精神科訪問看護指示書は、精神疾患を持つ患者さんが在宅で適切な看護を受けるために不可欠な医療文書です。
本記事では、通常の訪問看護指示書との違い、記載すべき重要項目、受け取る際のチェックポイントについて詳しく解説します。指示期間、傷病名、複数名訪問、短時間訪問など、精神科訪問看護特有の記載事項と注意点を網羅。
また、具体的な記載例を示しながら、適切な指示書の作成と運用方法をお伝えします。医療機関や訪問看護ステーションの実務に役立つ情報を、分かりやすくまとめました。
精神科訪問看護指示書とは?基本的な理解

精神科訪問看護指示書は、精神疾患を持つ患者さんが在宅で適切な看護を受けるために、主治医が訪問看護ステーションに対して交付する重要な医療文書です。この指示書は、統合失調症、うつ病、双極性障害、認知症などの精神疾患を持つ患者さんが、住み慣れた地域で安定した生活を送るために必要な医療的ケアの内容を明確に示すものです。通常の訪問看護指示書とは異なり、精神科に特化した内容が記載され、精神科訪問看護療養費の算定根拠となる重要な書類となっています。
精神科訪問看護指示書の交付により、看護師だけでなく、作業療法士、精神保健福祉士など多職種による訪問が可能となります。これは精神疾患の特性上、服薬管理や症状観察といった医療的ケアだけでなく、日常生活支援、社会復帰支援、家族支援など幅広いサポートが必要となるためです。指示書には、患者さんの病状、必要な看護内容、訪問頻度、留意事項などが詳細に記載され、訪問看護ステーションはこの指示に基づいて適切なケアを提供します。
精神科訪問看護指示書の重要性は、地域包括ケアシステムの推進とともにますます高まっています。精神科病院の長期入院から地域生活への移行、精神障害者の地域定着支援において、訪問看護は中核的な役割を担っています。適切に作成された指示書により、患者さんは必要な医療・看護サービスを在宅で受けることができ、再入院の予防、生活の質の向上、社会参加の促進が期待できます。
通常の訪問看護指示書との違い
精神科訪問看護指示書と通常の訪問看護指示書には、いくつかの重要な違いがあります。これらの違いを正確に理解することは、適切な指示書の作成と運用において不可欠です。最も大きな違いは、対象となる疾患と提供されるサービスの内容です。精神科訪問看護は精神疾患に特化したケアを提供するため、指示書の記載内容も精神科特有の項目が含まれています。また、算定される診療報酬や療養費の体系も異なり、医療機関や訪問看護ステーションにとって重要な違いとなっています。
制度上の違いも重要です。精神科訪問看護指示書が交付された場合、原則として医療保険が優先適用されます。これは、介護保険の要介護認定を受けている患者さんであっても、精神科訪問看護については医療保険での対応となることを意味します。この取り扱いは、精神疾患の特性上、医療的な管理が継続的に必要であることを反映したものです。
さらに、訪問できる職種にも違いがあります。通常の訪問看護では主に看護師が訪問しますが、精神科訪問看護では、看護師に加えて作業療法士、精神保健福祉士なども訪問可能です。これにより、患者さんの多様なニーズに対応した包括的なケアの提供が可能となっています。
①算定する療養費が異なる
精神科訪問看護と通常の訪問看護では、算定される療養費の体系が大きく異なります。精神科訪問看護基本療養費は、訪問する職種、訪問時間、同一日の訪問回数などにより細かく区分されています。例えば、看護師による30分以上の訪問では精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)が算定され、作業療法士による訪問では精神科訪問看護基本療養費(Ⅲ)が算定されます。これらの療養費は、通常の訪問看護基本療養費とは異なる点数設定となっており、精神科訪問看護の専門性を評価した報酬体系となっています。
また、精神科訪問看護特有の加算も存在します。複数名精神科訪問看護加算は、患者さんの状態により看護師等が複数名で訪問した場合に算定できます。精神科緊急訪問看護加算は、急激な病状変化により緊急訪問を行った場合に算定可能です。これらの加算は、精神疾患の特性上必要となる手厚いケアを評価したものであり、通常の訪問看護にはない、または異なる要件で設定されています。
