重度知的障害とは、IQ20-34程度で日常生活のほぼすべてに継続的な支援が必要な状態です。知的障害全体の約3-4%を占め、言語・身辺自立・社会性などに大幅な遅れが見られます。しかし「何もできない」わけではなく、適切な支援で確実に成長し、その人らしい生活を送ることが可能です。
本記事では、重度知的障害の特徴や原因、診断方法から、療育手帳・障害年金・福祉サービスなど利用できる支援制度まで詳しく解説します。本人と家族が知っておくべき情報を網羅し、より良い生活への道筋を示します。
重度知的障害とは?定義と基本的な理解

重度知的障害は、知的機能と適応行動の両方に著しい制限がある状態で、IQ(知能指数)が20-34程度の範囲にある知的障害を指します。知的障害全体の約3-4%を占め、日常生活のほぼすべての場面で継続的な支援が必要となります。重度知的障害は医学的には「重度精神遅滞」とも呼ばれていましたが、現在は「重度知的能力障害」という診断名が使用されることもあります。単にIQが低いだけでなく、コミュニケーション、身辺自立、社会性、安全管理など、生活全般にわたって大幅な支援を必要とする状態です。
重度知的障害の理解において重要なのは、それが単なる「知能の遅れ」ではなく、脳の発達や機能の違いによる包括的な状態であることです。18歳以前の発達期に発症し、生涯にわたって継続します。しかし、これは「改善しない」「成長しない」ということではありません。適切な支援と教育により、できることは確実に増え、生活の質を向上させることが可能です。重度知的障害があっても、その人なりのペースで発達し、喜びや楽しみを感じ、人との関わりを持つことができます。
社会的な視点から見ると、重度知的障害者は全人口の約0.3-0.4%、つまり1000人に3-4人程度存在します。これは決して稀な状態ではなく、私たちの社会の一員として共に生きています。しかし、重度の障害ゆえに、家族の負担は大きく、社会的な支援体制の充実が不可欠です。近年、障害者権利条約の批准、障害者差別解消法の施行などにより、重度知的障害者の権利擁護と社会参加の促進が進められていますが、まだ多くの課題が残されています。
知的障害の定義と分類基準
知的障害は、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では「知的能力障害」として定義され、3つの診断基準があります。第一に、臨床的評価と標準化された知能検査により確認される知的機能の欠陥があること。これには、推論、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学業的学習、経験からの学習などの領域での欠陥が含まれます。第二に、個人の自立や社会的責任において発達的・社会文化的な基準を満たすことができない適応機能の欠陥があること。第三に、これらの欠陥が発達期(18歳以前)に発症することです。
知的障害の分類は、IQと適応行動のレベルにより行われます。軽度(IQ50-69)、中等度(IQ35-49)、重度(IQ20-34)、最重度(IQ20未満)の4段階に分けられます。ただし、この分類は絶対的なものではなく、個人の状態を理解するための目安です。同じIQでも、環境や支援の質により、実際の生活能力は大きく異なります。また、IQの測定には誤差があり、体調や検査環境により数値が変動することもあります。そのため、IQだけでなく、適応行動の評価も重要視されています。
日本では、療育手帳の判定基準として、独自の分類を用いる自治体も多くあります。例えば、東京都では愛の手帳として1度(最重度)、2度(重度)、3度(中度)、4度(軽度)の4段階で判定します。これらの判定は、IQだけでなく、日常生活能力、社会生活能力、医療的ケアの必要性などを総合的に評価して行われます。重度知的障害は、多くの自治体で療育手帳A判定(重度)またはA1、A2などの区分に該当し、様々な福祉サービスの対象となります。
重度知的障害の位置づけと出現率
重度知的障害は、知的障害全体の中で約3-4%を占める比較的少数のグループですが、支援ニーズは最も高い層です。全人口における出現率は約0.3-0.4%で、1000人に3-4人程度とされています。男女比では、やや男性に多い傾向がありますが、重度の場合は性差が小さくなります。これは、重度知的障害の原因の多くが、性別に関係ない染色体異常や脳の器質的障害によるためと考えられています。
