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知的障害と自閉症の違いと関係性|併存の特徴と支援方法を解説

2025.10.27 精神科訪問看護とは

知的障害と自閉症は別々の障害ですが、実は密接な関係があることをご存知でしょうか。自閉症スペクトラム症(ASD)の約30-70%に知的障害が併存し、逆に知的障害の20-40%にASDの特性が見られます。それぞれ単独でも支援が必要ですが、併存する場合はより複雑な配慮が求められます。

本記事では、知的障害と自閉症それぞれの特徴、併存する場合の症状、診断方法、利用できる支援制度まで詳しく解説します。お子さんの発達が気になる方、適切な支援を探している方に、必要な情報をお届けします。

知的障害とは|定義・特徴・原因を理解する

知的障害は、知的機能と適応行動の両方に制限がある状態で、18歳以前の発達期に発症することが特徴です。単にIQが低いだけでなく、日常生活や社会生活において、年齢相応の行動が困難な状態を指します。日本では人口の約1%、100人に1人程度が知的障害を持つとされており、決して珍しい障害ではありません。知的障害は医学的には「知的能力障害」「精神遅滞」とも呼ばれますが、現在は「知的障害」という表現が一般的に使用されています。

知的障害の理解において重要なのは、それが単一の疾患ではなく、様々な原因により生じる状態像であることです。原因が特定できるケースは全体の25-50%程度で、残りは原因不明とされています。また、知的障害の程度には個人差が大きく、軽度から最重度まで幅広いスペクトラムを示します。軽度の場合は適切な支援があれば自立した生活が可能ですが、重度の場合は生涯にわたる支援が必要となります。

近年、知的障害への理解は深まりつつありますが、まだ多くの誤解や偏見が存在します。「知的障害者は何もできない」「成長しない」といった誤った認識は、当事者や家族を苦しめています。実際には、適切な教育と支援により、多くの知的障害者が社会参加し、充実した生活を送っています。知的障害を正しく理解することは、共生社会の実現にとって不可欠です。

知的障害の定義と診断基準

知的障害の診断には、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)やICD-11(国際疾病分類第11版)の基準が用いられます。DSM-5では、知的障害を「知的能力障害」と呼び、3つの基準すべてを満たす必要があるとしています。第一に、臨床的評価と標準化された知能検査により確認される知的機能の欠陥があること。具体的には、推論、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学業的学習、経験からの学習などの領域での欠陥です。第二に、個人の自立や社会的責任において、発達的・社会文化的な基準を満たすことができない適応機能の欠陥があること。第三に、これらの欠陥が発達期(18歳以前)に発症することです。

知能検査では、ウェクスラー式知能検査(WAIS-IV、WISC-IVなど)が広く用いられ、全検査IQが70程度以下の場合に知的機能の制限があるとされます。しかし、IQスコアには測定誤差があるため、65-75の範囲は臨床的判断を要します。また、文化的背景や言語の問題、感覚障害の有無なども考慮する必要があります。重要なのは、IQだけで診断するのではなく、適応行動も含めて総合的に評価することです。

適応行動の評価では、概念的スキル(言語、読み書き、数概念、時間、金銭など)、社会的スキル(対人関係、社会的責任、自尊心、騙されやすさなど)、実用的スキル(日常生活動作、職業技能、健康管理、移動など)の3領域を評価します。Vineland適応行動尺度などの標準化された評価ツールを用いて、年齢相応の適応レベルと比較します。知的障害の重症度は、軽度(IQ50-69)、中等度(IQ35-49)、重度(IQ20-34)、最重度(IQ20未満)に分類されますが、現在は支援の必要度による分類も重視されています。

知的障害の特徴|学習面・生活面の困難

知的障害の学習面での特徴として、抽象的な概念の理解が困難であることが挙げられます。具体的な事物や経験に基づく学習は可能でも、一般化や応用が難しく、新しい状況への適応に時間がかかります。読み書き計算などの基礎学力の習得も遅れ、特に文章読解や数学的推論に困難を示します。記憶力にも課題があり、短期記憶から長期記憶への移行が不十分で、繰り返し学習しても定着しにくい傾向があります。しかし、視覚的な情報や体験的な学習は比較的得意な場合が多く、適切な教育方法により学習効果を高めることができます。

