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ADHDとASDの違いと併存|特徴・症状・診断を徹底解説

2025.10.09 精神科訪問看護とは

「集中力が続かないのはADHD?それともASD?」「子どもが診断を受けたが、ADHDとASDの違いがよくわからない」このような疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。

ADHDとASD(自閉スペクトラム症)は、どちらも発達障害に分類されますが、その特徴や症状には明確な違いがあります。一方で、両者が併存することも多く、正確な理解が適切な支援につながります。

本記事では、ADHDとASDの違いを症状や特徴から詳しく解説し、併存の可能性や診断方法、そして適切な支援について包括的にお伝えします。

ADHDとASDの基本的な違いと特徴

ADHDとASDは同じ発達障害でも、脳の機能の違いにより異なる特徴を示します。まずは、それぞれの基本的な特徴と違いを理解することが重要です。

ADHDとASDはどちらも発達障害に分類される

ADHDとASDは、どちらも神経発達症群(Neurodevelopmental Disorders)に分類される発達障害です。発達障害とは、生まれつきの脳機能の違いにより、発達の過程で様々な困難が生じる状態を指します。これらは病気ではなく、脳の特性であり、適切な理解と支援により、その人らしい生活を送ることが可能です。発達障害は、知的能力の遅れを伴わない場合も多く、むしろ特定の分野で優れた能力を示すこともあります。

両者の共通点として、幼少期から症状が現れること、生涯にわたって特性が続くこと、環境調整や支援により生活の質が大きく改善することなどが挙げられます。また、どちらも遺伝的要因が強く関与しており、家族内で複数の人が発達障害の診断を受けることも珍しくありません。社会的な認知度も高まっており、早期発見・早期支援の重要性が認識されています。しかし、ADHDは主に注意と行動の制御に関する困難、ASDは社会的コミュニケーションと行動の柔軟性に関する困難という、異なる中核症状を持っています

ADHDの中核症状と特徴

ADHD(注意欠如・多動症)は、不注意、多動性、衝動性を主な特徴とする発達障害です。不注意症状では、細部への注意が困難、課題や活動を最後までやり遂げられない、物をよくなくす、日常的な活動を忘れるなどが見られます。多動性症状では、じっと座っていられない、過度におしゃべり、静かに活動に取り組めないなどがあります。衝動性症状では、順番を待てない、他人の会話や活動を妨害する、結果を考えずに行動するなどが特徴的です。

ADHDの脳機能の特徴として、前頭前皮質の実行機能の低下、報酬系の機能不全、ドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の調節異常が指摘されています。これにより、注意の維持、行動の抑制、時間管理、計画立案などに困難が生じます。ADHDの人は、興味のあることには過集中する一方で、興味のないことには全く集中できないという極端な傾向を示すことがあります。また、創造性が高く、エネルギッシュで、柔軟な思考ができるという強みも持っています。有病率は子どもで5-7%、成人で2.5-4%程度とされ、男性に多い傾向がありますが、女性では見過ごされやすいという問題もあります

ASDの中核症状と特徴

ASD(自閉スペクトラム症)は、社会的コミュニケーションの困難さと、限定的で反復的な行動パターンを主な特徴とする発達障害です。社会的コミュニケーションの困難では、視線が合わない、表情や身振りの理解が苦手、相互的な会話が困難、他者の感情や意図の理解が難しいなどが見られます。限定的・反復的な行動では、同じ動作の繰り返し、決まった順序への固執、特定の興味への没頭、感覚刺激への過敏または鈍感さなどが特徴的です。

ASDの脳機能の特徴として、社会脳ネットワーク(扁桃体、上側頭溝、前頭前皮質など)の機能的結合の違い、ミラーニューロンシステムの活動低下、感覚処理の違いなどが報告されています。これにより、他者の心の理解(心の理論)、非言語的コミュニケーション、社会的状況の理解などに困難が生じます。ASDの人は、細部への注目、パターン認識能力、論理的思考、特定分野での深い知識などの強みを持つことがあります。スペクトラムという概念が示すように、症状の程度は人により大きく異なり、知的障害を伴う場合から、高い知的能力を持つ場合まで幅広い範囲があります。有病率は約1-2%とされ、男性が女性の4倍程度多いとされていますが、女性では診断が遅れる傾向があります

