ADHDは遺伝する?父親・母親からの確率と環境要因を徹底解説
精神科訪問看護とは「自分はADHD(注意欠如・多動症)の特性を持っているけれど、子どもに遺伝するのだろうか」——そのような不安を抱えている方は少なくありません。
研究によると、ADHDの遺伝率は「約76%」と高く、父親または母親のいずれか片親がADHDの場合、子どもに特性が現れる確率は40〜50%とされています。(※「遺伝率」は誤解されやすい指標であるため、後ほど詳しく解説します)
しかし、この確率を聞いて悲観する必要はありません。遺伝はあくまで「発症リスクの一つ」であり、必ず遺伝するわけではないからです。遺伝的素因を持っていても、環境要因の働きかけによって症状の現れ方は大きく変わると考えられています。
この記事では、ADHDの遺伝確率、父親と母親それぞれからの影響、環境要因の役割、そして早期支援の方法について詳しく解説します。
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ADHDの遺伝率とは?科学的根拠を解説

ADHD(注意欠如・多動症)の原因については、現在も世界中で多くの研究が進められていますが、脳の機能的な偏りに加えて「遺伝的な要因」が強く関わっていることが明らかになってきています。では、「遺伝率約76%」という数字は具体的に何を意味しているのでしょうか。
遺伝率76%の意味を正しく理解する
多くの方が「遺伝率76%」と聞くと、「親がADHDなら、76%の確率で子どもにそのまま遺伝する」と誤解してしまいます。しかし、遺伝学における「遺伝率」とは、そのような直接的な確率を示すものではありません。
【用語解説:遺伝率とは?】
遺伝率とは、「ある集団における特性(症状の重さなど)の個人差のうち、遺伝要因によって説明できる割合」を示す統計学的な指標です。
つまり、「ADHDの症状の現れ方の違いの約76%は遺伝的な違いによるものであり、残りの約24%は環境要因によるものである」ということを意味しています。特定の親から特定の確率で1対1で遺伝するという数字ではないのです。
これは、身長の遺伝率(約80%と言われています)と似ています。背の高い親から背の高い子どもが生まれやすい傾向はありますが、栄養状態や睡眠などの「環境」によって身長は大きく変化します。ADHDも同様に、遺伝的な素因(生まれつきの脳のタイプ)を受け継ぎやすい傾向はあるものの、最終的な症状の現れ方は環境によって左右されると考えられています。
関連記事:注意欠如多動症(ADHD)とは?症状・診断・治療を解説
一卵性・二卵性双生児研究が示すこと
ADHDの遺伝性を証明する最も強力な科学的根拠の一つが、双生児(ふたご)を対象とした研究です。これまでに行われた20件以上の双生児研究のメタ分析(複数の研究結果を統合して分析する手法)により、ADHDの遺伝率が高いことが示されてきました。
具体的には、まったく同じ遺伝子を持つ「一卵性双生児」の場合、一人がADHDであるとき、もう一人もADHDである確率(一致率)は70〜80%に上るとされています。一方、遺伝子を平均して50%共有する「二卵性双生児」の場合、その一致率は30〜40%に留まると報告されています。(※詳細は記事末尾の参考文献等をご参照ください)
この結果は、ADHDの発症に遺伝が強く関与していることを明確に示しています。しかし同時に、「一卵性双生児であっても一致率が100%ではない」という事実は非常に重要です。まったく同じ遺伝子を持っていても、一人が発症し、もう一人は発症しないケースが20〜30%存在するということは、後天的な環境要因がいかに大きな影響力を持っているかを示しています。「遺伝的素因があっても必ず発症するわけではない」ということを、ぜひ心に留めておいてください。遺伝の数字だけに捉われず、お子様とご家族が「どうすれば毎日を過ごしやすくなるか」に目を向けることが支援の第一歩です。
父親・母親それぞれから遺伝する確率
「親がADHDの場合、子どもにどのくらいの確率で遺伝するのか」、そして「父親と母親、どっちから遺伝しやすいのか」という点は、親として最も気になる疑問の一つです。
親から子への遺伝確率はどのくらい?