生活面では、日常生活スキルの習得と般化に困難があります。身辺自立(食事、排泄、着脱、清潔保持など)は、軽度では自立可能ですが、中等度以上では部分的または全面的な支援が必要です。金銭管理は特に困難で、お金の価値の理解、計算、計画的な使用などに課題があります。時間の概念も曖昧で、スケジュール管理や約束の遵守が困難な場合があります。家事全般(調理、洗濯、掃除など)も、複雑な手順や判断を要するため、支援が必要なことが多いです。

社会生活においては、対人関係の構築と維持に困難があります。相手の気持ちを理解したり、社会的な暗黙のルールを理解したりすることが難しく、不適切な行動をとることがあります。コミュニケーションでは、言語発達の遅れだけでなく、文脈の理解、比喩や冗談の理解、非言語的コミュニケーションの読み取りなどに困難があります。判断力や危機管理能力も不十分で、危険を予測したり、トラブルに対処したりすることが困難です。これらの特徴により、詐欺や搾取の被害に遭いやすく、保護的な環境と継続的な支援が必要となります。

知的障害の原因|先天的要因と後天的要因

知的障害の先天的要因には、染色体異常、遺伝子異常、先天性代謝異常などがあります。最も頻度が高い染色体異常はダウン症候群(21トリソミー)で、知的障害の原因の約10%を占めます。その他、18トリソミー、13トリソミー、ターナー症候群、クラインフェルター症候群なども知的障害を伴います。単一遺伝子異常では、脆弱X症候群が最も多く、特に男性に重篤な症状が現れます。フェニルケトン尿症などの先天性代謝異常は、早期発見・早期治療により知的障害を予防できる場合があります。

妊娠中の要因も重要で、母体の感染症(風疹、サイトメガロウイルス、トキソプラズマなど)、アルコール摂取(胎児性アルコール症候群)、薬物使用、放射線被曝、栄養不良などが胎児の脳発達に影響を与えます。特に妊娠初期の影響は深刻で、脳の基本構造の形成が阻害される可能性があります。母体の年齢も関係し、高齢出産では染色体異常のリスクが増加します。環境汚染物質(鉛、水銀など)への曝露も、胎児の神経発達に悪影響を与える可能性があります。

後天的要因としては、周産期の問題(早産、低出生体重、新生児仮死、核黄疸など)と、出生後の要因(脳炎、髄膜炎、頭部外傷、溺水、虐待など)があります。早産児や低出生体重児は、脳の未熟性により発達の問題を生じやすく、特に超低出生体重児(1000g未満)では知的障害のリスクが高くなります。乳幼児期の重篤な感染症や事故による脳損傷も、知的障害の原因となります。また、極度の環境剥奪(ネグレクト、施設養育など)も、知的発達に悪影響を与えることが知られています。しかし、知的障害の約30-50%は原因不明であり、複数の要因が複雑に関与していると考えられています。

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自閉症スペクトラム症(ASD)とは|特徴と原因

自閉症スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)は、社会的コミュニケーションの困難と、限定された反復的な行動パターンを特徴とする神経発達症です。「スペクトラム」という言葉が示すように、症状の現れ方や重症度は連続的で、個人差が大きいことが特徴です。以前は、自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害などと別々に診断されていましたが、現在はこれらを包括してASDと呼びます。発生頻度は約100人に1人とされ、男性に多い傾向があります。

ASDは生まれつきの脳の機能的な違いによるもので、親の育て方や本人の性格の問題ではありません。多くの場合、3歳頃までに特徴が現れますが、知的障害を伴わない場合は、学齢期や成人期になってから診断されることもあります。早期発見・早期療育により、社会適応能力を高めることができるため、乳幼児健診での発達チェックが重要な役割を果たしています。

ASDの理解において重要なのは、それが「障害」というより「脳の多様性(ニューロダイバーシティ)」の一つとして捉える視点です。ASDの人は、独特な認知スタイルや感覚特性を持ち、それが強みになることもあります。例えば、細部への注意力、パターン認識能力、特定分野への深い興味と知識などは、適切な環境では才能として発揮されます。社会がASDの特性を理解し、受け入れることで、当事者の生活の質は大きく向上します。