重度と最重度の境界は明確ではなく、連続的なスペクトラムとして理解することが重要です。IQ20-34が重度とされていますが、IQ25の人とIQ30の人で大きな違いがあるわけではありません。むしろ、個人の特性、併存症の有無、環境要因などにより、実際の支援ニーズは大きく異なります。例えば、自閉症スペクトラム症を併存する場合、コミュニケーションの困難さが増し、行動上の問題も生じやすくなります。てんかんを併存する場合は、医療的管理も必要となります。
社会における重度知的障害者の位置づけは、時代とともに大きく変化してきました。かつては、大規模入所施設での保護が中心でしたが、現在は地域生活を基本とする方向に転換しています。グループホーム、生活介護事業所、短期入所などの地域資源を活用し、可能な限り地域で暮らすことが推進されています。しかし、重度知的障害者の地域生活には、24時間の支援体制、医療との連携、家族支援など、多くの課題があります。特に、高齢化する親と暮らす「8050問題」は深刻で、親亡き後の生活保障が大きな社会課題となっています。
重度知的障害の特徴と日常生活

重度知的障害の特徴は、認知機能、言語、運動、社会性など、発達のあらゆる領域に現れます。認知面では、具体的な事物の理解は可能でも、抽象的概念の理解は極めて困難です。時間、数、金銭などの概念も限定的で、「今」と「あと」程度の理解にとどまることが多いです。記憶力も制限があり、新しいことを覚えるのに多くの反復が必要で、般化(学んだことを別の場面で応用すること)も困難です。しかし、日常的なルーティンは身につけることができ、構造化された環境では安定した行動が可能です。
言語発達は大幅に遅れ、多くの場合、単語レベルまたは二語文程度にとどまります。理解言語も限定的で、簡単な指示は理解できても、複雑な説明や抽象的な話は理解困難です。しかし、非言語的コミュニケーション(表情、身振り、発声)により、基本的な欲求や感情を表現することは可能です。また、親しい人の声や表情から感情を読み取る能力はあり、コミュニケーションの意欲も持っています。代替コミュニケーション手段(絵カード、サインなど)の活用により、コミュニケーション能力を補うことができます。
日常生活動作では、食事、排泄、着脱、清潔保持などの基本的な身辺自立に部分的または全面的な介助が必要です。食事では、スプーンの使用は可能でも、適切な量の調整や偏食への対応が必要なことがあります。排泄は、定時誘導により可能な場合もありますが、夜間はおむつが必要なことが多いです。着脱は、簡単な衣服なら可能でも、ボタンやファスナーは困難で、季節に応じた衣服の選択もできません。入浴も全介助または部分介助が必要で、安全管理が重要となります。
認知機能と学習能力の特徴
重度知的障害における認知機能の特徴として、情報処理速度の著しい遅さがあります。簡単な指示でも、理解して行動に移すまでに時間がかかり、待つことが重要です。注意力も短く、5-10分程度で集中が途切れることが多いため、活動は短時間で区切る必要があります。しかし、興味のあることには比較的長く集中できることもあり、個人の興味関心を活かした学習が効果的です。視覚的な情報処理は比較的得意な場合が多く、写真や絵、実物を使った学習が有効です。
学習面では、読み書き計算などの学業的スキルの習得は極めて困難です。文字は、自分の名前程度は認識できることもありますが、読み書きは困難です。数の概念も、1-3程度の理解にとどまることが多く、計算はできません。しかし、日常生活に必要な実用的スキルは、繰り返しの練習により習得可能です。例えば、歯磨き、手洗い、簡単な作業などは、手順を細分化し、視覚的支援を用いることで身につけることができます。
記憶の特徴として、短期記憶が弱く、すぐに忘れてしまうことが多いですが、長期記憶として定着したことは比較的保持されます。そのため、毎日同じルーティンを繰り返すことで、生活スキルを定着させることができます。また、感情と結びついた記憶は残りやすく、楽しかった経験、怖かった経験などは長く覚えています。これは、ポジティブな学習経験の重要性を示しています。
問題解決能力は極めて限定的で、新しい状況への対応は困難です。しかし、パターン化された状況では、適切な行動をとることができます。例えば、「ご飯の時間になったら席に着く」「トイレに行きたくなったらトイレのマークを指差す」などの行動は可能です。このような能力を活かし、生活全体を構造化することで、自立的な行動を増やすことができます。
コミュニケーションと社会性の発達
重度知的障害者のコミュニケーションは、言語的表現が限定的でも、非言語的な方法で豊かな交流が可能です。表情、視線、身振り、発声などを組み合わせて、喜び、不快、要求などを表現します。例えば、好きな活動の時は笑顔になり、嫌なことは首を振る、欲しいものは指差すなどの方法でコミュニケーションをとります。これらのサインを周囲が理解し、応答することで、コミュニケーションの意欲が高まります。
