こんにちは。株式会社Make Careの代表取締役CEOであり、訪問看護ステーションくるみでマーケティングを担当している石森寛隆です。
XではHEROと名乗っていますので、もしよろしければフォローください。
さて、この夏、児童精神科訪問看護において、子どもと一緒に夏祭りへ行く支援についてSNS上で話題になりました。
投稿では、医師の指示があり、訪問看護計画に位置付けられていれば、お祭り療法としてお祭り同行が公的保険制度に基づく訪問看護の時間内で実施できる、という趣旨の説明がされていました。
投稿されたのはショートケーキ訪問看護ステーションを運営するケアプロ株式会社の川添高志さん。
この夏、児童精神科のショートケーキ訪問看護ステーションでは、外出機会の少ない児童が夏祭りへ行く支援をしました。
子どもが好きなこと×季節行事を掛け合わせた地域資源の活用支援は、生活に密着した看護だからこそできるアプローチ。
前提として、医師の指示(外出支援や歩行訓練など…
— 川添高志|看護師、保健師 (@kawazoetakashi) August 15, 2026
僕自身、お祭りに同行するという支援そのものを否定するつもりはありません。
(お祭り療法、訪問看護レシピと言う言葉のチョイスには違和感がありますが…)
むしろ、児童精神科の訪問看護において、
・普段とは違う環境への適応
・対人場面での緊張への対処
・事前準備
・成功体験の獲得
・外出後の振り返り
・社会参加へのステップ
といった支援には、看護として一定の意味があると思っています。
実際、「看護師と一緒だから初めて外に出られた」という子どもがいても、何も不思議ではありません。
ただし。
今回、僕が疑問に思ったのはそこではありません。
大阪市、寝屋川市、守口市、
門真市、大東市、枚方市、吹田市、尼崎市全域対象
“精神科に特化”した
訪問看護ステーション
「くるみ」
平日・土曜・祝日 9:00〜18:00
【日曜・お盆・年末年始休み】
※訪問は20時まで
対応させていただいております。
「良い支援」と「公費で算定できる支援」は別
今回の論点は、とてもシンプルです。
お祭りへの同行を、医療保険の訪問看護基本療養費として算定できるのか。
これだけです。
支援として価値があるか。
看護師が同行する必要があるか。
子どもにとって良い経験になるか。
これらと、
その時間を公的医療保険へ請求できるか
は別の話です。
例えば、看護師が利用者さんのために行う仕事には、診療報酬や訪問看護療養費として直接算定されないものもたくさんあります。
地域連携もそうです。
スタッフ教育もそうです。
関係機関との調整もそうです。
「看護である」ということと、
「その行為を特定の療養費として請求できる」ということは、同義ではありません。
ここを混ぜると、公的保険制度の線引きが成立しなくなります。
根拠として示されていたのは「介護保険」
今回、お祭り同行を算定可能とする説明の中では、東京都の介護保険に関する資料が根拠の一つとして示されていました。
令和2年度の東京都福祉保健局の訪問看護の集団指導の資料では、「訪問系サービスは要介護者の居宅において行われるもので、居宅以外で行われるものは原則として算定できない。ただし、下記の要件を満たす場合のみ、例外的に算定が可能。」となっています。…
— 川添高志|看護師、保健師 (@kawazoetakashi) August 18, 2026
介護保険では、訪問系サービスは居宅で提供することが原則とされる一方、一定の条件を満たす場合には、屋外での歩行訓練等が例外的に認められることがあります。
例えば、
・自立支援として生活機能の維持向上を目的とする
・主治医の具体的な指示等、医学的判断に基づく
・適切なケアマネジメントのもとで計画に位置付ける
といった条件です。
ここまでは理解できなくはない。ただし、こちらはあくまで「原則算定出来ない」と言う制約の中で、今回のようなお祭りに同行するような形で算定出来るかどうかは大いに疑問が残ります。
なお、参考までに、くれはプランニングの田中さんからは「介護保険であっても、お祭りへの同行は算定できない」との見解も示されています。
介護保険サービスでもお祭りの同行は、無理ですよ。
介護保険での外出同行は、日常生活に最低限必要な「通院」や「日用品の買い物」などに限定されます。趣味や娯楽のための外出、外食などは原則として介護保険の対象外です。
間違った解釈を流さないで… https://t.co/OclzqzIfxu— 田中信吾🍀福祉事業を生業に子育てと暮らしを支援する。 (@kureha_plan45) August 19, 2026
