早期介入は“コスト削減”ではなく“未来投資”である|休職・離職の連鎖を止める「予防」の真価
こんにちは。株式会社Make Careの代表取締役CEOであり、訪問看護ステーションくるみでマーケティングを担当している石森寛隆です。XではHEROと名乗っていますので、もしよろしければフォローください。
こころの保健室シリーズ
連載第1回では「なぜ今、予防が必要なのか」という時代の要請を、
第2回では「休職・離職が現場にもたらす残酷なリアル」を綴りました。
第3回となる今回は、これらを踏まえ、なぜ「早期介入」こそが現代社会における最強のソリューションなのか。そして、それが企業や社会にとってどのような「投資」になるのか。数字的なインパクトと、現場で見てきた「人の人生」の両面から深掘りしていきます。
大阪市、寝屋川市、守口市、
門真市、大東市、枚方市全域対象
“精神科に特化”した
訪問看護ステーション
「くるみ」
平日・土曜・祝日 9:00〜18:00
【日曜・お盆・年末年始休み】
※訪問は20時まで
対応させていただいております。
氷山の一角に過ぎない「休職コスト」の正体
多くの経営者や人事担当者と話すと、「休職者が出るのは、福利厚生や制度があるから仕方ない」という、ある種の諦めに似た許容を感じることがあります。しかし、マーケッター的な視点で市場データとコスト構造を分析すると、その「諦め」がいかに経営を圧迫しているかが浮き彫りになります。
1人あたり1,000万円という損失のリアリティ
年収500万円の中堅社員がメンタルヘルス不調で休職した場合、企業が被る損失は、単なる「給与の不在」だけではありません。
直接的コスト: 社会保険料の会社負担分、休職手当の事務手続き工数。
採用・教育コスト: 代替要員を確保するための採用広告費(年収の35%〜100%)、エージェント費用、そして新しい人材が戦力化するまでの教育期間。
生産性低下コスト: 休職前の「パフォーマンス低下期間(プレゼンティーイズム)」および、復職後の慣らし運転期間。
チームへの波及コスト: 残されたメンバーへの業務負荷増大による、連鎖的な不調や離職のリスク。
これらを合算すると、休職1人につき年収の2倍〜3倍、つまり1,000万円規模の損失が発生しているというのが、現代の人的資本経営における定説です。
「目に見えない損失」が組織を腐らせる
数字に出にくいコストとして、組織の「心理的安全性の低下」があります。「あのアサインは無理があった」「会社は助けてくれなかった」という空気感は、他の優秀な社員のエンゲージメントを削り、静かな離職(Quiet Quitting)を招きます。
『こころの保健室』が目指すのは、この1,000万円の損失を未然に防ぎ、組織の健康度を維持する「防波堤」となることです。
社会保障の構造的な「バグ」と、事後対応の限界
今の日本における社会保障制度は、素晴らしいセーフティネットである反面、メンタルヘルスにおいては致命的な「バグ」を抱えています。それは、「壊れてからでないと助けない」という構造です。
事後対応の連鎖が生む負のスパイラル
今の仕組みを整理すると、以下のようになります。
1.発症: 本人が限界を迎えるまで耐える。
2.診断: 病院に行き、診断書が出て初めて「制度」が動き出す。
3.休職: 傷病手当金という公的扶助が投入される。
4.離職: 復職に失敗し、失業保険へ移行。
5.困窮: 再就職が困難になり、最終的に生活保護へ。
これは、崖から落ちた人をふもとで救急車が待機しているようなものです。救急車(医療や手当)はもちろん必要ですが、そもそも「崖から落ちないための柵」を作ることに、もっとリソースを割くべきではないでしょうか。
医療費を増大させる「重症化」というコスト
精神疾患は、重症化すればするほど寛解までの時間が指数関数的に伸びます。初期の不眠段階なら数日の休養で済んだものが、うつ病が深刻化すれば数年単位の療養が必要になります。
この期間の医療費、薬剤費、そして社会保険料の減収。これらはすべて、現役世代の負担として跳ね返ってきます。僕はここに、「予防」への投資不足がもたらす国家規模の非効率を感じてやみません。
「最初の30分」が人生の分岐点になる理由