言語理解は、日常的な単語や簡単な指示に限られますが、状況や文脈から意味を理解することもあります。「ご飯」「お風呂」「寝る」などの日常語は理解でき、その準備を始めることができます。また、声のトーンや表情から、褒められている、叱られているなどを理解します。ただし、否定文や条件文などの複雑な構文は理解困難で、肯定的で具体的な指示が必要です。
社会性の発達では、基本的な愛着関係は形成でき、親しい人とそうでない人を区別します。慣れた支援者には笑顔を見せ、初対面の人には警戒することもあります。しかし、相手の立場に立って考える(心の理論)ことは困難で、社会的ルールの理解も限定的です。集団生活では、簡単なルール(順番を待つ、みんなで一緒に活動する)は、繰り返しの指導で身につけることができます。
仲間関係は、同年齢の健常児との交流は困難ですが、同じような障害のある仲間とは、並行遊びや簡単な相互作用が可能です。音楽活動、感覚遊び、散歩などの活動を通じて、他者と空間を共有し、一緒に楽しむ経験ができます。このような経験は、社会性の基盤となり、生活の質を高める重要な要素です。支援者は、個々のコミュニケーション方法を理解し、応答的な関わりを持つことで、コミュニケーション能力の向上を促すことができます。
身体機能と健康管理の課題
重度知的障害者の約30-40%に、脳性麻痺、筋緊張異常、協調運動障害などの運動機能の問題が併存します。歩行可能な場合でも、バランスが悪く転倒しやすい、階段の昇降が困難、長距離歩行ができないなどの制限があります。車椅子を使用する場合もあり、移動には介助が必要です。微細運動も未発達で、箸の使用、ボタンかけ、書字などは困難です。しかし、適切なリハビリテーションと補助具の使用により、機能の維持向上が可能です。
健康管理面では、多くの課題があります。体調不良を言語で訴えることができないため、表情、行動、バイタルサインの変化から察知する必要があります。食事面では、咀嚼・嚥下機能の問題から誤嚥のリスクがあり、食形態の工夫が必要です。また、満腹感の認識が弱く、過食や偏食になりやすいため、栄養管理が重要です。口腔ケアも自力では不十分で、虫歯や歯周病のリスクが高く、定期的な歯科受診と日常的な口腔ケアの支援が必要です。
てんかんの併存率は30-50%と高く、定期的な脳波検査と抗てんかん薬の管理が必要です。発作時の対応、薬の副作用のモニタリングなど、医療との密接な連携が不可欠です。また、感覚の問題(視覚、聴覚)も併存することがあり、定期的な検査が必要です。睡眠障害も多く、睡眠リズムの確立に支援が必要な場合があります。
予防医療も重要で、定期健診、予防接種、がん検診などを確実に受ける必要があります。しかし、医療機関での検査や治療に協力することが困難な場合があり、事前の準備、視覚支援の活用、慣れた支援者の同行などの配慮が必要です。また、加齢に伴う機能低下も早期に現れることがあり、40代から老化現象が見られることもあります。継続的な健康管理と、変化への早期対応が、重度知的障害者の健康維持に不可欠です。
重度知的障害の原因と診断
重度知的障害の原因は多岐にわたり、約60-70%で何らかの原因が特定できますが、残りは原因不明です。原因が特定できる場合、染色体異常、遺伝子異常、脳の形態異常、周産期の脳障害、代謝疾患、感染症などがあります。重度になるほど、器質的な脳の障害が原因であることが多く、画像検査で脳の異常が発見されることもあります。原因の特定は、遺伝カウンセリング、合併症の予測、治療可能な疾患の発見などの観点から重要です。
診断は、包括的な評価により行われます。知能検査によるIQの測定、適応行動の評価、発達歴の聴取、身体所見、神経学的検査、必要に応じて遺伝学的検査、画像検査などを組み合わせます。重度知的障害の場合、標準的な知能検査の実施が困難なことも多く、発達検査や行動観察が中心となります。早期診断は早期療育につながるため重要ですが、乳幼児期には発達の個人差も大きく、慎重な経過観察が必要な場合もあります。
診断後のフォローアップも重要で、定期的な発達評価、合併症のスクリーニング、家族支援などが必要です。診断は一度で確定するものではなく、成長とともに状態像が変化することもあります。また、知的障害の診断だけでなく、自閉症スペクトラム症、注意欠如多動症などの併存症の評価も重要です。包括的な診断により、個々のニーズに応じた支援計画を立てることが可能になります。