仮に介護保険での算定が出来る可能性があったとしても、そもそも今回の件は「医療保険」での算定です。
ポイントは、
それを医療保険の訪問看護にもそのまま適用できるのか
ということです。
今回のケースは児童精神科訪問看護です。
つまり、問題となっているのは介護保険ではなく、医療保険です。
介護保険に例外規定や運用があるからといって、それをそのまま医療保険の訪問看護基本療養費の算定根拠として使えるのでしょうか。
僕には、その部分“も”どうしても分かりませんでした。
実際、僕たちの利用者さんの中でもXをご覧になられているご家族さんがいて、問い合わせがあったこともあり、“実害”が出ている。
そのため、曖昧なままにせず、早急に確認する必要があると考えました。
そう考えたので、実際に日本訪問看護財団ならびに全国訪問看護事業協会に相談をしてみることにしました。
日本訪問看護財団へ確認
日本訪問看護財団へ、今回の投稿内容を示した上で問い合わせを行いました。
質問したのは、
児童精神科訪問看護において、夏祭り等の地域行事へ同行し、その時間を訪問看護療養費として算定できるケースが存在するのか。
もし存在するのであれば、
どのような場合に可能で、その根拠となる法令・通知・疑義解釈は何なのか。
という点です。
共通の質問状はこちらになります。
医療保険による精神科訪問看護の療養費算定について-ご質問状-
日本訪問看護財団からいただいた回答は、次の趣旨でした。
医療保険の訪問看護療養費の算定は、「居宅」において行われることが原則。
投稿で示されている居宅外サービスの例外に関する資料は、あくまで東京都の介護保険に関するもの。
そして、
医療保険について、居宅外でも例外的に認められる要件として厚生労働省から明示されているものはない。
という回答でした。
あわせて、管轄の厚生支局への確認も案内されました。
少なくとも、
「介護保険にこういう特例があるから、医療保険でも同じように算定できる」
という説明を裏付ける回答ではありませんでした。
全国訪問看護事業協会にも確認
一般社団法人全国訪問看護事業協会にも、同じ趣旨で確認しました。
こちらは電話での回答です。
13:00〜17:00の回答時間の案内だったのですが、問い合わせ送付後、比較的すぐに折り返しのお電話をいただきました。
回答としては、今回の投稿に見られるようなロジックでは、
医療保険の訪問看護療養費として算定することはできない
とのことでした。
もちろん、「お祭り同行」というケースについても、算定できるものではない、と言う趣旨の回答をいただいています。
また、協会にも複数のご家族から問い合わせが寄せられているとのことでした。少なくとも、今回の発信が一事業所内にとどまらず、利用者家族にも影響を与えていることが分かります。
財団と協会で表現の強さには多少違いがあります。
ただ、
介護保険における居宅外サービスの例外的な取扱いを、そのまま医療保険の訪問看護へ持ち込むことはできない
という点では、方向は一致しています。
厚生局への確認でも「算定不可」
さらに、大和田訪問看護ステーションの山藤さんが、関東信越厚生局千葉事務所へ直接確認をしてくださいました。
山藤さんから共有いただいた内容によると、
医療保険の指定訪問看護は、基本的に自宅での療養を前提とし、「居宅において」行うものを療養給付として評価する制度であること。
また、
介護保険で屋外歩行訓練等が一定条件のもと認められているからといって、医療保険でも同じように認められるわけではない
との説明があったそうです。
そして今回相談した、
児童精神科訪問看護における単発のお祭り同行について、医師の指示や訪問看護計画への位置付けを理由に、訪問看護基本療養費を算定することはできない
との最終回答だったと共有されています。
関東信越厚生局千葉事務所に確認したところ、今回のような児童精神科訪問看護における単発のお祭りへの同行について、医療保険の訪問看護基本療養費としての算定は「不可」との回答でした。… https://t.co/eYNVWNQWri
— 永生会 大和田訪問看護ステーション 管理者ログ|訪問看護×AI×時短|たまにプライベートも🍀 (@owada2133) August 19, 2026
なお、これは厚生局から発出された文書回答ではなく、山藤さんによる電話確認記録です。
その点は分けて考える必要があります。
ただ、財団・協会・厚生局への確認を並べると、少なくとも現時点で僕が確認できた範囲では、
今回のお祭り同行を医療保険の訪問看護療養費として算定できる、とする根拠は確認できませんでした。
