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うつ病とアルコールの危険な関係|飲酒リスクと正しい対処法

2025.10.21 精神科訪問看護とは

「うつ病の辛さを紛らわせるために、つい飲酒してしまう」「抗うつ薬を飲んでいるけど、お酒も飲んで大丈夫?」このような悩みを抱えていませんか?

実は、うつ病とアルコールの組み合わせは想像以上に危険です。アルコールは一時的に気分を楽にするように感じますが、実際にはうつ症状を悪化させ、抗うつ薬の効果を妨げ、依存症のリスクも高めます。

本記事では、うつ病とアルコールの危険な相互作用、抗うつ薬服用中の飲酒リスク、アルコール依存症との合併問題について医学的根拠に基づいて解説。さらに、専門医への相談目安や利用できる支援機関も紹介します。

うつ病とアルコール-知っておくべき危険な関係性

うつ病を患っている方の中には、つらい気分を紛らわせるためにアルコールに頼ってしまう人が少なくありません。「お酒を飲むと一時的に気分が楽になる」「眠れない夜に飲酒すると寝付きが良くなる」といった理由から、自己治療的に飲酒を続けるケースが多く見られます。しかし、うつ病とアルコールの組み合わせは、想像以上に危険な結果をもたらす可能性があります。

医学的な観点から見ると、アルコールは中枢神経抑制薬であり、一時的に気分を高揚させる効果がありますが、その後には必ず抑うつ作用が現れます。つまり、飲酒により一時的に気分が改善したように感じても、実際にはうつ症状を悪化させているのです。さらに、アルコールは脳内の神経伝達物質のバランスを乱し、セロトニンやドーパミンなどの重要な物質の働きを阻害します。これにより、うつ病の根本的な原因である神経伝達物質の不均衡がさらに悪化することになります。

統計データによると、うつ病患者の約30-40%が何らかのアルコール問題を抱えており、逆にアルコール依存症患者の約40-60%がうつ病を合併しているという報告があります。この高い合併率は、両者が相互に悪影響を及ぼし合う「負の連鎖」を形成することを示しています。本記事では、うつ病とアルコールの関係について、医学的根拠に基づいて詳しく解説し、適切な対処法をお伝えします。

アルコールがうつ病に与える影響のメカニズム

アルコールがうつ病に与える影響は、複数の生物学的メカニズムによって説明されます。まず、アルコールはGABA(ガンマアミノ酪酸)受容体を活性化し、グルタミン酸受容体を抑制することで、中枢神経系の活動を抑制します。これにより、一時的にリラックス感や不安の軽減を感じますが、慢性的な飲酒は脳の適応を引き起こし、これらの受容体の感受性が変化します。結果として、飲酒していない時の不安や抑うつが増強されることになります。

セロトニン系への影響も重要です。アルコールは一時的にセロトニンの放出を促進しますが、長期的にはセロトニンの合成と放出を減少させます。セロトニンはうつ病の病態に深く関わる神経伝達物質であり、その機能低下はうつ症状の悪化に直結します。また、アルコールは睡眠の質を著しく低下させます。入眠は早くなるものの、レム睡眠が減少し、中途覚醒が増加するため、結果的に睡眠による回復効果が得られなくなります。

さらに、アルコールの代謝過程で生成されるアセトアルデヒドは、神経毒性を持ち、脳細胞にダメージを与えます。慢性的な飲酒は、海馬や前頭前野といったうつ病に関連する脳領域の萎縮を引き起こすことも知られています。これらの構造的変化は、認知機能の低下や感情調節の困難さをもたらし、うつ病の症状をさらに複雑化させます。

うつ病患者がアルコールを求める心理的背景

うつ病患者がアルコールに頼ってしまう背景には、複雑な心理的要因があります。最も一般的なのは「自己治療仮説」と呼ばれる現象で、耐え難い精神的苦痛から一時的に逃れるために飲酒するというものです。うつ病の主症状である持続的な悲しみ、絶望感、不安、焦燥感などから解放されたいという切実な願いが、飲酒行動を引き起こします。