先天的要因(染色体異常・遺伝子疾患)
重度知的障害の先天的要因として、最も頻度が高いのは染色体異常です。ダウン症候群(21トリソミー)は、知的障害の原因の約10%を占め、多くは中等度から重度の知的障害を呈します。その他、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトー症候群)なども重度知的障害を伴います。これらは、受精時の染色体不分離により生じることが多く、母体年齢の上昇とともにリスクが増加します。染色体の微小欠失症候群(プラダー・ウィリー症候群、アンジェルマン症候群など)も、重度知的障害の原因となります。
単一遺伝子疾患も重要な原因です。脆弱X症候群は、遺伝性知的障害の中で最も頻度が高く、男性では中等度から重度の知的障害を呈することが多いです。結節性硬化症、神経線維腫症などの神経皮膚症候群も、程度の差はあれ知的障害を伴います。先天性代謝異常症(フェニルケトン尿症、ムコ多糖症など)は、早期診断・治療により知的障害を予防または軽減できる場合もありますが、未治療では重度知的障害に至ります。
脳の形態異常も重度知的障害の原因となります。滑脳症、多小脳回、脳梁欠損、水頭症などは、脳の構造的異常により重度の知的障害を引き起こします。これらは、胎児期の脳の発生過程での障害により生じ、遺伝的要因と環境要因の両方が関与することがあります。MRIなどの画像検査により診断可能で、合併するてんかんや運動障害の管理にも重要な情報を提供します。
遺伝カウンセリングの観点から、原因の特定は重要です。例えば、常染色体劣性遺伝の疾患では、次子の再発リスクは25%となります。一方、de novo(新生)突然変異の場合、次子への再発リスクは低くなります。遺伝学的検査技術の進歩により、マイクロアレイ検査、全エクソーム解析などで、従来診断困難だった原因も特定できるようになってきています。
後天的要因(周産期障害・感染症・外傷)
周産期の問題は、重度知的障害の重要な原因です。早産(在胎37週未満)、特に超早産(28週未満)では、脳の未熟性により脳室内出血、脳室周囲白質軟化症などを生じ、重度の神経学的後遺症を残すことがあります。低出生体重、特に極低出生体重児(1500g未満)、超低出生体重児(1000g未満)では、知的障害のリスクが高まります。新生児仮死は、脳への酸素供給不足により低酸素性虚血性脳症を引き起こし、重度の知的障害と脳性麻痺を残すことがあります。
感染症も重要な原因です。先天性感染症(TORCH症候群:トキソプラズマ、風疹、サイトメガロウイルス、ヘルペスなど)は、胎内で感染し、脳の発達を阻害します。出生後の髄膜炎、脳炎も、適切な治療を受けても後遺症として知的障害を残すことがあります。特に、細菌性髄膜炎は重篤な後遺症を残しやすく、ワクチンによる予防が重要です。日本脳炎、単純ヘルペス脳炎なども、重度の知的障害の原因となることがあります。
外傷による脳損傷も、重度知的障害の原因となります。乳幼児の頭部外傷、特に虐待による揺さぶられっ子症候群は、重篤な脳損傷を引き起こします。交通事故、転落事故、溺水による低酸素脳症なども原因となります。これらは予防可能な原因であり、安全対策の重要性を示しています。
その他の後天的要因として、重度の栄養失調、鉛中毒などの環境要因、脳腫瘍とその治療による影響などがあります。また、てんかん性脳症(ウエスト症候群、レノックス・ガストー症候群など)では、頻回の発作により知的退行を示すことがあります。これらの後天的要因の中には、早期発見・早期治療により予防または軽減可能なものもあり、定期健診や予防接種の重要性が強調されます。
診断プロセスと必要な検査
重度知的障害の診断プロセスは、初期評価、詳細評価、確定診断、フォローアップの段階を経て行われます。初期評価では、発達の遅れに気づいた時点で、かかりつけ医や乳幼児健診で相談します。詳細な発達歴の聴取、身体診察、発達スクリーニング検査を行い、専門機関への紹介の必要性を判断します。この段階で、聴覚や視覚の問題を除外することも重要です。
詳細評価は、小児科、小児神経科、児童精神科などの専門医療機関で行われます。標準化された発達検査(新版K式発達検査、ベイリー乳幼児発達検査など)により、発達年齢と発達指数を評価します。重度知的障害の場合、精神年齢は2-4歳程度にとどまることが多いです。適応行動の評価には、Vineland適応行動尺度などを用い、日常生活能力を詳細に評価します。