むしろ、算定できないという方向の回答が複数得られています。
「医師の指示がある」は万能ではない
今回の議論の中で、もう一つ気になったのが、
医師の指示があり、訪問看護計画に位置付けられていれば可能
という考え方です。
当然ですが、訪問看護は医師の指示に基づいて行われます。
しかし、
医師が指示書に書けば、公的保険の給付範囲そのものを広げられる
という話ではありません。
医師の指示は必要条件になり得ても、それだけで算定要件を満たすわけではありません。
ここを混同すると、
例えば、
「人混みへの適応訓練」
「公共交通機関の利用訓練」
「対人不安への曝露」
「社会参加の練習」
と計画書に書けば、
映画館でも、
ショッピングモールでも、
テーマパークでも、
何でも訪問看護として算定できることになりかねません。
もちろん、それらの経験に看護的な意味があるケースはあるでしょう。
でも、
意味があることと、公費請求できることは別です。
だからこそ、算定要件があります。
公費算定に「独自レシピ」はない
訪問看護の方法には、事業所ごとの工夫があっていいと思います。
どんな声掛けをするのか。
どんな評価方法を使うのか。
地域資源とどうつなぐのか。
どうやって社会参加まで支えるのか。
そうした部分には、各事業所の特色や独自性があって当然です。
でも、
公費算定のルールまで事業所独自のものになることはありません。
全国共通の医療保険制度です。
仮に、
「この条件ならお祭り同行を医療保険で算定できます」
という制度解釈が正式に認められるのであれば、
それは特定のステーションだけが使える方法ではありません。
同じ条件を満たすすべての訪問看護ステーションで利用できるはずです。
であれば、
その根拠、
適用条件、
対象範囲、
必要な手続き
は、広く共有されるべきです。
看護に「独自レシピ」があるのは構いません。
でも、
公費算定に“社外秘レシピ”は存在しません。
それでも、お祭りに行く支援を否定するつもりはない
ここは最後まで分けておきたいと思います。
今回の確認結果をもって、
「訪問看護師は利用者さんと外に出るべきではない」
とか、
「お祭りに同行する支援には意味がない」
と言いたいわけではありません。
本人にとって社会参加が必要なのであれば、どう実現するかを考えればいい。
障害福祉サービスが使えるかもしれません。
自治体独自のサービスがあるかもしれません。
自費サービスという方法もあります。
家族や地域資源と連携する方法もあります。
あるいは、現行制度では対応できないのであれば、
「こういう支援を公的制度で認めてほしい」
と政策提言することもできます。
それはすごく大切なことだと思います。
ただ、
現行制度で認められていないものを、理念や必要性だけで算定すること
と、
制度そのものを変えること
は全く違います。
順番は守らなければいけません。
なお、今回の厚生局、日本訪問看護財団、全国訪問看護事業協会への確認は、あくまで現在SNS等で公開されている情報をもとに行ったものです。
実際のショートケーキ訪問看護ステーションさんにおける個別事例について、指示書や訪問看護計画、具体的な支援内容、実際の請求方法まで確認した上で判断いただいたものではありません。
そのため、投稿からは確認できない個別事情や、今回取り上げたものとは別の算定根拠が存在する可能性までは否定できません。
もしそのような事情があるのであれば、今回の確認結果とは異なる整理になる可能性もあります。
ただし、少なくとも現時点で公開されている情報と、そこから示された「介護保険上の例外的取扱いを医療保険にも援用する」というロジックについては、今回確認した各機関から算定可能との回答は得られていません。
最後に
今回、僕自身もかなり勉強になりました。
訪問看護は、利用者さんの生活そのものに深く関わる仕事です。
だからこそ、
「これも看護ではないか」
「ここまで支援できたらいいのに」
と思う場面は、これからもたくさん出てくると思います。
その発想自体を小さくする必要はありません。
むしろ、どんどん考えればいい。
ただ、公的医療保険を使う以上、
看護として価値があることと、公費で算定できることは同じではありません。
良い支援だから請求できるのではなく、
良い支援であり、
かつ、
制度上の算定要件を満たしているから請求できる。
僕は、この順番を大切にしたいと思っています。
そして、現行制度では実現できない良い支援があるのであれば、
解釈を無理に広げるのではなく、
制度を変える。
別の仕組みを作る。
その方が、結果として利用者さんにも、現場にも、訪問看護業界にも誠実なのではないかと思います。