自閉症から自閉スペクトラム症への変遷

自閉症の概念は、1943年にレオ・カナーが「早期幼児自閉症」として初めて報告して以来、大きく変化してきました。当初は、重度の社会的孤立と言語の遅れを示す稀な状態と考えられていました。1944年には、ハンス・アスペルガーが、知的障害を伴わないが社会性に困難を示す子どもたちを報告し、後に「アスペルガー症候群」と呼ばれるようになりました。長年、これらは別々の診断カテゴリーとして扱われていました。

2013年のDSM-5改訂により、自閉症、アスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害などが「自閉スペクトラム症」として統合されました。この変更の背景には、これらの状態が質的に異なるものではなく、同じ特性の連続体(スペクトラム)上にあるという認識があります。知的障害の有無、言語発達の程度、症状の重症度などは個人により異なりますが、中核的な特徴(社会的コミュニケーションの困難と限定的反復的行動)は共通しています。

スペクトラムという概念の導入により、診断と支援のアプローチも変化しました。以前は診断カテゴリーごとに支援方法を考えていましたが、現在は個々の特性とニーズに応じた個別化された支援が重視されています。また、「高機能自閉症」「低機能自閉症」という用語も見直され、「支援ニーズのレベル」で表現することが推奨されています。レベル1は「支援を要する」、レベル2は「十分な支援を要する」、レベル3は「非常に十分な支援を要する」とされ、知的能力だけでなく、実際の支援の必要度を反映した分類となっています。

ASDの主な特徴|社会性・コミュニケーション・こだわり

ASDの社会的コミュニケーションの困難は、多岐にわたります。視線を合わせることが苦手、表情や身振りの使用が少ない、相手の感情を読み取ることが困難などの非言語的コミュニケーションの問題があります。会話では、一方的に話す、相手の興味を考慮しない、文字通りの理解で比喩や皮肉が分からないなどの特徴があります。また、友人関係の構築と維持が困難で、年齢相応の仲間関係を作ることが難しく、一人でいることを好む傾向があります。ただし、これは他者への関心がないわけではなく、どのように関わればよいか分からないことが多いのです。

限定的反復的な行動パターンとして、同じ動作の繰り返し(手をひらひらさせる、体を揺らすなど)、物の一列並べ、同じフレーズの反復などがあります。また、特定の興味への没頭も特徴的で、電車、数字、特定のキャラクターなど、限られた対象に強い関心を示し、それ以外への興味が乏しくなることがあります。日常生活では、決まった手順やルーティンへのこだわりが強く、予定の変更や環境の変化に強い不安やパニックを示すことがあります。

感覚の特異性も重要な特徴です。感覚過敏により、特定の音、光、触感、味、匂いに過度に反応し、日常生活に支障をきたすことがあります。例えば、掃除機の音で耳を塞ぐ、特定の服しか着られない、偏食が激しいなどです。逆に感覚鈍麻もあり、痛みや温度を感じにくい、強い刺激を求めるなどの行動が見られることもあります。これらの感覚特性は、本人にとって非常に苦痛であり、適切な環境調整が必要です。最近では、感覚過敏に配慮した「センサリールーム」や「クワイエットアワー」などの取り組みも広がっています。

自閉症の原因|脳の機能的な違い

ASDの原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因と環境要因の複雑な相互作用により生じると考えられています。遺伝的要因の関与は明確で、一卵性双生児での一致率は60-90%、二卵性双生児では10%程度とされています。しかし、単一の「自閉症遺伝子」があるわけではなく、複数の遺伝子の組み合わせと、それらの相互作用が関与していると考えられています。現在、数百の遺伝子がASDのリスクと関連することが報告されていますが、それぞれの寄与は小さく、遺伝子検査で診断することはできません。

脳の構造と機能の研究から、ASDでは脳の発達パターンが定型発達とは異なることが分かっています。乳幼児期に脳が急速に成長し、その後の成長が緩やかになるという特徴があります。また、脳の各領域間の連結性に違いがあり、局所的な過剰結合と長距離の結合不足が報告されています。これらの違いが、情報処理スタイルの違いにつながっていると考えられています。例えば、細部に注目しやすく全体像を把握しにくい、同時処理より継次処理が得意などの認知特性と関連している可能性があります。