社会的孤立もアルコール使用を促進する要因となります。うつ病により対人関係が困難になり、孤独感が増すと、アルコールが「唯一の友」のような存在になることがあります。また、不眠症状に対する対処としての飲酒も多く見られます。「寝酒」という習慣は日本文化にも根付いていますが、実際にはアルコールは睡眠の質を低下させ、うつ病の回復を妨げます。

罪悪感と自己処罰の心理も関与しています。うつ病患者は強い自己否定感を持つことが多く、「自分は価値がない」「迷惑をかけている」といった思考から、自己破壊的な飲酒行動に走ることがあります。このような心理状態では、アルコールの害を理解していても、やめることができない状況に陥ります。専門的な治療介入なしには、この悪循環から抜け出すことは困難です。

抗うつ薬とアルコールの危険な相互作用

抗うつ薬を服用中の飲酒は、極めて危険な行為です。多くの患者さんが「少しくらいなら大丈夫だろう」と考えがちですが、実際には予測不可能な相互作用により、重篤な副作用や症状の悪化を引き起こす可能性があります。

抗うつ薬の種類別にみる飲酒のリスク

現在使用されている主要な抗うつ薬には、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、三環系抗うつ薬、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)などがあります。これらの薬剤とアルコールの相互作用は、薬剤の種類により異なりますが、いずれも危険性があります。

SSRIとアルコールの併用では、中枢神経系の抑制が増強され、眠気、めまい、判断力の低下が顕著になります。特にフルボキサミンは、アルコールの代謝を阻害するため、少量の飲酒でも強い酔いを引き起こす可能性があります。SNRIでは、これらの作用に加えて、血圧変動のリスクが高まります。ベンラファキシンとアルコールの併用は、重篤な肝機能障害のリスクを増加させることが報告されています。

三環系抗うつ薬とアルコールの併用は特に危険です。両者とも強い鎮静作用を持つため、意識レベルの低下、呼吸抑制、心臓への影響(不整脈、伝導障害)が生じる可能性があります。過量服用時には致命的となることもあります。NaSSAのミルタザピンも強い鎮静作用を持つため、アルコールとの併用により過度の眠気や認知機能の低下が生じます。これらのリスクを考慮すると、抗うつ薬服用中の飲酒は原則として避けるべきです。

薬物相互作用による具体的な危険性

抗うつ薬とアルコールの相互作用により生じる具体的な危険性は多岐にわたります。最も一般的なのは、中枢神経抑制の相加・相乗効果です。両者とも脳の活動を抑制するため、併用により過度の鎮静、意識障害、呼吸抑制が生じる可能性があります。これにより、転倒や事故のリスクが著しく増加し、日常生活に支障をきたします。

薬物代謝への影響も重要です。アルコールと抗うつ薬は、多くが肝臓のチトクロームP450酵素系で代謝されます。両者を併用すると、代謝が競合し、薬物血中濃度が予測不能に変動します。これにより、薬物の効果が減弱したり、逆に増強されて副作用が強く現れたりすることがあります。特に、急性アルコール摂取は薬物代謝を阻害し、慢性飲酒は代謝を促進するため、飲酒パターンによっても影響が異なります。

最も深刻なリスクは、自殺行動の増加です。アルコールは脱抑制作用により衝動性を高め、抗うつ薬の初期には自殺リスクが一時的に増加することがあります。両者の組み合わせは、自殺企図の危険性を著しく増加させます。実際、自殺既遂者の多くが、行為の直前にアルコールを摂取していたという報告があります。このような生命に関わるリスクを考慮すると、抗うつ薬服用中の飲酒は絶対に避けるべきです。

服薬コンプライアンスへの悪影響

アルコール摂取は、抗うつ薬の服薬コンプライアンス(服薬遵守)を著しく低下させます。飲酒により判断力が低下し、薬の飲み忘れや過量服用のリスクが高まります。また、「お酒を飲んだから今日は薬を飲まない」という誤った判断をすることもあります。このような不規則な服薬は、血中濃度の変動を引き起こし、治療効果を著しく損ないます。

二日酔いの症状は、うつ病の症状と類似しており、両者の区別が困難になることがあります。頭痛、倦怠感、集中力低下、不安感などは、うつ病の症状なのか、アルコールの影響なのか判断できなくなります。これにより、適切な治療評価ができず、薬物調整が困難になります。医師も正確な症状評価ができないため、最適な治療を提供することが難しくなります。