ADHDとASDの症状の違いを具体例で理解する

日常生活の場面での症状の現れ方を比較することで、ADHDとASDの違いがより明確になります。

注意・集中に関する症状の違い

ADHDとASDでは、注意や集中の困難さの質が異なります。ADHDの場合、注意が散漫で、外部の刺激に容易に反応してしまいます。例えば、宿題をしている最中に、窓の外を通る車の音で注意がそれ、テレビの音が聞こえれば見に行ってしまうといった具合です。複数のタスクを同時に抱えると、どれも中途半端になりがちで、優先順位をつけることが苦手です。会議中でも、関係のない考えが頭に浮かび、話の内容を聞き逃してしまうことがあります。しかし、興味のあることには過集中し、時間を忘れて没頭することもあります。

一方、ASDの場合、特定の興味や活動に過度に集中し、他のことに注意を向けることが困難です。例えば、電車の時刻表を暗記することに没頭し、他の活動への切り替えができない、特定のゲームやパズルに何時間も集中し続けるなどです。この集中は選択的で、興味のない活動には全く注意を向けられないこともあります。また、複数の感覚情報を同時に処理することが苦手で、騒がしい環境では話に集中できない、蛍光灯のちらつきが気になって作業に集中できないなど、感覚的な要因が集中を妨げることもあります。細部にこだわりすぎて全体像を見失うこともASDの特徴です。

社会的コミュニケーションにおける違い

社会的な場面での困難さは、ADHDとASDで大きく異なります。ADHDの人は、社会的なルールは理解しているものの、衝動性のために不適切な行動を取ってしまうことがあります。例えば、相手の話を最後まで聞かずに割り込む、思ったことをそのまま口にして相手を傷つける、順番を待てずに割り込むなどです。しかし、これらの行動の後で、自分の行動が不適切だったことに気づき、後悔することが多いです。友人関係は作れるものの、約束を忘れたり、衝動的な言動で関係を損なったりすることがあります。

ASDの人は、そもそも社会的なルールや暗黙の了解を理解することが困難です。例えば、相手の表情から感情を読み取れない、皮肉や冗談を文字通りに受け取る、適切な距離感がわからず近づきすぎるまたは離れすぎる、会話のキャッチボールができず一方的に話すなどです。アイコンタクトが苦手で、視線を合わせることに強い不快感を感じることもあります。友人関係を築くこと自体に困難を感じ、一人でいることを好む傾向があります。しかし、規則やルールが明確な状況では、それを忠実に守ろうとする傾向があり、むしろ融通が利かないと見られることもあります

行動パターンと興味の違い

ADHDとASDでは、行動パターンや興味の持ち方にも明確な違いがあります。ADHDの人は、新しいことへの興味が強く、次々と異なる活動に移っていく傾向があります。趣味も頻繁に変わり、一つのことを長期間続けることが困難です。衝動買いをしたり、突発的に旅行を計画したりするなど、刺激を求める行動が見られます。日常生活では、部屋が散らかりやすく、物の定位置を決めても守れないことが多いです。スケジュール管理が苦手で、予定を忘れたり、時間に遅れたりすることが頻繁にあります。

ASDの人は、特定の興味に深く没頭し、その分野について膨大な知識を蓄積する傾向があります。例えば、特定の歴史的出来事、昆虫、天文学などに詳しくなり、その話題について延々と話すことがあります。日常生活では、決まったルーティンを好み、予定の変更に強い不安やストレスを感じます。物の配置にこだわり、少しでも位置が変わると気になって直さずにいられないこともあります。同じ服を着る、同じ道順で通勤する、同じメニューを注文するなど、予測可能性を重視します。変化への適応が困難で、新しい環境や状況に慣れるまでに時間がかかります。感覚的な特徴として、特定の音、光、触感、味、匂いに過敏または鈍感であることも多いです。