研究データに基づくと、片親(父親または母親のいずれか)がADHDの場合、子どもにADHDの特性が現れる確率は約40〜50%とされています。また、両親ともにADHDの場合は、その確率は約60〜70%に上昇すると考えられています。
父親と母親のどちらから遺伝しやすいかについて、遺伝子そのものがどちらの親から強く受け継がれるかという明確な差はありません。しかし、親の性別によって、子ども(特に性別)に現れる症状の傾向に若干の違いがあることが研究で指摘されています。
父親・母親がADHDの場合の傾向比較
以下の表は、統計的な傾向をまとめたものです。※これらはあくまで傾向であり、必ずしもすべてのご家庭や子どもにこの通りに症状が現れるわけではありません。
| 項目 | 父親がADHDの場合 | 母親がADHDの場合 |
| 子への遺伝確率 | 約45〜50%(息子)
約35〜40%(娘) |
約40〜45%
(息子・娘ともほぼ同等) |
| 症状の傾向 | 多動・衝動性型が顕在化しやすい傾向 | 不注意優勢型が多い傾向 |
| 診断の特徴 | 行動面での課題が目立ち、早期に気づかれやすい | おとなしい場合は見過ごされやすく、診断が遅れることも |
父親がADHDの場合の特徴
父親がADHDの特性を持っている場合、統計的には娘よりも「息子」にADHDの特性が現れる確率がやや高い傾向にあるとされています。また、現れる症状としては、じっとしていられない、順番が待てないといった「多動・衝動性」の特性が顕在化しやすいと考えられています。
多動や衝動性は、保育園や学校などの集団生活においてトラブルにつながりやすいため、周囲の大人に気づかれやすく、比較的早期に診断や支援につながるケースが多いのが特徴です。
母親がADHDの場合の特徴
一方、母親がADHDの場合、子どもには「不注意優勢型(忘れ物が多い、集中力が続かない、ぼーっとしていることが多いなど)」の特性が現れやすい傾向があると言われています。不注意の特性は、多動性のように目立った行動が少ないため、親や教員から「ただのおとなしい子」「少しマイペースな子」と見過ごされやすく、診断が遅れてしまうケースが少なくありません。
また、母親自身がADHDの特性(特に不注意や段取りの苦手さ)を抱えている場合、家事や育児のマルチタスクが大きなストレスとなり、親自身のメンタルヘルスが悪化してしまうことがあります。その結果、家庭内の環境要因として子どもに影響を与える可能性も指摘されています。親御さん自身が疲弊しないよう、医師や支援機関に相談することが大切です。
関連記事:【診断テストあり】大人のADHDとは?男性・女性ごとの特徴や相談先も紹介
兄弟姉妹・祖父母などへの遺伝の影響

ADHDの遺伝的リスクは、親子間だけでなく、兄弟姉妹や祖父母といった家族全体にも影響を及ぼす可能性があります。
兄弟姉妹間での遺伝確率と特性の違い
ADHDの特性を持つ子どもがいる場合、その兄弟姉妹もADHDを発症する確率は約20〜30%とされています。これは、一般人口におけるADHDの割合(約3〜5%)と比較すると、明らかに高い数値です。
しかし、ここで注目すべきは「兄弟で症状の出方がまったく異なることがある」という点です。例えば、兄は「多動・衝動性」が強くて常に動き回っているのに対し、妹は「不注意」が強くていつもぼーっとしている、というケースは珍しくありません。同じ親から生まれた兄弟であっても、受け継ぐ遺伝子の組み合わせが異なり、さらに家庭内での立ち位置や友人関係といった環境要因が異なるためだと考えられます。
祖父母からの「隔世遺伝」について
「親はADHDではないのに、祖父がADHDのような特性を持っていた。隔世遺伝するのだろうか?」という疑問もよく聞かれます。
結論から言うと、祖父母から孫へADHDの特性が遺伝する可能性はあります。祖父母がADHDの場合、孫がADHDを発症する確率は約10〜15%程度と推定されています。これは親子間の遺伝確率(40〜50%)に比べると低いものの、一般的な確率よりは高いと言えます。
【ミニコラム:なぜ親世代は診断されなかったのか?】
いわゆる「隔世遺伝」のように見える現象は、実は「親世代も特性を持っていたが、診断されていなかっただけ」というケースが多くあります。昔はADHDという概念が一般的ではなく、「ちょっと変わった人」「忘れっぽい人」として社会に馴染めていた(環境に恵まれていた)場合、医療機関を受診する機会がありませんでした。その遺伝的素因が、現代の複雑な社会環境下で孫の世代に現れ、診断基準を満たしたと解釈されるのです。
家族内に同じような特性を持つ方がいる場合、それは「育て方のせいではない」という一つの証拠にもなります。過度な罪悪感を持たず、客観的な視点を持つために医師に相談してみましょう。
ADHDの遺伝メカニズム:関連遺伝子と環境要因
ADHDは、「たった一つの原因遺伝子」によって引き起こされる病気ではありません。身長や体重などと同じように、複数の遺伝子が複雑に絡み合い、そこに環境要因が加わることで発症する「多因子遺伝」であると考えられています。
