大人になってから発達障害が判明する人は決して少なくありません。本人が抱える生きづらさに加え、その家族も日常生活やコミュニケーション面でストレスを感じやすいです。家族が過剰に負担を背負うと、いわゆるカサンドラ症候群に陥ることもあります。本記事では、大人の発達障害と家族のストレスの関係、具体的な対処法、支援機関の活用方法などを詳しく解説します。
大人の発達障害が家族に与える影響とは
大人の発達障害は、本人だけでなく家族にも多くのストレスを及ぼす可能性があります。一般的に発達障害はASD(自閉症スペクトラム)、ADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)などの種類があり、それぞれに固有の特性が見られます。早期に気づかれずに成人し、社会生活で困難を抱えて初めて診断されるケースも珍しくありません。
家族が抱えるジレンマ
家族が大人の発達障害者を支えるとき、単に「少し変わった性格」と思って対応していると問題が深刻化しやすいです。本人のこだわりや不注意、多動性などが家事や子育て、家計管理に影響を与えると、家族はその後始末に追われ、ストレスを抱え込みがちです。さらに、家族以外には事情を理解してもらいにくい点もジレンマを大きくします。
特性への理解不足によるトラブル
周囲が大人の発達障害を理解しないままだと、当事者の行動を単なるわがままだと誤解することが増えます。
例えば、衝動的な買い物を繰り返すADHDの人に対して「節約意識がない」と責めたり、話がかみ合わないASDの人を「冷たい」と思い込んでしまうケースなどが代表例です。このようなすれ違いが長引くと、家族間の信頼が損なわれ、家庭内不和につながるリスクが高まります。
カサンドラ症候群の懸念
発達障害者との生活でストレスが蓄積すると、周囲の家族が精神的に追い詰められるカサンドラ症候群を発症する恐れがあります。これは配偶者やパートナーがASD特性を持っている場合に多くみられますが、ADHDやLDでも似た状況に陥ることがあります。相手からの共感が得られずに孤立感が高まり、うつ状態などメンタルヘルスが損なわれるのが特徴です。
大人の発達障害でよくみられる3つの特性
家族がストレスを抱えやすい背景には、発達障害の特性を十分に把握できていない現状があります。ADHD、ASD、LDはそれぞれ特徴が異なり、困難が生じる原因も異なります。本人の特性を正しく把握することで、家族の負担を軽減するヒントを得やすくなるでしょう。
ADHD(注意欠如・多動症)
ADHDには主に不注意型、多動・衝動型、混合型の3種類があります。不注意型の人は物事を整理するのが苦手であり、物忘れや遅刻が多い傾向があります。一方、多動・衝動型の人は落ち着きがなく、つい衝動的に行動してしまうことが多いです。
家族としては「片付けをしてくれない」「予定を突然変えられて困る」といったストレスを抱えることが少なくありません。
ASD(自閉症スペクトラム)
ASDの人は社会的なコミュニケーションが苦手で、相手の意図を汲み取るのが難しいことがあります。表情や声のトーンなど、非言語的なサインを読み取るのが苦手な場合が多く、結果として「冷淡だ」「思いやりがない」と周囲に誤解されがちです。
家族から見ると「協力しているつもりなのに空回りしている」「融通が利かない」という印象が強まってストレスになるケースがあります。
LD(学習障害)
LDは読み・書き・計算など特定の学習分野に困難が生じる発達障害です。大人になると、職場や家庭内で文章や数値を扱う場面が増え、文字読みや計算に苦労することで仕事の能率が下がったり、家庭の書類作業が進まなかったりします。家族としては「これぐらいは当たり前にできるはず」と思い込んでしまい、本人との温度差が摩擦を生む原因となり得ます。
関連記事:仕事のミスや対人関係に悩む方へ:3つの大人の発達障害(ASD・ADHD・LD)セルフチェックリスト
家族にかかるストレスの要因
大人の発達障害がある家庭は、特性の違いや周囲の理解不足を背景に多様なストレスを抱えがちです。家族の気持ちが行き詰まると生活全体の質が低下し、お互いの関係性にも影響が及びます。ここでは主なストレス要因を具体的に見ていきます。
生活リズムや家事分担の混乱
発達障害がある大人の生活リズムが不安定だったり、指示や約束をすぐ忘れてしまう場合、家族がリカバリー対応を続ける形になりがちです。食事の用意や掃除・洗濯など家事分担をルール化しても、本人がこだわりや不注意で約束を破ってしまうと、その都度家族の負担が増えます。このような小さな積み重ねが日々のストレス源となるのは避けられません。
感情的サポートの欠如
ASD特性が強い場合、相手の感情を推し量ったり共感を示す行為が苦手なことがあります。結果として家族側が「どんなに苦労しても理解してもらえない」と感じ、孤独感が増すケースが多いです。夫婦間では会話が一方通行になりがちで、パートナーは誰にも助けを求められないままストレスを溜め込み、心身の不調へ発展することもあります。
周囲からの理解不足
家族が「うちの家族は発達障害があるから大変」と周囲に相談しても、「甘えているだけ」「しつけが悪い」などと否定的に捉えられることがあります。近所付き合いや職場関係でも、発達障害に対する誤解が根強いと、家族は追い詰められてしまうでしょう。
理解のない言葉をかけられるたびに孤立感が増し、家族としてのストレスがさらに大きくなるのが実情です。