さらに、飲酒習慣がある患者さんは、医師に正直に飲酒量を報告しないことが多く、これも治療の妨げとなります。「少し飲んだだけ」と過小申告したり、飲酒の事実を隠したりすることで、医師は適切な治療方針を立てることができません。信頼関係に基づいた治療関係の構築も困難になり、結果的に治療成績が悪化します。

アルコール依存症とうつ病の合併-二重診断の問題

うつ病とアルコール依存症が合併した状態は「二重診断」と呼ばれ、治療が極めて困難になります。両疾患は相互に悪影響を及ぼし合い、単独の疾患よりも予後が不良となることが知られています。

アルコール依存症からうつ病を発症するケース

慢性的な大量飲酒は、脳の構造と機能に深刻なダメージを与え、二次的にうつ病を引き起こすことがあります。アルコールによる脳内神経伝達物質の慢性的な不均衡は、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの重要な物質の機能を低下させます。これらの変化は、うつ病の生物学的基盤と同様であり、結果としてうつ症状が出現します。

アルコール離脱症状もうつ病発症のリスク要因となります。長期飲酒後に急激に断酒すると、不安、焦燥、不眠、抑うつなどの離脱症状が現れます。これらの症状は数週間から数か月続くことがあり、この期間中にうつ病を発症することがあります。特に、振戦せん妄などの重篤な離脱症状を経験した人は、その後のうつ病発症リスクが高いことが報告されています。

社会的な損失もうつ病発症に寄与します。アルコール依存症により、仕事を失う、家族関係が破綻する、経済的困窮に陥るなどの問題が生じます。これらの喪失体験は、強いストレス要因となり、うつ病を引き起こします。また、アルコール関連の恥や罪悪感も、自己評価の低下につながり、うつ症状を悪化させます。このような複合的な要因により、アルコール依存症からうつ病への移行が起こります。

うつ病からアルコール依存症に至る経路

うつ病患者がアルコール依存症を発症する過程には、段階的な進行パターンが見られます。初期には、不眠や不安を軽減するための「薬」としてアルコールを使用します。一時的な症状緩和を経験すると、飲酒頻度が増加し、次第に飲酒なしでは症状をコントロールできなくなります。この段階では、まだ依存症とは言えませんが、問題飲酒のパターンが形成されています。

耐性の形成により、同じ効果を得るために必要な飲酒量が増加します。当初はビール1缶で眠れていたものが、2缶、3缶と増え、やがて強い酒に移行することもあります。この過程で、身体的依存が形成され、飲酒しないと離脱症状(手の震え、発汗、不安など)が現れるようになります。この段階に至ると、アルコール依存症の診断基準を満たすことになります。

うつ病の認知の歪み(否定的思考、絶望感、無価値感)は、依存症の否認を強化します。「どうせ治らない」「飲むしか方法がない」といった思考により、治療への動機づけが低下します。また、うつ病による判断力の低下は、飲酒の害を適切に評価できなくなることにつながります。このような心理的要因により、うつ病患者はアルコール依存症のハイリスク群となります。

二重診断の治療の難しさと重要性

うつ病とアルコール依存症が合併した場合、どちらを先に治療すべきかという問題が生じます。従来は、まずアルコール依存症を治療し、断酒が達成されてからうつ病の治療を行うという段階的アプローチが主流でした。しかし、現在では両疾患を同時に治療する統合的アプローチが推奨されています。なぜなら、一方の症状が改善しても、もう一方が未治療のままでは、結局両方が悪化するからです。

治療の複雑さは、使用できる薬物の制限にも現れます。アルコール依存症患者には、依存性のある薬物(ベンゾジアゼピン系薬物など)の使用を避ける必要があります。また、抗うつ薬の選択も慎重に行う必要があり、肝機能への影響が少なく、過量服用時の危険性が低い薬剤を選択します。心理療法においても、両疾患に対応できる統合的なアプローチが必要となります。

再発リスクの管理も重要な課題です。うつ病の再発はアルコール依存症の再飲酒を誘発し、逆に再飲酒はうつ病の再発を引き起こします。このため、両疾患の再発予防を同時に行う必要があります。定期的なモニタリング、継続的な治療、強固なサポートシステムの構築が不可欠です。家族教育も重要で、両疾患の相互作用について理解してもらい、適切なサポートを提供できるようにする必要があります。

