非定型うつ病の診断基準とセルフチェック|受診前に整理しておきたいこと

「もしかして、自分は非定型うつ病なのではないか」と悩み、インターネット上で診断テストやセルフチェックを探してこのページにたどり着いた方は多いかもしれません。今のつらい状態が病気によるものなのか、それとも自分の気の持ちようの問題なのかを知りたくて、情報を探していらっしゃるお気持ちはよくわかります。
インターネット上のテストで「その可能性があります」という結果が出たとしても、それだけで診断が確定するわけではありません。最終的な診断は必ず医師が行うものだからです。しかし、受診の前にご自身の状態を客観的に整理しておくことには、非常に大きな意味があります。この記事では、実際の診断がどのように行われるのか、そして受診に向けて今の状態をどう整理すればよいのかを詳しく解説していきます。
非定型うつ病の診断はどのように行われるか
まず前提として、「非定型うつ病」という言葉の医学的な位置づけを正しく理解しておくことが役立ちます。実は、アメリカ精神医学会の診断基準である「DSM-5-TR」において、「非定型うつ病」という独立した病名は存在しません。正確には、うつ病の経過の中で見られる「非定型の特徴を伴う」状態を指す特定用語として扱われます。
そのため、診断は必ず「二段階」の構造で行われることになります。ここが非常に重要なポイントです。
- 第1段階:うつ病エピソードがあるかどうかの診断 まず、医師がご本人の状態を確認し、一般的な「うつ病エピソード」の基準を満たしているかどうかを判断します。この土台がなければ、次の段階には進みません。
- 第2段階:「非定型の特徴を伴う」かどうかの判断 うつ病エピソードの診断がついたうえで、さらに「気分反応性」や「過眠・過食」などの特定の際立った特徴を伴っているかどうかを医師が評価し、「非定型の特徴を伴ううつ病」であると特定します。
このように、診断は二段階の手順を踏んで行われます。そのため、インターネット上で見かける「〇項目当てはまれば非定型うつ病です」というような、第1段階を飛ばした判定は、医学的な構造として成り立たないのです。
診断にあたっては、医師が診察の場でご本人からこれまでの経過を詳しく聞き取り、現在の状態を丁寧に確認することをもとに行われます。採血などの検査だけで一瞬で判明するものではないため、一度の診察ですぐに診断が確定しないことも珍しくありません。何度か通院を重ね、生活の中での気分の波や症状の変化といった経過を見ながら、総合的に判断が下されたり、時には途中で診断が見直されたりする場合もあります。
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非定型うつ病の診断基準(DSM-5-TR)
ここでは、実際の医療現場で用いられているアメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5-TR)の内容をご紹介します。前述のとおり、診断は二段階で行われます。
第1段階:うつ病エピソードの基準
まず、以下の症状のうち「5つ以上」が「2週間以上」ほとんど毎日続いており、かつその中に「①抑うつ気分」か「②興味や喜びの著しい減退」のいずれかを必ず含んでいることが条件となります。
- 抑うつ気分(気分の落ち込み、悲しみ、空虚感など)
- 興味や喜びの著しい減退(これまで楽しめていたことに関心が持てないなど)
- 食欲の変化、または体重の変化
- 不眠または過眠
- 落ち着かない、または動作が遅くなる
- 疲れやすさ、気力の減退
- 自分に価値がないと感じる、または過剰な罪悪感
- 思考力や集中力の低下、決断が難しい
- 死についての反復的な考え
もし、9番目の「死についての反復的な考え」が思い浮かぶ状態にある場合は、一人で抱え込まず、すぐに主治医やかかりつけの医療機関に相談してください。
さらに、これらの症状によって社会生活や職業生活、または他の重要な領域において著しい支障をきたしていること、そしてこれらの状態が他の疾患や物質(薬物やアルコールなど)の影響で説明できないことが、第1段階の条件となります。
第2段階:「非定型の特徴を伴う」の基準
第1段階のうつ病エピソードの診断がついたうえで、以下の条件を満たす場合に「非定型の特徴を伴う」と特定されます。
必須条件
- 気分反応性:実際に良い出来事があると、気分が明るくなる(気分の改善が見られる)
そのうえで、次のうち「2つ以上」を満たしていること。
- 著しい体重の増加、または食欲の増加
- 過眠(長時間眠ってしまう、日中も強い眠気がある)
- 鉛様麻痺(腕や脚がまるで鉛のように重く感じられる)
- 長期にわたる対人関係上の拒絶への過敏さ(気分エピソードの最中に限らない)で、社会生活や職業生活に著しい支障をきたしているもの
