強迫性障害(OCD)の中でも、「記憶に自信がない」という症状は多くの人が抱える悩みです。何度確認しても不安が消えず、仕事や日常生活に支障をきたすことがあります。このような不安は「性格の問題」ではなく、脳の働きや心理的要因によるものです。この記事では、強迫性障害による記憶への不安の仕組みと、改善に向けた実践的な対処法を詳しく解説します。
強迫性障害とは

強迫性障害は「頭では分かっていてもやめられない」思考と行動が特徴の精神疾患です。不安を和らげるために、確認や洗浄などの行為を繰り返してしまうことが多く、生活に大きな支障をきたす場合もあります。
強迫観念の種類
強迫観念にはさまざまなタイプがあります。代表的なのは「汚染」「加害」「確認」「秩序」などです。特に「確認強迫」は、記憶への自信喪失と深い関わりがあります。例えば「鍵を閉めたか」「火を消したか」「窓を閉めたか」といった行動を何度も思い返してしまうのです。
確認しても「本当にやったのだろうか」という不安が残り、再度確認せずにはいられなくなります。このような行動は一時的に不安を軽減しますが、結果的に「確認しなければ安心できない」という悪循環を強めてしまいます。
つまり、不安の根本原因が解消されることはなく、次第に生活全体を支配していくのです。確認強迫は、不安を安心に変えるための「心の反射行動」とも言えます。
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脳の働きと強迫性障害の関係
強迫性障害の背景には、脳の情報処理のバランスの崩れが関係しています。特に前頭前皮質、線条体、視床といった領域の連携が過剰に働くことが知られています。これにより「危険信号」が過度に出され、正常な判断が難しくなるのです。本来なら「ガスを消した」という記憶があれば脳は安心しますが、強迫性障害ではこの「安心信号」が出にくくなります。
その結果、行動を繰り返して確認することでしか不安を和らげられなくなります。また、セロトニンという神経伝達物質の働きが関係しており、これが不安や強迫行動の制御に影響を与えると考えられています。こうした脳のメカニズムが、「記憶に自信がない」という感覚を生み出す大きな要因となるのです。
強迫性障害と性格の関係
几帳面で責任感が強く、完璧を求める性格の人は、強迫性障害の症状が出やすい傾向にあります。しかしこれは「原因」ではなく「症状の出方」に影響しているだけです。真面目で失敗を恐れる性格ほど「確認しなければならない」という意識が強く働きます。
そのため、自分の性格を責めてしまう方もいますが、実際は脳の働きによる影響が大きく、性格の問題ではありません。
むしろ几帳面さや責任感の強さは、治療を継続する上で大きな強みになります。自分の特性を正しく理解し、治療のモチベーションに変えることが大切です。性格を変えるのではなく、「思考との付き合い方」を変えていくことが回復への第一歩です。
「記憶に自信がない」と感じる仕組み
記憶への不安は「記憶力の低下」ではなく、記憶を信頼する力の低下によるものです。脳が不安モードにあるとき、実際の行動を「確かにやった」と認識する能力が弱まります。
不安が記憶を曖昧にする理由
不安を感じると、脳は「危険を避けること」に集中します。そのため、行動した内容よりも「失敗したらどうしよう」という思考が優先され、行動の記憶が鮮明に残りません。結果として「本当にやったか」という感覚が曖昧になります。
また、不安によってアドレナリンが過剰に分泌されると、記憶の定着が妨げられることもあります。つまり、不安が強いほど「確信が持てない」という感覚が強まるのです。実際の行動はできているのに、それを信じる力が弱まってしまう。この「体験と記憶のズレ」が、強迫的な確認を誘発するのです。
「確認行為」が記憶をさらに不安定にする
確認を繰り返すと、一見安心できるように思えますが、実際には記憶をさらに曖昧にします。何度も同じ行動を繰り返すことで、「実際にやった行動」と「確認した行動」が混ざり合い、どちらが現実だったか分からなくなるのです。この結果、記憶の信頼性がますます低下し、再び確認せずにはいられなくなります。
