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[中村エッセイ] 第18回 Aさんはなぜデヴィッド・ボウイに惹かれていたのか

公開/更新 中村エッセイ精神科訪問看護とは

看護師・中村がクライシス・プランの実践を軸に、看護のこと(時々それ以外も?)を自由に綴るエッセイ第18弾!

連載では語られなかったこと

医学書院『精神看護』誌に連載しておりました『クライシス・プラン -本人と支援者で重ねるブラッシュアップ』、9月号にて予定されていた全4回をなんとか終了することができました。

※連載開始当初は勝手が分からず本当にどうなることかと思いましたが、編集室の平野さんが温かく導いてくださったおかげでなんとか書ききることができました。頭が上がりません。ありがとうございました!

『精神看護』誌での連載は、クライシス・プランの作成・活用を通じて本人-支援者がどのように共通理解を重ねていくのかAさんという方の架空事例をもとに見ていく、という内容だったのですが、連載の中で示されたAさんのクライシス・プランには、UKのアーティスト”デヴィッド・ボウイ”の名前が要所要所で登場します。

さらに、連載最終回は、Aさんがクライシス・プランのタイトルを「ボウイ★プラン」と変更するところで幕を閉じます(ボウイファンの方なら、星が「⭐︎」ではなく「★」であることにニヤリとしていただけたのではないでしょうか?)。

しかし、連載の中ではなぜAさんがこれほどまでにボウイのことを大切に思っているのか、その理由まで詳しく触れることはできませんでした。

実は、僕の中には連載を書き始める前からAさんとボウイにまつわる大事な設定があったのです。Aさんの事例は実際の看護実践をもとに再構成したものですが、ボウイに関するエピソードは、僕自身がAさんという人物を描く上で考えた創作です。

ということで今回は、連載の中では描ききれなかった、Aさんとデヴィッド・ボウイの僕の頭の中で繰り広げられていた物語について、その一部を書いてみたいと思います。

 

 

自分のための時間がなかったAさん

連載記事中の事例概要でも触れられていた通り、Aさんは幼少期からネグレクト気味の母に変わって妹の世話をしてきたため、学校から帰ると、妹の食事を用意したり身の回りの世話をしたりすることが日常になっていました。

友達と遊びに行きたいと思うこともありましたし、学校帰りに寄り道したり休日にどこかへ出かけたり、そんな同級生たちにとっては当たり前の時間が欲しかったのですが、Aさんには妹が待っています。

妹のことは大切でした。だからこそ、放っておくわけにはいきませんでした。

自分がやりたいことより、妹のためにしなければならないことを優先する、そんな毎日を送るうちに、Aさんは自分のために何かをするということを、少しずつ諦めるようになっていきました。

そんなAさんにとって、家族が寝静まった真夜中は、ようやく訪れる唯一の自分だけの時間でもあります。

ある日のこと。中学生だったAさんが、いつものように真夜中のテレビをつけると、そこには、これまで見たこともないような奇抜な衣装と髪型で歌うデヴィッド・ボウイが映っていました。

真夜中のスターマン

テレビから流れてきたのは、デヴィッド・ボウイの「スターマン」という曲。鮮やかな衣装に身を包み、まるで別の星からやってきたかのような姿で体をくねらせながら歌うボウイにAさんは釘付けになりました。

そして、曲の途中でボウイがテレビの向こうからこちらに向かって「You」と指をさしたその瞬間、Aさんはまるで自分に向かって歌いかけられたような気がして涙が止まらなくなりました。

自分のやりたいことを我慢し、誰かのために生きることが当たり前になっていたAさんにとって、ボウイの姿は、それまで知らなかった世界の存在を教えてくれたのです。

「あぁ、こんなふうに自分の好きなように生きてもいいんだ」

Aさんには、ボウイが何にも縛られず、自由に生きているように見えました。

それからのAさんの人生には、いつも傍らにボウイの音楽が流れるようになり、生きていくための指針としてボウイの存在があり続けます。

 

大阪市、寝屋川市、守口市、
門真市、大東市、枚方市、吹田市、尼崎市全域対象

“精神科に特化”した
訪問看護ステーション
「くるみ」

06-6105-1756 06-6105-1756

平日・土曜・祝日 9:00〜18:00 
【日曜・お盆・年末年始休み】

※訪問は20時まで
対応させていただいております。

 

タイトルに込められたもの

さて、ここで連載の話に戻ります。

ブラッシュアップされたAさんのクライシス・プランには、ボウイの音楽を聴くことが自分らしく過ごすための大切な行動の一つとして書かれています。

じゃあ、「音楽を聴く」としか書かれていなかったら、僕たちはどのように受け取るでしょう?

例えば、気分転換のための一つの方法、ストレス軽減のための対処法、あるいは調子を崩さないために日頃からやっていることなど、そういった意味を感じ取ることはできるかもしれませんが、Aさんにとっての「ボウイの音楽を聴く」という行動にはそれ以上に幼少期からの人生が詰まっています。

真夜中のテレビで初めてボウイに出会って指を刺されたこと、ラジオから流れてくる曲をカセットテープに録音して家族が寝静まった真夜中に何度も聴いたこと、誰にも邪魔されず自分自身でいられる時間を見つけたこと…

そんな一つひとつの出来事が、今現在のAさんにつながっているのです。

精神科看護では、僕たちはその人がどのような対処法を持っているのかを知ろうとしますが、その対処法がその人にとってどのような意味を持っているのか、何がその人に起こったのか、そこに目を向けることも同じくらい大切なのではないかと思います。

また、Aさんが惹かれたボウイというアーティストは、亡くなるまで常に自らを変容・進化させ続けた存といえます。

僕たちの人生もまた絶え間ない変化の連続です。だからこそ、その時々の自分に合わせてクライシス・プランもブラッシュアップ(変化)し続けることに意味があります。

連載最終回でAさんのクライシス・プランは「ボウイ★プラン」というタイトルに変更されましたが、それは単に好きなミュージシャンの名前をつけたということではなく、Aさんがこれまで大切にしてきたものを、これからの人生においても大切にしていくというそんな思いが込められた名前なのだと僕は考えています。

この記事を書いた人

中村義幸

中村 義幸

フリーランス看護師 / MIRAI訪問看護ステーション 非常勤取締役

芸術系の大学で音楽を学んだあと、看護の道へ進む。精神科急性期病棟および精神科訪問看護での勤務を経て、現在は大阪を拠点にフリーランスの看護師として、訪問看護ステーションで働く方々に向けた精神科に関する教育支援などを中心に活動している。あわせて、東京のMIRAI訪問看護ステーションにて非常勤取締役を務めている。

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