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アルコール離脱症状のピークと対処法を解説

2025.10.08 精神科訪問看護とは

アルコール依存症から断酒を始めた際に現れる「アルコール離脱症状」は、命に関わる重大なリスクを伴うことがあります。特に発症から24〜72時間でピークを迎える症状は、幻覚やけいれん、意識障害など重篤なケースに発展することも少なくありません。適切な知識を持ち、早期に医療機関へつなげることが重要です。

本記事では、アルコール離脱症状の種類やピークのタイミング、原因、治療法、そして予防策までを網羅的に解説し、断酒・減酒を安全に進めるための情報をお届けします。

アルコール離脱症状とは?基本知識を理解する

アルコール離脱症状(アルコール離脱症候群)の定義

アルコール離脱症状とは、長期間の過剰な飲酒で体がアルコールに依存し、急に断酒・減酒した際に起こる症状です。代謝経路や神経系が変化しているため、アルコールが絶たれると神経が過剰に興奮し、身体的・精神的な症状が現れます。軽度でも不安や不眠を伴い、重度ではせん妄やけいれんなど命に関わる危険があります。多くは断酒後数時間〜数日で発症し、ピーク時には救急医療を要するケースも少なくありません。

身体依存と精神依存の違い

アルコール依存には「精神依存」と「身体依存」があります。精神依存は「飲まないと落ち着かない」といった心理的な依存で、再飲酒を招きやすいのが特徴です。身体依存は、長期の飲酒で体がアルコールを必要とする状態に適応し、断酒で離脱症状が出るものを指します。こちらは生命に関わるため特に危険で、「我慢すれば良い」というレベルではなく、医学的治療が欠かせません。

なぜ断酒や減酒で離脱症状が起きるのか

長期飲酒を続けると、脳はアルコールの鎮静作用に慣れ、GABAが弱まりグルタミン酸が過剰に働くようになります。断酒すると抑制が効かない「過興奮状態」となり、震えや不眠、不安、動悸から幻覚やけいれんへ進行することがあります。これは単なる反動ではなく神経化学的な変化によるもので、意思の強さでは制御できません。安全な断酒には医学的な理解と治療が不可欠です。

アルコール離脱症状のピークと経過

発症タイミング:断酒後6〜12時間での初期症状

アルコール離脱症状は、断酒後わずか6〜12時間で出現することがあります。最初に見られるのは、手の震えや発汗、動悸、軽度の不安感などの比較的軽い症状です。これらは「前兆」とも言えるもので、多くの人が「少し我慢すれば治まるのでは」と考えがちです。

しかし、この時点で適切な対応をしないと症状が進行し、より重い離脱症状へ移行してしまうリスクがあります。特に飲酒量が多い人や長期にわたる依存状態にある人は、初期症状の段階で医療機関に相談することが推奨されます。

ピーク:断酒後24〜72時間に最も強く現れる症状

アルコール離脱症状が最も激しくなるのは、断酒後24〜72時間の間です。この時期には、幻覚や妄想、強い不安、不眠、発熱、頻脈といった中等度から重度の症状がピークを迎えます。さらに進行すると「アルコール離脱せん妄」と呼ばれる危険な状態に至り、意識の混乱や錯乱、幻覚と現実の区別がつかなくなることもあります。

ピーク時の症状は、本人だけでなく周囲の安全にも影響を及ぼすため、必ず医療的な管理が必要です。特にせん妄やけいれんが見られる場合、命に直結するため救急搬送が必要になります。

断酒後1週間以降に残る後離脱症状(PAWS)

急性期を乗り越えたとしても、断酒後1週間以降には「後離脱症状(PAWS)」が残ることがあります。これは、脳内の神経伝達物質が完全に回復していないことに起因し、数週間から数ヶ月にわたり続くことが少なくありません。

具体的には、不眠や抑うつ気分、集中力の低下、強い飲酒欲求などが見られます。これらの症状は直接的に生命を脅かすものではないものの、再飲酒の大きな引き金になります。そのため、この段階での心理的サポートや薬物療法の併用は、断酒を継続する上で欠かせません。

症状の持続期間と回復の目安

アルコール離脱症状の持続期間は個人差がありますが、一般的に軽度〜中等度の症状は数日から1週間程度で落ち着くとされています。一方で、重度の離脱せん妄やけいれん発作が出現した場合、数週間にわたって管理が必要となるケースもあります。

さらに、後離脱症状(PAWS)は数ヶ月続くことがあり、完全な回復には長い時間を要します。重要なのは、「離脱症状が治まった=治療が終わった」ではなく、その後の再発予防や依存症治療が不可欠であるという点です。

離脱症状が起きるメカニズム

神経伝達物質の乱れ(GABAとグルタミン酸)

アルコールには脳を鎮静させる作用があり、その主な仕組みは抑制性の神経伝達物質GABAを強化することです。長期間飲酒を続けると、脳は「常にアルコールがある状態」に適応し、GABAの働きが弱まり、逆に興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸が過剰に活動するようになります。