心理学ではこれを「記憶汚染」と呼びます。つまり、安心のための行動が記憶を壊してしまうという逆効果を生むのです。確認行為は一時的な安心をもたらす一方で、長期的には不安を強化する行動です。
脳の誤作動と自動思考の影響
強迫性障害の特徴のひとつに「自動思考」があります。これは、瞬間的に浮かぶ否定的な思考のことです。「もしかして間違えたかも」「確認していないかも」といった考えが、自分の意思とは関係なく頭に浮かびます。この思考は脳の誤作動によって引き起こされ、実際の状況とは関係がありません。
しかし当人にとっては現実的な危険のように感じられ、不安が増幅されます。こうした自動思考を客観的に捉え、「思考=現実ではない」と理解していくことが、不安を軽減する鍵となります。
強迫性障害による記憶不安への対処法

強迫性障害の記憶不安を軽減するには、確認行動を減らし、不安を受け入れる訓練が必要です。
行動療法(ERP)の活用
暴露反応妨害法(ERP)は、強迫性障害の治療において最も効果的とされる方法です。不安を感じる場面にあえて身を置き、確認行動を我慢することで、「確認しなくても危険ではない」と脳に学習させます。最初は強い不安を感じますが、時間が経つにつれて自然に不安は下がっていきます。
この経験を積み重ねることで、脳が「確認しなくても大丈夫」と理解するのです。専門家のサポートを受けながら段階的に取り組むことで、確実な改善が期待できます。治療は決して楽ではありませんが、不安を避け続けるよりも確実に生活の質を高めることができます。
認知再構成法による思考の修正
認知再構成法は、誤った思考パターンを現実的に修正する方法です。「鍵を閉め忘れたかもしれない」という思考に対し、「今まで忘れたことはない」という事実を思い出すことで、不安を緩和できます。過去の実績や周囲の証言を根拠に、自分の記憶を信じる練習を繰り返すのです。
思考をすぐに否定せず、「その考えに根拠はあるか?」と問い直す習慣を持つと、次第に自動思考を客観視できるようになります。このように、思考と感情の距離を取ることが、症状を軽減する大きな一歩です。
サポートを受ける重要性
強迫性障害は一人で抱え込むと、症状が悪化する傾向にあります。専門の医師やカウンセラー、訪問看護師などの支援を受けることで、安心して治療を続けられます。また、家族の理解も欠かせません。
周囲が「確認しすぎ」と批判するのではなく、「一緒に不安を支える」という姿勢で関わることが重要です。医療・福祉・家族が連携することで、患者本人のストレスが軽減され、改善へのモチベーションも高まります。支援を受けながら治療を続けることで、症状の安定と自己肯定感の回復が期待できます。
生活の中でできるセルフケア
強迫性障害の改善には、治療だけでなく、日常生活でのセルフケアも非常に重要です。生活の中に小さな工夫を取り入れることで、不安の軽減や再発予防につながります。自分でできることから始める意識を持つことが、回復への第一歩です。
記録を残す習慣をつける
確認行動を減らすために有効なのが、「記録を残す」という方法です。たとえば、鍵を閉めた瞬間にスマートフォンで写真を撮る、チェックリストを作って「完了」に印をつけるなど、視覚的に確認できる形を残すと安心感を得やすくなります。こうした記録を活用すると、「確かに行動した」という証拠が残り、後から不安が湧いたときにも冷静に確認できます。
最初のうちは記録を見る回数が多くても構いません。少しずつ「見なくても大丈夫」と思える回数を増やしていくことが大切です。こうして「自分を信じる練習」を積み重ねることで、記憶への自信を徐々に取り戻せます。記録を残すことは、強迫的な確認の代替行動としても非常に有効なセルフケアです。
リラックス法を取り入れる
強迫性障害は、慢性的な緊張や不安が大きく影響します。そのため、意識的に体と心をリラックスさせる習慣を持つことが重要です。具体的には、深呼吸法やマインドフルネス瞑想、ヨガなどがおすすめです。深くゆっくりとした呼吸を行うことで、副交感神経が優位になり、脳の過剰な興奮を抑えられます。