ADHDとASDの併存について

ADHDとASDは、しばしば同じ人に併存することがあり、この理解は適切な支援のために重要です。

併存率と診断の複雑さ

研究によると、ASDと診断された人の30-50%がADHDの診断基準も満たし、ADHDと診断された人の20-30%がASDの特徴も持っているとされています。この高い併存率は、両者が共通の遺伝的・神経生物学的基盤を持つ可能性を示唆しています。併存する場合、それぞれの症状が相互に影響し合い、より複雑な臨床像を呈します。例えば、ASDの固執性とADHDの衝動性が組み合わさると、特定の活動への過度の没頭と、それを中断された時の激しい感情的反応が見られることがあります。

診断においては、どちらの特徴がより顕著かを見極めることが重要ですが、これは容易ではありません。幼少期にはADHDの多動性が目立ち、成長とともにASDの社会的困難さが顕在化することもあります。また、一方の症状が他方をマスクすることもあり、例えばASDの構造化された環境への適応がADHDの症状を軽減させたり、ADHDの社交性がASDの社会的困難を見えにくくしたりすることがあります。このため、包括的な評価と長期的な観察が必要となります。DSM-5では2013年から両者の併存診断が可能になり、より実態に即した診断ができるようになりました

併存時の症状の特徴

ADHDとASDが併存する場合、単独の場合とは異なる独特の症状パターンが見られます。注意の問題では、ASDの特定興味への過集中とADHDの注意散漫が交互に現れ、興味のあることには何時間も集中できる一方で、それ以外のことには全く注意を向けられないという極端な状態になります。社会的な場面では、ASDによる社会的理解の困難さに加え、ADHDの衝動性により不適切な行動が増え、対人関係がより困難になります。例えば、相手の気持ちを理解できない上に、思ったことをすぐ口にしてしまうため、トラブルが頻発することがあります。

実行機能の障害も顕著になり、計画立案、時間管理、整理整頓などがより困難になります。ASDのこだわりとADHDの不注意が組み合わさると、特定の手順にこだわりながらも、その手順を忘れてしまうという矛盾した状況が生じることもあります。感情調節も難しくなり、些細な変化や刺激に対して激しい感情的反応を示すことがあります。学習面では、特定の教科には優れた能力を示しながら、他の教科では著しい困難を示すという不均衡が見られることがあります。日常生活では、ルーティンを求めながらもそれを維持できない、整理整頓したいのに実行できないなど、本人にとって非常にストレスフルな状況が生じやすくなります

併存診断の重要性と課題

ADHDとASDの併存を適切に診断することは、効果的な支援計画を立てる上で極めて重要です。併存が見落とされると、一方の症状のみに焦点を当てた支援となり、十分な効果が得られないことがあります。例えば、ADHDの薬物療法だけでは、ASDの社会的困難さは改善されず、逆にASDへの構造化された支援だけでは、ADHDの衝動性や不注意は残存します。包括的な診断により、両方の特性を考慮した個別化された支援計画を立てることができます。

しかし、併存診断には課題もあります。症状の重なりや相互作用により、どちらの障害に起因する症状なのか判断が困難な場合があります。また、年齢や発達段階により症状の現れ方が変化するため、一度の評価では正確な診断が難しいことがあります。さらに、評価ツールの多くが単一の障害を想定して作られているため、併存例を適切に評価できない可能性があります。このため、複数の専門家によるチーム評価、複数の情報源(本人、家族、学校など)からの情報収集、長期的な経過観察が推奨されます。診断後も、成長や環境の変化に応じて評価を見直すことが重要です。

ADHDとASDの診断基準と評価方法

正確な診断は適切な支援の第一歩です。それぞれの診断基準と評価方法を理解することが重要です。

ADHDの診断基準(DSM-5)

ADHDの診断には、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)の診断基準が広く用いられています。不注意症状9項目、多動性・衝動性症状9項目のうち、子どもでは各6項目以上、17歳以上では各5項目以上が6ヶ月以上持続していることが必要です。さらに、12歳以前から症状が存在し、2つ以上の状況(家庭、学校、職場など)で症状が確認され、社会的・学業的・職業的機能に臨床的に意味のある障害を引き起こしていることが診断の要件となります。

