自己愛性パーソナリティ障害の父親|外では評価される人と暮らす難しさ
精神科訪問看護とは
「立派なお父さんだね」と周囲から言われるたびに、言葉にできない違和感を抱えてきた方もいるかもしれません。外では評価されているのに、家の中では機嫌を損ねると空気が張り詰め、誰も本当のことを言えない状態がずっと続いてきた方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、そのような父親のもとで家族の間に何が起きていたのかを言葉にし、成人した子どもが今からどのように関係を見直し、距離を取っていけばよいのかを解説します。
関連記事:自己愛性パーソナリティ障害(人格障害)診断チェックリスト|口癖・行動17項目
外では評価される父親と、家の中での姿が違うのはなぜか
職場や地域といった外の環境では「仕事ができる人」「愛想の良い人」として高い評価を得ている一方で、家庭内では感情的になりやすく、家族を厳しく批判するような落差が見られることがあります。このような状態の背景として、自己愛性パーソナリティ障害という言葉が当てはまるのではないかと考える方もいらっしゃるでしょう。
「いいお父さんじゃない」と言われてきた方へ
自己愛性パーソナリティ障害の傾向がある場合、他者からの賞賛や成功を強く求める一方で、自分に対する批判には非常に脆いという特徴を持つことがあります。そのため、外の世界では自分を大きく立派に見せようと努めますが、気の張らない家庭の中では、他者への共感が難しくなり、外では抑えられていた振る舞いが前面に出やすくなることがあります。
この外でのイメージと家庭内での態度との大きな違いこそが、家族にとって大きな混乱と負担を生む要因になることがあります。
関連記事:自己愛性パーソナリティ障害の嫌がること・特徴・対処法|話が通じない理由も解説
家庭の中で起きていること
父親のこうした傾向は、父親個人の言動にとどまらず、家族全体の構造に大きな影響を与えていることがあります。
父親の機嫌を中心に家庭が回る
父親が少しでも不機嫌になると、その場の空気が一気に冷え込み、家族全員が息をひそめるように過ごすことがあります。父親の感情を逆なでしないよう、誰も反論できず、結果として父親の思い通りに家庭内のルールや行動が決定されていく環境が作られやすくなります。
母親が緩衝材になる場合と、ならない場合
このような環境では、母親が父親の機嫌をとり、家族の間の緩衝材となってその場を収めようと立ち回ることがあります。一方で、母親自身も精神的に動けなくなっており、結果として子どもが直接父親の感情を受け止めざるを得ない状況に置かれることもあります。
きょうだいで受け止め方が食い違う
同じ家で育ったきょうだいであっても、父親についての記憶や受け止め方が大きく食い違うことがあります。 父親との関わり方がきょうだいによって異なっていた場合、一方には「厳しいけれど尊敬できる父」に見え、もう一方には「本当のことが言えない相手」に見えていた、ということが起こります。 そのため、いざ話し合おうとしても前提が噛み合わず、「自分だけが大げさに受け取っているのではないか」と感じてしまうことがあります。
子どもの側に残りやすいもの
こうした環境で育った場合、成人してからの対人関係や考え方の癖に影響が残ることがあります。 ただし、現れ方や程度は人によって大きく異なります。
自分の感じ方を疑う癖がつく
理不尽に怒られたり、意見を否定されたりすることが日常的になると、「自分が間違っているのではないか」「自分の受け止め方がおかしいのかもしれない」と、自分自身の感情を疑う癖がつくことがあります。常に父親の基準に合わせてきたため、自分が本当にどうしたいのかが分かりにくくなることがあります。
目上の相手に対して緊張しやすくなる
家庭内で常に顔色をうかがってきた経験から、職場の上司など、目上の相手や権威を持つ存在に対して過剰に緊張してしまうことがあります。相手の些細な態度や言葉のトーンから「怒らせてしまったのではないか」と不安になり、自分を抑えて過度に相手に合わせてしまう対人パターンが残る可能性があります。
誰にも信じてもらえないという壁
父親の態度に悩んでいても、その苦しさを外に向かって発信することは非常に困難です。
外での評価が高いほど説明が難しくなる
父親が外の世界で成功していたり、周囲からの評価が高かったりするほど、その落差を他人に説明することが難しくなります。勇気を出して打ち明けても、「あんなに立派なお父さんなのに」「考えすぎじゃない?」と言われてしまい、誰にも信じてもらえないという壁にぶつかることがあります。