また、「今この瞬間」に意識を集中させるマインドフルネスは、過去や未来への不安を和らげる効果があります。リラックス法を毎日の生活の中に取り入れると、思考のスピードが落ち着き、強迫的な考えが浮かんでも冷静に対応しやすくなります。焦らず、1日数分でもよいので継続して実践することが、不安に負けない心を育てることにつながります。
生活リズムを整える
心の安定を保つには、体のリズムを整えることが欠かせません。睡眠不足や不規則な生活は、脳の情報処理能力を低下させ、不安を強める原因となります。特に夜更かしや食事の乱れは、自律神経やホルモンバランスに悪影響を及ぼし、強迫症状を悪化させることがあります。
毎朝同じ時間に起き、朝日を浴びて体内時計をリセットすることで、脳が「安全な状態」と認識しやすくなります。また、1日3食を規則正しく取ることや、軽い運動を取り入れることも効果的です。ウォーキングやストレッチなど、無理のない運動はストレス解消にもなります。こうした基本的な生活習慣の安定が、不安に強い心の土台を作るのです。自分の生活リズムを整えることは、治療の補助的な役割としても大変重要です。
関連記事:強迫性障害に対する2つの治し方を解説|自宅で治療するには訪問看護も検討しよう
治療を続けるモチベーションを保つ方法

強迫性障害の治療は短期間で成果が出るものではありません。改善には時間がかかりますが、焦らず続けることで確実に回復が見えてきます。そのためには、日々のモチベーション維持が重要です。
小さな成功を認める
治療を進める上で大切なのは、「できなかったこと」ではなく「できたこと」に目を向けることです。たとえば、「今日は確認の回数を1回減らせた」「不安を感じながらも外出できた」といった小さな成功を自分で認めることが、前向きな気持ちを保つ力になります。強迫性障害の改善は、階段を上るように少しずつ進んでいくものです。
小さな達成を積み重ねることが、結果的に大きな変化を生み出します。また、日記やメモに自分の進歩を記録しておくと、後から見返したときに「ちゃんと前に進んでいる」と実感できます。
信頼できる支援者を持つ
強迫性障害の治療では、信頼できる支援者の存在がとても重要です。医師やカウンセラー、訪問看護師など、専門的な知識を持つ人と定期的に関わることで、正しい治療方針を保ちやすくなります。また、家族や友人など身近な人の理解も欠かせません。
「なぜ何度も確認するのか」を理解してもらうことで、批判ではなくサポートとして支えてもらうことができます。支援者がいることで、孤独感が軽減され、治療を続ける意欲が高まります。
人は一人で不安に立ち向かうよりも、支えてくれる存在がいることで強くなれます。周囲とのつながりを大切にし、安心できる環境を作ることが、長期的な回復の鍵となります。
完璧を目指さない思考を育てる
強迫性障害の方に多いのが「不安を完全に消したい」「ミスを絶対にしたくない」という完璧思考です。しかし、不安をゼロにすることは現実的ではなく、むしろその思考が症状を悪化させることがあります。大切なのは、「不安があっても行動できる自分」を目指すことです。
不安を感じながらも生活を続ける経験を積むことで、脳は「不安はあっても危険ではない」と学びます。完璧さを追い求めるのではなく、柔軟な考え方を育てることで、心の余裕が生まれます。たとえば、「今日は確認したくなったけど我慢できた」「完全ではないけど十分できた」と思えることが、回復を支える大きな力です。
まとめ
強迫性障害による「記憶に自信がない」という不安は、脳や心理の働きによって生じるものです。確認行動を減らす勇気と、不安を受け入れる訓練が回復への道を開きます。焦らず、自分のペースで改善を目指しましょう。
強迫性障害や記憶への不安で悩んでいる方は、訪問看護を利用するのも一つの方法です。精神科に特化した「訪問看護ステーションくるみ」では、医師や地域の支援機関と連携し、心の安定をサポートしています。どんな小さな悩みでも、一緒に考えながら解決へと導きます。まずはお気軽にご相談ください。
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