断酒によって突然アルコールがなくなると、このバランスが崩れて脳は過剰に興奮し、震えや不眠、幻覚、けいれんといった離脱症状が出現します。この神経化学的メカニズムが、離脱症状の根本的な原因となります。

長期飲酒による脳の適応と断酒時の反動

人間の脳は「恒常性」を保とうとする性質があり、長期の飲酒により「アルコールありき」の状態に適応していきます。つまり、飲酒をしているときは一見問題がないように見えても、実際には脳がアルコールを前提に働いているのです。

ここで急に断酒すると、その適応が裏目に出て「反動」として強烈な離脱症状が現れます。これはまさに「依存症の本質」であり、自力ではコントロールが難しい理由の一つです。断酒を安全に行うためには、医療的な介入が欠かせないのです。

自律神経の暴走と脳の過剰興奮

アルコールは自律神経にも影響を及ぼします。普段は交感神経と副交感神経のバランスで心拍や呼吸がコントロールされていますが、アルコール依存状態ではこのバランスが崩れます。断酒によってアルコールが消えると交感神経が過剰に働き、動悸、発汗、血圧上昇、発熱といった症状が出やすくなります。

これに加えて脳の過剰興奮が重なることで、けいれんやせん妄が引き起こされます。こうした自律神経系の暴走は、生命に直結するリスクがあるため、必ず医療的な監視下での管理が必要です。

ビタミンB1欠乏とウェルニッケ脳症のリスク

アルコール依存症の人は栄養状態が悪化していることが多く、特にビタミンB1(チアミン)の欠乏が目立ちます。ビタミンB1は脳のエネルギー代謝に欠かせない栄養素で、不足すると「ウェルニッケ脳症」と呼ばれる深刻な合併症を引き起こします。症状は意識障害、眼球運動障害、運動失調などで、適切に治療されないと記憶障害(コルサコフ症候群)に進行することもあります。

断酒時には離脱症状だけでなく、こうした栄養欠乏に伴う脳障害が同時に進行していることを理解し、ビタミンB1の補給が必須となります。

離脱症状に伴う合併症とリスク

急性心不全・呼吸抑制

アルコール離脱症状の中でも、循環器系と呼吸器系への影響は深刻です。強い動悸や頻脈、血圧上昇によって心臓に負担がかかり、急性心不全を引き起こす可能性があります。また、けいれん発作や自律神経の乱れにより呼吸が抑制され、最悪の場合は呼吸不全に陥るケースもあります。これらは一瞬で命を奪う危険があるため、早期の医療的対応が不可欠です。

電解質異常(低マグネシウム・低カリウム血症)

長期の飲酒は栄養不良や電解質バランスの崩れを招きます。特に断酒時には、低マグネシウム血症や低カリウム血症が生じやすく、けいれん発作や不整脈のリスクを高めます。これらは血液検査で判明するため、断酒時には必ず医療機関で検査と管理を受けることが推奨されます。電解質異常は自覚症状が少ないため、知らずに命に関わる合併症に進行する危険があります。

けいれん発作による外傷・窒息の危険

断酒後に出現するけいれん発作は、転倒や頭部外傷、窒息など二次的な事故につながることがあります。発作中に気道が塞がれると窒息死のリスクもあり、非常に危険です。周囲の人が適切に対応することが重要で、けいれんが起きた場合はすぐに救急搬送を行う必要があります。断酒を自宅で行うことが危険視される大きな理由の一つです。

精神的リスク:うつ病や自殺傾向

離脱症状は身体だけでなく精神にも大きな影響を与えます。抑うつ、不安、意欲低下といった症状が強まると、自殺リスクが高まります。特に離脱症状の時期には「飲まなければ楽になれる」という誤った考えに陥りやすく、再飲酒や自傷行為の引き金になることがあります。このため、精神的サポートやカウンセリングを並行して受けることが断酒継続の鍵となります。

離脱症状の治療法

入院治療と外来治療の違い

離脱症状の程度によって、外来での治療が可能な場合と入院が必要な場合があります。軽度の場合は外来で薬の処方や経過観察が行われますが、中等度〜重度の場合は入院管理が必須です。特にせん妄やけいれんを伴うケースでは、集中治療室での管理が必要となります。安全に断酒を進めるためには、自己判断ではなく医師の診断を受けることが重要です。

薬物療法(ベンゾジアゼピン系・抗てんかん薬)

離脱症状の治療には、主にベンゾジアゼピン系薬剤が用いられます。これらはGABAの働きを強め、脳の過剰な興奮を抑える効果があります。また、けいれん予防には抗てんかん薬が使用されることもあります。薬物療法は症状を和らげるだけでなく、命に関わる合併症を防ぐためにも不可欠です。