医学的検査として、血液検査(染色体検査、遺伝子検査、代謝スクリーニング)、画像検査(MRI、CT)、脳波検査などを必要に応じて実施します。染色体検査では、G分染法、FISH法、マイクロアレイ検査などを段階的に行います。MRIでは、脳の形態異常、白質病変、脳萎縮などを評価します。脳波検査は、てんかんの診断に必要です。これらの検査により、原因疾患の特定と、合併症の評価を行います。
確定診断は、これらの評価を総合して行います。IQ20-34(または発達指数20-34)、適応行動の著しい制限、18歳以前の発症という基準を満たし、他の精神疾患や感覚障害では説明できない場合に、重度知的障害と診断されます。診断後は、定期的なフォローアップが必要で、発達の経過観察、合併症の管理、療育効果の評価、家族支援などを継続的に行います。診断は固定的なものではなく、成長とともに見直されることもあります。
重度知的障害者が受けられる支援制度

重度知的障害者とその家族が利用できる支援制度は多岐にわたり、経済的支援、福祉サービス、医療支援、教育支援などがあります。これらの制度を適切に組み合わせることで、本人の生活の質を向上させ、家族の負担を軽減することができます。支援制度の基本となるのは療育手帳(愛の手帳)で、これにより様々なサービスの利用資格を得られます。重度知的障害者は、最も手厚い支援の対象となり、多くの制度で優先的な扱いを受けることができます。
経済的支援として、特別児童扶養手当、障害児福祉手当、特別障害者手当、障害年金などがあります。これらは、障害の程度や年齢により受給できる手当が異なります。また、医療費の助成制度として、自立支援医療、重度心身障害者医療費助成などがあり、医療費の負担を大幅に軽減できます。税制面でも、特別障害者控除などの優遇措置があります。
福祉サービスは、障害者総合支援法と児童福祉法に基づいて提供されます。在宅サービス(居宅介護、重度訪問介護、行動援護など)、通所サービス(生活介護、児童発達支援など)、入所サービス(施設入所支援、グループホームなど)があり、個々のニーズに応じて利用できます。これらのサービスの利用には、市区町村での申請と支給決定が必要で、相談支援専門員がサービス等利用計画を作成し、適切なサービスにつなげます。
療育手帳の取得方法とメリット
療育手帳は、知的障害者が各種支援を受けるための基本となる証明書です。18歳未満は児童相談所、18歳以上は知的障害者更生相談所で判定を受けます。重度知的障害の場合、多くの自治体でA判定(重度)またはそれに相当する区分となります。申請には、申請書、写真、印鑑などが必要で、判定では知能検査、適応行動の評価、医師の診察などが行われます。判定には半日程度かかり、後日手帳が交付されます。
療育手帳取得の最大のメリットは、各種手当の受給資格が得られることです。特別児童扶養手当(1級:月額約55,000円)、障害児福祉手当(月額約15,000円)、20歳以降は特別障害者手当(月額約28,000円)などを受給できます。また、20歳から障害基礎年金(1級:年額約102万円)の受給も可能です。これらの経済的支援は、障害による追加的な費用負担を軽減する重要な制度です。
日常生活での優遇措置も多くあります。公共交通機関の運賃割引(JR、私鉄、バスなど本人と介護者が半額)、有料道路の通行料金割引、NHK受信料の免除、公共施設の利用料減免などがあります。また、税制面では、所得税・住民税の特別障害者控除(所得税40万円、住民税30万円)、自動車税・軽自動車税の減免などの優遇があります。携帯電話料金の割引を提供している事業者もあります。
療育手帳は、福祉サービス利用の際の証明書としても機能します。障害福祉サービス、特別支援教育、障害者雇用などの利用時に、障害の証明として使用できます。また、成年後見制度の利用、生命保険の加入(一部の障害者向け保険)などでも必要となることがあります。手帳の更新は通常2-5年ごとですが、障害の程度が固定している場合は更新不要となることもあります。
障害年金と各種手当制度
重度知的障害者の経済的支援の中核となるのが障害年金です。20歳から障害基礎年金を受給でき、1級(重度)は年額約102万円(月額約8.5万円)です。知的障害は先天性または発達早期の障害のため、保険料納付要件は問われません。ただし、20歳前障害による障害年金は、本人の所得制限があり、年収約472万円を超えると全額支給停止となります。申請には、医師の診断書、病歴・就労状況等申立書などが必要で、日本年金機構で審査されます。
特別障害者手当は、20歳以上の在宅の重度障害者に支給される手当で、月額約28,000円です。重度知的障害に加えて、日常生活に常時特別の介護を要する状態であることが要件です。施設入所者や3か月以上の入院者は対象外となります。所得制限があり、本人や扶養義務者の所得が一定額を超えると支給停止となります。申請は市区町村の福祉窓口で行います。
