ADHD(注意欠如・多動症)と双極性障害は、衝動的な行動や気分の波が見られる点で似ている印象を持たれやすいです。実際に併発するケースもあり、誤った対処をすると症状が長期化するおそれがあります。本記事ではADHDと双極性障害の共通点や違い、対処法を包括的に解説し、生活や仕事を続けるためのヒントを提示します。
ADHDと双極性障害とは
ADHDと双極性障害は、ともに行動面や感情面で周囲に影響を与えやすい障害です。ただし、ADHDは主に脳機能の発達の偏りによる「不注意」「多動性」「衝動性」を特徴とする発達障害であり、双極性障害は気分が高揚する躁状態とうつ状態を繰り返す気分障害の一種です。ここでは、ADHDと双極性障害の特性について詳しく解説します。
ADHDの主な特性
ADHDにおける基本的な特性は「不注意」「多動性」「衝動性」の三つです。不注意型の人は、同時に複数の作業を進めることが苦手で、メモや時計を活用しないと約束や締め切りを見落としてしまうこともあります。
多動性の傾向が強い場合は、授業や会議など静かに座っていなければならない場面が苦痛になり、思わず体を動かしてしまうことが目立つでしょう。衝動性の強さは、瞬間的に言動に出るため、人間関係のトラブルを招きやすいです。
これらの特性は、子どもの頃から兆候があり、大人になっても完璧には消えにくいとされています。ただし、適切な療育や環境調整により、症状のコントロールを学びながら成長できる可能性があるのもADHDの特徴です。
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双極性障害の主な症状
双極性障害は、「躁状態」と「うつ状態」が入れ替わりながら続く気分障害です。躁状態では自信がみなぎり、行動的になる一方で、浪費癖が加速したり計画性に欠ける行動を取りやすくなったりします。また、多弁になったり短い睡眠でも疲れにくいと感じたりと、一見すると「元気過ぎる」状態に見えます。
うつ状態に入ると、一転して意欲が低下し、何をするにも億劫になりがちです。日常の些細なことでも大きな負担を感じるようになり、人と会うのを避けたくなるなど社会生活に支障をきたす場合もあります。
躁とうつは一定の周期で繰り返される場合が多いですが、その間は比較的安定する「寛解期」が訪れることもあります。症状の強度や周期は個人差が大きく、双極性障害の中でもⅠ型・Ⅱ型など種類が分かれています。
併発に注意すべき理由
ADHDと双極性障害が併発するケースでは、双極性障害の躁状態でADHDの衝動性がさらに強くなり、トラブルが拡大する可能性があります。うつ状態のときには集中力が大幅に落ち込むため、ADHD特有の不注意も相まって、さらなる自己否定感に陥るリスクも高いです。
適切な治療や支援を受けないまま放置すると、職場や家庭内でのトラブルが頻発し、結果的に症状の改善が遅れる恐れがあります。自分や身近な人が「もしかして」と感じた場合は、精神科や心療内科での検査・カウンセリングを検討してみましょう。
ADHDと双極性障害が似ている点・共通点
ADHDと双極性障害は発症メカニズムが異なりますが、外から見ると「落ち着きがない」「気分の波が激しい」といった共通点が見られます。本人ですら自覚しづらい場合もあるため、どのような面で似ていると感じられやすいのかを把握することは重要です。
衝動性と不注意への影響
ADHDの衝動性では、強い刺激に対して瞬時に反応してしまい、周囲から「考えなしに行動している」と思われることが多いです。双極性障害の躁状態でも、同じように衝動性が高まるため、普段なら買わないような高額商品を立て続けに購入するなど、金銭的なトラブルに発展するケースもめずらしくありません。
また、不注意も両者に共通する部分であり、些細なミスが積み重なることで日常生活の質が大きく下がることがあります。周囲から見れば、こうしたミスの多さや衝動的な言動がよく似ているため、障害を混同しやすくなる原因といえます。
コミュニケーションの困難
ADHDであれば、相手の話を最後まで聞く前につい割り込んでしまったり、気が散って別のことを考えてしまうため、対話がスムーズに進まないことが多いです。双極性障害の躁状態では話すスピードが異常に速まったり、話題があちこちに飛んだりしてしまうため、周囲がついていけずコミュニケーションの齟齬が生じやすいです。
うつ状態では逆に声を出す気力が湧かず、会話自体が途切れがちになります。こうしたコミュニケーションの起伏は、家族や友人、職場での人間関係に混乱をもたらすことが少なくありません。
社会生活への影響
日常生活や職場での業務は、注意力や計画性、安定した感情コントロールが求められます。ADHDの方は、優先順位を付けるのが苦手だったり、整理整頓ができずに重要書類を紛失するなどの問題に直面しやすいです。
双極性障害の方は、躁状態でいろいろなことに手を出してしまい、急激に疲れがたまってうつ状態に移行すると、一気に何もできなくなるというパターンがしばしば見られます。どちらの障害も本人の意志だけで完全にコントロールできるわけではないため、周囲の理解や協力を得ながら長期的に対策を立てることが不可欠です。
ADHDと双極性障害の違い
似通った面がある一方で、ADHDと双極性障害には大きな違いも存在します。発達障害と気分障害という分類上の違いがあり、診断基準や治療アプローチにも明確な相違があります。ここを誤解すると、誤った治療方針を選択しかねないため注意が必要です。
気分変動の有無
ADHDは子どもの頃から続く特性として、不注意や衝動性が長期的に現れやすいです。もちろん日によって調子の良し悪しはありますが、双極性障害のように明確な「躁状態」と「うつ状態」を周期的に繰り返すわけではありません。