わかってもらえる相手を選んでよい
周囲の全員に理解してもらう必要はありません。家庭の中で起きていたことの本当のつらさは、同じような経験をした人や、専門的な知識を持った相手にしか伝わらないこともあります。ご自身を否定せず、安心して話せる相談相手や支援者を選ぶことが、心を整理するための第一歩になります。
成人した子が今から取れる距離の置き方
過去の家庭環境を変えることはできませんが、成人した今、ご自身の判断で父親との関係を調整し、具体的な距離を置くことは可能です。
家族の役割を降りる
「父親の機嫌をとる」「父親の話の聞き役になる」といった、これまで無意識のうちに担ってきた家族の役割から降りる選択をしても構いません。自分をすり減らしてまで、相手の感情の起伏に付き合う必要はないという境界線を引くことが大切です。
父親を説得しようとしない
これまでの態度を謝罪させようとしたり、「あなたの行動はおかしい」と説得して考え方を改めさせようとしたりするのは、多くの場合、反発を招くだけに終わります。相手のパーソナリティや思考を変えることは医師であっても難しいため、相手を変えようとするのではなく、自分がどう対応するかを見直すほうが現実的です。
実家に戻る頻度と滞在時間を決めておく
同居していない場合、実家に戻る頻度を減らしたり、帰省する際の滞在時間をあらかじめ短く設定しておいたりすることが有効です。自分の生活を守るために、物理的な時間と空間の距離を確保しておくことが、心理的な負担を減らすことにつながります。
※もし、過去から現在に至るまで身体的な暴力が起きている、または身の危険を感じるようなことがある場合は、まずは安全の確保を最優先にしてください。ためらわずに以下の窓口にご相談ください。
・こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556 ・お住まいの地域の精神保健福祉センター/保健所 ・警察相談専用電話 #9110
関連記事:自己愛性パーソナリティ障害の母親|特徴と成人した子ができること
受診・相談の目安
もし、父親との関係を振り返る中で、夜眠れない、気分の落ち込みが続く、不安で何も手につかないといった状態が続いている場合は、ご自身の心が疲れ切っているサインかもしれません。
そのようなときは、精神科や心療内科のクリニックを受診することを検討してみてください。受診の目的は父親がどうであるかをはっきりさせることではなく、ご自身の不調を和らげ、こころの健康を取り戻すことにあります。必要に応じて、医師や専門のカウンセラーから、今後の生活についての具体的なアドバイスを得ることもできます。
よくある質問
Q1 母には昔からずっと我慢させてきました。母をどう支えればよいですか
母親が長年つらい思いをしてきたのを見て、自分が守らなければと感じる方は多くいらっしゃいます。しかし、母親を支え、状況を解決することを、子どもであるあなたが一人で背負いすぎる必要はありません。母親自身の人生と、あなた自身の人生は別のものです。
Q2 父の介護が必要になったらどうすればよいですか
将来、介護の問題に直面したときには、ご自身だけで直接的なケアを担おうとせず、外部のサービスや専門家を頼ることを前提に準備をしておくことが大切です。物理的な距離を保ちながら、事務的な手続きなどの間接的な支援にとどめることも、立派な選択肢の一つとして存在します。
Q3 自分も父に似ているのではないかと感じます
自分の中に父親と同じような欠点があるのではないかと不安になるのは、ごく自然なことです。しかし、「もしかして似ているかもしれない」と不安に思い、ご自身の行動を振り返ろうとしている時点で、父親とは異なる視点を持てている証拠でもあります。
まとめ
外での評価が高い父親と、家庭内で見せる姿の落差に苦しんできた経験は、言葉にするのが難しく、長年ご自身の中に封じ込めてきたものだと思います。家庭の空気に怯え、自分の感情を押し殺してきたことは、決してあなたの受け止め方が悪かったからではありません。
大人になった今、最も優先すべきなのは、父親を変えたり過去の過ちを認めさせたりすることではなく、あなた自身がこれ以上傷つかずに穏やかな日常を送ることです。家族だからといって、無理に関わり続ける必要も、相手の感情の責任を負う必要もありません。
もし心身に不調を感じているのであれば、一人で抱え込まずに専門機関を頼り、適切な支援を受けてください。これまでの役割から離れ、あなた自身の人生を歩み直すための距離の置き方は、いつからでも見つけていくことができます。