児童に対する手当として、特別児童扶養手当があります。20歳未満の障害児を養育する保護者に支給され、重度(1級)は月額約55,000円です。障害児福祉手当は、20歳未満の重度障害児本人に支給される手当で、月額約15,000円です。これらは併給可能で、重度知的障害児の場合、両方を受給できることが多いです。ただし、いずれも所得制限があります。
地方自治体独自の手当もあります。東京都の重度心身障害者手当(月額60,000円)、横浜市の在宅重度障害者手当など、自治体により名称や金額は異なります。また、介護者に対する手当を支給する自治体もあります。これらの手当は、国の制度と併給可能な場合が多く、居住地の福祉窓口で確認することが重要です。各種手当を組み合わせることで、重度知的障害者の生活基盤を支えることができます。
障害福祉サービスの種類と利用方法
障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスは、重度知的障害者の地域生活を支える重要な制度です。訪問系サービスとして、居宅介護(ホームヘルプ)は、自宅での入浴、排泄、食事などの介護を提供します。重度訪問介護は、重度障害者に対して、長時間の見守りを含む総合的な支援を行います。行動援護は、行動上の困難がある人の外出支援を行います。これらのサービスにより、在宅生活の継続が可能になります。
日中活動系サービスとして、生活介護は最も利用者が多いサービスです。主に重度障害者を対象とし、日中の介護、創作活動、生産活動などを提供します。定員20名程度の事業所が多く、送迎サービスも提供されます。療養介護は、医療的ケアが必要な重症心身障害者を対象とし、医療機関で日中の療養と介護を提供します。短期入所(ショートステイ)は、家族のレスパイト(休息)のため、一時的に施設で預かるサービスです。
居住系サービスとして、施設入所支援は、24時間の介護が必要な重度障害者が入所する施設です。近年は地域移行が推進されていますが、重度知的障害者にとって重要な選択肢です。共同生活援助(グループホーム)は、地域の住宅で少人数で共同生活を送り、世話人や生活支援員のサポートを受けます。重度対応型のグループホームも増えており、地域生活の可能性が広がっています。
サービス利用の流れは、まず市区町村の障害福祉課に相談し、サービス利用申請を行います。次に、認定調査員による障害支援区分の認定調査を受けます。重度知的障害者は、多くの場合、区分5または6(最重度)に認定されます。その後、相談支援専門員がサービス等利用計画を作成し、市区町村が支給決定を行います。利用者負担は、原則1割ですが、所得に応じた上限額が設定されており、低所得者は負担が軽減されます。定期的にモニタリングを行い、必要に応じてサービス内容を見直します。
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まとめ
重度知的障害は、IQ20-34程度で、日常生活のほぼすべての場面で継続的な支援が必要な状態です。知的障害全体の約3-4%を占め、認知機能、言語、身辺自立、社会性などあらゆる発達領域に大幅な遅れが見られます。しかし、適切な支援により、その人なりの成長と発達が可能で、生活の質を向上させることができます。
原因は、染色体異常、遺伝子疾患、脳の形態異常などの先天的要因と、周産期障害、感染症、外傷などの後天的要因があり、約60-70%で原因が特定可能です。診断は、知能検査、適応行動評価、医学的検査などを総合して行われ、早期診断により早期療育につなげることが重要です。
日常生活では、言語は単語から二語文程度、身辺自立は部分的または全面的介助が必要、健康管理にも多くの配慮を要します。てんかんの併存率は30-50%と高く、医療的管理も不可欠です。コミュニケーションは限定的でも、非言語的な方法で感情表現が可能で、構造化された環境で安定した生活を送ることができます。
支援制度は充実しており、療育手帳により各種手当(特別障害者手当、障害年金など)、福祉サービス(生活介護、グループホーム、居宅介護など)、医療費助成などを受けられます。これらを適切に活用することで、本人の能力を最大限に引き出し、家族の負担も軽減できます。
重度知的障害があっても、一人一人が尊厳を持つ個人であり、適切な支援と理解により、その人らしい充実した生活を送ることが可能です。社会全体で支える体制づくりが、共生社会の実現につながります。