双極性障害の場合は、躁とうつの波が極端に振れるため、その周期を観察して診断に結びつくことが多いです。気分の上下が激しく、反動が大きいのが双極性障害の大きな特徴といえます。
診断基準の相違
ADHDは「発達障害」という分類であり、幼少期からの行動パターンや学習面の困難が成人期にも持続しているかどうかが診断上の鍵になります。
双極性障害は「気分障害」の一種であり、DSMなどの診断基準では躁・軽躁状態と、その反対にあたるうつ状態の期間や症状の程度が重視されます。また、躁やうつがどれほど社会機能に支障をきたしているかも判断材料となる点で、ADHDとは評価のアプローチが異なります。
対処・治療のアプローチ
ADHDでは薬物療法(中枢神経刺激薬や非刺激薬)と、認知行動療法や環境調整が組み合わされることが多いです。特性を理解し、職場や家庭でのサポート体制を整えることで、ミスを防ぐ工夫が重視されます。
一方、双極性障害は気分安定薬を中心とした薬物療法が柱となり、躁とうつの波を安定させることを目標に治療が進められます。疲れをためないような生活リズムの確立も重要で、特に睡眠不足は症状を悪化させやすいため注意が必要です。
併発が見られる場合の対処
ADHDと双極性障害が併発すると、それぞれの症状が相互に悪影響を及ぼし、日常生活がさらに混乱するリスクが高まります。どちらか片方のみを治療しても十分に改善しない場合があるため、総合的な視点でのアプローチが欠かせません。
併発の背景
両障害には、脳内の神経伝達物質のバランスや遺伝的要因が関与していると考えられており、ストレスフルな環境や生活習慣が重なることで発症リスクが高まることもあります。
ADHDの不注意や衝動性が原因で失敗経験が積み重なると、自己評価が下がって精神的に不安定になるため、気分障害を発症しやすい土台が生まれる場合があります。そうした状況で双極性障害を併発すると、気分の振り幅がより大きくなり、周囲からのサポートも困難になってしまうケースがあります。
併発で起こるリスク
ADHDに基づく突発的な行動やミスに加え、双極性障害の躁状態ではブレーキが利かないほど活動的になるため、借金や無謀な行動に走りやすくなります。
うつ状態に移行した際には「自分は何をしてもダメだ」という思い込みが強まり、身動きが取れなくなるほど落ち込むこともあるでしょう。結果的に、学業や仕事を継続するのが難しくなり、経済的にも精神的にも孤立してしまうリスクが高まります。
適切なサポート体制の確立
併発の疑いがある場合は、まず専門医による正しい診断を受けることが重要です。それぞれの症状を客観的に評価し、薬物療法の選択にも慎重を期します。
たとえばADHDの薬が双極性障害の症状を悪化させる可能性もあるため、医師やカウンセラー、場合によっては作業療法士や就労移行支援など、多角的な視点で支援を受けることが望ましいです。職場や学校では、配慮を得られるように情報を共有するのも有効な手段です。
生活や仕事を続けるためのポイント
ADHDや双極性障害があっても、正しい理解と環境調整、継続的な治療を行うことで、安定した生活や仕事を実現しやすくなります。特性を無理に押し殺すのではなく、個々の課題に合ったセルフケアと外部からのサポートをうまく取り入れましょう。
毎日の習慣とセルフケア
睡眠時間の確保や栄養バランスに配慮した食事、適度な運動など、基本的な生活リズムを守ることは両方の障害にとって重要です。ADHDの方はタスクを細分化してリマインダーを活用する、双極性障害の方は躁状態が来そうなタイミングを把握して、意識的に休息を取るなど、自分の特性や気分の波を理解した上で行動パターンを調整しましょう。
セルフケアとしてリラクゼーション法やマインドフルネスを習得することで、衝動性やストレスをある程度緩和できる可能性があります。
仕事場での工夫
仕事を続ける上では、業務の見える化と優先順位づけが大切です。ADHDの方は、メモやデジタルツールを駆使してミスを最小限にする工夫をするとよいです。
双極性障害の方は、躁状態で無理をしすぎないよう業務量を調整し、うつ状態になりかけたら医師と相談しながら休息を確保できるよう、あらかじめ職場の上司や同僚に伝えておくと安心です。障害者雇用や産業医制度、職場カウンセラーなどを活用できる環境であれば、積極的に利用して業務負担を見直す機会をつくりましょう。
専門家への相談と支援
ADHDや双極性障害は、本人の努力だけでコントロールしようとすると限界がある場合が多いです。精神科医や心理カウンセラー、就労移行支援などの専門家から助言を受けることで、より適切な支援策を見いだせる可能性があります。
障害者手帳や自立支援医療を取得すると、医療費の負担が軽減されるだけでなく、職場や学校で配慮を受けやすくなることもあるでしょう。周囲に上手に相談し、具体的なサポートを得ることで、症状と向き合う不安を軽減できます。
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まとめ
ADHDと双極性障害は、衝動性や気分の不安定さなど共通する部分がある一方で、発達障害と気分障害という違いから診断や治療アプローチに相違点があります。どちらも周囲の理解と継続的なケアが必要であり、併発している場合はさらに複雑なサポートが求められます。
紹介した内容を参考に、気になる症状がある場合には早めに専門家に相談し、適切な支援を活用しながら生活や仕事を続けていきましょう。もし悩みを一人で抱え込むことに不安を感じるようであれば、訪問看護を利用する選択肢もあります。ぜひ「訪問看護ステーションくるみ」へご相談ください。一緒に悩みを共有し、考え、そして前に進めるようサポートいたします。