さらに、精神科訪問看護では、GAF尺度(機能の全体的評定尺度)による評価が求められ、40以下の患者さんについては週3回を超える訪問が可能となるなど、患者さんの重症度に応じた柔軟な対応が可能となっています。これらの違いを理解し、適切に指示書に記載することで、必要な療養費を確実に算定することができます。
②指示書の交付を依頼できる医師が異なる
精神科訪問看護指示書を交付できる医師には一定の要件があります。原則として、精神科を標榜する保険医療機関の主治医が交付することになっています。これは、精神疾患の専門的な知識と経験を持つ医師が、患者さんの状態を適切に評価し、必要な看護内容を指示する必要があるためです。ただし、精神科以外の診療科の医師であっても、精神疾患の診断・治療を行っている場合は、指示書の交付が可能な場合があります。
一方、通常の訪問看護指示書は、診療科を問わず主治医であれば交付可能です。内科、外科、整形外科など、どの診療科の医師でも、患者さんの主治医として訪問看護の必要性を認めれば指示書を交付できます。この違いは、精神科訪問看護がより専門性の高いサービスであることを反映しています。
また、精神科訪問看護指示書の場合、定期的な精神科医による診察が前提となっています。少なくとも月1回以上の診察を行い、患者さんの精神状態を評価した上で、訪問看護の内容を指示する必要があります。これにより、患者さんの状態変化に応じた適切な指示の更新が可能となり、質の高い精神科訪問看護の提供につながっています。
③指示書の様式が異なる
精神科訪問看護指示書は、厚生労働省により定められた専用の様式を使用します。この様式には、精神疾患特有の評価項目や指示事項を記載する欄が設けられています。例えば、GAF尺度による機能評価、精神症状の評価、服薬管理の必要性、日常生活支援の内容など、精神科訪問看護に必要な情報を体系的に記載できるようになっています。
通常の訪問看護指示書と比較すると、精神科訪問看護指示書には「精神症状」「日常生活自立度」「社会生活機能」などの評価項目が追加されています。また、「複数名訪問の必要性」「短時間訪問の必要性」といった、精神科訪問看護特有のサービス提供方法に関する指示欄も設けられています。これらの項目により、患者さんの精神状態と必要なケアの内容を詳細に指示することが可能となっています。
さらに、精神科訪問看護指示書には、「病名告知の有無」を記載する欄があります。これは、患者さんへの病名告知の状況を訪問看護師等と共有し、適切なコミュニケーションを図るための重要な情報です。また、「精神科訪問看護に関する留意事項及び指示事項」の欄では、患者さんの個別性に応じた詳細な指示を記載することができ、より質の高いケアの提供が可能となっています。
④精神科訪問看護指示書が交付されると医療保険の適用が優先される
精神科訪問看護指示書が交付された場合、介護保険の要介護認定を受けている患者さんであっても、精神科訪問看護については医療保険が優先的に適用されます。これは、精神疾患の治療と管理が医療の範疇であり、継続的な医学的管理が必要であることを制度上認めているためです。通常の訪問看護では、要介護認定を受けている場合は原則として介護保険が優先されますが、精神科訪問看護はこの例外となっています。
この取り扱いにより、精神疾患を持つ高齢者や、身体疾患と精神疾患を併せ持つ患者さんも、適切な精神科訪問看護を受けることができます。例えば、認知症と診断された要介護高齢者が、行動・心理症状(BPSD)により専門的な精神科看護が必要な場合、精神科訪問看護指示書により医療保険での訪問看護を受けることができます。
ただし、この場合でも身体疾患に対する訪問看護は介護保険で提供されることがあり、一人の患者さんに対して医療保険と介護保険の訪問看護が併用されることもあります。このような複雑な制度の運用においては、主治医、ケアマネジャー、訪問看護ステーション間の密接な連携が不可欠であり、指示書の作成時にも十分な配慮が必要となります。
精神科訪問看護指示書を受け取る際にチェックすべき注意点

訪問看護ステーションが精神科訪問看護指示書を受け取る際には、記載内容を詳細にチェックし、不備や不明確な点がないか確認することが重要です。指示書の記載内容に不備があると、適切なサービス提供ができないだけでなく、療養費の算定にも影響を与える可能性があります。特に、指示期間、傷病名、訪問形態に関する指示などは、サービス提供の根幹に関わる重要事項であり、慎重な確認が必要です。
