが生まれることもあります。ASDの細部への注目とADHDの発想の柔軟性が組み合わさることで、独創的なアイデアを生み出すことがあります。また、ASDの規則性とADHDのエネルギーが組み合わさることで、特定分野で卓越した成果を上げる人もいます。重要なのは、困難な面だけでなく、強みも含めた包括的な理解と支援です。

併発時の具体的な症状と特徴

ADHDとASDが併発すると、独特の症状パターンが現れます。

コミュニケーションと対人関係の困難

併発例では、コミュニケーションと対人関係の困難が特に顕著になります。ASDによる社会的理解の困難さに、ADHDの衝動性が加わることで、「相手の気持ちが分からない上に、思ったことをすぐ口にしてしまう」という状態になります。例えば、相手の表情から感情を読み取れないため、悲しんでいる人に対して不適切な冗談を言ってしまい、さらにADHDの衝動性により、相手の反応を見る前に話し続けてしまうことがあります。

会話のパターンも独特です。ASDの特性により、自分の興味のある話題について一方的に話す傾向がありますが、ADHDの特性により話があちこちに飛び、結局何を伝えたかったのか分からなくなることがあります。「電車の話をしていたはずが、気づいたら全く関係ない昨日の夕食の話になっていた」というような状況が頻繁に起こります。また、相手の話を聞いている時も、ASDにより言葉の裏の意味が理解できず、ADHDにより注意が散漫になるため、会話の内容を正確に把握することが困難です。

対人距離の問題も複雑です。ASDにより適切な物理的・心理的距離が分からず、ADHDの衝動性により、親しくない人にも馴れ馴れしく接してしまうことがあります。逆に、ASDの特性で人との関わりを避けたいと思いながら、ADHDの刺激探求により人との交流を求めるという矛盾した欲求を抱えることもあります。これらの困難により、友人関係の構築・維持が極めて困難になり、孤立しやすくなります。

注意・集中・実行機能の問題

併発例では、注意と集中の問題が複雑な形で現れます。ADHDの注意散漫とASDの選択的注意が組み合わさることで、「興味のあることには異常に集中するが、それ以外は全く注意を向けられない」という極端な状態になります。例えば、好きなゲームには10時間でも集中できるのに、5分間の簡単な家事すら完遂できないということが起こります。この極端さは、周囲から「やる気の問題」と誤解されやすく、本人も自己嫌悪に陥りやすいです。

タスクの切り替えも大きな課題です。ASDのこだわりにより、一つの活動から次の活動への移行が困難な上、ADHDの特性により、移行しようとすると今度は元の活動に戻れなくなることがあります。「宿題を中断して夕食を食べたら、もう宿題に戻る気力がなくなった」というような状況が日常的に発生します。また、マルチタスクは特に苦手で、複数のことを同時に処理しようとすると、すべてが中途半端になってしまいます。

実行機能の障害も顕著です。計画を立てることが苦手(ADHD)な上、計画を変更することも苦手(ASD)なため、非効率な方法に固執してしまうことがあります。時間管理も困難で、ADHDにより時間の見積もりが甘く、ASDにより予定通りにいかないとパニックになることがあります。優先順位付けも苦手で、重要でない細部にこだわり(ASD)、重要なことを後回しにしてしまう(ADHD)という悪循環に陥ります。

感覚処理と情動調節の特徴

併発例では、感覚処理の問題が複雑化します。ASDの感覚過敏・鈍感に、ADHDの刺激探求が加わることで、矛盾した感覚ニーズを抱えることになります。例えば、音に対して過敏(ASD)でありながら、刺激を求めて騒がしい場所に行きたくなる(ADHD)という状況が生じます。このような矛盾により、適切な感覚環境を見つけることが困難になり、常に不快感やストレスを抱えることになります。

触覚についても複雑です。特定の素材や感触にこだわる(ASD)一方で、じっとしていられず常に何かを触りたくなる(ADHD)ため、適切な感覚刺激を得ることが難しくなります。食事でも、特定の食感や味にこだわる(ASD)が、衝動的に新しい食べ物を試したくなる(ADHD)という矛盾を抱えることがあります。