訪問看護の現場にいると、「もし、あの時に誰かが話を聞いていれば」と思う場面に、嫌というほど遭遇します。
予兆(サイン)は必ず出ている
メンタル不調は、ある日突然、雷が落ちるようにやってくるものではありません。必ずグラデーションのような予兆があります。
・趣味だった動画配信を観る気力がなくなる。
・朝、服を選ぶのに15分以上かかるようになる。
・メールの返信が1行書くのにも苦痛を感じる。
・昼食の味がしなくなる。
これらは、医学的な診断名がつく前の「未病」の状態です。この段階で、専門的な知識を持った「誰か」に30分だけ相談でき、適切な休息や環境調整の助言を受けられたら、人生の軌道は大きく変わります。
早期介入が「自尊心」を守る
休職を経験した人の多くが語るのは、「働けなくなった自分への絶望感」です。一度キャリアが断絶されると、自己肯定感を取り戻すには相当な時間がかかります。 早期介入によって休職を未然に防ぐことは、単に「仕事を続けさせる」ことではなく、「その人のアイデンティティと尊厳を守る」ことに他なりません。
なぜ「予防」は究極の未来投資なのか
ここで、ビジネス的な視点に戻りましょう。投資(ROI)という観点で見ても、予防は極めて優秀です。
人的資本経営の核心としてのメンタルヘルス
近年、企業の価値を測る指標として「人的資本」が注目されています。社員を「コスト(費用)」ではなく「資本(財産)」と捉える考え方です。 機械のメンテナンスに予算を割くように、社員の心のメンテナンスに予算を割く。これは経営として極めて健全な投資です。
『こころの保健室』がもたらす3つのリターン
1.生産性の維持: 不調の芽を摘むことで、プレゼンティーイズムによる損失を最小化する。
2.採用ブランドの向上: 「社員の健康を本気で守る会社」というメッセージは、優秀な若手層への強力な訴求力になる。
3.レジリエンス(回復力)の強化: 悩みやストレスへの対処法(コーピング)を学ぶ機会を提供し、組織全体のストレス耐性を高める。
コスト削減の先にある「優しさが循環する社会」へ
僕は本気でこの『こころの保健室』を広めたいと思っています。しかし、その根底にあるのは、冷徹な数字計算だけではありません。
現場で見た「絶望」を「希望」に変えたい
訪問看護ステーションくるみを運営する中で、僕たちは「もっと早く出会いたかった」という言葉を何度も聞いてきました。 家族がバラバラになり、本人が自分を責め、社会との接点を失っていく。そんな悲劇の多くは、実は「予防」という概念が社会に浸透していれば防げたはずのものなのです。
経営者としての悔しさを糧に
僕自身も一人の経営者として、かつて仲間が苦しんでいることに気づけず、休職させてしまった苦い経験があります。「社長、最近眠れないんです」という一言を拾えなかった。その悔しさが、僕を『こころの保健室』構想へと突き動かしています。
予防は、新しい時代の「インフラ」になる
「こころの保健室」構想は、単なるWebサービスではありません。それは、「頑張る人が、頑張りすぎて壊れてしまう前に立ち寄れる場所」を、社会の中に標準装備する挑戦です。
・個人にとっては、キャリアと自分自身を守る盾。
・企業にとっては、持続可能な成長を支える投資。
・社会にとっては、持続可能な社会保障制度を維持するための処方箋。
休職や不調を「個人の弱さ」として片付ける時代は、もう終わりにしましょう。それは社会の構造が生み出している課題であり、構造(システム)で解決すべき問題なのです。
だからこそ、僕は「予防」という名の未来投資に全力を尽くしたいと考えています。

次回予告:具体的ソリューションの全貌公開
次回(第4回)では、この思想をどのように形にしたのか。 法人向けパッケージ「こころの保健室 for Business」の具体的な機能、相談フロー、そして企業が導入する際の実務的なメリットについて徹底解説します。
「具体的にどうやって不調を見つけるのか?」「プライバシーはどう守るのか?」「産業医やカウンセラーとの違いは?」
経営者や人事担当者の皆様が抱く疑問に、すべてお答えします。
「守るべきは、数字ではなく、人の人生である。」
その信念を具現化した仕組みを、ぜひ楽しみにしていてください。