ビタミンB1補給と電解質管理

アルコール依存症ではビタミンB1欠乏が多いため、点滴や注射による補充が行われます。これによりウェルニッケ脳症の発症を防ぐことができます。また、血液検査で確認された電解質異常(低マグネシウム・低カリウムなど)は点滴で補正されます。こうした基本的な栄養管理は、離脱症状治療の重要な柱です。

点滴・水分・栄養補給によるサポート

断酒初期には食欲不振や嘔吐が続くことが多く、栄養不良に陥りやすい状態です。そのため、点滴や経口補助食品を用いた栄養管理が必要です。十分な水分補給も重要で、脱水を防ぐことで症状の悪化を抑えることができます。

精神療法・心理カウンセリングとの併用

身体的な治療に加えて、精神的なサポートも不可欠です。心理カウンセリングや認知行動療法を通じて、飲酒欲求のコントロールやストレス対処法を学ぶことができます。これにより、再飲酒のリスクを下げ、断酒継続をサポートします。

離脱症状を予防するための方法

減酒から始める安全な断酒ステップ

長期にわたり大量飲酒を続けている人が急に断酒すると、強い離脱症状が出て危険です。そのため、まずは減酒から始めるのが安全とされています。医師の指導のもとで飲酒量を徐々に減らすことで、体への負担を軽減し、症状を軽く抑えることが可能です。また、減酒の過程で体調の変化を確認しながら進めることで、自分の状態を把握しやすくなるという利点もあります。

医師監督下で行う断酒プログラム

医療機関には断酒を支援するプログラムが整備されています。薬物療法による症状の緩和、ビタミンや電解質補充による栄養管理、さらに心理的なサポートを組み合わせて、安心して断酒を進められる体制です。一人で挑むと途中で挫折したり危険な状態に陥ったりする可能性が高いため、専門機関を活用することが断酒成功への大きな鍵となります。

自助グループやカウンセリングの活用

アルコール依存症は「孤独との戦い」とも言われ、周囲の理解や支えがないと続けにくいのが現実です。同じ経験を持つ人々と支え合える自助グループは、強い飲酒欲求に悩んだ際の心の拠り所になります。また、専門のカウンセリングを受けることで、ストレス対処法や生活改善の具体的なアドバイスを得られ、再発防止にも大きく役立ちます。

栄養・睡眠・運動による体調管理

断酒を継続するには身体的な回復も欠かせません。栄養バランスの取れた食事は脳と体を安定させ、不眠や気分の落ち込みを和らげます。十分な睡眠は自律神経を整え、離脱症状の軽減に直結します。さらに、軽い運動や散歩などを習慣にすることで体力回復が進み、精神的にも前向きになりやすくなります。こうした日常の積み重ねが、断酒を長期的に維持する土台となります。

アルコール離脱症状は必ず医療機関で管理を

命に関わる離脱症状のリスクを再確認

アルコール離脱症状は、軽度であれば自然に回復することもあります。しかし中等度から重度になると、幻覚やせん妄、けいれん発作など命に関わる危険を伴います。特に断酒後24〜72時間のピーク時には急変が起こりやすく、救急搬送が必要になるケースも少なくありません。

自宅での自己判断は非常に危険であり、放置すれば致命的な結果につながる可能性があります。離脱症状は「我慢すれば治るもの」ではなく、医学的に適切な管理を受けるべき病的な状態だと理解することが大切です。

安全に断酒を続けるための受診の重要性

断酒を考える際は、必ず医療機関を受診し、医師の管理のもとで進めることが推奨されます。医療機関では薬物療法や点滴、栄養管理などを通じて症状を和らげ、急変を防ぐ体制が整っています。

さらに、心理的サポートや自助グループとの連携を含めた包括的な治療を受けることで、再発防止にもつながります。安全に症状を乗り越え、長期的に断酒を維持するためには、専門的な治療と継続的なサポートが欠かせません。

まとめ

アルコール離脱症状は断酒や減酒で誰にでも起こり得ますが、特に断酒後24〜72時間は幻覚やせん妄、けいれんなど命に関わる危険があります。離脱症状(PAWS)が続き、再飲酒の原因となることもあります。

安全に断酒を進めるには、医療機関での治療やサポートを受け、家族や支援者と協力することが不可欠です。離脱症状は意思の弱さではなく医学的治療を要する問題であり、適切な支援を受けることが回復への第一歩となります。

アルコールの離脱症状に関して、自宅での不安点があるなどのご相談は、「訪問看護ステーションくるみ」へご連絡ください。

この記事を監修した人

石森寛隆

株式会社 Make Care 代表取締役 CEO

石森 寛隆

Web プロデューサー / Web ディレクター / 起業家

ソフト・オン・デマンドでWeb事業責任者を務めた後、Web制作・アプリ開発会社を起業し10年経営。廃業・自己破産・生活保護を経験し、ザッパラス社長室で事業推進に携わる。その後、中野・濱𦚰とともに精神科訪問看護の事業に参画。2025年7月より株式会社Make CareのCEOとして訪問看護×テクノロジー×マーケティングの挑戦を続けている。

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