情動調節は特に困難です。ASDによる感情理解の困難さと、ADHDによる感情の不安定さが組み合わさることで、感情のコントロールが極めて難しくなります。些細な変化や刺激に対して過剰に反応し、パニックやメルトダウンを起こしやすくなります。また、感情の切り替えも困難で、一度ネガティブな感情に陥ると、長時間その状態から抜け出せなくなることがあります。喜びや興奮も同様に調節が困難で、過度に興奮して周囲を困惑させることもあります。これらの情動調節の問題は、社会生活において大きな障害となります。

診断の難しさと課題

ADHDとASDの併発は、診断を複雑にし、適切な支援を受けるまでに時間がかかることがあります。

症状の重なりと鑑別の困難

ADHDとASDには、表面的に似た症状が多く、鑑別診断が困難です。例えば、「集中できない」という症状一つとっても、ADHDでは注意が散漫になることが原因ですが、ASDでは興味のないことに注意を向けられないことが原因です。「同じミスを繰り返す」という症状も、ADHDでは不注意や衝動性が原因ですが、ASDでは状況の変化に気づかない、または柔軟に対応できないことが原因です。

「空気が読めない」という特徴も両者に共通しますが、メカニズムが異なります。ADHDでは、衝動性により相手の反応を待たずに行動してしまうことが原因ですが、ASDでは、そもそも社会的な文脈を理解することが困難なことが原因です。このような症状の重なりにより、一方の診断だけでは説明できない部分が残り、併発の可能性を見逃すことがあります。

さらに、一方の症状が他方をマスクすることもあります。例えば、ASDの構造化された環境への適応により、ADHDの症状が目立たなくなることがあります。逆に、ADHDの多動性や衝動性が目立つために、ASDの社会的困難さが見過ごされることもあります。また、知的能力が高い場合、代償的な戦略により症状がカモフラージュされ、診断がさらに困難になることがあります。

診断プロセスの複雑さ

ADHDとASDの併発を適切に診断するには、包括的で時間をかけた評価が必要です。まず、詳細な発達歴の聴取が不可欠です。乳幼児期からの発達の経過、言語発達、社会性の発達、感覚の特性、行動パターンなどを詳しく確認します。両親や養育者からの情報が重要ですが、記憶が曖昧な場合も多く、母子手帳、保育園・幼稚園の記録、学校の通知表などの客観的資料も参考にします。

標準化された評価ツールも複数使用する必要があります。ADHDの評価には、ADHD-RS、Conners、CAARSなどを使用し、ASDの評価には、ADOS-2、ADI-R、AQなどを使用します。しかし、これらのツールは単独の障害を想定して作られているため、併発例では結果の解釈が難しくなることがあります。例えば、ADHDの多動性がASDの常同行動と区別がつきにくい場合があります。

行動観察も重要ですが、診察室という構造化された環境では、症状が現れにくいことがあります。そのため、家庭や学校、職場での行動についての情報収集が必要です。ビデオ記録や行動記録表を活用することもあります。また、併発例では、年齢や環境により症状の現れ方が変化するため、複数回の評価や長期的な経過観察が必要になることもあります。最終的な診断は、これらの情報を総合的に判断して行われますが、専門医でも判断に迷うケースは少なくありません。

誤診や見逃しのリスク

ADHDとASDの併発は、誤診や見逃しのリスクが高い領域です。最も多いのは、どちらか一方だけが診断され、もう一方が見逃されるケースです。特に、幼児期にADHDと診断された子どもが、学齢期になってASDの特性が顕在化することがあります。逆に、ASDと診断された子どもの多動性や衝動性が、ASDの一部として扱われ、ADHDの診断が遅れることもあります。

性別による診断の偏りも問題です。男児では多動性が目立つためADHDが診断されやすく、ASDの特性が見逃されることがあります。女児では、社会的なカモフラージュによりASDの特性が隠れ、不注意優勢型ADHDのみが診断されることがあります。成人では、長年の代償的戦略により症状が複雑化し、正確な診断がさらに困難になります。

他の精神疾患との鑑別も重要です。併発例では、二次障害として、うつ病、不安障害、強迫性障害などを発症することが多く、これらの症状が前面に出ると、基礎にあるADHDとASDが見逃されることがあります。また、境界性パーソナリティ障害、双極性障害などと誤診されることもあります。適切な診断のためには、発達歴を重視し、症状の発現時期と経過を慎重に評価することが必要です。必要に応じて、セカンドオピニオンを求めることも重要です。