環境要因としては、妊娠中の要因(高齢出産、妊娠中の感染症、特定の薬物使用など)や周産期の要因(早産、低出生体重など)が、わずかにリスクを高める可能性が示唆されています。しかし、これらは直接的な原因ではなく、遺伝的脆弱性を持つ場合にリスクを修飾する要因と考えられています。重要なのは、親の育て方、予防接種、食事などがASDの原因になるという科学的根拠はないことです。「冷蔵庫マザー」理論やワクチン原因説などは完全に否定されており、これらの誤った情報による偏見や罪悪感から、家族を守ることが重要です。

知的障害と自閉症の関係性|併存率と特徴

知的障害と自閉症スペクトラム症(ASD)は、それぞれ独立した診断カテゴリーですが、高い併存率を示すことが知られています。研究により数値は異なりますが、ASDの約30-70%に知的障害が併存し、逆に知的障害の約20-40%にASDの特性が見られるとされています。この高い併存率は、両者が共通の遺伝的・神経生物学的基盤を持つ可能性を示唆しています。しかし、ASDがあっても知的障害がない人、知的障害があってもASDの特性がない人も多く存在することから、両者は異なる神経発達の側面を反映していると考えられています。

併存の程度には幅があり、軽度知的障害とASDの併存から、重度知的障害とASDの併存まで様々です。一般的に、知的障害が重度になるほどASDの併存率が高くなる傾向があります。また、ASDの症状の重症度と知的障害の程度には相関があり、社会的コミュニケーションの困難が顕著な場合、知的障害も重度であることが多いです。ただし、これは絶対的な関係ではなく、重度のASD特性を持ちながら知的能力が正常範囲の人もいます。

知的障害とASDが併存する場合、それぞれの特性が相互に影響し合い、独特な臨床像を呈します。例えば、ASDのコミュニケーションの困難と知的障害の理解力の制限が重なることで、意思疎通がより困難になります。また、ASDのこだわり行動と知的障害の判断力の不足が組み合わさることで、危険な行動や不適切な行動が増える可能性があります。このような複雑性により、適切な評価と支援計画の立案には、両方の特性を理解した専門的なアプローチが必要となります。

自閉症の併存症で最も多い知的障害

ASDに併存する症状の中で、知的障害は最も頻度が高いものの一つです。歴史的には、カナーが最初に報告した「早期幼児自閉症」の子どもたちの多くに知的障害が見られたことから、自閉症と知的障害は不可分のものと考えられていました。しかし、その後の研究により、知的障害を伴わないASD(以前のアスペルガー症候群を含む)の存在が明らかになり、現在では知的能力のレベルに関わらずASDと診断されるようになっています。

ASDに知的障害が併存する場合、言語発達の遅れがより顕著になります。知的障害単独の場合は、言語発達は遅れるものの、非言語的コミュニケーション(アイコンタクト、指差し、身振りなど)は比較的保たれます。しかし、ASDが併存すると、言語的・非言語的コミュニケーションの両方に困難が生じ、意思疎通が著しく制限されます。無発語や、エコラリア(オウム返し)のみの場合も多く、機能的なコミュニケーションの確立が課題となります。

行動面では、知的障害とASDの併存により、より複雑な様相を呈します。自傷行為、他害行為、パニック、常同行動などの行動上の問題が出現しやすく、その頻度と強度も高くなる傾向があります。これらの行動の背景には、コミュニケーションの困難による欲求不満、感覚の問題、環境の変化への適応困難、身体的不調の表現などがあり、機能的アセスメントに基づいた対応が必要です。また、知的障害により危険認知が不十分な上に、ASDの特性により予測困難な行動をとることがあり、安全管理が重要な課題となります。適切な構造化された環境と、個別化された支援により、これらの困難は軽減可能です。

知的障害が重いほど高まるてんかんの併存率

知的障害とASDが併存する場合、てんかんの併存率も高くなることが知られています。一般人口でのてんかん有病率は約1%ですが、知的障害では15-30%、ASDでは5-40%、両者が併存する場合は20-40%以上と報告されています。特に、重度知的障害とASDが併存する場合、てんかんの併存率は50%を超えることもあります。この高い併存率は、脳の発達異常が複数の神経発達症状を引き起こすことを示唆しています。