チェックの際は、単に記載の有無を確認するだけでなく、記載内容が患者さんの状態や必要なケアと整合性があるかも評価する必要があります。例えば、重度の精神症状がある患者さんなのに単独訪問の指示しかない場合や、服薬管理が必要な患者さんなのにその指示が明確でない場合などは、主治医に確認を取る必要があります。
また、指示書の内容と実際の患者さんの状態に乖離がある場合も注意が必要です。訪問開始後に患者さんの状態が指示書の内容と異なることが判明した場合は、速やかに主治医に報告し、指示書の修正を依頼する必要があります。適切な指示書に基づくサービス提供は、患者さんの安全と質の高いケアの提供、そして適正な療養費算定の基本となります。
①指示期間は有効か
精神科訪問看護指示書の指示期間は、原則として最長6か月となっています。指示期間の記載は必須項目であり、開始日と終了日が明確に記載されている必要があります。指示期間が切れた状態で訪問看護を継続することは、医師の指示なく医療行為を行うことになり、法的にも問題があるだけでなく、療養費の算定もできません。そのため、指示期間の管理は訪問看護ステーションにとって極めて重要な業務となります。
指示期間の終了が近づいたら、継続の必要性について主治医と相談し、新たな指示書の交付を依頼する必要があります。一般的には、指示期間終了の1か月前から準備を開始し、2週間前までには新しい指示書の交付を受けることが望ましいとされています。これにより、指示書の空白期間を防ぎ、継続的なサービス提供が可能となります。
また、患者さんの状態が大きく変化した場合は、指示期間内であっても指示内容の変更が必要となることがあります。この場合、変更指示書の交付を受ける必要がありますが、軽微な変更であれば口頭指示で対応し、後日文書で確認することも可能です。ただし、口頭指示の場合も必ず記録を残し、できるだけ早期に文書による指示を受けることが重要です。
②精神科訪問看護が対象となる病名(傷病名)が記載されているか
精神科訪問看護指示書には、精神科訪問看護の対象となる傷病名が正確に記載されている必要があります。対象となる主な疾患は、統合失調症、統合失調症型障害、妄想性障害、気分障害(うつ病、双極性障害)、重度ストレス反応、適応障害、摂食障害、てんかん、認知症などです。これらの疾患名が主たる傷病名として記載されていない場合、精神科訪問看護療養費の算定ができない可能性があります。
傷病名の記載において注意すべき点は、単に「不眠症」「不安障害」といった軽度の精神症状のみでは、精神科訪問看護の対象とならない場合があることです。精神科訪問看護は、日常生活に支障をきたすような重度の精神疾患を対象としているため、傷病名だけでなく、症状の重症度や日常生活への影響も考慮される必要があります。GAF尺度での評価が40以下であることが一つの目安となります。
また、複数の精神疾患を併せ持つ患者さんの場合、主たる傷病名と従たる傷病名を明確に区別して記載することが重要です。主たる傷病名は、現在最も治療の必要性が高い疾患を記載し、それに基づいて訪問看護の内容を決定します。傷病名の記載が不適切な場合は、査定により療養費が減額される可能性があるため、主治医と十分に確認を取ることが必要です。
③複数名での訪問について記載されているか
精神疾患の特性上、患者さんの状態によっては看護師等が複数名で訪問する必要がある場合があります。暴力行為、著しい迷惑行為、器物破損行為等が認められる患者さんや、利用者の身体的理由により一人の看護師等では訪問看護が困難な場合などが該当します。このような場合、指示書に複数名訪問の必要性が明確に記載されていなければ、複数名精神科訪問看護加算を算定することができません。
複数名訪問の指示を記載する際は、単に「複数名訪問必要」とするだけでなく、その理由を具体的に記載することが重要です。例えば、「暴力行為の既往があり、単独訪問では職員の安全確保が困難」「重度の精神症状により、一人では適切なケアの提供が困難」といった具体的な理由を明記します。また、複数名訪問の頻度(毎回、週○回など)についても指示が必要です。
さらに、複数名訪問を行う職種の組み合わせについても考慮が必要です。看護師と看護師、看護師と作業療法士、看護師と精神保健福祉士など、患者さんのニーズに応じた適切な職種の組み合わせを指示することで、効果的なケアの提供が可能となります。複数名訪問は医療資源の効率的な活用の観点からも重要であり、真に必要な場合に限定して実施することが求められています。
