こんにちは。株式会社Make Careの代表取締役CEOであり、訪問看護ステーションくるみでマーケティングを担当している石森寛隆です。XではHEROと名乗っていますので、もしよろしければフォローください。
僕は、経営者として現場を見続ける中で、どうしても言葉にしておきたいテーマがいくつかあります。
そのひとつが「企業内のこころの保健室」という構想です。
まだ形にはなっていないけれど、きっとこれからの社会に必要になる仕組みであり、同時に僕自身の原点とも深くつながっている考えです。
元々はハムさんが「企業内看護師」を目指していた、と耳にしたのがきっかけで構想のフレームが着想された構想。
今回から全6回にわたって、この「企業内のこころの保健室」構想と予防型社会保障の未来について考える機会を持ち、自分の考えを整理する意味も込めて、このコラムに綴っていこうと思います。
そして第一回となる今回は、なぜ「予防」が必要なのか ― 日本の社会保障の弱点と挑戦の出発点 について書いてみたいと思います。
大阪市、寝屋川市、守口市、
門真市、大東市、枚方市全域対象
“精神科に特化”した
訪問看護ステーション
「くるみ」
平日・土曜・祝日 9:00〜18:00
【日曜・お盆・年末年始休み】
※訪問は20時まで
対応させていただいております。
日本の社会保障は「事後対応型」である
訪問看護の経営に携わる中で、僕はずっと違和感を抱いてきました。
それは、日本の社会保障や医療の仕組みが基本的に「事後対応型」であるということです。
病気になれば病院に行って治療を受ける。働けなくなれば傷病手当金や失業給付が支給される。生活が立ち行かなくなれば生活保護に頼る。
すべて「問題が顕在化してから」初めて制度が動き出す仕組みです。
もちろんそれは大切なセーフティネットだし、制度があることで多くの人が救われてきたのも事実。
ただ一方で、僕はこうも思います。
「もっと早く手を打てれば、ここまで社会保険料や国庫負担は膨らまなかったのではないか」と。
メンタル不調が社会に与えるコスト
特に精神疾患やメンタル不調は、この“事後対応の遅さ”が如実に表れる領域です。
例えば、うつ病で休職すると、最長で1.5年間、傷病手当金が支給されます。
1人あたりの金額は数百万円規模。さらに復職がうまくいかず退職に至れば、失業給付や生活保護につながることも少なくありません。
実際の数字を見ても深刻です。
厚労省の発表によると、2024年度の精神障害に関する労災請求は3,780件と過去最多を更新しました。
支給決定件数も1,055件と、初めて1,000件を超えています。
(ソース : 独立行政法人労働政策研究・研修機構/ 「精神障害」の労災支給決定件数が6年連続の増加)
原因として最も多いのは「パワハラ」224件、次いで「カスハラ」108件。
つまり職場環境の中で、心が壊れてしまう人が年々増えている現実があります。
さらに、健康保険組合連合会の調査では、傷病手当金の年間支給総額は約5,000億円にのぼり、そのうち精神疾患によるものが全体の3割を占めています。
つまり年間1,500億円以上が「心の不調」によって社会保険から支払われている計算です。
これは医療費や生活保護費と合わせると、社会全体で莫大な負担になっていることは明らかです。
一方、アメリカや欧州では「EAP(Employee Assistance Program)」と呼ばれる従業員支援制度が普及していて、従業員が気軽にメンタル相談できる窓口を企業が持つのは当たり前になっています。
残念ながら日本ではまだ普及率が低く、国としての投資も十分ではありません。
この差が、予防に力を入れられず事後対応に偏る日本社会の弱点を浮き彫りにしています。
予防は「コスト削減」ではなく「投資」である
では、どうすればいいのか。
僕がたどり着いた答えはシンプルです。
「予防にもっと投資する」こと。
予防というと「コスト削減策」として語られがちですが、僕はむしろ逆だと思っています。
予防とは投資であり、社会の持続可能性を高めるための戦略です。
例えば、糖尿病予備群の人に生活習慣改善プログラムを提供することは短期的には費用がかかりますが、長期的には医療費を大幅に減らします。
同じように、メンタル不調の“芽”の段階で声をかけることができれば、休職や長期の治療に至らずに済む。結果として個人も、企業も、社会全体も守られるのです。
想いとしての原点
ある同僚は、普段は明るく冗談を言う人でした。
けれどある日突然「眠れていない」と打ち明けてきた。
そのとき、僕は“もっと早く気づけたのではないか”と強く思いました。
また、ある社員さんは泣きそうな声で「働きたいのに働けない」とこぼしました。
相談がもう少し身近にあれば、この人の人生は違ったかもしれない。
そう考えると、経営者としても人としても、胸が締め付けられるのです。
だから僕は「社員が壊れていくのを黙って見たくない」と思いました。
そして、「こころの変化にいち早く対応できる仕組みがあれば」と何度も感じました。
もしこれが自分の家族だったらどうだろう。
大切な人が「働きたいのに働けない」と苦しんでいたら、僕はどんな制度や仕組みを望むだろう。
そう考えると、これは経営者としての使命であると同時に、人としての責任でもあると強く感じています。
企業内の「こころの保健室」という発想
そこで僕が考えたのが、「企業内のこころの保健室」という仕組みです。
社員が気軽に立ち寄れる“オンラインの保健室”。
現役の精神科訪問看護師がZOOMで対応し、「なんとなくしんどい」という段階から相談できる。
診断や治療ではなく、「ちょっとした声かけ」「生活のアドバイス」「状況整理のサポート」。
それだけでも、深刻化を防げるケースは確実にあります。
保健室というネーミングは、僕にとっても大事なポイントです。
「カウンセリング」や「精神科」ではハードルが高くても、「保健室」なら子どもの頃から馴染みのある安心感がある。
それだけで相談につながる可能性は大きく変わります。
予防型社会保障への挑戦の第一歩
僕は、訪問看護の経営者として現場を見てきたからこそ、「事後対応の限界」を痛感しています。
そして同時に、「予防型の仕組みがなければ、この国の社会保障は持続しない」とも確信しています。
だからこそ、企業内の「こころの保健室」という構想を、ただのアイデアに留めず、形にしていきたいのです。
それは、社員一人ひとりの安心を守り、企業の持続性を高め、そして社会全体の社会保険料を抑制する。
そんな“予防型社会保障”への挑戦の第一歩になるはずです。
この連載では、僕がなぜ「こころの保健室」をやりたいのか、その背景や現場で見てきたリアル、ビジネスモデルの可能性、そして社会的なインパクトについて、6回にわたって掘り下げていきます。
第1回の今日は「なぜ予防が必要なのか」を整理しました。
次回は「現場で見てきた休職・離職のリアル」についてお話ししたいと思います。