カサンドラ症候群とは
カサンドラ症候群は、ASD特性をもつパートナーや家族と接するうちに、周囲が情緒不安定やうつ症状を抱える状態を指す概念です。共感を求めても応じてもらえず、気持ちが届かない孤立感が強いのが特徴といわれます。しかし、ADHDやLDの特性をもつ家族でも同様の状況に陥る場合があり、深刻なメンタルヘルス問題につながる可能性があります。
主な症状とリスク
カサンドラ症候群に陥ると、自分の言葉や想いが全く伝わらないと感じて強い虚無感に襲われたり、疲労から睡眠障害や食欲不振を起こすことが多いです。
また、日常生活におけるちょっとした意思疎通の不一致が深刻な争いになりやすく、家庭内の雰囲気が急激に悪化するリスクも高まります。早めの対処が望ましいものの、本人が「まさか自分が精神的に追い詰められている」と気づきにくい点が厄介です。
なりやすい人の特徴
カサンドラ症候群になる人は、対人関係で相手に強い共感や協力を求める傾向がある場合が多いです。また、真面目で責任感が強い人ほど、相手に合わせようとして無理をしがちです。
結果として相手が発達障害特性を理解せず我が道を行く場合や、そもそも相手が共感を示しにくい性格だった場合、サポート役を引き受け続ける家族側が大きな負担を背負い、症状が進行しやすくなります。
予防と対策
カサンドラ症候群を予防するためには、家族が発達障害の特性を理解したうえで、「できること」と「できないこと」を明確に区別し、相手に過剰な期待をしすぎない意識を持つことが重要です。また、家族側が一人で抱え込まないように、カウンセリングや支援センターを利用するなど外部のサポートを積極的に取り入れるのも効果的です。
家族のストレスを軽減する接し方・工夫
大人の発達障害がある家族との暮らしを穏やかに続けるには、まず特性を正しく理解し、対応策を考えることが大切です。家族だけで解決を目指すと限界がありますが、具体的なルール決めやサポート体制の整備を行えば、家庭内のトラブルを減らしやすくなります。
特性を踏まえたコミュニケーション
ADHDの人には短く簡潔な言葉で伝え、ASDの人にはあいまいな表現を避けるなど、特性に合わせたコミュニケーションを意識することがポイントです。
抽象的な指示ではなく、「いつまでに何をどうやってほしい」という形で具体的に伝えると、発達障害の方も理解しやすいです。家族間でこのルールを共有するだけで、誤解や行き違いを減らす効果が期待できます。
生活ルールや分担を明確にする
家事や金銭管理などを誰がどのように担当するのかを明文化し、可視化しておくと混乱が減ります。カレンダーやホワイトボード、アプリなどを活用し、「誰が何をいつまでにするか」を一覧化して見える化しましょう。
特にADHDやASD特性のある人にとっては、視覚的な情報が重要です。先の見通しが得られることで安心感が増し、家族全体の衝突リスクが減らせます。
家族も息抜きの時間を確保
家族が支援に熱心になりすぎると、心身ともに疲労が蓄積しやすいです。ときには趣味や友人との交流、ショッピングなどでリフレッシュし、自分自身のストレスを定期的に解消する習慣を持つことが大切です。休息の時間を「わがまま」と捉えず、むしろ円滑な家族関係を維持するための投資と考えるとよいでしょう。
関連記事:発達障害のある方への看護とは?関わり方やポイントを解説!
家族が利用できるサポート機関・相談先
家族がすべてを抱え込むのは危険です。ときには第三者のアドバイスや専門機関のサポートが必要になります。発達障害への理解やケアの経験を持つ施設を活用することで、家庭内の負担を和らげたり、新たな視点を得られたりする可能性があります。
発達障害者支援センター
各都道府県には発達障害者支援センターが設置されており、障害特性に関する相談や家族向けのプログラム、支援の受け方などをガイドしてくれます。
専門スタッフが在籍しているため、家庭での困りごとを具体的に打ち明けると、的確な助言を受けられるでしょう。サービスの詳細や予約方法は地域によって異なるため、お住まいの自治体のホームページを確認するとよいです。
精神科・心療内科
本人が強いストレスやうつ症状を訴えている場合、専門医療機関への受診が欠かせません。また、家族がカサンドラ症候群や適応障害の疑いがある場合も同様です。精神科や心療内科の専門家が状況を客観的に診断し、必要な治療やカウンセリングを提案してくれます。治療や薬物療法だけでなく、家族全体のサポート方法を含めて相談できる点がメリットです。
カウンセリング・家族会
発達障害について理解が深いカウンセラーや心理士のもとで、定期的に家族が悩みを打ち明けられる環境を整えるのは効果的といえます。
また、同じ境遇を持つ家族が集まる家族会や自助グループに参加すると、共感を得られるうえに実践的なアドバイスも共有できます。孤立感の解消はストレス緩和に直結し、家族が無理なく支援を続けるための原動力となるでしょう。
まとめ
大人の発達障害は家族にもストレスを与えやすく、特性を理解しないまま放置するとカサンドラ症候群に陥るリスクもあります。家族としてはコミュニケーションの工夫やルールの明確化、外部サポートの積極的活用などが大切です。
大人の発達障害や家族のストレスについて悩んでいる方は、訪問看護を利用するのも一つの手段です。相談は早めが肝心なので、ぜひ「訪問看護ステーションくるみ」へご相談ください。