日常生活での困りごとと対処法

併発により日常生活で直面する困難は多岐にわたりますが、適切な対処法により改善可能です。

仕事・学業での困難と対策

併発例では、仕事や学業において特有の困難に直面します。ミスが多いという問題では、ADHDの不注意によるケアレスミスと、ASDによる指示の理解不足が重なり、同じミスを繰り返すことがあります。対策として、作業手順を詳細に文書化し、チェックリストを作成することが有効です。視覚的な指示書を作成し、各ステップを確認しながら進めることで、ミスを減らすことができます。また、ダブルチェック体制を導入し、重要な作業は必ず確認を受けるようにします。

時間管理と締め切りの問題も深刻です。ADHDにより時間感覚が曖昧で、ASDにより予定変更への対応が困難なため、スケジュール管理が極めて難しくなります。対策として、余裕を持ったスケジュール設定と、複数のリマインダー設定が必要です。また、予定変更に備えて、「プランB」を事前に準備しておくことで、変更によるパニックを防げます。タイムタイマーなどの視覚的な時間管理ツールを使用し、時間の経過を可視化することも効果的です。

職場や学校での環境調整も重要です。感覚過敏に配慮した静かな作業環境の確保、刺激を求める特性に対応した適度な休憩時間の設定、明確で具体的な指示の提供などが必要です。可能であれば、在宅勤務やフレックスタイム制を活用し、自分のペースで作業できる環境を整えます。また、得意分野を活かせる業務配分や、苦手な業務のサポート体制構築も重要です。

家庭生活での工夫

家庭生活では、併発による困難が日常的に現れます。家事の管理では、ADHDによる先延ばしとASDによるルーティンへのこだわりが衝突し、効率的な家事遂行が困難になります。対策として、家事を細分化し、毎日決まった時間に決まった家事を行うルーティンを確立します。ただし、柔軟性も必要なため、「最低限これだけはやる」リストと「できればやる」リストを分けて管理します。

買い物や金銭管理も課題です。ADHDの衝動買いとASDの特定商品へのこだわりにより、家計管理が困難になることがあります。対策として、買い物リストの作成と予算設定を徹底し、オンラインショッピングでは「カートに入れて24時間待つ」ルールを設けます。定期的に必要な物は定期購入サービスを利用し、買い忘れを防ぎます。

睡眠リズムの管理も重要です。ADHDによる夜型傾向とASDによる睡眠儀式へのこだわりにより、適切な睡眠が取れないことがあります。対策として、就寝前のルーティンを確立し、スマートフォンやゲームなどの刺激を避けます。寝室環境を整え、感覚的に快適な寝具を選びます。必要に応じて、メラトニンサプリメントの使用も検討します。

対人関係での配慮と工夫

併発例では、対人関係において特別な配慮と工夫が必要です。家族や親しい友人には、自分の特性について説明し、理解と協力を求めることが重要です。「急に予定を変更されると混乱する」「話が長くなることがある」「集中している時に話しかけられると対応できない」など、具体的な特性と必要な配慮を伝えます。

コミュニケーションの工夫として、重要な話は文書やメールで確認する習慣をつけます。感情的になりやすい話題は、事前に「タイムアウト」のルールを決めておき、必要に応じて会話を中断できるようにします。また、定期的に一人になる時間を確保し、社会的な疲労を回復させることも重要です。

ソーシャルスキルの向上も必要です。ロールプレイやソーシャルストーリーを活用し、様々な社会的場面での適切な対応を学びます。ただし、完璧を目指すのではなく、最低限のマナーを守ることを目標にします。また、自分と相性の良い人を見つけ、深い関係を築くことを優先し、広く浅い付き合いは無理に求めないことも大切です。オンラインコミュニティを活用し、同じような特性を持つ人との交流も有益です。

医療・支援機関での診断と治療

適切な診断と治療を受けることで、併発による困難を大幅に改善できます。

専門医療機関の選び方

ADHDとASDの併発に対応できる医療機関を選ぶことが重要です。理想的なのは、発達障害専門外来や児童精神科(成人も対応する場合あり)で、両方の障害に精通した医師がいる施設です。大学病院や総合病院の精神科では、複数の専門医がチームで診療にあたることが多く、包括的な評価が期待できます。地域の発達障害者支援センターで、適切な医療機関の情報を得ることもできます。

