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多重人格とは?症状・原因・治療法を徹底解説

2025.10.08 精神科訪問看護とは

「多重人格」と聞くと、映画やドラマのように突然人格が入れ替わるイメージを抱く方も多いかもしれません。しかし、実際の多重人格(正式名称:解離性同一性障害)は、極めて深刻な心の傷に起因する精神疾患であり、本人にとっては日常生活に大きな困難をもたらす病気です。

本記事では、「多重人格とは何か?」という基本から、症状、原因、治療法、相談先までを網羅的に解説します。誤解の多いこの疾患について、正しい知識を持つための一助となる情報をお届けします。

多重人格とは?基本的な定義と特徴

多重人格(解離性同一性障害)の概要

多重人格とは、正式には「解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder:DID)」と呼ばれる精神疾患です。複数の人格(交代人格)が1人の身体の中に存在し、それぞれが異なる思考・感情・記憶・行動を持ち、交代で表出します。これにより、本人には記憶の断絶(健忘)が起こり、生活に大きな支障が生じることもあります。

多くの場合、人格同士の記憶は共有されておらず、自分の行動や発言をまったく覚えていないという状況が繰り返されます。

かつての名称「多重人格障害」との違い

かつては「多重人格障害(Multiple Personality Disorder:MPD)」と呼ばれていましたが、現在では「解離性同一性障害(DID)」という呼称が国際的に定着しています。この変化は、「障害の本質が人格の多さにあるのではなく、解離という心の分断現象にある」との理解が進んだためです。

DIDでは、自己同一性の持続的な破綻が問題の核心とされ、人格が複数に分かれるのはその一つの表れにすぎません。

解離性障害との関係性と分類

多重人格は「解離性障害群」に分類される疾患の一つで、他にも解離性健忘や離人症性障害などがあります。いずれも、強いストレスやトラウマから心を守るために「意識・記憶・自己認識」が切り離されるというメカニズムを共有しています。特にDIDは、解離性障害の中でも最も重度の状態とされており、長期的な治療や支援が必要です。

多重人格の主な症状と現れ方

健忘(記憶の空白や飛び)

多重人格における顕著な症状の一つが「解離性健忘」です。本人が経験した出来事の記憶が断片的に失われる、または完全に抜け落ちることがあり、「気がついたら知らない場所にいた」「他人から聞いた自分の行動をまったく覚えていない」などのエピソードが繰り返されます。これは人格が交代した際に起こるもので、本人にとっては非常に混乱を招く体験です。

複数の人格が存在する状態

多重人格の中核的な症状は、異なる人格が交代で表に出てくる現象です。これらの人格は、名前、年齢、性格、口調、利き手、知識などが異なることも多く、ある人格はピアノが弾けるのに、他の人格は全く知らないという例もあります。人格は通常、ストレスや特定の状況を引き金に交代し、本人の意識はその間の記憶を失います。

憑依型(完全に入れ替わるタイプ)

憑依型では、ある人格が現れると、本人の意識が完全に退いてしまうため、その間の記憶が完全に失われます。周囲から見ると「別人になった」と思えるほど言動が変わるため、異変に気づかれることが多いタイプです。

非憑依型(一部だけが出るタイプ)

一方、非憑依型では、本人の意識が残ったまま他の人格が影響を及ぼす形で現れます。例えば、突然性格が変わったり、声色や口調が変化したりするものの、記憶は残っている場合もあります。こちらは周囲が気づきにくく、見過ごされることも多いです。

身体的・精神的な症状(頭痛・不安・混乱など)

人格交代時には、頭痛やめまい、吐き気などの身体症状が現れることがあります。また、不安、混乱、恐怖感といった精神的苦痛も強く、パニック発作を伴うこともあります。これらの症状は、日常生活や人間関係に支障をきたす要因となります。

日常生活への支障(仕事や人間関係への影響)

人格交代による健忘や行動の変化は、仕事や学業、家族関係に深刻な影響を及ぼします。周囲の人からは「気分屋」「嘘をついている」と誤解されることもあり、孤立や自己否定感が深まる要因となるケースも少なくありません。

多重人格の原因|なぜ発症するのか?

