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[中村エッセイ] 第13回「うまくいかないこと」を前提にするクライシス・プランの視点

中村エッセイ精神科訪問看護とは

看護師・中村がクライシス・プランの実践を軸に、看護のこと(時々それ以外も?)を自由に綴るエッセイ第13弾!

揺らぎを受け入れること

クライシス・プランについて誰かに伝えたり、自分自身で考えたりするとき、いつも僕が大切にしていることの一つが「うまくいかないことを前提にする」という考え方です。

この部分だけ切り取ると、「最初から失敗を想定しているのか」とか、「悲観的な考え方ではないか」と受け取られるかもしれませんが、僕が言いたいのはそのようなことではありません。

人は誰でも、日頃どれだけ気をつけていても調子を崩してしまうことがあります。風邪をひくこともあれば、仕事や家庭で思いがけず傷つくこともあります。気分が落ち込む日もあれば、理不尽な出来事に腹が立つこともあるでしょう。思いどおりにいかないことや、自分ではどうすることもできないことは、誰の人生にも起こり得ます。

調子を崩してしまうことは、何らかの疾患や障害を有する人だけではなく、私たち看護師も含め、すべての人に共通することです。

だからこそ、「調子を崩さないようにする」ことだけを目標にするのではなく、「調子を崩したときに、どう自分らしい生活へ戻っていくか」をあらかじめ考えておくことが大切なのだと僕は思います。

「うまくいかないことを前提にする」というのは、「どうせうまくいかない」とあきらめることとはまた違うのです。うまくいかない日があることも人生の一部として受け止め、そのとき自分自身や周囲の人たちとどのように向き合えば良いのか考え続けるということです。

 

大阪市、寝屋川市、守口市、
門真市、大東市、枚方市、吹田市、尼崎市全域対象

“精神科に特化”した
訪問看護ステーション
「くるみ」

06-6105-1756 06-6105-1756

平日・土曜・祝日 9:00〜18:00 
【日曜・お盆・年末年始休み】

※訪問は20時まで
対応させていただいております。

 

HEROさんとの対話

先日、静岡で行われた日本精神科看護学術集会で、訪問看護ステーションくるみの石森さん(僕はいつもHEROさんと呼んでいます)とお話しする機会があり、その時の話題の一つが、トラウマインフォームドケア(TIC)についてでした。

HEROさんは、「利用者さんが地域で生活していく以上、Non-TICな出来事は避けられませんよね。どのように考えていったら良いのでしょうか」、そのような問いを投げかけてくれました。

その問いを聞いた瞬間、「そうか」と思いました。僕たちがトラウマインフォームドケアを大切にしながら支援をしたとしても、地域生活には必ずNon-TIC、つまり、その人が傷つくリスクはある。

では、その現実をどう受け止めればいいのだろう。

※トラウマインフォームドケア(TIC)とは、対人支援を行う人々が、対象者に「トラウマがあるかもしれない」という前提を持って関わり、安心・安全を提供しながら二次加害を防ぐ支援の枠組み。Non-TICは相手がトラウマを抱えている可能性を考慮せずに行う対応やケア。無意識のうちに相手を否定したり、恐怖心を与えたりして「再トラウマ化」を引き起こすリスクがある。詳しく知りたい方は、訪問看護ステーションいしずえ田邉さんの動画をご覧ください。

 

 

現実とのギャップ

僕たち支援者は、安心感や信頼関係を大切にしながら、その人が傷つかないような関わりを目指します。しかし、利用者(患者)さんが生活する地域社会のすべてが、そのような関わりをしてくれるわけではありません。

もしかしたら、職場で理不尽な言葉をかけられることがあるかもしれません。もしかしたら、家族との関係で傷つくこともあるかもしれません。公共の場で、心ない対応を受けることもあるかもしれません。

本人にとって強いストレスとなる出来事は、残念ながら、これからも起こり続ける可能性があると考えられます。

もちろん、そのような社会を少しでも変えていく努力は必要です。僕たち支援者一人ひとりがトラウマインフォームドケアを実践し、その考え方を広げていくことには大きな意味があると思います。

しかし一方で、現実にはNon-TICな出来事や環境を完全になくすことはできません。だからこそ、僕はクライシス・プランの考え方が大切なのではないかと考えています。

 

「うまくいかなかった日」も大切にする

クライシス・プランは、危機を起こさないためだけではなく、「危機や不調は起こり得る」という前提に立ちながら、そのときその人に何が起こりやすいのか、その人が自分でできる対処にはどのようなものがあるのか、周囲はどのような対応が望ましいのかなど、本人を中心に支援者と協働的にプランを考え続ける実践です。

例えば、その人にとってNon-TICな出来事・環境とは何なのかを一緒に整理し、そのような場面で心と体、生活や行動にどのような変化(サイン)が現れやすいのかを振り返ること、調子が揺らぎ始めたときの対処法を整理すること、一人で対処するのが難しい段階では、誰に、いつ、どのように助けを求めるとよいのかを話し合っておくこと。

そして、実際に不調を経験し安定状態に戻った際には、「今回は何がきっかけだったのか」「役に立ったことは何だっただろう」「次は少し違う方法を試してみようか」などと一緒に振り返り、プランを更新していくこと。

この繰り返しこそがクライシス・プランの本質であり、「うまくいかなかった」という経験は決して失敗ではなく、その経験を振り返り、今後の生活に活かしていくためのピースとして活かしていくことが大切なのだと思います。

※ちなみに、Mr.Childrenの「空也上人」という曲はクライシス・プランの本質について歌われている曲だと僕は感じています。ぜひ一度歌詞を見ながら聴いてみてください。

 

 

理想と現実をつなぐために

クライシス・プランは、「うまくいかなかった経験」が積み重なるたびに更新・ブラッシュアップされ、さらにその人らしいものへと近づいていきます。

僕たち支援者は、トラウマインフォームドケアを大切にしながらその人にとって安心できる関わりを目指し続けます。しかし、利用者さんが生活する社会には、これからもNon-TICな出来事や環境は存在し続けるでしょう。

だからこそ大切なのは、「傷つかないこと」だけではなく、「傷ついたあとに、どう自分らしい生活へ戻っていくか」を本人とともに考え続ける姿勢なのではないでしょうか。

僕は、クライシス・プランとは、トラウマインフォームドケアが目指す支援と現実社会との間にあるギャップを、本人と支援者が対話を重ねながら少しずつ埋めていく実践でもあると考えています。

 

この記事を書いた人

中村義幸

中村 義幸

フリーランス看護師 / MIRAI訪問看護ステーション 非常勤取締役

芸術系の大学で音楽を学んだあと、看護の道へ進む。精神科急性期病棟および精神科訪問看護での勤務を経て、現在は大阪を拠点にフリーランスの看護師として、訪問看護ステーションで働く方々に向けた精神科に関する教育支援などを中心に活動している。あわせて、東京のMIRAI訪問看護ステーションにて非常勤取締役を務めている。

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