神経伝達物質に関連する多因子遺伝
ADHDの特性に深く関わっているとされるのが、脳内の神経伝達物質である「ドーパミン」や「ノルアドレナリン」の働きです。これらは、注意力、モチベーション、感情のコントロールなどを司る脳の前頭前野の機能に不可欠な物質です。
研究により、ADHDの人の多くは、このドーパミンを受け取る受容体(DRD4など)や、ドーパミンを回収するトランスポーター(DAT1など)に関連する遺伝子に、わずかなバリエーションを持っていることが分かってきています。これにより、脳内のドーパミンがうまく働かなくなることが、不注意や多動・衝動性につながると考えられています。
エピジェネティクスとは?環境が遺伝子の働きを変える
近年、ADHDの研究において非常に注目されているのが「エピジェネティクス」という分野です。
【用語解説:エピジェネティクスとは?】
「DNAの塩基配列(遺伝子の設計図)自体は変わらなくても、後天的な環境要因によって『遺伝子のスイッチのオン・オフ』が切り替わる仕組み」のことです。
例えば、ADHDになりやすい遺伝的素因(スイッチ)を持っていたとしても、温かく受容的な環境で育てばそのスイッチは「オフ」のまま保たれ、症状が表面化しない可能性があります。逆に、強いストレスや不適切な環境に晒されると、スイッチが「オン」になり、ADHDの症状が強く現れる可能性があるのです。遺伝的素因があっても必ず発症するわけではない、というのはこのメカニズムによるものです。
妊娠中や幼少期の環境要因について
遺伝子のスイッチを切り替える環境要因として、妊娠中の母体の状態も指摘されています。
- 妊娠中の喫煙(受動喫煙を含む)
- 妊娠中のアルコールの多量摂取
- 極度な精神的ストレス
- 早産や低出生体重
これらは、胎児の脳の神経発達に影響を与え、ADHDの発症リスクを高める環境要因の一つとされています。「遺伝は絶対的な運命ではなく、環境からの働きかけで症状をコントロールできる部分がある」という希望を持って、早期からのサポートを考えていきましょう。
ADHDが遺伝しなかった場合でも注意すべきこと
インターネットの掲示板などで「自分がADHDだけど、子どもには遺伝しなかった」という体験談を目にすることがあるかもしれません。確かに、片親がADHDであっても約半数の子どもには特性が現れません。しかし、「遺伝しなかったように見える=完全に安心」と考えすぎるのは禁物です。
環境・後天的要因での発症リスク
前述の通り、ADHDの遺伝率は約76%ですが、残りの約24〜30%は遺伝以外の環境要因(妊娠・出産時のトラブル、頭部外傷、幼少期の強いストレス環境など)によって発症する可能性があるとされています。つまり、両親ともにADHDの特性がまったくなくても、子どもがADHDになるケースは十分にあるのです。
発達の特性は「グラデーション」(グレーゾーンについて)
また、発達障害の特性は「白か黒か」ではっきりと分かれるものではなく、グラデーションのようにつながっています。
【ミニコラム:グレーゾーンとは?】
病院で「ADHDの傾向はあるが、診断基準を満たすほどではない」と言われる状態を、一般的に「グレーゾーン」と呼びます。現時点では大きな困りごとが現れていなくても、進学や就職などで環境が大きく変わり、ストレス負荷が高まったときに初めて特性が顕在化してくることもあります。
「遺伝しなかったから大丈夫」と決めつけず、子どもの発達の様子や、集団生活での困りごとがないかを継続的に見守ることが大切です。忘れ物が極端に多い、感情のコントロールが効かないなど気になる様子が見られた場合は、「気のせいだろう」と放置せず、かかりつけの小児科や児童精神科の医師に相談してください。早期の受診と相談が、子どもの自己肯定感の低下を防ぐ第一歩となります。
遺伝リスクがあるときの早期発見と支援

ADHDの遺伝的リスクがあるご家庭では、「もし子どもにも特性が出たらどうしよう」と不安になるかもしれません。最も重要なのは、特性を「完全に無くす」ことではなく、特性による「生活のしづらさ」を早期に発見し、適切な支援につなげることです。
※以下のチェックポイントは家庭での観察の目安であり、医学的診断ではありません。
年齢別の早期発見サインと観察ポイント
ADHDのサインは、年齢とともに変化します。
- 幼児期(〜就学前): 常に走り回っている、順番が待てずにおもちゃを取ってしまう、癇癪がひどく切り替えができない、など。
- 学童期(小学生〜): 授業中に席を立つ、忘れ物が頻繁にある、宿題に集中できない、友達の会話に割り込んでしまう、など。
これらのサインに気づくためには、1歳半健診や3歳児健診などの機会を有効に活用しましょう。健診の場で「少し落ち着きがないかもしれません」と率直に相談することで、心理士の面談や療育などの早期支援につながりやすくなります。
家庭でできる環境調整とペアレントトレーニング