幼少期の虐待・ネグレクトなどのトラウマ体験

多重人格(解離性同一性障害)の発症要因として最も多く報告されているのが、幼少期の深刻なトラウマ体験です。具体的には、身体的・性的・精神的虐待、ネグレクト(育児放棄)、家庭内暴力などが含まれます。特に、5歳以前の極めて早期の年齢で受けた持続的な苦痛体験が、人格の分裂(解離)を引き起こす大きな引き金になると考えられています。

いじめ・DVなど対人関係のストレス

家庭内だけでなく、学校や職場でのいじめ、パートナーからのDV(ドメスティックバイオレンス)といった対人関係における深刻なストレスも発症の引き金となりえます。自己を守るために現実から意識を切り離す「解離」は、心を守るための防衛手段ですが、度重なるストレスによって慢性的に起こると、人格の分裂につながるリスクが高まります。

事故や災害など命に関わる強い体験

生命の危険を感じるような体験、たとえば重大な交通事故、大規模災害、強盗被害なども、多重人格の引き金となる可能性があります。これらの体験は、心のキャパシティを超えるほどの恐怖と無力感をもたらし、意識や感情が分断されることによって新たな人格が形成されることがあります。

発症のリスク因子(遺伝、性格、家庭環境)

すべてのトラウマ体験がDIDを引き起こすわけではありません。個人差があり、もともとの性格傾向(感受性の強さ、内向性)や、遺伝的な要因、支援のない家庭環境などが重なることで発症リスクが高まると考えられています。また、周囲に話を聞いてくれる大人がいなかった、安心できる居場所がなかったなどの要素も、人格の統合形成に悪影響を及ぼします。

防衛機制としての「解離」というメカニズム

DIDの核心にあるのは「解離」です。これは、耐えがたい苦痛や恐怖を感じた際に、その感情や記憶から意識を切り離す心の働きです。心が分裂して別の人格を作ることで、「あのつらい体験は“自分”ではない誰かのもの」として処理しようとします。こうした過程が繰り返されることで、複数の人格が形成されていきます。

診断と検査|多重人格と診断されるには?

診断基準(DSM-5など精神医学の分類)

多重人格(解離性同一性障害)は、精神疾患の国際的診断基準であるDSM-5に明確な定義が記されています。主な診断基準には、以下のような内容が含まれます。

  • 2つ以上の明確な人格状態が存在すること
  • 記憶の喪失(健忘)が繰り返し見られること
  • 社会的・職業的・その他の重要な機能に支障が出ていること
  • 文化的・宗教的背景や薬物影響では説明できないこと

これらの基準に該当し、かつ持続的に症状が見られる場合に診断されます。

診断に用いられる心理検査・面接

DIDの診断には、面接や観察だけでなく、専門的な心理検査も用いられます。代表的なものに「DES(解離体験スケール)」「SCID-D(構造化臨床面接)」などがあります。これらの検査により、人格の交代頻度や解離の程度を客観的に評価します。ただし、診断は時間をかけて慎重に行う必要があり、誤診や過小評価を防ぐためにも専門知識のある医師による対応が不可欠です。

鑑別が必要な他の疾患(統合失調症・境界性人格障害など)

DIDは、統合失調症や境界性パーソナリティ障害(BPD)などと似た症状を呈することがあります。たとえば、幻聴や情緒不安定、対人関係の問題などはこれらの疾患にも共通しています。そのため、誤診を避けるためにも慎重な鑑別が必要です。特に、統合失調症とは違ってDIDでは現実検討能力が保たれているケースが多く、その点が診断の鍵となります。

多重人格の治療法と改善への道

心理療法(トラウマ記憶の統合・安全基地の形成)

治療の中心は心理療法(精神療法)であり、特に「トラウマフォーカストセラピー」や「EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)」などが用いられます。安全な環境の中でトラウマ記憶に向き合い、分裂した人格の統合や共存を目指していきます。また、認知行動療法やスキーマ療法も有効なケースがあります。

薬物療法(不安・抑うつなどへの対処)

DIDそのものを治す薬はありませんが、併存する症状(うつ、不安、不眠など)に対して抗うつ薬や抗不安薬が処方されることがあります。薬物療法はあくまで補助的な役割ですが、情緒の安定を図ることで心理療法を受けやすくする効果が期待できます。

リラクゼーション・マインドフルネス療法

ストレスを軽減し、安心感を取り戻すための技法として、リラクゼーション法やマインドフルネス瞑想も活用されています。これらは交代人格の出現を減らす手助けとなり、トラウマと向き合う準備段階として重要な役割を果たします。

治療のステップと期間(統合を目指すか、共存か)

治療は数ヶ月〜数年に及ぶ長期的なプロセスが必要です。すべての人格を1つに統合することを目指すケースもありますが、必ずしも統合を目指す必要はなく、「共存しながら生活の質を高める」ことを目標とする治療方針もあります。個々の症状や環境に応じて、柔軟に対応していくことが求められます。

家族や周囲の理解とサポートの重要性

本人にとって、周囲の理解と支援は不可欠です。DIDは「演技」「甘え」と誤解されがちですが、実際は苦痛を伴う深刻な疾患です。人格の変化や健忘によってトラブルが起きることもありますが、非難せずに受け止め、専門的な支援を受ける後押しをすることが、回復への第一歩となります。