不注意症状には、細部への注意の欠如、課題への持続的注意の困難、聞いていないように見える、指示に従えない、課題の組織化の困難、精神的努力を要する課題の回避、物をなくす、外的刺激による注意散漫、日常的活動の忘却などが含まれます。多動性・衝動性症状には、そわそわする、席を離れる、不適切に走り回る、静かに活動できない、じっとしていられない、しゃべりすぎる、質問が終わる前に答える、順番を待てない、他者を妨害するなどがあります。これらの症状が他の精神疾患では説明できないことも重要な診断基準です。診断は症状の程度により、軽度、中等度、重度に分類され、不注意優勢型、多動・衝動優勢型、混合型のいずれかに分類されます

ASDの診断基準(DSM-5)

ASDの診断基準も DSM-5に基づいて行われます。社会的コミュニケーションおよび対人相互反応における持続的な欠陥と、行動、興味、または活動の限定された反復的な様式の2つの領域で症状が認められることが必要です。これらの症状は発達早期から存在し、社会的、職業的、または他の重要な領域における現在の機能に臨床的に意味のある障害を引き起こしている必要があります。

社会的コミュニケーションの領域では、社会的・情緒的相互性の欠陥(異常な社会的接近、会話のやりとりの失敗など)、非言語的コミュニケーション行動の欠陥(アイコンタクトや身振りの異常など)、関係性の発展・維持・理解の欠陥(状況に応じた行動調整の困難など)のすべてが現在または過去に認められる必要があります。限定的・反復的行動の領域では、常同的または反復的な身体運動・物の使用・会話、同一性への固執・習慣への頑ななこだわり、限定され執着する興味、感覚入力に対する過敏または鈍感さのうち、少なくとも2つが認められる必要があります。診断では、必要とされる支援のレベルにより、レベル1(要支援)、レベル2(要相当な支援)、レベル3(要非常に相当な支援)に分類されます

診断のための評価ツールと検査

ADHDとASDの診断には、様々な評価ツールと検査が用いられます。ADHDの評価では、ADHD-RS(ADHD評価スケール)、Conners評価スケール、CAARS(成人ADHD評価スケール)などが使用されます。これらは、本人、保護者、教師などから情報を収集し、症状の頻度と重症度を評価します。持続的注意力を評価するCPT(連続遂行課題)、実行機能を評価するウィスコンシンカード分類課題なども補助的に用いられます。

ASDの評価では、ADOS-2(自閉症診断観察検査)、ADI-R(自閉症診断面接改訂版)が金標準とされています。ADOS-2は、構造化された遊びや課題を通じて社会的相互作用やコミュニケーションを直接観察する検査です。ADI-Rは、養育者への詳細な面接により、発達歴と現在の行動を評価します。スクリーニングツールとしては、AQ(自閉症スペクトラム指数)、M-CHAT(乳幼児自閉症チェックリスト修正版)などがあります。知能検査(WISC、WAIS)も実施され、認知プロファイルの把握や知的障害の有無の確認が行われます。感覚プロファイル検査により、感覚処理の特性も評価されます。これらの検査結果を総合的に判断し、診断が行われます。

年齢別に見るADHDとASDの特徴

発達段階により症状の現れ方が変化するため、年齢別の特徴を理解することが重要です。

乳幼児期(0-3歳)の特徴

乳幼児期は、ADHDとASDの明確な診断が困難な時期ですが、早期の兆候を見逃さないことが重要です。ADHDの早期兆候として、過度に活発で寝つきが悪い、抱っこを嫌がる、注意を引くことが困難、極端に落ち着きがない、危険な行動が多いなどがあります。ただし、この時期の多動は正常発達の範囲内であることも多く、慎重な観察が必要です。言語発達は通常正常か、むしろ早い場合もありますが、指示に従うことが困難な傾向があります。

ASDの早期兆候は、より特徴的で早期に気づかれることがあります。視線が合わない、名前を呼んでも振り向かない、抱っこを嫌がるまたは過度に求める、指差しをしない、共同注視(他者が見ているものを一緒に見る)ができない、言語発達の遅れまたは退行、反復的な身体運動(手をひらひらさせるなど)などが見られます。また、特定の音や光に過敏に反応したり、逆に痛みに鈍感だったりすることもあります。人見知りをしない、または極端に人見知りするなど、社会的反応の異常も見られます。1歳半健診、3歳児健診でこれらの兆候がある場合は、専門機関での評価が推奨されます。早期介入により、予後が大きく改善することが知られています