さらに、同じエピソードにおいて「メランコリアの特徴を伴う」状態、または「緊張病を伴う」状態の基準を満たさないことが条件とされています。
※これは医師が診断の際に用いるものであり、自分で当てはめて結論を出すものではありません。ご自身の状態を客観的に見るための知識として参考にしてください。
受診前のセルフチェック
以下は、診断のためのテストではありません。診察のときに医師へ伝える内容を整理するためのものです。当てはまった項目を、そのまま医師に見せていただいて構いません。
いまの状態を振り返る項目
まずは、日々の生活の中で感じているつらさや変化を振り返ってみましょう。以下の項目に当てはまるものがあるか、確認してみてください。
- 一日の中で、理由もなく気分が深く落ち込んだり、悲しい気持ちになったりすることが続いている
- 以前は好きだった趣味やテレビ番組、休日の外出などに対して、まったく興味が湧かなくなってしまった
- 夜眠れない日が続いている。あるいは逆に、長時間眠っても眠気が取れない
- 食欲が落ちて食べる量が減った。あるいは逆に、食欲が増えて食べる量が増えた
- 少し動いただけでもひどく疲れてしまい、家事や仕事に取り掛かるエネルギーが湧いてこない
- 仕事での小さな決断ができなくなったり、本や文章を読んでも頭に入ってこなくなったりしている
- 「自分は周囲に迷惑をかけている」「価値のない人間だ」と自分を強く責めてしまう
- 集中力が続かず、これまで当たり前にできていた作業に非常に時間がかかるようになった
- これらの変化のせいで、仕事や学校を休む日が増えたり、家事がこなせなくなったりしている
非定型の特徴にあたる項目
次に、非定型の特徴に関連する日々の困りごとを振り返ってみます。以下の項目の中で、ご自身の生活の状況に近いものはあるでしょうか。
- 友人との会話や自分の好きなことをしている時は気分が明るくなるが、その状況が終わると再び強い落ち込みに戻ってしまう
- 夜に十分な時間眠っているはずなのに、いくら寝ても眠気が取れず、日中もずっと横になっていたいと感じる
- ストレスを感じたり気分が落ち込んだりすると、食欲が抑えられなくなり、食べる量が大きく増えたり体重が増加したりしている
- 手や足がまるで鉛のように重く感じられ、体を動かそうとしても力が入らず、起き上がることすらつらい時がある
- 他人からの少しの注意や、冷たいと感じる態度に対してひどく傷つき、相手に嫌われたのではないかと強く落ち込んでしまう
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ここでチェックした項目は、あなたが日々感じている負担の形を表しています。当てはまるものがあれば、スマートフォンでスクリーンショットを撮ったり、メモ帳に書き写したりして記録を残し、そのまま診察の際に医師に見せると役立ちます。
すぐに相談したほうがよいサイン
ご自身の状態を振り返る中で、以下のサインに当てはまるものがある場合は、自己判断でのチェックや様子見を続けるのではなく、できるだけ早く医療機関へ相談してください。
- 死にたい気持ちがある、このまま消えてしまいたいと感じることがある
- 自分自身を傷つけたいという衝動や気持ちが強く湧き上がってくる
- まったく眠れない状態が何日も続いており、頭が働かず日常が成り立たなくなっている
- 食事をとる、入浴する、着替えるといった、生活を維持するための最低限の行動すらできない状態が続いている
これらの状態は、心身のエネルギーが極度に低下しており、休息と専門的な介入が急務であるサインです。つらい気持ちを一人で抱え込み耐え続ける必要はありません。チェック項目の数や結果にかかわらず、すぐに医療機関に相談し、適切なサポートを受けてください。
診断で見極めが必要な他の状態
非定型の特徴を伴ううつ病と似たような症状が現れる、あるいは一緒に現れやすい状態がいくつかあります。これらは表面的な症状だけでは見分けがつきにくいため、自己判断ではなく、必ず医師が見極める必要があります。
双極性障害
双極性障害は、気分の変動のしかたが非定型の特徴を伴ううつ病と重なって見えることがあり、慎重な見極めが必要になる状態です。どちらであるかは、表面的な気分の波だけでは判断できません。また、当初はうつ病として治療を開始した後に、経過の中で双極性障害へと診断が変わる場合もあります。これらは医師が長期間の経過を含めて判断します。
不安症・パニック症
気分の落ち込みだけでなく、理由のない強い不安感や、突然の激しい動悸・息苦しさといったパニック症の症状を併せ持つことがあります。気分の波と不安の波が重なることで、ご本人はより大きな苦痛を感じやすくなります。どの症状がどのように重なっているのか、状態の全体像を医師が確認し、治療方針を検討していく必要があります。
発達特性
