大阪市全域を訪問区域とする『訪問看護ステーションくるみ』の代表、中野誠子が綴る『社長エッセイ』第38弾!
とっても長かった夏が終わり、最近ようやく気温が落ち着いてきましたね。
待ちに待った、私の大好きな秋になりました。
みなさまいかがお過ごしでしょうか?
10月は私の人生のレベルも一つ上がり、絶賛気合を入れなおしている中野です。
さて、今週も私の人生に大きな影響を与えた方との出会いについて書いていこうと思います。
今回はタイトルにもあるとおり施設編ということで、重症心身障害児者施設で出会った方とのお話です。
私はここで担当した利用者さんとの出会いで看護観、そして人生が変わったと言っても過言ではありません。
では、本編をどうぞ。
医療度の高い病棟に配属になり、人工呼吸器・モニターポンプ・プロンボード・バギー(専門用語ばかりで何を言ってるかわからないかもしれないですね。調べてみてください)など精神科では見たことのない機器や車椅子などがたくさんあり、配属されたばかりの私はそれだけでパニックになりかけていました。
そんなある日、利用者さんと言語的コミュニケーションではなく非言語的コミュニケーションでコミュニケーションをとられている職員さんを見かけたのですが……。
その光景を目にしたとき、それはもう純粋にびっくりしました。
日々扱わなければいけない高度な機材にただでさえパニックになっていた私には、もちろんそのようなことができる余裕はありません。
そのときはただただびっくりする、ぐらいしか捉えようがありませんでした。
なんとか仕事を覚えないといけないと必死に毎日を過ごしていたなかで、初めて受け持ちをさせていただいたのがAちゃんでした。
Aちゃんは喉頭摘出術を行っていて、お喋りをすることができませんでした。
それでも私はなんとかAちゃんと話がしたくて、さまざまな言葉がけでアプローチを試みました。
しかし、そんなに簡単には興味を持ってくれません。
いろいろな経験を積んできた今考えると、そのときの私は自分が話したい内容や聞きたい内容をむやみにやたらに話していたからだと思います。
あるとき、夜勤中にAちゃんのアラームが鳴りました。
Aちゃんのベッドサイドに行くと、脈拍だけが120と正常値を大きくオーバーしていました。
原因がわからなかった私は、必死に呼吸音を聞いたり、血圧や脈拍を測ったり、身体状況を見たりしていきました。
脈拍以外は大きく変化していませんでしたが、脈拍だけがどんどん上昇していくのです。
原因がわからず困りながらも観察を継続していると、Aちゃんの視線の先が私の後ろにあったテレビに向いていることに気がつきました。
「テレビ見たかった? ごめんね」と言うと、Aちゃんは何回も頷いてくれました。
テレビの前から離れて、私もテレビを見てみるとプロ野球の阪神戦がやっていました。
よく見ると7回の裏、阪神の攻撃、しかもツーアウト満塁だったのです。
このときにふと、Aちゃんが大の阪神ファンだということを思い出して咄嗟に「ごめんね、阪神戦見てたのね。今いいところやし、中野さん邪魔やったね」と言っていました。
そうするとにっこり笑ってくれました。
ベッドの横に体をよけ、少しの時間一緒に阪神戦を見ることにしました。
試合の結果は阪神が逆転!
そうすると不思議なことに、Aちゃんの脈拍はどんどん落ち着いてきました。
それを見た私はびっくりしたのですが、あることに気づきました。
それは、Aちゃんは言葉で伝えられないからこそ、体全部で伝えようとしてくれていたということ。
この瞬間私は「言葉にとらわれていた」と理解しました。
それからというもの、利用者さんとコミュニケーションをとる際は体のさまざまな動きを見ながら声かけを行うよう心がけるようになりました。
そうすると今まで声をかけてもまったく返事をしてくれなかった子どもたちが、私に対して小さなサインを出してくれるようになっていきました。
非言語的コミュニケーションという言葉はもちろん知っていましたし、意識していたと思います。
しかしそれは「自分を含めた対象が話せること前提」での視点でした。
ここで学べたのは「コミュニケーションの対象が、どんな環境で育って、そのときにどんな状態で話をしたいと思っているのかの理解を深めることが大事」ということでした。
つまり、言葉を介してのコミュニケーションを行ってこなかった子どもたちが、伝える手段として一体何を選ぶのかを考えなければなりませんし、理解する努力をしなければなりません。
自分が動かせる体の部位はどこなのか、何をしてくれたら自分を見てくれるのかなどを、子どもたちは必死に試行錯誤しながらコミュニケーションをとろうとしています。
それをわかったうえで全体像を見直して初めて見えてくるものもありますし、コミュニケーションは成立するものなのだと今は考えています。
阪神が大好きなAちゃん、笑顔が素敵なBくん、私が来たら怒られると思ってドキドキしちゃうCくん、優しく子どもたちを見つめてくれていたDくん、私が来たと足音でわかって拍手をして喜んでくれたEさんなど、さまざまな方との出会いが、私にさまざまなことを学ばせてくれました。
障がいについて一生懸命考え、自分なりに学びを深めていかなければならないという思い、きっかけを皆さんが与えてくださったと私は思っています。
私の看護師人生の中で担当した利用者さんたちが、私の中の「普通」を壊してくれたのだと考えています。
自分の「普通」は、相手にとっての「普通」ではない。
これがわかったことで、私の視野は広がりを見せたのだと思います。
今でもみんなの笑顔を思い出して元気をもらいます。
そして、もらった力を次の支援に活かせるように日々学んで成長しなければならないと思っています。
私にとっては本当に大事な7年半でした。
これがなかったら、きっと視野の狭い自分のまま変われなかったかもしれないです。
今現在もこれらの出会いに感謝しています。
今日はこの辺で終わろうと思います。
次回は、この施設でとても尊敬できる方に出会った話をしていきたいと思います。
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