学童期(6-12歳)の特徴

学童期になると、集団生活の中でADHDとASDの特徴がより明確になります。ADHDの子どもは、授業中の離席、宿題の忘れ物、提出物の遅れ、机の中やロッカーの乱雑さなど、学校生活で多くの困難を示します。友人関係では、順番を守れない、ルールを忘れる、衝動的に行動してトラブルになるなどの問題が生じますが、基本的に友達と遊ぶことを好みます。学習面では、ケアレスミスが多く、実力を発揮できないことが多いです。運動面では、協調性運動障害を伴うことがあり、球技や縄跳びなどが苦手な場合があります。

ASDの子どもは、集団行動への参加困難、一人遊びを好む、特定の友達とのみ遊ぶ、ごっこ遊びができないなどの特徴を示します。学習面では、特定の教科に優れた能力を示す一方、国語の読解問題など、文脈理解を要する課題に困難を示すことがあります。給食で特定の食べ物を拒否する、体育の着替えを嫌がる、行事への参加を拒むなど、感覚過敏やこだわりによる問題も顕在化します。いじめの対象になりやすく、本人がいじめられていることに気づかない場合もあります。この時期の適切な支援により、二次障害(不登校、うつ、不安障害など)を予防することが重要です。通級指導教室、特別支援学級、放課後等デイサービスなどの利用も検討されます

思春期・成人期の特徴

思春期以降、ADHDとASDの症状は変化し、新たな課題が生じます。ADHDの思春期では、多動性は減少するものの、不注意症状は持続または悪化することがあります。学業では、複雑な課題の管理、長期的な計画立案、時間管理などに困難を示します。反抗的な態度、リスクの高い行動(薬物使用、危険運転など)、気分の不安定さなども見られることがあります。成人期では、職場での締め切り管理、複数業務の並行処理、会議での集中維持などに困難を感じます。家庭生活では、家事の段取り、金銭管理、子育てなどで課題を抱えることがあります。

ASDの思春期では、社会的要求の高度化により、対人関係の困難さがより顕著になります。友人関係の複雑化、恋愛関係の理解困難、グループ活動への参加困難などが生じます。自己認識が高まり、自分の違いに気づいて苦悩することもあります。成人期では、就職活動、職場での暗黙のルール理解、上司や同僚とのコミュニケーションなどに困難を感じます。結婚や子育てにおいても、パートナーの感情理解、柔軟な対応などに課題があります。一方で、特定分野での専門性を活かした職業に就き、成功する例も多くあります。適切な職業選択、職場での合理的配慮、継続的な支援により、充実した成人生活を送ることが可能です。

ADHDとASDへの支援と治療アプローチ

効果的な支援には、それぞれの特性に応じたアプローチと、併存例への包括的な対応が必要です。

薬物療法の違いと効果

ADHDとASDでは、薬物療法の位置づけと効果が大きく異なります。ADHDに対しては、中枢刺激薬(メチルフェニデート、アンフェタミン)と非刺激薬(アトモキセチン、グアンファシン)が第一選択薬として使用されます。これらの薬剤は、脳内のドーパミンやノルアドレナリンの機能を改善し、注意力の向上、多動性・衝動性の減少をもたらします。効果は比較的早く現れ、約70-80%の患者で症状の改善が見られます。適切な薬物療法により、学業成績の向上、対人関係の改善、自己肯定感の向上などが期待できます。

一方、ASDに対しては、中核症状を改善する薬物は現在のところ存在しません。薬物療法は主に併存症状や二次的な問題に対して使用されます。例えば、易刺激性や攻撃性に対してリスペリドンやアリピプラゾール、不安症状に対してSSRI、睡眠障害に対してメラトニン受容体作動薬などが使用されます。感覚過敏や常同行動に対しても、限定的な効果しか期待できません。ADHDとASDが併存する場合、ADHD治療薬の使用により、不注意や多動性は改善しても、社会的コミュニケーションの困難さは残存します。また、ASDを持つ人は薬物への感受性が高い場合があり、より慎重な投与が必要です。