てんかん発症の時期は二峰性を示し、幼児期(1-5歳)と思春期(11-14歳)に発症のピークがあります。幼児期発症のてんかんは、ウエスト症候群やレノックス・ガストー症候群などの難治性てんかんが多く、発達への影響も大きいです。一方、思春期発症のてんかんは、ホルモンバランスの変化や脳の成熟過程と関連していると考えられています。てんかん発作の型も多様で、全般発作から部分発作まで様々なタイプが見られます。

てんかんの存在は、知的障害とASDの症状をさらに複雑にします。頻回の発作や抗てんかん薬の副作用により、認知機能がさらに低下する可能性があります。また、発作への不安から活動制限が生じ、社会参加の機会が減少することもあります。行動面では、発作前後の気分変動、意識障害による混乱、薬の副作用による眠気や興奮などが、既存の行動上の問題を悪化させることがあります。しかし、適切な薬物療法により発作がコントロールされれば、認知機能や行動面の改善が期待できます。定期的な脳波検査、血中濃度測定、副作用モニタリングなど、包括的な医療管理が重要です。

併存する場合の独特な症状と課題

知的障害とASDが併存する場合、単独の障害では見られない独特な症状や課題が生じます。認知面では、知的障害による全般的な認知機能の低下に加え、ASD特有の認知スタイル(細部への過度な注目、全体把握の困難、認知の柔軟性の欠如など)が重なり、学習がより困難になります。例えば、視覚的な手がかりは有効ですが、それに固執してしまい般化が困難になるなど、支援方法にも工夫が必要です。

感覚処理の問題も複雑化します。ASDの感覚過敏・鈍麻に加え、知的障害により感覚の不快を適切に表現できないため、突然のパニックや自傷行為として現れることがあります。例えば、特定の音に対する過敏性を言語化できず、その場から逃げ出したり、耳を強く押さえたりする行動として表出されます。このような行動の背景にある感覚の問題を理解し、環境調整を行うことが重要ですが、知的障害のため本人からの情報収集が困難で、観察と試行錯誤による対応が必要となります。

日常生活スキルの習得も大きな課題です。知的障害による理解と記憶の困難に、ASDによる柔軟性の欠如とこだわりが加わることで、スキルの習得と般化が著しく困難になります。例えば、歯磨きを教える際、特定の歯ブラシ、特定の場所、特定の手順でしかできず、少しでも状況が変わると全くできなくなることがあります。また、習得したスキルの維持も困難で、継続的な練習と支援が必要です。社会参加の面では、両方の障害特性により、地域生活、就労、余暇活動などあらゆる場面で intensive な支援が必要となり、家族の負担も大きくなります。しかし、適切な支援体制と環境調整により、quality of life の向上は十分可能です。

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診断方法と評価|知的障害と自閉症の見極め

知的障害とASDの診断は、それぞれ異なる評価方法を用いますが、両者が併存する可能性を常に考慮する必要があります。診断プロセスでは、詳細な発達歴の聴取、行動観察、標準化された検査の実施、医学的検査などを組み合わせて、包括的な評価を行います。特に、知的障害がある場合のASD診断は困難で、知的レベルに応じた評価方法の選択と、行動の解釈に専門的な知識が必要です。逆に、ASDがある場合の知能評価も、コミュニケーションの困難やこだわりにより、真の能力を評価することが難しい場合があります。

診断の時期も重要な要素です。知的障害は、重度の場合は乳幼児期に気づかれることが多いですが、軽度の場合は学齢期になってから明らかになることもあります。ASDは、早い場合は1歳半頃から兆候が見られますが、知的障害がない場合は、社会的要求が増える学齢期以降に診断されることもあります。早期診断は早期介入につながるため重要ですが、一方で、発達の個人差も大きい時期であるため、慎重な経過観察が必要な場合もあります。

診断は、医師(小児科医、精神科医、児童精神科医など)が中心となって行いますが、心理士、言語聴覚士、作業療法士などの多職種チームでの評価が理想的です。それぞれの専門職が、異なる側面から子どもを評価することで、より正確で包括的な診断が可能になります。また、家族や保育士・教師からの情報も重要で、様々な場面での行動を総合的に評価することが必要です。