④短時間訪問の必要性について記載されているか
精神科訪問看護では、患者さんの精神症状や生活状況により、30分未満の短時間訪問が適切な場合があります。例えば、統合失調症の陰性症状が強く、長時間の対人接触が困難な患者さんや、頻回な服薬確認が必要な患者さんなどが対象となります。短時間訪問を実施する場合は、指示書にその必要性が明確に記載されている必要があり、記載がない場合は原則として30分以上の訪問を行う必要があります。
短時間訪問の指示を記載する際は、その医学的理由を具体的に示すことが重要です。「陰性症状により長時間の対人接触が困難」「1日複数回の服薬確認が必要」「段階的に訪問時間を延長する必要がある」など、短時間訪問が治療上必要である根拠を明記します。また、短時間訪問の頻度や期間についても指示が必要であり、漫然と短時間訪問を継続することは避けるべきです。
なお、短時間訪問であっても、必要なケアを確実に提供することが求められます。服薬確認、精神状態の観察、必要最小限の日常生活支援などを効率的に行い、患者さんの状態改善につなげることが重要です。また、患者さんの状態が改善し、より長時間の訪問が可能となった場合は、速やかに指示内容の変更を検討する必要があります。
⑤リハビリが必要である場合、その旨が記載されているか
精神科訪問看護において、作業療法士によるリハビリテーションは重要な役割を果たします。日常生活動作の訓練、社会生活技能の向上、認知機能の改善など、精神疾患により低下した機能の回復を目的としたリハビリテーションが実施されます。作業療法士が訪問する場合は、指示書にリハビリテーションの必要性と具体的な内容が記載されている必要があります。
リハビリテーションの指示を記載する際は、目標と具体的な内容を明確にすることが重要です。例えば、「日常生活動作の自立度向上を目的とした作業療法」「社会復帰に向けた生活技能訓練」「認知機能改善のための課題訓練」など、患者さんの状態と目標に応じた指示を記載します。また、リハビリテーションの頻度や期間、評価方法についても指示することで、計画的なリハビリテーションの実施が可能となります。
さらに、リハビリテーションの効果を定期的に評価し、必要に応じて内容を見直すことも重要です。作業療法士からの報告を基に、主治医が指示内容を調整することで、患者さんの状態に応じた適切なリハビリテーションを継続的に提供できます。精神科リハビリテーションは長期的な視点が必要であり、小さな改善を積み重ねることで、患者さんの生活の質の向上につながります。
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精神科訪問看護指示書の記載例と書き方のポイント
精神科訪問看護指示書を適切に記載することは、質の高い訪問看護サービスの提供に不可欠です。記載にあたっては、患者さんの病状、必要なケアの内容、注意事項などを具体的かつ明確に記述する必要があります。曖昧な指示や不完全な記載は、訪問看護師等の判断を困難にし、適切なケアの提供を妨げる可能性があります。ここでは、実際の記載例を示しながら、各項目の書き方のポイントを解説します。
指示書の記載において最も重要なのは、患者さんの個別性を反映させることです。同じ診断名であっても、患者さんごとに症状や生活状況は異なるため、画一的な指示ではなく、個々の患者さんに応じたオーダーメイドの指示が必要です。また、訪問看護師等が現場で迷わないよう、できるだけ具体的な指示を心がけることが大切です。
さらに、指示書は医療チーム間のコミュニケーションツールとしての役割も持っています。主治医の治療方針や注意事項を訪問看護師等に正確に伝えることで、一貫性のあるケアの提供が可能となります。定期的に指示内容を見直し、患者さんの状態変化に応じて更新することも重要です。
基本情報の記載例
基本情報欄には、患者氏名、生年月日、住所、主たる傷病名、現病歴、既往歴などを記載します。主たる傷病名は「統合失調症(ICD-10:F20.0)」のように、診断名とICDコードを併記することが望ましいです。現病歴には「X年Y月に幻聴、被害妄想にて発症。Z年より当院通院中。現在は陰性症状が主体で、服薬管理と生活支援が必要」といった形で、発症からの経過と現在の状態を簡潔に記載します。