心理社会的支援の重要性

心理社会的支援は、ADHDとASDの両方において重要な役割を果たしますが、アプローチは異なります。ADHDに対しては、認知行動療法(CBT)が効果的で、時間管理、整理整頓、計画立案などの実行機能スキルを向上させます。ペアレントトレーニングでは、褒め方、指示の出し方、行動管理などを保護者が学びます。学校では、座席の配置(教師の近く、窓から離れた場所)、課題の分割、頻繁な休憩、視覚的な手がかりの使用などの配慮が有効です。

ASDに対しては、社会スキルトレーニング(SST)が中心となります。表情の読み取り、会話のルール、状況に応じた行動などを体系的に学習します。TEACCH(構造化された指導法)では、視覚的構造化、スケジュールの明確化、作業の体系化により、予測可能な環境を提供します。感覚統合療法では、感覚過敏や感覚探求への対応を行います。応用行動分析(ABA)は、特に幼児期の介入として効果的です。併存例では、両方のアプローチを組み合わせた包括的な支援が必要で、個々の特性とニーズに応じてカスタマイズされた支援計画が立てられます。家族支援も重要で、障害理解、ストレス管理、きょうだい支援などが含まれます

環境調整と合理的配慮

環境調整は、ADHDとASDの両方で重要ですが、焦点が異なります。ADHDでは、刺激を減らし、注意を維持しやすい環境作りが中心です。静かな学習環境、整理整頓しやすい収納システム、視覚的なリマインダー、タイマーの活用などが有効です。職場では、個室やパーティションのあるスペース、フレックスタイム制、在宅勤務などの配慮が求められます。定期的な運動の機会を設けることも、多動性の管理に役立ちます。

ASDでは、予測可能で構造化された環境が重要です。日課の視覚化、変更の事前告知、静かな休憩スペースの確保、感覚刺激への配慮(照明、音響など)が必要です。学校では、あいまいな指示を避け、具体的で明確な指示を出す、グループワークでの役割を明確にする、休み時間の過ごし方を支援するなどの配慮が有効です。職場では、業務内容の明確化、定期的なフィードバック、社内ルールの文書化などが求められます。併存例では、両方のニーズを考慮した環境調整が必要で、例えば、構造化されているが柔軟性もある環境、刺激は少ないが完全に遮断されていない空間などの工夫が求められます。合理的配慮の内容は、定期的に見直し、成長や環境の変化に応じて調整することが重要です。

まとめ:ADHDとASDの理解と適切な支援に向けて

ADHDとASDの違いと共通点を正しく理解することは、適切な診断と効果的な支援の基盤となります。本記事の要点をまとめ、今後の展望について述べます。

ADHDは注意欠如・多動性・衝動性を特徴とし、ASDは社会的コミュニケーションの困難と限定的・反復的な行動を特徴とする、異なる発達障害です。しかし、両者は30-50%という高い割合で併存し、その場合はより複雑な支援が必要となります。診断には、DSM-5の基準に基づく包括的な評価が必要で、年齢や発達段階により症状の現れ方が変化することを考慮する必要があります。

支援アプローチも異なり、ADHDには薬物療法が効果的である一方、ASDの中核症状に対する薬物療法は限定的です。心理社会的支援では、ADHDには実行機能の改善、ASDには社会スキルの向上が焦点となりますが、併存例では両方のアプローチを統合した支援が必要です。環境調整と合理的配慮は両者で重要ですが、その内容は特性に応じて異なります。

最も重要なのは、ADHDもASDも、その人の個性の一部であり、適切な理解と支援により、その人らしい充実した生活を送ることができるということです。早期発見・早期支援により予後は大きく改善し、強みを活かした社会参加が可能になります。今後も研究が進み、より効果的な支援方法が開発されることが期待されています。当事者、家族、支援者、社会全体が協力し、多様性を認め合う共生社会の実現に向けて取り組むことが重要です。

この記事を監修した人

石森寛隆

株式会社 Make Care 代表取締役 CEO

石森 寛隆

Web プロデューサー / Web ディレクター / 起業家

ソフト・オン・デマンドでWeb事業責任者を務めた後、Web制作・アプリ開発会社を起業し10年経営。廃業・自己破産・生活保護を経験し、ザッパラス社長室で事業推進に携わる。その後、中野・濱𦚰とともに精神科訪問看護の事業に参画。2025年7月より株式会社Make CareのCEOとして訪問看護×テクノロジー×マーケティングの挑戦を続けている。

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