知的障害の診断|知能検査と適応行動評価

知的障害の診断では、標準化された知能検査が中心的な役割を果たします。年齢に応じて、乳幼児にはベイリー乳幼児発達検査、幼児から学童にはWPPSI、WISC、成人にはWAISなどのウェクスラー式知能検査が用いられます。これらの検査では、言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度などの認知機能を評価し、全検査IQを算出します。IQ70以下が知的障害の目安となりますが、測定誤差や体調、検査環境なども考慮する必要があります。

適応行動の評価には、Vineland適応行動尺度が広く用いられています。これは、保護者や支援者への聞き取りにより、コミュニケーション、日常生活スキル、社会性、運動スキルの4領域を評価します。年齢相応の適応行動と比較し、どの程度の遅れがあるかを数値化します。知的障害の診断には、IQの低下と適応行動の制限の両方が必要で、IQが低くても適応行動が年齢相応であれば、知的障害とは診断されません。

ASDが併存する場合の知能評価には特別な配慮が必要です。言語指示の理解困難、注意の転導性、こだわりによる課題への取り組みの偏りなどにより、真の能力より低く評価される可能性があります。このような場合、非言語性知能検査(レーヴン色彩マトリックスなど)や、複数回の評価、課題の提示方法の工夫などにより、より正確な評価を目指します。また、知能検査の下位検査間のばらつき(ディスクレパンシー)が大きい場合は、ASDの併存を疑う手がかりとなることもあります。

自閉症の診断|行動観察とスクリーニング検査

ASDの診断は、主に行動観察と発達歴の聴取に基づいて行われます。診断基準(DSM-5)に照らして、社会的コミュニケーションの困難と限定的反復的行動の両方が、発達早期から存在し、日常生活に支障をきたしているかを評価します。診断には、ADOS-2(自閉症診断観察検査)やADI-R(自閉症診断面接改訂版)などの標準化された評価ツールが用いられることもあります。これらは、訓練を受けた専門家が実施する必要があります。

スクリーニング検査として、M-CHAT(乳幼児自閉症チェックリスト修正版)、PARS(広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度)、AQ(自閉症スペクトラム指数)などがあります。これらは、ASDの可能性を評価するもので、確定診断ではありません。M-CHATは1歳半から2歳半の幼児を対象とし、保護者が記入する簡便な質問紙です。早期発見に有用ですが、偽陽性(ASDでないのに陽性と出る)も多いため、陽性の場合は詳細な評価が必要です。

知的障害がある場合のASD診断は特に困難です。言語発達の遅れ、社会性の未熟さ、常同行動などは、知的障害単独でも見られるため、ASD特有の特徴を見極める必要があります。例えば、視線の質的な異常(見つめるが共同注意がない)、感覚の特異性、特定の物への執着などは、知的障害の程度に関わらずASDを示唆する所見です。また、知的レベルに比して社会性が特に低い場合も、ASDの併存を疑います。CARS(小児自閉症評定尺度)は、知的障害を伴うASDの評価に有用とされています。行動観察では、構造化された場面と自由な場面の両方で評価することが重要で、様々な状況での行動を総合的に判断します。

鑑別診断と併存症の評価

知的障害とASDの診断では、他の発達障害や精神疾患との鑑別が重要です。注意欠如多動症(ADHD)は、ASDと併存することが多く、不注意、多動、衝動性の症状が重なります。しかし、ADHDの社会性の問題は、衝動性や不注意によるもので、ASDのような質的な障害ではありません。言語発達の問題では、特異的言語障害との鑑別が必要です。知的障害がないのに言語発達が遅れる場合、ASDか特異的言語障害かの判断には、非言語的コミュニケーションや社会性の評価が重要です。

感覚障害(聴覚障害、視覚障害)の除外も必須です。聴覚障害により言語発達が遅れ、社会性が未熟に見えることがあります。新生児聴覚スクリーニングの結果確認、耳鼻科的検査、聴性脳幹反応(ABR)などにより評価します。また、選択的緘黙、反応性愛着障害、統合失調症の前駆症状なども、ASDと類似した症状を示すことがあり、詳細な病歴聴取と経過観察により鑑別します。