よくある誤解と正しい理解

多重人格は演技・作り話ではない

多重人格(解離性同一性障害)に対して、「演技ではないか」「本人が都合よく使い分けているのではないか」という誤解が根強くあります。しかし、これは大きな偏見です。

DIDは、本人の意思とは無関係に人格が交代し、記憶が断絶するという深刻な精神疾患であり、医学的にも認められた診断名です。演技でこれほどの症状を長期間持続させることは困難であり、症状は本人にとっても苦痛を伴うものです。

映画やドラマの誤解と現実の違い

フィクションの影響により、多重人格=劇的で暴力的、という印象を持つ人も多いかもしれません。しかし実際のDID患者の多くは、外見からはわかりにくく、むしろ周囲に溶け込むよう努力している人が大半です。ドラマのように人格が突然豹変することはまれで、変化はもっと穏やかで内面的です。こうした誤解が、患者をさらに孤立させる原因となっています。

犯罪と結びつけられることへの偏見

多重人格が凶悪犯罪に使われるという報道や映画の影響で、「危険な存在」というレッテルを貼られることもあります。しかし、実際のDID患者の大多数は、周囲に危害を加えることはなく、むしろ自己破壊的傾向が強く、自傷行為に悩むケースが多いのです。

暴力的な人格が存在することはあり得ますが、それが即「犯罪者になる」というわけではなく、治療によってコントロール可能な場合も多いのです。

自分でも気づかないケースがある

自分がDIDであることに気づいていない人も少なくありません。記憶の抜けや性格の変化があっても、「疲れているせい」「気のせい」と処理してしまうことも多いからです。また、交代人格が表に出ている間の記憶がないため、自覚しづらいという特性もあります。違和感や生活の不便さが続くようであれば、早めに専門医に相談することが大切です。

多重人格かもしれないと感じたら

まずは精神科・心療内科への受診を検討

「もしかして多重人格かもしれない」と思ったときは、まず精神科や心療内科に相談することをおすすめします。できれば、解離性障害やトラウマ治療に詳しい専門医がいる医療機関を選ぶとよいでしょう。医師との面談の中で、現在の症状や過去の体験について丁寧にヒアリングし、必要に応じて心理検査を行います。

保健所・精神保健福祉センターなど公的相談先

病院を受診するのに抵抗がある場合や、医療費が気になる方は、公的機関での相談も選択肢のひとつです。地域の保健所や精神保健福祉センターでは、精神的な悩みや医療機関の紹介などに無料で対応してくれます。また、訪問看護などの支援制度について教えてもらえる場合もあります。

精神科訪問看護やカウンセリングの利用

外来通院が難しい方や、家庭でのサポートが必要な方には、精神科訪問看護という制度もあります。これは看護師が自宅に訪問し、服薬管理や生活相談、心理的サポートを行う仕組みです。また、臨床心理士や公認心理師によるカウンセリングも有効で、安心できる関係性の中でゆっくりと回復を目指すことが可能です。

診断を受ける前にできるセルフケア

日記をつけて記憶の抜けや気分の変化を記録することは、診断や自己理解に役立ちます。また、十分な睡眠、バランスのとれた食事、軽い運動などの生活習慣を整えることも、心の安定に寄与します。急いで診断名を求めるのではなく、自分の状態と向き合うことが第一歩です。

まとめ|多重人格(解離性同一性障害)と向き合うには

多重人格とは、深刻な心的外傷により、ひとつの身体に複数の人格が存在する状態を指す精神疾患で、正式には「解離性同一性障害」と呼ばれます。その発症の背景には、幼少期の虐待やトラウマ体験が大きく関与しており、症状としては記憶の喪失や人格の交代、精神的な混乱などが見られます。

誤解や偏見も多い疾患ですが、正しい診断と適切な治療、そして周囲の理解と支援によって、少しずつ症状を緩和し、安定した生活を目指すことは可能です。

もし自分や身近な人が「もしかして…」と感じたなら、勇気を出して一歩踏み出してみてください。精神的な痛みや葛藤は、誰にでも起こりうるものです。そして、それに向き合い、助けを求めることは決して弱さではなく、回復への大切な第一歩なのです。

家庭での日常生活のサポートに関してもご相談があれば、「訪問看護ステーションくるみ」へご相談ください。

この記事を監修した人

石森寛隆

株式会社 Make Care 代表取締役 CEO

石森 寛隆

Web プロデューサー / Web ディレクター / 起業家

ソフト・オン・デマンドでWeb事業責任者を務めた後、Web制作・アプリ開発会社を起業し10年経営。廃業・自己破産・生活保護を経験し、ザッパラス社長室で事業推進に携わる。その後、中野・濱𦚰とともに精神科訪問看護の事業に参画。2025年7月より株式会社Make CareのCEOとして訪問看護×テクノロジー×マーケティングの挑戦を続けている。

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