大阪市全域を訪問区域とする『訪問看護ステーションくるみ』の代表、中野誠子が綴る『社長エッセイ』第77弾!
今回は、私が“精神看護の父”と呼んでいる方について書こうと思います。
私には、勝手ながら「看護師としての師匠」だと思っている方が4人います。
精神科で一緒に働いたSさん。
重症心身障害児施設で働いたNさん。
看護学校で出会ったT先生。
そして、S先生です。
その中で唯一の男性であり、実際に“お父さん”と呼んでいた時期もあるくらい、尊敬していた存在がS先生でした。
大阪市、寝屋川市、守口市、
門真市、大東市、枚方市全域対象
“精神科に特化”した
訪問看護ステーション
「くるみ」
平日・土曜・祝日 9:00〜18:00
【日曜・お盆・年末年始休み】
※訪問は20時まで
対応させていただいております。
学生が楽しそうに学ぶ授業
S先生と出会ったのは、私が看護学校へ入職した初日でした。
優しい雰囲気で声をかけてくださったことを、今でも覚えています。
私に精神科での経験があることを知り、精神看護学の授業へ入らせていただくようになりました。
そこで私は、とても驚きました。
精神看護学概論という授業には、正直「難しい」「面白くない」というイメージがありました。だから学生さんたちも、どこか退屈そうに授業を受けているものだと思っていたのです。
しかし実際は違いました。
学生さんたちは、とても楽しそうに授業を受けていたのです。
「なぜなのだろう」と思いながら授業を見ていると、その理由がわかりました。
S先生は、学生一人ひとりの特徴や、クラス全体の雰囲気を丁寧に見ながら、伝え方や内容を変えておられたのです。
授業後に学生さんへ感想を聞くと、「楽しかった」という言葉が多く返ってきました。
私は、その姿に強く憧れました。
「S先生のようになりたい」
そう思い、先生が何を考え、どんな思いで学生さんと向き合っているのかを知りたくて、よく話を聞きに行っていました。
「先生は、どうしたいの?」
そんな私に、S先生はいつもこう言ってくださいました。
「先生は、どうしたいの?」
当時の私は、教員としての経験も浅く、「自分がどうしたいか」なんて大切なのだろうかと思っていました。
そんな気持ちが伝わっていたのか、先生は続けてこう言いました。
「どうしてそんなに自信なさそうなの? 思いを言ってみてよ」
勇気を出して自分の考えを伝えると、先生は否定することなく「なるほど。やってみよう」と言ってくださいました。
その言葉が、本当に嬉しかったのを覚えています。
以前、私は先生に「先生みたいになりたいです」と伝えたことがあります。
その時、S先生はこう言いました。
「先生は僕じゃないでしょ。先生は先生。先生にしかできないことがある。先生の経験だからこそ、考えられることがあるよ」
この言葉は、自分に自信が持てず、「自分には足りないものばかりだ」と思っていた私の中の壁を壊してくれました。
「信じること」と「待つこと」
それから私は、「S先生のようになりたい」というより、“S先生の背中を追いかけながら、自分自身として成長したい”と思うようになりました。
それまでは、自分の欠点ばかりを見て、「どう克服するか」だけを考えていました。
でも先生は、いつも「自分を信じて」と言ってくれていました。
だから私は「できていないこと」だけではなく「できていること」にも目を向けながら、「今の自分に何ができるのか」を考えるようになりました。
すると自然と、自分自身の経験を振り返れるようになりました。
「あの時、なぜ自分はああしたのだろう」
「なぜうまくいったのだろう」
「なぜうまくいかなかったのだろう」
そうやって考え続けるなかで、自分の経験に少しずつ自信を持てるようになっていったのです。
その頃から、学生さんたちに「先生の授業、わかりやすくなった」と言ってもらえることも増えていきました。
3年目になった頃、私は専任教員講習へ行くことになりました。
そのタイミングで、S先生が学校を去ろうとしていることを知りました。
私は思わず、「先生がいなくなったら、精神看護学の領域責任者は誰がするんですか?」と聞きました。
すると先生は、「なんのために専任教員になるの? 先生がやるためだよ」と、当たり前のように言いました。
私は「自信がありません」と伝えました。すると先生は、静かにこう返してくださいました。
「初めから自信のある人なんていないよ」
最後の最後まで、先生は私を信じて、任せてくださったのです。
だからこそ今の私は、利用者さんにも、スタッフにも、「信じること」と「待つこと」を大切にしています。
すぐに答えを出そうとしないこと。 その人の力を信じること。 その人のタイミングを待つこと。
それは、S先生が私にしてくださった関わりそのものです。
精神看護を通して学んだのは、技術や知識だけではありません。
「人を信じる」ということでした。
さいごに
恩師との出会いは、今でも私の看護観の土台になっています。
誰かを育てるということは、答えを与えることではなく、その人自身を信じることなのかもしれません。
私も、利用者さんやスタッフにとって、そんな存在でありたいと思っています。
さあ、次は何を書こうかな。