初診の際は、十分な時間(2-3時間)を確保している医療機関を選びます。短時間の診察では、併発の可能性を見逃すリスクがあります。また、心理検査や行動評価を実施できる体制があることも重要です。臨床心理士や公認心理師が在籍し、詳細な心理アセスメントを受けられる施設が望ましいです。

セカンドオピニオンを求めることも躊躇しないでください。特に、診断に疑問がある場合や、治療効果が不十分な場合は、別の専門医の意見を聞くことが有益です。成人の場合は、成人発達障害外来がある医療機関を選ぶと、年齢に応じた適切な評価と治療を受けられます。遠方でも、オンライン診療を提供している専門医療機関もあるため、選択肢として検討できます

薬物療法の選択と調整

併発例の薬物療法は、慎重な選択と調整が必要です。一般的に、まずADHD症状に対する薬物療法から開始することが多いです。メチルフェニデート(コンサータ)やアトモキセチン(ストラテラ)により、注意力と衝動性が改善すると、ASDの症状も扱いやすくなることがあります。ただし、ASDを持つ人は薬物への感受性が高いことがあるため、通常より低用量から開始し、慎重に増量します。

ASDの症状に対しては、中核症状を改善する薬物はありませんが、併存する症状に応じて薬物が使用されます。易刺激性や攻撃性にはリスペリドンやアリピプラゾール、不安症状にはSSRI、睡眠障害にはメラトニンなどが使用されます。ただし、これらの薬物がADHD症状に影響を与える可能性があるため、注意深いモニタリングが必要です。

薬物の相互作用と副作用の管理も重要です。複数の薬物を併用する場合、相互作用により効果が減弱したり、副作用が増強したりする可能性があります。定期的な血液検査や心電図検査により、安全性を確認します。また、薬物療法の効果を評価するため、症状日記をつけ、定期的に医師と情報を共有することが重要です。薬物療法は万能ではなく、行動療法や環境調整と組み合わせることで、最大の効果が得られます。

心理療法と療育的アプローチ

併発例に対する心理療法は、両方の特性を考慮した統合的なアプローチが必要です。認知行動療法(CBT)では、ADHDの実行機能の問題とASDの認知の硬さの両方に対処します。思考の柔軟性を高めながら、同時に構造化された問題解決スキルを身につけます。ソーシャルスキルトレーニング(SST)では、ASDの社会的理解の困難さに対処しながら、ADHDの衝動性をコントロールする練習を行います。

感覚統合療法は、両方の特性による感覚処理の問題に対処します。感覚プロファイルを評価し、個々のニーズに応じた感覚ダイエットを作成します。適切な感覚入力により、覚醒レベルを調整し、注意力と情動調節を改善します。マインドフルネス療法も有効で、現在の瞬間に意識を向ける練習により、ADHDの注意散漫とASDの反芻思考の両方を軽減できます。

家族療法も重要な要素です。家族全体が両方の特性を理解し、適切な対応方法を学ぶことで、家庭環境が改善します。ペアレントトレーニングでは、構造化と柔軟性のバランス、明確な指示と選択肢の提供、感覚的配慮と刺激の調整など、併発例特有の対応方法を学びます。きょうだい支援も重要で、きょうだいが特性を理解し、適切に関わる方法を学ぶことで、家族全体の機能が向上します。

利用できる支援サービスと社会資源

併発例が利用できる様々な支援サービスと社会資源があります。

公的支援機関とサービス

発達障害者支援センターは、ADHDとASDの両方に対応できる中核的な支援機関です。相談支援、発達検査、療育プログラム、就労支援など、ライフステージに応じた包括的な支援を提供しています。併発例に対しても、個々のニーズに応じた支援計画を作成し、必要なサービスにつなげてくれます。相談は無料で、診断の有無に関わらず利用できます。

障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)の取得により、様々な支援を受けることができます。税制優遇、公共交通機関の割引、公共施設の利用料減免などの経済的支援に加え、障害者雇用枠での就労も可能になります。療育手帳(知的障害がある場合)と併せて取得することも可能です。自立支援医療により、通院医療費の自己負担が軽減されます。