GAF尺度による評価は必須項目です。「GAF:35点(日常生活に支障をきたす精神症状があり、社会的機能の著しい低下を認める)」のように、点数だけでなく、その評価の根拠となる状態も併記することで、訪問看護師等が患者さんの重症度を正確に把握できます。GAF40以下の場合は週3回を超える訪問が可能となるため、正確な評価が重要です。
病名告知の有無についても明確に記載します。「病名告知:有(統合失調症について説明済み、病識あり)」または「病名告知:無(家族の希望により未告知、『神経の病気』と説明)」など、告知の状況と患者さんへの説明内容を記載することで、訪問看護師等が適切なコミュニケーションを取ることができます。
訪問看護の内容に関する指示の記載例
訪問看護の内容については、具体的で実践可能な指示を記載します。精神症状の観察については「幻聴の有無と内容、妄想的発言の確認、睡眠状況、食事摂取量を毎回確認し、変化があれば報告」といった形で、観察項目と報告基準を明確にします。服薬管理については「1週間分の薬カレンダーへのセット、服薬確認(残薬チェック)、副作用(錐体外路症状、便秘)の観察」など、具体的な管理方法を指示します。
日常生活支援の指示も重要です。「清潔保持の促し(週2回の入浴を目標)、居室の環境整備の支援、買い物への同行(月2回)」といった形で、支援の内容と頻度を明記します。また、「本人のペースを尊重し、強制的な介入は避ける」「拒否が強い場合は無理強いせず、次回に持ち越す」など、ケアの際の留意点も記載することで、患者さんとの関係性を保ちながら支援を行うことができます。
家族支援に関する指示も忘れてはいけません。「家族の介護負担の評価、病気の理解を深めるための説明、対応方法の助言」といった内容を記載します。特に、「家族の高EE(高感情表出)に注意し、必要時は家族面談を実施」など、家族関係が患者さんの病状に与える影響を考慮した指示を含めることが重要です。
留意事項及び特記事項の記載例
留意事項欄には、訪問看護師等が特に注意すべき事項を記載します。「被害妄想が強い時期は、訪問者を『敵』と認識することがあるため、穏やかな態度で接し、妄想的発言には否定も肯定もしない中立的な対応を心がける」といった、症状への対応方法を具体的に記載します。また、「過去に自傷行為の既往あり。希死念慮の表出に注意し、認めた場合は直ちに主治医に連絡」など、リスク管理に関する指示も重要です。
緊急時の対応についても明記します。「急激な精神症状の悪化(興奮、暴力的行動、自傷他害のおそれ)を認めた場合は、直ちに当院精神科外来(TEL:○○-○○○○)に連絡。夜間休日は精神科救急情報センター(TEL:△△-△△△△)に相談」といった形で、具体的な連絡先と対応手順を記載します。
その他の特記事項として、「独居のため、服薬管理と食事の確保が課題。地域包括支援センター、ヘルパー事業所と連携して支援」「就労継続支援B型事業所に週3回通所中。通所日の訪問は午後に実施」など、他のサービスとの連携や生活状況に関する情報を記載することで、包括的な支援が可能となります。
精神科訪問看護指示書の運用における実務的な注意点

精神科訪問看護指示書の運用においては、法令遵守だけでなく、実務的な様々な注意点があります。指示書の管理、更新、変更、他機関との連携など、日常業務の中で適切に対応することが求められます。これらの実務的な側面を理解し、適切に運用することで、質の高い精神科訪問看護サービスの提供と、適正な療養費請求が可能となります。
特に重要なのは、指示書の内容と実際のサービス提供の整合性を保つことです。指示書に記載された内容を逸脱したサービス提供は、医師法違反となる可能性があるだけでなく、事故が発生した場合の責任問題にも関わります。一方で、患者さんの状態は日々変化するため、柔軟な対応も必要です。このバランスを取りながら、適切にサービスを提供することが訪問看護ステーションには求められています。
また、多職種連携における指示書の役割も重要です。精神科訪問看護では、医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、ケアマネジャー、ヘルパーなど、多くの専門職が関わります。指示書は、これらの専門職間で治療方針やケアの内容を共有する重要なツールとなります。適切な情報共有により、一貫性のある支援を提供することができます。
指示書の保管と管理