アルコールがもたらす具体的な健康被害

うつ病患者がアルコールを摂取することで生じる健康被害は、精神面だけでなく身体面にも及びます。これらの被害は相互に関連し合い、全体的な健康状態を著しく悪化させます。

睡眠の質の悪化と悪循環

アルコールは睡眠に対して複雑な影響を与えます。飲酒直後は眠気を誘発し、入眠を早めるように見えますが、実際には睡眠の質を著しく低下させます。アルコールはレム睡眠を抑制し、深い睡眠(徐波睡眠)も減少させます。その結果、睡眠時間は確保できても、疲労回復効果が得られません。また、アルコールの利尿作用により夜間頻尿となり、中途覚醒が増加します。

睡眠の後半では、アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドの影響により、交感神経が活性化し、早朝覚醒が生じます。これは、うつ病の典型的な睡眠障害パターンと重なり、症状をさらに悪化させます。慢性的な睡眠不足は、日中の疲労感、集中力低下、イライラ感を引き起こし、うつ症状の悪化につながります。

睡眠障害とうつ病、アルコール使用の間には悪循環が形成されます。うつ病による不眠をアルコールで解消しようとすると、睡眠の質が悪化し、翌日のうつ症状が悪化します。これがさらなる飲酒を誘発し、睡眠がさらに悪化するという悪循環に陥ります。この循環を断ち切るためには、適切な睡眠衛生指導と、必要に応じた睡眠薬の使用、そして断酒が必要となります。

認知機能と記憶力への影響

慢性的な飲酒は、脳の構造と機能に深刻な影響を与え、認知機能の低下を引き起こします。特に影響を受けやすいのは、前頭前野と海馬です。前頭前野は実行機能(計画立案、判断、抑制)を司り、海馬は記憶の形成に重要な役割を果たします。これらの領域の機能低下は、うつ病でも見られる変化であり、アルコールによりさらに悪化します。

ブラックアウト(飲酒時の記憶の欠落)は、アルコールが海馬の機能を一時的に停止させることで生じます。頻繁なブラックアウトは、永続的な記憶障害につながる可能性があります。また、ウェルニッケ・コルサコフ症候群と呼ばれる重篤な記憶障害も、慢性アルコール使用とビタミンB1欠乏により生じることがあります。

認知機能の低下は、日常生活や仕事のパフォーマンスに直接影響します。判断力の低下により適切な意思決定ができなくなり、記憶力の低下により重要な約束を忘れるなどの問題が生じます。これらの機能低下は、自己評価の低下につながり、うつ症状を悪化させます。また、認知機能の低下により、心理療法の効果も減弱し、治療全体の成績が悪化します。

身体的健康問題の併発

アルコールの慢性使用は、多臓器にわたる身体的健康問題を引き起こします。肝臓への影響は最もよく知られており、脂肪肝、アルコール性肝炎、肝硬変へと進行する可能性があります。肝機能の低下は、薬物代謝にも影響し、抗うつ薬の効果や副作用の予測が困難になります。

消化器系への影響も深刻です。胃炎、胃潰瘍、膵炎などが生じやすくなり、これらの痛みや不快感はうつ症状を悪化させます。また、栄養吸収障害により、ビタミンB群、葉酸、マグネシウムなどの欠乏が生じます。これらの栄養素は、神経伝達物質の合成に必要であり、欠乏によりうつ症状がさらに悪化します。

心血管系への影響も無視できません。高血圧、不整脈、心筋症などのリスクが増加します。これらの疾患は、それ自体がストレス要因となり、うつ病を悪化させます。また、脳血管障害のリスクも増加し、血管性うつ病の発症につながることもあります。免疫機能の低下により、感染症にかかりやすくなることも、全体的な健康状態の悪化に寄与します。

専門医療機関への相談の目安と治療

うつ病とアルコール問題を抱えている場合、早期の専門医療機関への相談が重要です。しかし、多くの人が「まだ大丈夫」「自分でコントロールできる」と考え、受診を先延ばしにしてしまいます。