児童発達支援や放課後等デイサービスは、子どもの併発例に対して重要な支援です。個別支援計画に基づき、両方の特性に配慮したプログラムを提供します。SST、感覚統合、学習支援などを組み合わせ、包括的な発達支援を行います。保護者支援も充実しており、家庭での対応方法について助言を受けられます。

就労支援サービス

就労移行支援事業所では、併発例に対応したプログラムを提供しています。両方の特性を考慮した職業評価を行い、適性のある職種を探します。ビジネスマナー、コミュニケーションスキル、ストレス管理などの基本的なスキルに加え、個別のニーズに応じた訓練を受けられます。企業実習を通じて、実際の職場環境での適応を確認できます。

ハローワークの障害者専門窓口では、併発例の特性を理解した職業相談を受けられます。障害者雇用枠での求人紹介に加え、一般雇用でも配慮を受けられる企業の情報提供を行っています。ジョブコーチ支援により、就職後も職場での適応をサポートしてもらえます。定着支援により、長期的な就労継続が可能になります。

就労継続支援(A型・B型)は、一般就労が困難な場合の選択肢です。A型は雇用契約を結び、最低賃金以上の給与を得ながら働けます。B型は自分のペースで作業を行い、工賃を得ることができます。両方の特性に配慮した作業環境と支援体制が整っており、スキルアップを図りながら、将来的な一般就労を目指すことも可能です。

ピアサポートと家族支援

同じ併発例を持つ当事者同士の交流は、大きな支えとなります。全国各地に、ADHDとASDの両方を対象とした自助グループがあります。オンラインコミュニティも活発で、経験の共有、情報交換、相互支援が行われています。「自分だけじゃない」という安心感を得られ、実践的な対処法を学ぶことができます。

家族会も重要な支援資源です。親の会では、子育ての悩みを共有し、効果的な対応方法を学び合えます。きょうだい会では、きょうだい特有の悩みを話し合い、支え合うことができます。専門家による講演会や勉強会も定期的に開催され、最新の知識を得ることができます。

メンター制度やピアカウンセリングも有効です。併発例で社会的に成功している先輩から、具体的なアドバイスを受けることができます。当事者だからこそ分かる困難や工夫を共有でき、将来への希望を持つことができます。オンラインでのメンタリングも可能で、地理的な制約を超えて支援を受けられます。これらの支援を組み合わせることで、包括的なサポートネットワークを構築できます。

まとめ:ADHDとASD併発と向き合うために

ADHDとASDの併発について、様々な角度から詳しく解説してきました。

併発率は30-50%と非常に高く、共通の遺伝的・神経生物学的基盤を持つことが分かっています。2013年のDSM-5改訂により併存診断が可能になり、より適切な理解と支援が可能になりました。

併発により症状は複雑化し、コミュニケーションの困難、注意・集中の極端な偏り、感覚処理と情動調節の問題などが顕著になります。診断も困難で、症状の重なりや一方が他方をマスクすることで、適切な診断まで時間がかかることがあります。

日常生活では多くの困難に直面しますが、適切な対処法があります。環境調整、視覚的支援、ルーティン化、薬物療法、心理療法などを組み合わせることで、症状は改善可能です。

重要なのは、併発を「二重の困難」ではなく、「独特の特性の組み合わせ」として捉えることです。両方の特性を理解し、それぞれに適した支援を受けながら、自分なりの生き方を見つけることが大切です。

支援機関やピアサポートを活用し、一人で抱え込まないことも重要です。適切な理解と支援により、併発があっても充実した生活を送ることは十分可能です。困難は確かにありますが、独特の強みを活かし、自分らしい人生を歩んでいけます。

この記事を監修した人

石森寛隆

株式会社 Make Care 代表取締役 CEO

石森 寛隆

Web プロデューサー / Web ディレクター / 起業家

ソフト・オン・デマンドでWeb事業責任者を務めた後、Web制作・アプリ開発会社を起業し10年経営。廃業・自己破産・生活保護を経験し、ザッパラス社長室で事業推進に携わる。その後、中野・濱𦚰とともに精神科訪問看護の事業に参画。2025年7月より株式会社Make CareのCEOとして訪問看護×テクノロジー×マーケティングの挑戦を続けている。

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