医学的検査も診断プロセスの一部です。染色体検査、遺伝子検査により、知的障害の原因となる染色体異常(ダウン症など)や遺伝子異常(脆弱X症候群など)を検出できることがあります。脳波検査により、てんかんの有無を評価します。MRIなどの画像検査は、脳の構造異常を除外するために行うことがありますが、知的障害やASDの診断に必須ではありません。代謝スクリーニングにより、治療可能な代謝疾患を除外することも重要です。これらの検査結果と、行動評価、発達評価を総合して、最終的な診断を行います。複雑なケースでは、経過観察しながら診断を確定することもあり、拙速な診断より、慎重で包括的な評価が重要です。

支援制度と相談窓口|利用できるサービス

知的障害とASDがある方が利用できる支援制度は多岐にわたり、ライフステージに応じて様々なサービスが用意されています。これらの制度を適切に活用することで、本人の能力を最大限に引き出し、家族の負担を軽減することができます。支援制度の基本となるのは、障害者手帳(療育手帳、精神障害者保健福祉手帳)の取得です。手帳により、各種福祉サービス、税制優遇、公共料金の減免などを受けることができます。

障害者総合支援法に基づく福祉サービスは、障害の種類や程度、年齢に応じて利用できます。居宅介護、重度訪問介護、行動援護などの訪問系サービス、生活介護、就労支援などの日中活動系サービス、グループホーム、施設入所支援などの居住系サービスがあります。児童福祉法に基づく障害児支援として、児童発達支援、放課後等デイサービス、保育所等訪問支援なども利用できます。これらのサービスは、市区町村に申請し、障害支援区分の認定を受けて利用します。

相談窓口も充実しており、専門的な支援を受けることができます。市区町村の障害福祉課、児童相談所、発達障害者支援センター、基幹相談支援センターなどが主な相談先です。医療機関では、小児科、精神科、児童精神科などで診断と治療を受けることができます。教育分野では、特別支援教育コーディネーター、スクールカウンセラーなどが相談に応じます。これらの機関が連携して、切れ目ない支援を提供する体制が整備されつつあります。

療育手帳の取得方法とメリット

療育手帳は、知的障害者が各種支援を受けるための証明書で、都道府県・政令指定都市が発行します。18歳未満は児童相談所、18歳以上は知的障害者更生相談所で判定を受けます。判定では、知能検査、適応行動の評価、生活状況の聞き取りなどを行い、障害の程度により等級が決定されます。等級は自治体により異なりますが、多くは重度(A)と中軽度(B)の2区分、または最重度・重度・中度・軽度の4区分です。ASDがある場合も、知的障害を伴えば療育手帳の対象となります。

療育手帳取得のメリットは多岐にわたります。経済的支援として、特別児童扶養手当、障害児福祉手当、特別障害者手当などの受給資格が得られます。税制面では、所得税・住民税の障害者控除、自動車税の減免などがあります。公共サービスでは、JRなど交通機関の運賃割引、NHK受信料の減免、公共施設の利用料減免などを受けられます。また、障害者雇用枠での就職、福祉サービスの利用、特別支援教育の対象となるなど、様々な支援につながります。

手帳取得の手続きは、まず市区町村の福祉窓口で相談し、必要書類(申請書、写真、印鑑など)を準備します。その後、児童相談所または知的障害者更生相談所で判定を受けます。判定には、本人と保護者の面接、心理検査、医師の診察などが含まれ、半日程度かかります。判定結果に基づき手帳が交付され、通常は2-4年ごとに再判定を受けます。ただし、障害の程度が固定している場合は、次回判定不要となることもあります。手帳の等級は、成長や療育により変更される可能性があり、必要に応じて再判定を申請することもできます。

発達障害者支援センターの役割

発達障害者支援センターは、発達障害者支援法に基づき、都道府県・政令指定都市に設置されている専門機関です。ASD、ADHD、学習障害などの発達障害がある本人と家族、支援者を対象に、相談支援、発達支援、就労支援、普及啓発などを行っています。知的障害を伴う発達障害も支援対象で、ライフステージに応じた切れ目ない支援を提供しています。センターには、臨床心理士、社会福祉士、言語聴覚士などの専門職が配置されています。

相談支援では、診断前の相談から、診断後の療育、学校での配慮、就労、生活全般まで幅広く対応します。電話相談、来所相談、必要に応じて訪問相談も行います。発達支援では、個別または小集団での療育プログラム、ソーシャルスキルトレーニング、ペアレントトレーニングなどを実施します。就労支援では、就労準備性の評価、職業適性の把握、ジョブマッチング、職場定着支援などを行い、ハローワークや障害者職業センターとも連携します。