受診を検討すべき危険信号

以下のような症状や行動が見られる場合は、速やかに専門医療機関を受診すべきです。まず、飲酒量のコントロールができなくなっている場合です。「今日は飲まない」と決めても飲んでしまう、「1杯だけ」のつもりが止まらなくなる、といった状況は、アルコール依存症の初期症状です。また、朝から飲酒する、仕事中に飲酒する、隠れて飲むなどの行動も危険信号です。

精神症状の悪化も重要な指標です。飲酒後に強い罪悪感や自己嫌悪を感じる、飲酒時だけ気分が良く、素面では抑うつが強い、飲酒により希死念慮が強まるなどの症状は、専門的介入が必要な状態です。また、飲酒により暴言や暴力などの問題行動が生じる場合も、早急な治療が必要です。

身体的な離脱症状の出現は、身体依存が形成されている証拠です。飲酒を中断すると手の震え、発汗、動悸、不安、不眠などが生じる場合は、医学的管理下での離脱が必要です。急激な断酒は、振戦せん妄などの重篤な離脱症状を引き起こす可能性があり、生命に関わることもあります。これらの症状がある場合は、入院治療も検討されます。

専門治療の内容と流れ

うつ病とアルコール問題の専門治療は、包括的なアセスメントから始まります。精神科医による詳細な問診、心理検査、血液検査、画像検査などを通じて、両疾患の重症度と相互関係を評価します。肝機能、栄養状態、認知機能なども評価し、全体的な治療計画を立案します。

治療は、解毒(離脱症状の管理)、リハビリテーション、再発予防の3段階で進められます。解毒期には、ベンゾジアゼピン系薬物を用いて離脱症状を管理し、ビタミン補充療法も行います。この期間は通常1-2週間で、重症例では入院管理が必要です。リハビリテーション期には、認知行動療法、動機づけ面接法、12ステッププログラムなどを組み合わせて実施します。

薬物療法では、抗うつ薬に加えて、抗酒薬(ジスルフィラム、アカンプロサート)や飲酒欲求を減らす薬物(ナルトレキソン)の使用も検討されます。これらの薬物は、断酒の維持に有効ですが、動機づけが不十分な場合は効果が限定的です。家族療法も重要で、家族の理解と協力を得ることで、治療成績が向上します。治療期間は個人差が大きいですが、最低でも6か月から1年の継続的な治療が必要です。

治療を成功させるためのポイント

治療成功の最も重要な要因は、患者さん自身の治療への動機づけです。「変わりたい」という意欲がなければ、どんな治療も効果を発揮しません。動機づけを高めるために、動機づけ面接法という技法が用いられます。これは、患者さんの両価性(変わりたい気持ちと変わりたくない気持ち)を探索し、変化への動機を強化する方法です。

継続的な治療参加も重要です。多くの患者さんが、症状が少し改善すると治療を中断してしまいますが、これは再発の最大のリスク要因です。定期的な通院、服薬の継続、自助グループへの参加などを通じて、長期的な回復を目指す必要があります。治療の中断を防ぐために、治療契約を結ぶこともあります。

サポートシステムの構築も不可欠です。家族、友人、治療者、自助グループのメンバーなど、多層的なサポートネットワークを作ることで、困難な時期を乗り越えることができます。特に、同じ問題を抱える仲間との交流は、孤立感を軽減し、回復への希望を与えてくれます。また、再発は回復過程の一部であることを理解し、再発しても諦めずに治療を継続することが重要です。

利用可能な相談機関と支援サービス

うつ病とアルコール問題に対しては、医療機関以外にも様々な相談機関や支援サービスが利用できます。これらを活用することで、より包括的なサポートを受けることができます。

公的機関による相談窓口

精神保健福祉センターは、各都道府県と政令指定都市に設置されている公的機関で、精神保健に関する専門的な相談を無料で受けることができます。精神保健福祉士、臨床心理士、保健師などの専門職が相談に応じ、必要に応じて医療機関や福祉サービスにつなげてくれます。アルコール問題に特化した相談や家族教室も実施しています。

保健所でも精神保健相談を実施しており、より身近な場所で相談できます。定期的に精神科医による相談日を設けている保健所も多く、医療機関受診前の相談先として活用できます。また、訪問支援も行っており、外出が困難な方への支援も可能です。相談は無料で、秘密は厳守されます。