ADHDの特性を持つ子どもへの支援の基本は、「環境調整」と「周囲の関わり方の工夫」です。
- 環境調整
気が散りやすい(不注意)特性には、勉強机の周りに余計なものを置かない、パーテーションで視界を遮るなどの工夫が有効です。また、見通しが立たないと不安になる特性には、1日のスケジュールをイラストや写真を使って「視覚的」に提示することが効果的とされています。
- ペアレントトレーニング
親が子どもの特性を理解し、適切な褒め方や指示の出し方を学ぶプログラムです。「何度言ったらわかるの!」と叱るのではなく、「短く、具体的に、穏やかに」指示を出すスキルを身につけることで、親子の悪循環を断ち切り、子どもの自己肯定感を育てることができます。
薬物療法についての正しい理解
環境調整や心理社会的アプローチだけでは日常生活の困難が改善しない場合、薬物療法が検討されることがあります。ADHDの治療薬にはいくつか種類があり、脳内の神経伝達物質(ドーパミンやノルアドレナリン)の働きを調整することで、不注意や多動性を和らげる効果が期待できます。
薬を使用する場合は、必ず医師の処方・指示のもとで、副作用等を確認しながら慎重に進める必要があります。また、治療は継続することが大切です。服薬に関して過度な恐怖を抱いたり、逆に薬だけに頼りすぎたりせず、疑問があれば必ず主治医に相談してください。
関連記事:ADHDは治る?改善の可能性と効果的な治療法を徹底解説
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ADHDをはじめとする発達障害の特性を持つ方がご家族にいる場合、毎日のサポートや関わり方に疲れ果ててしまう親御さんも少なくありません。「通院させたいけれど、本人が外に出たがらない」「医師にはうまく生活の困りごとを伝えられない」といった悩みを抱えている方に知っていただきたいのが、「精神科訪問看護」という選択肢です。
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ここまでの不安を解消!ADHDと遺伝のよくある質問(FAQ)
ADHDと遺伝に関して、よく検索される疑問をQ&A形式でまとめました。
Q1. ADHDは必ず遺伝しますか?
- 遺伝率は約76%と高いですが、必ず遺伝するわけではありません。遺伝的素因を持っていても、発症するかどうかは妊娠中から幼少期の環境要因(エピジェネティクス)など、後天的な影響によっても変わるとされています。
Q2. 父親と母親、どちらから遺伝しやすいですか?
- どちらの親からも遺伝する可能性があります。統計的には、父親がADHDの場合、息子への遺伝確率がやや高い傾向にあるとされています。また、父親からは多動・衝動性が、母親からは不注意優勢型の特性が子どもに現れやすいという傾向も報告されていますが、個人差が大きいです。
Q3. 親がADHDでなければ子どもは安心ですか?
- 親がADHDでなくても、子どもが発症するケースは十分にあります。ADHDの原因の約24〜30%は、妊娠・出産時のトラブルや生育環境などの「遺伝以外の環境要因」が関与していると考えられているためです。
Q4. 祖父母がADHDだと孫にも遺伝しますか?
- 遺伝する可能性はあります(いわゆる隔世遺伝)。親からの直接の遺伝に比べると、確率は約10〜15%と低くなります。
Q5. ADHDの遺伝を予防することはできますか?
- 遺伝子の受け継ぎそのものを防ぐことはできません。しかし、家庭環境を整える、適切なペアレントトレーニングを受ける、妊娠中のリスク(喫煙や多量の飲酒など)を避けるといった「環境への働きかけ」によって、症状の発現を抑えたり、重症化を軽減したりできる可能性があります。
Q6. グレーゾーンと言われた場合、どうすればいいですか?
- 診断基準には満たなくても、生活に困難を感じている場合は支援が必要です。学校の先生と特性を共有したり、スクールカウンセラーに相談したりして、子どもが過ごしやすい環境調整を行っていきましょう。
Q7. 学校や福祉サービスとはどうつながればいいですか?
- 医師の診断や心理検査の結果をもとに、自治体の発達支援センターや児童相談所に相談することで、放課後等デイサービスなどの福祉サービスを利用できる場合があります。また、学校には「個別の教育支援計画」の作成を依頼し、連携を図ることが大切です。
【参考文献・出典】
記事内でご紹介した統計データや学術情報は、以下の資料に基づいています。詳細については、各機関の公式サイトや論文をご参照ください。
厚生労働省「発達障害の理解」
精神神経学雑誌「注意欠如・多動症発症のエピジェネティクス仮説」
Faraone SV, et al. The science of attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD): what every clinician should know. Eur Neuropsychopharmacol. 2021