普及啓発活動も重要な役割です。支援者向けの研修会、一般市民向けの講演会、教育機関での出前講座などを通じて、発達障害の理解促進を図っています。また、地域の支援機関のネットワーク構築、支援手法の開発と普及、困難ケースへのコンサルテーションなども行います。利用は原則無料で、診断の有無に関わらず相談できます。ただし、継続的な療育プログラムなどは、定員があるため待機が生じることもあります。早めの相談により、適切な支援につなげることが重要です。

福祉サービスと医療支援の活用

障害者総合支援法による福祉サービスは、知的障害とASDがある方の地域生活を支える重要な制度です。居宅介護(ホームヘルプ)では、入浴、排泄、食事などの身体介護、調理、洗濯、掃除などの家事援助を受けられます。行動援護は、知的障害や精神障害により行動上の困難がある方に、外出時の移動支援や危険回避の援助を提供します。重度訪問介護は、重度の障害がある方に、長時間の見守りを含む総合的な支援を行います

日中活動の場として、生活介護事業所では、創作活動、生産活動、身体機能の維持向上などのプログラムを提供します。就労継続支援B型は、一般就労が困難な方に、生産活動の機会を提供し、工賃を支払います。就労移行支援は、一般就労を目指す方に、2年間の職業訓練と就職活動支援を行います。これらのサービス利用には、相談支援専門員によるサービス等利用計画の作成が必要です。

医療面では、自立支援医療(精神通院医療)により、精神科通院の医療費自己負担が原則1割に軽減されます。ASDに伴う精神症状、てんかん、睡眠障害などの治療が対象となります。訪問看護も利用でき、服薬管理、健康管理、精神的支援などを自宅で受けられます。また、医療的ケアが必要な重症心身障害児者には、医療型短期入所、療養介護などのサービスもあります。これらの制度を組み合わせることで、個々のニーズに応じた包括的な支援体制を構築できます。利用にあたっては、市区町村の障害福祉課や相談支援事業所に相談し、適切なサービスを選択することが重要です。

まとめ

知的障害と自閉症スペクトラム症(ASD)は、それぞれ独立した障害ですが、高い併存率を示します。知的障害は知的機能(IQ70以下)と適応行動の両方に制限がある状態で、18歳以前に発症します。一方、ASDは社会的コミュニケーションの困難と限定的反復的行動を特徴とする神経発達症で、知的能力は正常な場合も多いです。

両者の併存率は高く、ASDの30-70%に知的障害が、知的障害の20-40%にASD特性が見られます。併存する場合、言語発達の遅れ、行動上の問題、てんかんの併存率上昇など、より複雑な症状を呈します。知的障害が重度になるほど、ASDやてんかんの併存率も高くなる傾向があります。

診断には、知能検査、適応行動評価、行動観察、発達歴聴取などを組み合わせた包括的評価が必要です。知的障害の診断にはIQと適応行動の両方の評価が、ASDの診断には社会的コミュニケーションと行動パターンの評価が重要です。併存の可能性を考慮し、多職種での評価が理想的です。

支援制度として、療育手帳による各種サービス、障害者総合支援法による福祉サービス、発達障害者支援センターでの専門的支援などが利用できます。医療、福祉、教育の連携により、ライフステージに応じた切れ目ない支援が可能です。

知的障害とASDの併存は、支援を複雑にしますが、両方の特性を理解し、個別のニーズに応じた支援を行うことで、quality of lifeの向上が期待できます。早期発見・早期療育と、継続的な支援体制の構築が重要です。

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この記事を監修した人

石森寛隆

株式会社 Make Care 代表取締役 CEO

石森 寛隆

Web プロデューサー / Web ディレクター / 起業家

ソフト・オン・デマンドでWeb事業責任者を務めた後、Web制作・アプリ開発会社を起業し10年経営。廃業・自己破産・生活保護を経験し、ザッパラス社長室で事業推進に携わる。その後、中野・濱𦚰とともに精神科訪問看護の事業に参画。2025年7月より株式会社Make CareのCEOとして訪問看護×テクノロジー×マーケティングの挑戦を続けている。

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