市区町村の障害福祉課や福祉事務所では、各種福祉サービスの利用相談ができます。自立支援医療、障害年金、生活保護など、経済的支援制度の申請窓口にもなっています。また、就労支援、居住支援などの相談も可能で、生活全般にわたるサポートを受けることができます。これらの機関は連携しており、包括的な支援体制を構築しています。

自助グループとピアサポート

AA(アルコホーリクス・アノニマス)は、アルコール依存症者のための自助グループで、全国各地でミーティングを開催しています。「12ステップ」と呼ばれるプログラムに基づき、断酒を継続するための支援を行います。参加は無料で、匿名性が保たれます。同じ問題を抱える仲間との出会いは、回復への大きな力となります。

断酒会も日本独自の自助グループで、AAとは異なり実名で参加します。家族の参加も可能で、より日本の文化に合った形でのサポートを提供しています。定期的な例会のほか、レクリエーション活動なども行い、断酒後の生き方全般をサポートします。全国に支部があり、地域に根ざした活動を展開しています。

うつ病の自助グループも各地で活動しています。同じ病気を抱える人々との交流は、孤立感を軽減し、回復への希望を与えてくれます。体験談の共有、情報交換、相互サポートを通じて、病気と向き合う力を得ることができます。オンラインでの活動も増えており、外出が困難な方でも参加可能です。家族会もあり、家族の立場での悩みを共有し、支援方法を学ぶことができます。

オンライン相談と新しい支援形態

近年、オンラインでの相談サービスが充実してきています。ビデオ通話やチャットを通じて、専門家のカウンセリングを受けることができます。通院が困難な方、仕事で時間が取れない方、対面での相談に抵抗がある方にとって、アクセスしやすい選択肢となっています。一部のサービスでは、24時間対応も行っています。

アプリを活用した支援も増えています。気分の記録、飲酒量の管理、認知行動療法のプログラムなど、様々な機能を持つアプリが開発されています。これらは治療の補助ツールとして有効で、日常的なセルフモニタリングに役立ちます。ただし、医療機関での治療に代わるものではなく、あくまで補助的な位置づけです。

訪問看護サービスも重要な支援形態です。精神科訪問看護では、看護師が自宅を訪問し、服薬管理、生活指導、相談支援などを行います。外出が困難な方、治療中断のリスクが高い方にとって、有効なサービスです。アルコール問題にも対応可能な事業所が増えており、包括的な在宅支援を受けることができます。

まとめ-うつ病とアルコールの危険な関係を断ち切るために

うつ病とアルコールの関係は、想像以上に複雑で危険なものです。一時的な気分の改善を求めて飲酒することが、結果的にうつ症状を悪化させ、アルコール依存症のリスクを高めます。抗うつ薬とアルコールの相互作用は予測不能で、重篤な副作用や自殺リスクの増加につながる可能性があります。

もし、うつ病の症状を抱えながら飲酒が止められない、飲酒後に気分の落ち込みが激しい、薬を飲んでいるのに飲酒してしまうなどの状況にある場合は、一人で悩まず、速やかに専門医療機関に相談することが重要です。うつ病とアルコール問題の二重診断は治療が困難ですが、適切な治療により回復は可能です。

治療には、医療機関での専門治療に加えて、自助グループ、公的相談機関、オンラインサービスなど、様々な支援を組み合わせることが効果的です。回復への道のりは決して平坦ではありませんが、適切な支援を受けながら、一歩ずつ前進することで、アルコールに頼らない健康的な生活を取り戻すことができます。あなたの勇気ある一歩が、回復への第一歩となります。

この記事を監修した人

石森寛隆

株式会社 Make Care 代表取締役 CEO

石森 寛隆

Web プロデューサー / Web ディレクター / 起業家

ソフト・オン・デマンドでWeb事業責任者を務めた後、Web制作・アプリ開発会社を起業し10年経営。廃業・自己破産・生活保護を経験し、ザッパラス社長室で事業推進に携わる。その後、中野・濱𦚰とともに精神科訪問看護の事業に参画。2025年7月より株式会社Make CareのCEOとして訪問看護×テクノロジー×マーケティングの挑戦を続けている。

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