ADHD(注意欠如・多動症)などの生まれ持った発達特性がある場合、感情の起伏の激しさや、衝動的な行動、対人関係での困りごとが目立つことがあります。こうした特性による日常的な困難さが、非定型うつ病の特徴と重なって見えることがあります。両方を見極める必要がある場合もあれば、特性による生きづらさが背景にあって気分の落ち込みが現れている場合もあり、医師による専門的な判断が求められます。
受診の流れと、診察で伝えるとよいこと
「病院に行ってみよう」と思っても、初めての場合は不安が大きいかもしれません。相談先としては、精神科・心療内科のどちらでも対応してもらえます。多くのクリニックでは事前の予約が必要になるため、まずは電話やウェブサイトで確認してみてください。また、初診の際にはこれまでの経過を詳しく確認するため、時間をかけてじっくりと話を聞かれることが多いです。
診察の場では、以下のポイントを医師に伝えると、状態の理解がスムーズに進みます。
- いつごろから調子が変わったか: はっきりと覚えていなくても、「今年の春ごろから」「転職をしてから」といったおおまかな目安で構いません。
- どんなときに気分が戻り、どんなときに落ちるか: 好きなことをしている時は元気になれるのか、何もない時でも落ち込むのかなど、気分の波の様子を伝えます。
- 睡眠と食欲がどう変化したか: 眠れないのか、過眠になっているのか。食欲が落ちているのか、逆に過食になっているのか。
- 生活や仕事にどんな支障が出ているか: 朝起きられずに遅刻が増えている、家事がまったくできないなど、困っている具体的な事実を伝えます。
- すでに飲んでいる薬があること: 他の科で処方されている薬があれば、お薬手帳などを持参して伝えます。
診察室に入ると緊張してしまい、言いたいことが言葉にならないこともあります。うまく話せなくても大丈夫です。この記事のチェック項目や、事前に書き出したメモをそのまま医師に見せるだけでも構いません。
診断書について
仕事や学校を休むために診断書が必要になることがあります。診断書は、診察を行った医師がご本人の状態を医学的に評価し、発行するものです。
受診の際に、ただ「診断書をください」と言うのではなく、「会社を休職して療養するために提出したい」「業務量の調整をお願いするために必要なのです」といったように、何のために必要なのかという目的を医師に伝えるとスムーズです。
ただし、初めての受診ですぐに診断書が発行されるとは限りません。医師が状態を正確に把握するためには経過の観察が必要であり、何度か通院を重ねた上で発行される場合もあります。発行までに時間がかかる場合があることも念頭に置いておくと安心です。
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よくある質問
- ネットの診断テストは当てになりますか? インターネット上のテストは、ご自身の状態を客観的に振り返り、どのような症状があるのかを整理するための目安としては役に立ちます。しかし、それが医学的な診断の代わりになることは決してありません。テストの結果にかかわらず、ご自身が生活の中で困っているのであれば、医療機関に相談してよいのです。
- 何科を受診すればいいですか? 気分の落ち込みや睡眠の変化などの心身の不調については、精神科・心療内科のいずれでも相談することができます。もしどこに行けばいいか迷う場合や、身体的な病気への不安もある場合は、まずは普段から通っているかかりつけの医師(内科など)に相談し、紹介してもらう方法もあります。
- 診断がつかなかったらどうなりますか? 初診の段階で明確な診断名がつかないこともあります。しかし、診断名がすぐにつかなくても、あなたが今抱えている「つらい」「動けない」といった状態に対する相談や、症状を和らげるための支援は受けることができます。診断名をつけることだけが受診の目的ではありません。
- 家族に付き添ってもらってもいいですか? ご家族に付き添ってもらうことは差し支えありません。むしろ、ご本人がつらくて話しづらい場合や、自分では気づいていない変化がある場合、ご家族から見た普段の様子が、医師にとって非常に重要な診察の材料になることがあります。
まとめ
非定型うつ病の診断は、一般的なうつ病エピソードがあるかどうかの確認と、そのうえで非定型の特徴を伴っているかという二段階で行われます。自己判断で結論を出せるものではなく、経過を含めて医師が判断するものです。
セルフチェックは、自分が病気かどうかを判定するためではなく、今の困りごとを整理し、医師に伝えるための受診の材料として活用してください。もし「受診するほどではないかもしれない」と迷っているなら、一人で確定させようと悩むより、まずは専門家に相談してください。
ひとりで抱え込まないでください。私たちがそっと寄り添います。
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参照:MSDマニュアル