産後うつは子育てをする母親が経験する問題であり、早期発見と適切な介入が求められます。
一方で、産後うつやその傾向がある患者さまへの対応は慎重になる必要があり、メンタルヘルスケアや看護計画に悩む看護師さんもいるでしょう。
この記事では、産後うつの患者さまへの看護計画をはじめ、訪問看護における対応のポイントや留意点を解説します。
産後うつの定義と症状|リスク要因も解説
まずは、産後うつの定義と症状、リスク要因について説明します。
産後うつは、出産後に発症する深刻な気分障害の1つです。「マタニティブルー」の症状は1〜2週間で落ち着くのに対し、産後うつの場合は2週間以上持続します。
主な症状としては、持続的な悲しみや空虚感、気分の変動、睡眠障害、疲労感や集中力の低下、罪悪感や無価値感などです。
また、産後うつは一般的に、子どもを出産後3ヶ月以内に発症します。中には症状が数ヶ月間続くケースもあり、日常生活や育児に支障をきたすおそれも。産後うつは、母親の10〜15%が経験するとされており、早期発見と適切なケアが必要です。
産後うつにおける看護計画の立て方
産後うつの概要がわかったところで、次は看護計画について見てみましょう。
ここでは、産後うつの看護計画の例を看護過程に沿って解説します。
アセスメント
看護計画を立てる前にすべきことは、全身状態のアセスメントです。以下の項目をもとに、患者さまの状態を観察してアセスメントします。
1.産後うつの症状の観察、生活環境や育児の状況の確認
2.リスク要因の評価(過去の精神疾患歴、ストレス、家族や社会的サポートの状況など)
3.スクリーニングツールによる評価
スクリーニングツールの評価では、エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)を用いるのが一般的です。10項目から患者さまの状態を評価できます。なおこの検査は、産後1ヶ月ほどの時期に実施するのが望ましいとされています。
参照:日本周産期メンタルヘルス学会/周産期メンタルヘルス コンセンサスガイド2017初版
看護診断
アセスメントが済んだら、患者さまの抱えている問題を明確にしてNANDA-1に沿って看護診断を立てます。産後うつの患者さんに見られる可能性のある看護問題は、以下の通りです。
・気分障害:産後うつの中核症状である抑うつ気分に対する問題
・不安:産後の不安感や心配が強い場合の問題
・睡眠パターン障害:睡眠の質や量の変化が顕著な場合の問題
・自己尊重低下:自信の喪失や自己評価の低下がみられる場合の問題
・親役割葛藤:育児に対する不安や自信のなさがある場合の問題
患者さまの状態に合わせて、ベースとなる看護問題・診断を選択しましょう。
目標設定(長期目標・短期目標)
次は、長期目標・短期目標を立てます。患者さまによって内容は異なりますが、以下に例を示しますので参考にしてみてください。
【長期目標(1〜3ヶ月)】
・抑うつ症状の軽減
・母子関係の改善
・社会的サポートネットワークの構築
・育児に対する自信の回復
【短期目標(1〜2週間)】
・睡眠パターンの改善
・基本的な自己ケア能力の回復
・安全な環境の確保
目標は、母親の状態や進捗に応じて適宜調整しましょう。
看護介入
看護診断・看護目標をもとに、具体的なケアの計画を立てます。患者さまによって個別性の出る部分ではありますが、以下に例をあげました。
・心理教育:産後うつに関する正確な情報を提供し、母親と家族に対する理解を深める
・カウンセリング:傾聴と共感を基本としたカウンセリングを行い、母親の感情を受け止める
・生活指導:睡眠状況の改善、バランスの取れた食事、運動を取り入れられるよう支援する
・母子関係支援:授乳指導やスキンシップの促進を通じて、母子の絆を強化する
・社会資源の活用:地域の子育て支援サービスや産後ケア事業、レスパイトケアを紹介し、利用できるサービススの情報を提供する
評価
最後に、患者さまに実施した看護ケアの評価をします。評価の視点は以下の通りです。
・症状の変化を観察する
・目標がどの程度達成できたかを確認する
・介入の効果を検討する
・新たな問題を生じていないか確認する
評価に応じて、今後のケア計画を追加・変更しましょう。
産後うつをはじめ産褥期に必要な看護ケアとは?
産褥期は出産後6〜8週間の期間で、母体が妊娠前の状態に戻るための重要な時期です。中には訪問看護を利用することで、効果的な介入が可能となるケースもあります。訪問看護だからこそできる、看護のポイントや留意点を説明します。
・環境の評価:家庭環境やサポート体制を評価し、必要な支援を提供する
・家族教育:家族に対して、母親のメンタルヘルスケアの重要性と具体的なサポート方法を指導する
・多職種連携:医師、助産師、ソーシャルワーカーなどと連携し、包括的なケアを提供する。必要であれば精神科医の診察へとつなげる
産後うつの状態に合わせた看護計画を立案することが大切
産褥期の患者さまへの看護は、メンタルヘルスケアが非常に重要であり、特に産後うつのリスクがある母親に対しては適切な介入が求められます。
中でも訪問看護は、家庭に訪問するため母親と家族に対する包括的なケアを提供する機会であり、看護師としてのスキルも高められるでしょう。
訪問看護師として現場で働きながら、学びを深めることも可能です。在宅医療に興味がある方は、ぜひ『訪問看護ステーションくるみ』にお問い合わせください。