精神科訪問看護指示書は、医療法により5年間の保存が義務付けられています。原本は訪問看護ステーションで保管し、コピーを利用者ファイルに綴じるなど、適切な管理体制を整える必要があります。電子化して保管する場合は、真正性、見読性、保存性を確保し、必要時に速やかに提示できる状態にしておく必要があります。
指示書の管理においては、有効期限の管理が特に重要です。指示期間終了前に更新の手続きを行う必要があるため、期限管理表を作成し、定期的にチェックする体制を整えます。多くの訪問看護ステーションでは、指示書の有効期限の1か月前にアラートを出し、2週間前までに新しい指示書を取得するというルールを設けています。
また、指示内容の変更があった場合の管理も重要です。口頭指示による変更、文書による変更指示など、すべての変更履歴を記録し、最新の指示内容を常に把握できる状態にしておく必要があります。変更があった場合は、関係するスタッフ全員に周知し、ケアの内容に反映させることが重要です。
医療機関との連携
精神科訪問看護を効果的に実施するためには、指示書を交付する医療機関との密接な連携が不可欠です。定期的な報告書の提出はもちろん、患者さんの状態変化や緊急時の連絡体制を確立しておく必要があります。月1回の定期報告では、訪問看護計画書と訪問看護報告書を提出し、患者さんの状態や提供したケアの内容、今後の課題などを報告します。
医師との連携においては、face to faceのコミュニケーションも重要です。可能であれば、定期的にカンファレンスを開催し、患者さんの状態や治療方針について直接意見交換を行います。特に、複雑なケースや状態が不安定な患者さんについては、頻回な情報共有が必要です。また、医師の訪問診療に同行し、患者さんの生活状況を共に確認することも有効です。
緊急時の連携体制も事前に確認しておく必要があります。日中の連絡先、夜間休日の対応、緊急入院の手順などを明確にし、スタッフ全員で共有します。また、患者さんの状態悪化時の初期対応についても、事前に医師と相談し、指示を受けておくことで、迅速な対応が可能となります。
他の訪問看護ステーションとの連携
一人の患者さんに対して、複数の訪問看護ステーションが関わることもあります。例えば、身体疾患に対する訪問看護を提供するステーションと、精神科訪問看護を提供するステーションが併用される場合などです。このような場合、それぞれの役割分担を明確にし、情報共有を適切に行うことが重要です。
連携においては、それぞれの指示書の内容を共有し、ケアの重複や漏れがないよう調整します。定期的な合同カンファレンスの開催や、連絡ノートの活用などにより、情報共有を図ります。特に、精神症状が身体疾患に影響を与える場合や、身体症状が精神状態に影響を与える場合は、密接な連携が必要です。
また、24時間対応体制における連携も重要です。夜間や休日の緊急対応について、どちらのステーションが対応するか、または協力して対応するかなど、事前に取り決めておく必要があります。患者さんや家族に混乱を与えないよう、明確な連絡体制を構築することが大切です。
関連記事:看護師の必須スキル「傾聴」とは?三原則や効果、実際に活用できる技法も解説
まとめ
精神科訪問看護指示書は、精神疾患を持つ患者さんが地域で安定した生活を送るために不可欠な医療文書です。通常の訪問看護指示書とは異なる特徴を持ち、精神科特有の評価項目や指示事項が含まれています。適切に作成・運用することで、質の高い精神科訪問看護サービスの提供が可能となり、患者さんの地域生活の継続、再入院の予防、生活の質の向上に貢献できます。
指示書の作成においては、患者さんの個別性を重視し、具体的で実践可能な指示を記載することが重要です。また、定期的な見直しと更新により、患者さんの状態変化に応じた適切なケアを継続的に提供することができます。訪問看護ステーションにおいては、指示書の内容を正確に理解し、確実に実践することが求められます。
今後も地域包括ケアシステムの推進により、精神科訪問看護の需要はますます高まることが予想されます。医療機関、訪問看護ステーション、その他の支援機関が連携し、精神科訪問看護指示書を適切に活用することで、精神疾患を持つ人々が地域で自分らしく生活できる社会の実現に貢献できることでしょう。
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